第24話速さのカール
「エリアス様、次は私と戦っていただきましょうか」
カールが俺と戦いたい? 意外だな。
ヴォルフと違ってカールは冷静な男だ。
「どういうことだ、カール? お前は感情で動く人間ではないだろう。まさかヴォルフがやられて悔しいから、仕返しで俺を負かしたいというわけではないだろう」
「そのまさかですよ。仲間がやられて黙っていられるほど私は人間ができておりません。それに副騎士団長としての立場もあります。エリアス様、貴方は少しばかり素早いようですが、この速さのカールほどではありますまい。力が売りのヴォルフとは相性が良かった様ですが、貴方が若い内から勘違いしないよう、上には上がいることを教えて差し上げましょう」
「いいだろう、カール。良い試合をしよう」
「ヴォルフだけでなく、カールお前まで熱くなるとは珍しいな。エリアス様が良いというなら儂が止める権利もなかろう。じゃが、気をつけろよ、カール。エリアス様はお強いぞ」
「バルナバス様、ご安心ください。必ず勝利いたします」
俺たちは医務室から対戦場まで戻ってきた。
武器はどうしよう。
俺はカールと同じものを使うことにした。
「カール、武器はどうする? 俺は同じものを使う」
「私は槍を使います。まさかエリアス様、斧と同じく槍も初めてとは仰いませんよね?」
「初めてだ」
「このカール、舐められたものです」
冷静なカールの表情や声色に怒りが含まれていた。
「ルールは先程と同じ。魔法やアイテムの使用禁止。双方、よろしいか?」
「分かった」
「かしこまりました」
「始め!」
「エリアス様、どうぞ先に打ち込まれてきて下さい。この騎士団副団長速さのカールに攻撃を当てられるものなど、王国広しといえどおりません。全て避けきってみせましょう」
「分かった、カール」
カールは己の素早さに自信があるのか、俺を見くびっているのか余裕だ。
俺は最速の突きを放った。
『システムメッセージ:カールに600のダメージを与えました。攻撃力が300上がりました。スピードスラストのレベルが10上がりました。槍熟練度が30上がりました』
よほど自信を持っていたから本当に避けるのかと思ったが、俺の攻撃は当たった。
「ぐ……そんな馬鹿な……」
「カール、油断したな。初撃というのとお前が油断していたから、俺は手加減したぞ。今のが実際の戦場だったら、お前は命を落としていたぞ」
「く……まだまだ……今度は私の攻撃を避けられますかな」
カールは高速の攻撃を繰り出してくる。
俺はそれをすべて回避する。
『システムメッセージ:敏捷性が100上がりました。サイドアヴォイダンスのレベルが10上がりました。バックアヴォイダンスのレベルが5上がりました』
早い。だけど、落ち着けば難なく避けられる。
ステータスもかなり上がった。
「馬鹿な……私の攻撃が一撃も当たらない……こんなことは今まで……」
それからカールの攻撃を俺は避け続けた。
敏捷性が1000まで上がった。
サイドアヴォイダンスのレベルが80まで上がり、バックアヴォイダンスのレベルが70まで上がった。
「はぁはぁ……何故攻撃が当たらない……こんなはずでは……」
「カール、思い込みを捨てろ。俺とヴォルフの戦いを見ていなかったのか。見た目に騙されるな」
「そんなはずは……そんなはずは……」
カールは俺の声が届いてないのか、一人でぶつぶつ呟いている。
「カール、今度はこちらの番だ!」
俺は最速の突きからの斬りつけのコンボを決める。
『システムメッセージ:カールに1000のダメージを与えました。攻撃力が500上がりました。器用さが200上がりました。スピードスラストのレベルが10上がりました。シングルスラッシュのレベルが10上がりました。槍熟練度が19上がりました』
「くっ―――がはっ」
カールはその場に倒れこんだ。
「勝負あり!」
「私は……負けたのか……」
カールが目を覚ました。
ここは医務室だ。
「カール、信じられんか? 幼いエリアス様に負けたのが」
「ええ。それに私の中で受け止めきれない気持ちがあります。私は毎日コツコツと努力を積み上げていれば誰にも負けないという信念でここまできました。それが崩れ去るなんて……」
「カール、お前の勤勉さには素直に尊敬するよ。でも、魔族を前にして今までの努力がどうとか言ってられないのも事実だ。弱ければ負けるだけだ。努力してきたから待って下さいと言っても奴らは待ってはくれないだろう」
「エリアス様……では弱い者はどうすれば良いのでしょうか?」
「それは……」
「ヴォルフ様、カール様、大丈夫ですか?」
俺が口を開こうとしたとき、新兵たちが慌てて医務室に入ってきた。
「お前たち……何してやがる」
「君たち……」
「ほっほっほ、ここは医務室じゃぞ。静かにせんか」
「バルナバス様、申し訳ありません。ですが、私たちはヴォルフ様とカール様が心配で……」
「お前ら、余計なお世話だ。このヴォルフ、頑丈さだけが取り柄だ」
「私も大丈夫だ。君たち、ありがとう」
「カール、先程の質問だが」
「はい」
「お前には慕ってくれる仲間がいるじゃないか。一緒に考えていけばいい。ヴォルフもバルナバスもいる。頼ればいい。かっこ悪いことじゃない」
「プライドの高い私には一番難しいことです。でも、仲間がいる。私は一人で抱え込みすぎていたのかもしれません」
「エリアス様の言う通りじゃ。儂はもっとお主に頼ってもらいたいと常日頃思っておるぞ。ほっほっほ」
「カール、お前はクソ真面目すぎなんだよ。もっと力を抜け。がっはっは!」
ヴォルフはカールの肩をバシバシと叩いている。
カールの笑顔を見たのは初めてかもしれない。
「さあ、それではエリアス様帰りましょうか」
「そうですね、こんな暑苦しい野蛮人がいるところから早く去りましょう」
ソフィアとクリストフは早くこの場から立ち去りたい様だ。
二人はずっと俺の傍にいてくれた。
「誰が野蛮人だ! この陰険金髪と脳筋メイド!」
「そうですよ、ソフィアさん、クリストフさん。ヴォルフはさておき私は紳士です」
「てめえ、カール! ふざけんな!」
喧嘩するほど仲が良いと言うし、今回のことで皆の仲が良くなってくれたら嬉しい。
俺は帰ろうとするもある人物に引きとめられた。
「ほっほっほ、次は私と戦っていただきましょうか? エリアス様」
まさかバルナバスに戦いを挑まれるとは思ってもみなかった。
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