第23話力のヴォルフ

 俺はあれから魔法が楽しくて訓練棟で練習している。

 もちろん、新兵たちが座学でいない時だ。

 ソフィアは毎日ついてきているが、俺が魔法を使っているのを見ているだけだ。


 退屈だろうから『ソフィもやらない?』って言ってみたけど、『やだな~、エリアス様。ソフィが魔法師団出身なの知らないのですか? 免許皆伝ですよ。魔法マスターなので練習などソフィには必要ありません』と、何故か早口で言っていた。


 ソフィア、魔法師団出身だったのか。

 初耳だな。


「嘘をつけ、脳筋メイド!」


 そこで誰かのツッコミが入った。

 クリストフだ。


 クリストフは俺が魔法の練習をしていると、いつも横に来て一緒に魔法放っている。

 俺の現在のステータスはこちらだ。


 名前:エリアス・フォン・ディートリヒ

 種族:半魔(人間とサキュバスのハーフ)

 年齢:7歳

 HP:2000/2000

 攻撃力:700(+10)

 防御力:800(+10)

 敏捷性:650

 器用さ:200

 魔力:900(+30)

 魔法防御:800

 スキル:シングルスラッシュLV70、サイドアヴォイダンスLV70、バックアヴォイダンスLV60、ガードLV60、パリィLV70、カウンターLV50、キック、パワースラッシュLV70、パンチ、スラスト60、スピードスラストLV70、スピードスラッシュLV50、クロススラッシュLV50

 魔法:ブリザードLV80(930/930)、サンダーLV80(930/930)、ヒールLV30(930/930)

 装備:アイアンソード、貴族の服、フェニックスリング、サキュバスリング

()内は装備補正値、フェニックスリングの効果でHPが0の状態になっても1度だけ自動復活できる。

 魔法の()内は現在使用可能回数/最大使用可能回数

 剣熟練度:85

 体術熟練度:4

 斧熟練度:1

 槍熟練度:1

 弓熟練度:1


 人間度50:魔族度50


 魔法の練習で魔力と魔法レベルが上がった。

 クリストフ戦で最大HPと魔法防御も上がった。


「これはこれは、エリアス様に無様に負けたクリストフ様ではありませんか」


「ちょっと、ソフィ! 言い過ぎだって……」


「良いのです、エリアス様。エリアス様がお強かった。そして私の実力不足。完敗です。しかし、ソフィア、貴様には言われたくない。貴様は魔法師団始まって以来の魔法の才能かい―――」


「あー、あー、聞こえません、聞こえません」


 何故かソフィアがクリストフの言葉を遮った。

 魔法の才能かい? その後に何かの言葉が続くんだろうけど、何だったんだろう?


「クリストフ、あんた副団長でしょ! こんなとこで油売ってないで自分の仕事しなさいよ!」


「ふっ、魔法師団の仕事というのはレオン様、そのご家族、領民を守護するのが役目。エリアス様のお傍にいるのは立派な仕事というわけさ、脳筋メイド」


「護衛なら私一人で間に合っている。それにエリアス様はお強い。あんたなんかお呼びじゃないのよ!」


「エリアス様がお強いという事に異論はない。だが、万が一ということもある。なんなら私がエリアス様の護衛になろうか?」


「誰があんたなんかと代わるか、陰険金髪ロン毛!」


「ちょいちょいちょい、二人とも喧嘩しないで!」


 二人とも仲が良いんだか悪いんだか……。





 練習が終わって訓練棟を出た。

 まだ二人は言い合いをしている。


「たく、うるせぇな……」


 声の方向には筋肉隆々の大男がいた。

 騎士団教官長のヴォルフ・アイゼンバーグだ。


「坊ちゃんに陰険金髪と脳筋メイドか……」


「誰が陰険だ!」


「誰が脳筋だ! 筋肉ゴリラ!」


 三人はにらみ合っている。


「ほら、三人とも止めて!」


「なんだ? 怠け者の坊ちゃんが珍しく外に出てるのか」


「エリアス様への侮辱は許さんぞ」


「珍しく意見が合ったわね、クリストフ。ゴリラ、それ以上言ったら消すわよ」


「出来るもんならやってみろ。逆に返り討ちにしてやるぜ、がははは!!!」


 ソフィアはヴォルフの迫力に委縮してしまった。


「ヴォルフ」


「なんだい、坊ちゃん?」


「いい加減にしろ。俺がいつまでも大人しくしているとでも思ったのか?」


 ヴォルフは後ずさった。


「なんだと……俺が迫力で後ずさっただと……こんなことはレオン様以来だ……」


「俺が気に入らないのなら実力で白黒つければいい」


「坊ちゃん、俺のことを舐めすぎでないかい? 力のヴォルフの恐ろしさを知らねえんですか?」


「騎士団最強は団長のバルナバスだろう?」


「いいだろう。後悔するんじゃないぜ」





 俺達は騎士団の訓練場に移動した。


「ほっほっほ、エリアス様でありませんか」


 騎士団長のバルナバス・クルークがいる。

 年老いて白髪だが、体は程よく鍛えられている。


 副団長のカール・ビュルガーもいる。

 七三に整えられた髪、神経質そうな雰囲気。

 武官というより、文官といった雰囲気だ。


 カールは俺を黙って観察している。


「爺さん、対戦場使わせてもらうぜ。審判頼む」


「審判? 誰と戦うんじゃ?」


「そこの怠け者坊ちゃんだよ」


 ヴォルフは俺を指差した。


「どういうことかの? 事情が飲み込めんのだが」


「どうでもいいだろ。早くしろ」


「ヴォルフ」


「なんだ、爺さん?」


「エリアス様への侮辱は許さんぞ! 貴様は自分の立場が分かっておらんのか!」


 ヴォルフはバルナバスの気迫に後ずさりする。

 先程までの穏やかな雰囲気とはまるで違う。

 鬼気迫る迫力だ。


 近くにいる俺まで威圧感を感じてしまう。


「くっ……」


「バルナバスいいんだ。ヴォルフと俺で試合をする流れになったんだ。審判をやってくれるとありがたい」


「これはこれは、どういうことでしょう? 何故エリアス様とヴォルフが試合をする流れに?」


 俺は一連の流れをバルナバスに説明した。


「ヴォルフ、貴様という男は……まあ、良い。この馬鹿にお灸をすえる良い機会でしょう。エリアス様、貴方の目を見ているとどれだけ成長されたかこの爺には分かります」


「爺さん、何をわけの分からないことを言っている?」


「ふん、そのうち貴様にも分かるじゃろうて」





 試合開始直前

 対戦場の壁には武器が立てかけられていた。


「武器はどうするんだ?」


「ヴォルフ、お前が得意なものを使うといい。俺もそれを使う」


「舐めやがって。後悔するなよ」


 ヴォルフは斧を手に取った。

 俺も斧を手に取る。


「初めてだがなんとかなるだろう」


「何だと? 冗談にしては笑えねえな」


「ギブアップと私が戦闘不能と判断したら試合終了。アイテムと魔法の使用は禁止。双方よろしいか?」


 バルナバスがルールの説明をしてくれた。


「大丈夫だ」


「当然」


「では、試合開始!」


 バルナバスが試合開始を宣言する。


「ふん、一瞬で終わらせてやる、甘やかされて育った坊ちゃんよ! 俺は根性のない新兵どもがムカつくが、坊ちゃん、あんたはそれ以上にムカつくぜ。周りから甘やかされて苦労を知らないお坊ちゃんよ!」


 ヴォルフは斧を振り下ろしてくるが、当然だが当たるはずがない。


『システムメッセージ:敏捷性が10上がりました。サイドアヴォイダンスのレベルが1上がりました』


 さらに斧を振り回してくるが、それも回避する。


『システムメッセージ:敏捷性が10上がりました。サイドアヴォイダンスのレベルが1上がりました』


「何で当たらねえ……」


「そんな雑な攻撃が当たるはずがないだろう。今度はこちらから行くぞ!」


 俺は横薙ぎの攻撃をヴォルフの脇腹に叩き込む。


『システムメッセージ:ヴォルフに1000のダメージを与えました。攻撃力が600上がりました。シングルスラッシュのレベルが10上がりました。斧熟練度が30上がりました』


「ぐっ……なんだと……」


 ヴォルフは痛みで力が入らないのかそこからの攻撃はさらに雑でゆっくりしたものだった。

 腕が上がってないので、そんな攻撃が俺に当たるはずもない。


「もう止めろ、ヴォルフ。勝負はついた」


「ふ、ふざけんな……まだやれる」


 バルナバスの方に目を向けるも試合終了を宣言しないので、俺は一撃を叩き込んだ。


『システムメッセージ:ヴォルフに1000のダメージを与えました。攻撃力が400上がりました。シングルスラッシュのレベルが5上がりました。斧熟練度が19上がりました』


「ぐっ……」


 ヴォルフは力なく倒れこみ、そのまま気絶した。






 ヴォルフが目を覚ました。


「ここは……俺は負けたのか」


「そうじゃ、ここは医務室じゃ」


「ヴォルフ、大丈夫か?」


「そうか……俺は負けたのか。ちっ……悔しくもねえ、完敗じゃねえか。実力差がありすぎた」


「ほっほっほ、そこは認めるんじゃな。それすら認められないのなら騎士団を除名だったんじゃがな」


 バルナバス、さらっと怖いこと言ってる……。


「坊ちゃん、すまねえ……あんたの力を見くびってた。許してくれ。あんたは強い」


「ヴォルフ、俺の見た目に騙されたな。戦場では若い見た目をした魔族もいる。敵を見た目で判断しないよう新兵に教えてやれるんじゃないか」


「坊ちゃん……ああ、ああ、そうだな」


 無事終わったと思ったが、別の方向から声が掛けられた。


「エリアス様、次は私と戦っていただきましょうか」


 騎士団副隊長のカール・ビュルガーだった。




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