第22話クリストフ&コルネリア&ソフィアside

 クリストフside


 エリアス様、あんたかっけえよ!!!

 私はどんな処分、死すら覚悟していた。

 とんでもない失礼な私を許すなんて心が広すぎるー!!!


 失礼、私はクリストフ・ブライトナー。

 ディートリヒ家魔法師団副師団長だ。

 何時もどんな事態にも冷静に振る舞うよう心がけている。


 ある日エリアス様が魔法師団の訓練棟で魔法の練習をしていた。

 どういう風の吹き回しだ? エリアス様といえば怠惰な性格で有名なはず。

 話を聞いていると魔法の初心者らしい。


 新兵たちはへろへろ魔法を放っているというのに、エリアス様は初めから高威力の魔法を撃っていた。

 これが才能? 血筋? 私は努力で全てがなんとかなるとは思っていない。


 剣ならある程度努力で補えるかもしれないが、魔法は無理だ。

 才能がある者しか上に行けない。


 それでもこの心の中にある感情は何だ? 認めたくない、こんな異常な才能の持ち主がいていいわけがない。

 私はエリアス様が魔法を放つ様子を冷静に見守っている体を装っていたが、内心穏やかではなかった。


 エリアス様、いや、エリアスを消すか。

 対戦をもちかけ、事故を装って消したい。

 いくら才能があるといってもまだ私の方が上。


 私には奥の手がある。

 使わずに済めばいいが、最終的には手段は選んでいられない。


 私がエリアス、そして魔族を恨む理由……。





 焼け落ちていく村。

 逃げ惑う人々。

 家族は殺された。


 力が欲しい。

 目の前には魔族。

 小さな私にはどうすることも出来ない。


 死を覚悟した私は信じられない光景を目にした。

 レオン様が兵を率いて魔族を殲滅なさった。


 ディートリヒ領でもないこんな小さな村に何故?

 レオン様は『国民を守るのは貴族の務め。そこに領民か否かは関係ない』と仰った。


 それから俺はディートリヒ領に引き取られ、住む場所、食べ物、知識、戦闘技術、生きるのに必要なもの全て与えられた。


 レオン様に一生ついて行く。命すら捧げても惜しくない。

 冗談抜きでそう思っていたが、予想外の事態が起きた。


 レオン様に愛人がいて、その女との間に子供がいるとのことだった。

 別に妾くらいいてもおかしくないし、私もそれを咎める気もない。

 この国の貴族では当たり前のことだからだ。


 だが、その女は魔族だった。

 そして女の子供がエリアスだった。


 半分は尊敬するレオン様の血を引き、半分は憎むべき魔族の血を引いている。

 私は複雑な感情だったが、心の中でこいつの存在を許せないと言う囁きが聞こえてくるようだった。





 戦闘は一方的になると思ったが、エリアスは意外にタフだった。

 火属性魔法と土属性魔法をかなりの数浴びせるが決定打にならない。


 ここで私の頭の中に過ったのは、切り札を使うかということだった。

 魔族、いや魔王用に取っておいた光魔法。

 私はありったけの魔力を集中させる。


 コルネリアは止めたが、ここまできて引き下がれない。

 直撃。


 だが信じられないことに全く効いていない。

 化け物……。

 そして私は敗北した。


 エリアス、いやエリアス様は私に処分を求めないどころか良い試合だったと仰った。

 あんたかっけぇよ!!!


 私はレオン様に一生ついて行くと誓ったが、エリアス様、貴方にもついて行きます。





 コルネリアside


 私はコルネリア・マイエ。

 ディートリヒ家魔法師団教官長です。

 将来有望な魔王師団新兵の教育が私の仕事です。


 と言っても、本当に私のやりたいことは本を読むことと魔法の研究です。

 内向的な性格の私が上手く新兵たちに教えられるか不安でしたが、意外にもこの仕事を楽しく感じられて充実した日々を送っております。


 新兵たちのへろへろ魔法を放っている様子を見て、微笑ましい、可愛いなと思います。

 こんな平和な時間が流れているのも、レオン様の手腕です。

 ディートリヒ家に攻め入る者などおらず、領内は安全です。


 だからと言って訓練の手を抜くわけにはいきません。

 楽しみながらも真剣に取り組まねばなりません。


 ある日訓練棟にエリアス様がいらっしゃいました。

 魔法の練習がしたいそうです。

 あの怠惰なエリアス様が何故? って思っていると、私の心を見透かしたような態度でした。


 あはは、勘が鋭い方なのかもしれません。

 エリアス様がどのような魔法を使うのか私は密かに興味津々でした。

 というか、使えるかも疑問でした。


 毎年新兵たちが入団してきて、最初は何も魔法が撃てない状態から始まります。

 魔導書を読み、イメージと集中力アップの特訓、それの繰り返しでなんとかへろへろ魔法を放てる状態になります。


 そこからさらに訓練の積み重ねで上達していきます。

 ただし、言いたくないのが才能の差です。

 上に行きたいのなら才能は必要です。


 努力すれば夢は叶うなんてありません。

 でも努力するしかありません。

 生きていかねばなりません。


 生きるということは残酷なのです。

 そんな私の思いなどつゆ知らず、エリアス様は高威力の魔法を放ちます。

 レオン様の血筋、そして魔族の……いえ、聞かなかったことにしてください。


 クリストフがエリアス様の様子を観察しています。

 いつも冷静なクリストフですが、その目に敵意があることに私は気付いています。


 クリストフの過去を私は知っています。

 なのでエリアス様に対戦を申し込んだのは意外ではありませんでしたが、そんなことをして何になるとも思いました。


 副師団長と初心者。

 実力差は明白。

 私は審判なので危険だったら直ぐ止めようと思いました。


 試合が始まって意外な印象を持ちました。

 エリアス様がタフすぎるのです。


 クリストフの魔法が直撃しているのに余裕の態度でした。

 我慢している素振りもありません。


 魔法戦というのは当たれば通常お終いです。

 魔法防御が高い人間というのはあまり見たことがありません。


 通常審判の仕事というのは先に魔法を当てた者の勝利を宣言するものです。

 こんなことはあまりないことです。


 とはいえ、エリアス様が戦闘可能ということなら、制止することは出来ません。

 クリストフの口調が次第に攻撃的になります。


 光魔法。

 クリストフの切り札。


 私は止めるべきか逡巡しました。

 ここでエリアス様が亡くなれば責任問題、いえ、責任などこの際どうでもいい。

 こんな小さな子供が亡くなるなんて許されることではない。


 しかし私の制止よりも早くクリストフの魔法はエリアス様に直撃しました。

 信じられません。


 全くエリアス様にクリストフの光魔法は効いていませんでした。

 エリアス様の氷魔法がクリストフに直撃し、試合終了しました。


 エリアス様はこれまでのクリストフの失礼な態度を咎めませんでした。

 心の広い方です。


 そして、初めてクリストフが嗚咽を漏らしているのでした。




 ソフィアside


 クリストフ死ね!

 私を差し置いて話を進めるな。

 私も同じ場所にいるのに!


 私の役目はエリアス様をお守りすること。

 魔法初心者のエリアス様と副師団長のクリストフの試合なんて認められるはずない。





 私、クリストフ、コルネリアは魔法師団の同期です。

 貧しい家庭に生まれた私は魔法で成り上がるしかないと考えていました。

 そのために魔法師団で出世する。


 そんな私の人生プランはあっけなく崩れ去りました。

 才能溢れる同期二人とは違い、私には魔法の才能がありませんでした。


 正確に言えば属性魔法が使えませんでした。

 無属性魔法。

 力や敏捷性アップの身体強化魔法は使えましたが、攻撃魔法や回復魔法が使えない私は脳筋でした。


 当時の教官に『ソフィアちゃん、魔法の才能全くないわね。わたくしがレオン様にソフィアちゃんの転属をお願いしてみるわ。人は適材適所よ、お~ほっほっ!』なんて言われて、エリアス様の護衛兼メイドになりました。


 最初はこいつ腹立つわ~、いくら金持ちの家に生まれたからといって、ここまで怠惰な生活送れるもんか? と思っていました。

 でも次第に私の中に庇護欲が生まれて優しい気持ちが生まれていくのも事実でした。


 家族に仕送りを送れるようになって、今は幸せな生活を送れているが、そんな私にも後悔がありました。


 魔法が使えたら。

 魔法は才能が全てなんて言葉がある。

 私はそれは否定しない。


 ある日書庫でエリアス様が魔導書を読んでいらっしゃいました。

 私は傍でその様子を見ていましたが、エリアス様は『ふむふむ』と言いながら、魔導書をパラパラとめくっていました。


 私は魔導書を一ページでも読もうもんなら頭痛が止まりませんでした。

 無属性魔法は辛いのを我慢して基礎だけ学んで、後は実戦で覚えました。


 エリアス様は魔法師団の訓練所に場所を移して、魔法の練習がしたいと仰った。

 私は『エリアス様、魔法はそんなに簡単じゃないですよ』と心の中で呟いたが、エリアス様に常識は通用しませんでした。


 新兵たちがへろへろ魔法を放っている横で、高威力魔法を当たり前に放っていました。

 エリアス様がまた遠くに行ってしまわれた気がしました。


 クリストフがエリアス様に試合を持ちかけました。

 本来止める立場の私ですが、魔法コンプレックスのせいか、魔法師団に来ると委縮してしまします。


 委縮している私など忘れられているかのように、話は進んでいきます。

 私はいつでも止められるように注視していますし、コルネリアもいつでも止められる様に準備しています。


 試合はエリアス様が勝ちました。

 この方はどこまで私を驚かせるのでしょう。

 限界知らずなのでしょうか。


 そして、いつも冷静なクリストフが嗚咽を漏らしているのも印象的でした。


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