第21話魔法戦

 クリストフはパチパチパチと拍手をしていた。


「流石ですね、エリアス様。魔法を覚えたばかりなのにそれほど使えるとは」


「ありがとう、クリストフ」


 俺に賛辞を贈るクリストフの表情や声色は敵意を含んでいた。

 恨まれることをした覚えはないのだが。


「続けて下さい」


「ああ」


 俺は氷魔法と雷魔法を撃ち続けた。

 ブリザードとサンダーのレベルが20まで上がり、魔力が30まで上がった。


「ふふっ」


 クリストフは俺の魔法を見て鼻で笑っている。

 魔法師団副師団長と魔法初心者では実力に差があるのは当たり前だ。

 俺は気にせず続けようとしたとき、クリストフは俺に声を掛けてきた。


「エリアス様、どうですか? 私と魔法勝負でも?」


「勝負? 魔法人形にどれだけ強い魔法を撃てるとか? それならクリストフの方が強いだろ。勝負する必要なんかあるのか?」


「いえ、実戦です。魔法を撃ちあって最後まで立っていたほうが勝ちです」


「!?」


「ちょっと、クリストフ、何言ってるの!? そんなこと許されるわけないでしょ!」


「コルネリア、いくら同期といえども立場はこちらが上だ。口を挟まないでもらおうか」


「そういうわけにはいかないわ!」


「エリアス様はどうです? 対戦しますか?」


 俺は強くなるって決めたんだ。

 ここで退くわけにはいかない。


「いいだろう、クリストフ。望むところだ」


「ふふっ、ありがとうございます」


「エリアス様も! 君たち、自習してなさい」


 




 俺達は魔法師団の対戦場に移動した。

 審判はコルネリアが勤めることになった。

 対戦場は魔法をどれだけ放っても大丈夫な頑丈な造りになっていた。


「それではルールを説明します。武器とアイテムの使用は禁止。相手を死に至らしめる危険な攻撃も禁止。ギブアップしたり、私が戦闘不能と判断したらそこで終了。双方承諾しますか?」


「「分かった」」


「試合開始」


「ふふっ、いきますよ、エリアス様」


「来い、クリストフ」


 クリストフは土属性魔法を俺の足元から発生させる。

 土の塊は隆起する。

 俺は魔力の発生を察知していたので後方に回避する。


『システムメッセージ:敏捷性が50上がりました。バックアヴォイダンスのレベルが10上がりました』


「ほう、流石ですね、エリアス様。今のを避けるとは」


 隆起した土魔法によって俺とクリストフの視界は遮られている。

 何らかの方法で俺が回避したことを把握しているのか。


 そして視界が遮られているクリストフの方向から火炎魔法の魔力が練られていることを俺は感知する。

 恐らく土属性魔法を敢えて消滅させて、その瞬間火炎魔法を放ってくる気だろう。


 いいだろう。

 魔法の威力を身をもって知りたかった。

 敢えて食らってみよう。


『システムメッセージ:HPが120減りました。最大HPが80上がりました。魔法防御が80上がりました』


 魔法防御を上げてこなかったので結構効くな。


「ほう、今のを食らって立っていられますか。流石」


 わざと食らったのにいい気なもんだな。

 それよりも俺は気になることがあったのでコルネリアに質問した。


「コルネリア、回復魔法は使用していいのか?」


「通常ルールでは問題ありません。でも、クリストフが了承するか……」


「クリストフ、どうだ?」


「いいでしょう。お使い下さい」


「分かった。ヒール」


『システムメッセージ:HPが120回復しました』


 最初にアイテムの使用は禁止と言っていたからポーションは使えない。

 回復は魔法だけだ。


 俺は最大HPと魔法防御を上げるためにわざとクリストフの魔法を食らい続けた。

 そして回復するのサイクルを続けた。


 最大HPが1500まで上がり、魔法防御が500まで上がった。

 ヒールのレベルが30まで上がった


「流石にしぶといな。半分魔族の血が入ってるだけはある」


 クリストフの口調が変わった。


「ちょっと、クリストフ! エリアス様になんてことを言ってるの!」


「いいんだ、コルネリア。事実だから。クリストフそれがお前の本音か。ならばこちらも本気で行こう」


「何が本気だ! へぼ魔法しか撃てないお坊ちゃんが! お前は一生引きこもっているのがお似合いだ!」


「クリストフ、止めなさい!」


 俺は雷魔法を放つ。


『システムメッセージ:クリストフに300のダメージを与えました。クリストフを感電状態にしました。サンダーのレベルが50上がりました。魔力が200上がりました』


「あ、ぐ、しびれ……」


 俺はクリストフに向かって両手の掌を向ける。

 だが、魔法は撃たない。


 そのまま待っているとクリストフが感電状態から復帰した。


「てめえ、何で撃たなかった……?」


「実力差を見せつけるためだ。ちなみにお前の魔法を俺は敢えて食らっていたのだが、お前はそれを気付いていなかったようだが?」


「て、てめえ……許さねえ! 魔族用に取っておいた俺の奥の手を出してやる!」


「クリストフ、止めて!」


 クリストフの目の前に光が集まっていき、それがだんだんと大きくなっていく。


「てめえら汚れた魔族は光魔法が苦手なんだよな? 欠片も残さず消し飛ばしてやるよ!」


「来い、クリストフ。俺は逃げも隠れもしない。全力で受け止めてやる」


「てめえ!」


『システムメッセージ:HPが1000減りました。最大HPが500上がりました。魔法防御が300上がりました』


 結構ダメージを食らった。

 でも全力で受け止めるといったからには、余裕の態度でいなければならない。


「どうした、クリストフ? それで全力か?」


「な、なんだと……」


 クリストフは驚愕していた。

 攻撃が外れたからではない。


 氷魔法が己の背中を直撃したからだ。


『システムメッセージ:クリストフに1000のダメージを与えました。ブリザードのレベルが50上がりました。魔力が500上がりました』


「お前は攻撃に集中していたから気付いてなかったが、俺はお前の背後の空間に氷魔法を展開していた。お前の攻撃に合せて俺はそれを放ったというわけだ」


「そんな馬鹿な……初心者が掌からではなく任意の空間から魔法を発生させるなんて……」


「その思い込みや見下しが勝負を分けたんだ、クリストフ」


「くっ……」


 クリストフはその場に倒れこんだ。


「勝負あり!」


 コルネリアは俺の勝利を宣言した。





「ん……」


 クリストフは目を覚ました。


「俺は負けたのか……」


「そうよ」


「エリアス様、申し訳ありません。どんな処分でも受け入れるつもりです」


 クリストフは立ち上がり深々と頭を下げた。


「エリアス様、クリストフを許してください! クリストフは……クリストフは魔族に……」


「止めろ、コルネリア! それ以上言うな!」


「コルネリア、大丈夫だ。別に俺はクリストフに何の処分も求めない。というか、処分って何だ? 俺とクリストフは試合をしただけだぞ。良い勝負だったな、クリストフ。また頼むよ」


 聞かなくても分かる。

 この世界に魔族に恨みを持っている者なんて五万といる。

 俺はクリストフに手を差し伸べた。


「エリアス様……エリアス様……申し訳ありません、申し訳ありません、うぅ」


 そこにいたのはいつもクールな優男でなく、辛い過去に囚われ続けている男だった。



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