第20話魔法習得
俺は今後のことを考えていた。
一人で行動するのなら魔法が必要だ。
かなり先のことだが、大罪英雄と運命の勇者のラスボスのことを考えていた。
即死攻撃と即死級の攻撃を繰り出してくる。
ステータスや装備、スキルを盛りまくって倒すというのが一つの方法。
もう一つは行動阻害して、ずっと大人しくしてもらうことだ。
火炎魔法だと火傷状態には出来るが、毎ターンダメージを与えることが出来るだけで行動阻害は出来ない。
風属性や土属性だと一時的な足止めは出来るかもしれないが、長時間動きを止めることは出来ない。
そうなってくると氷属性と雷属性だ。
氷属性だと氷結状態に出来るし、雷属性だと感電状態に出来る。
ポーションだけだと心許ないので治癒魔法も欲しい。
俺は書庫で魔導所を読み魔法を覚えることにした。
先ずは氷属性からだ。
『システムメッセージ:魔法:ブリザードを覚えました』
広い書庫で魔導所を読んでいると隣にソフィアが座ってきた。
「こんなに広いのになんで隣に来る?」
「……」
今度は雷属性だ。
俺はソフィアが隣に座ってくるのが気になったから移動した。
『システムメッセージ:魔法:サンダーを覚えました』
またソフィアが隣に来た。
「だから何で付いてくる?」
「……」
次は治癒魔法だ。
俺はまた移動した。
『システムメッセージ:魔法:ヒールを覚えました』
また付いてくる……。
「何でこんなに広いのに隣に来る?」
「え、私ウザいです?」
「いや、そうじゃないけど、こんなに広いのに横に来られると気になるから……」
「護衛ですよ、護衛」
「こんな所賊が入ってこれないって。外の警備は万全なんだし。それにこんな近くに来なくても……」
「ほら、エリアス様、ウザそうにしてる」
「してないって……」
何でソフィアは俺を困らせてるんだ? 俺、からかわれてるのか?
意味が分からない。
俺は覚えた魔法を試したくて魔法師団の訓練棟に来ていた。
もちろんソフィアが付いてきた。
新兵たちが魔法の練習をしている。
俺は邪魔になるので帰ろうかと思っていると声を掛けられた。
「エリアス様、どうされたのですか? 珍しいですね、こちらにいらっしゃるなんて」
そこにいたのは黒髪ぼさぼさ頭、いつも本を読んでぶつぶつ独り言を言っている魔法教官長コルネリア・マイエだった。
「コルネリアごめん。邪魔だったかな? 魔法の練習をしにきたのだけど」
「エリアス様が魔法の練習? いえ、申し訳ございません。新兵たちはローテーションで練習しているので魔法人形は余っています。なのでご自由にお使い下さい」
「気にしないで。俺が怠惰な人間だったのは周知の事実だから。俺は変わるって決めたんだ。ありがたく使わせてもらうよ」
辺りを見回してみると新兵たちが魔法人形に向かって魔法を放つ練習をしている。
「てい!」
「そりゃ!」
彼らの掌から発せられる魔法は魔法人形に届くことなく空中で力なく飛散する。
可愛いもんだと俺は思う。
と言っても彼らは俺より十歳以上年上だ。
これから研鑽を積みディートリヒ家を支えてくれるだろう。
俺は俺のやるべきことをしなければならない。
先ずは氷魔法を魔法人形に向かって放つ。
魔法人形は壊れることなく俺の氷魔法を吸収する。
『システムメッセージ:魔法:ブリザードのレベルが1上がりました。魔力が1上がりました』
初めて魔法を使った。
新兵たちみたいにへろへろ魔法になるのかと使う前は思ったのだが、意外と勢いよく魔法人形に吸い込まれていった。
コルネリアは新兵たちに授業をしている。
「魔法はイメージを大切にね。火は熱く赤いイメージ、水は青く流れるイメージ。風は緑で吹き抜けるイメージ、土は黄土色で雄大なイメージ。それと魔力を練る集中力よ。その二つが合わさって強力な魔法が撃てるわ。今は上手くいかなくても気にしないで。長期間練習を積めば必ず上達するわ」
ふ~ん、コルネリアちゃんと先生やってんじゃん。
今は邪魔になるから教われないけど、今度教えてもらおうかな。
次は雷魔法だ。
『システムメッセージ:魔法:サンダーのレベルが1上がりました。魔力が1上がりました』
大罪英雄と運命の勇者の魔法システムはMPではなく回数制だ。
魔力の分だけ使用できる。
「教官」
「何?」
ある新兵が俺を指差している。
その他の新兵も俺に視線が向いている。
コルネリアが駆け寄ってきて俺に小声で聞いてくる。
「エリアス様、魔法の心得があったのですか?」
「いや、今初めて使ったけど」
「え……」
コルネリアは困惑していた。
俺なにかしてしまったのだろうか?
「エリアス様、魔法というのは長年の鍛錬があって磨かれるのです。それをこんなにも簡単に習得されるなんて……」
「あ……新兵がやる気なくすってこと?」
コルネリアは頷いた。
それはまずい。
今後ディートリヒ家を支えてくれる将来有望な若者たちだ。
こんなことで躓いてほしくない。
だが新兵たちから意外な反応が返ってきた。
「エリアス様、カッコいいです!」
「私もエリアス様みたいに魔法が使えるようになりたいです」
新兵たちの士気が上がった。
結果的に良かったのか?
俺は新兵たちに声を掛ける。
「君たちは有望な若者だ。これから父上とディートリヒ家を支えてくれ」
「ありがたいお言葉。でも、私はエリアス様をお守りしたいです」
「僕も」
「私も」
「あたいも」
「わたくしも」
「わらわも」
「おいどんも」
「え?」
また変な方向に話が進んでいる。
まあ、慕われるのも悪くないことなのか?
「ふふ、流石ですね。エリアス様」
新たな人物が現れた。
肩まで伸ばした金髪、切れ長の目、色白の優男。
魔法師団副団長クリストフ・ブライトナーだ。
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