第15話憤怒英雄フィオナ

「誰だ!」


草むらから出てきたのはハーフエルフの少女だった。

見覚えがある。

と言っても、転生してからではなく原作でだ。


「ごめんなさい。驚かせたかしら」


「迷いの森は立ち入り禁止だから、まさか人がいるなんて。知らずに迷い込んだの?」


驚いたのは確かだが、人がいたせいではない。

大罪英雄の一人、憤怒英雄フィオナがいたからだ。

大罪英雄は名前の前に嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食を冠する七人だ。


魔族の脅威から人類を救い英雄と称えられたが、今後彼らが邪魔になると思った貴族や教会から謂れのない罪を着せられて、闇に堕ち大罪英雄と言われるようになった。


ただそれは原作の時系列の話で、現在の彼らは大罪英雄ではない。

魔族が滅びていないから。

おれが原作の10年前の世界に転生したから、彼らはまだ闇に堕ちていないはずだ。


「いえ、最近、魔族への風当たりが強いでしょ? 純粋な魔族よりはましだけど、それでもハーフエルフへの差別はなくならないから、各地を転々としてたの。そしたら、半魔の庭を知って。そこで保護してもらおうと思って来てみたの。そしたら迷っちゃって」


信じて良いのか? 何か魂胆があるのでは? 母上に危害を及ぼすわけにはいかない。

慎重に話を聞かねば。

それと同時に信じられないこともあった。


フィオナの表情が優しい。

美しい金髪、碧眼といった容姿の部分で同一人物と分かったが、原作のフィオナはとても目が吊り上がり恐ろしい表情をしていた。


原作では闇落ちして表情が変わってしまったのだろうか? 今は信じれれない位、優しく純粋そうな表情をしている。


フィオナは「ん~っ」と伸びをしながら、俺に話しかけてきた。


「半魔の庭って素敵よね? 早く行ってみたいな。半魔だけでなく、穏やかな魔族が暮らしてるっていう話も聞くし。でも、私の理想はね、人間と魔族が仲良く暮らすことなんだ。えへへ、笑わないでよね? いつか、人間と魔族が争わずに同じ世界で仲良く出来ればって思うんだ」


俺の知っているフィオナとまるで別人だ。

俺の中に原作の記憶が流れこんでくる。






ある遺跡、向かい合う少女と一団。

フィオナと原作主人公パーティーだ。


「フィオナ、もう止めるんだ。これ以上の戦いに何の意味がある」


「黙れ、下等種が。貴様らが我らハーフエルフにしたこと忘れぬぞ!」


「フィオナ、もうやめて。人間とハーフエルフは分かり合えるわ」


「ふん、戯言を。我らと貴様らでは永遠に分かり合えぬ」


「フィオナ、君とは戦いたくない。退いてくれ!」


「ふん、戦いなどではない。一方的な蹂躙だ。我と貴様らではそれほどの実力差があるのが分からんのか」


「フィオナ、やるしかないのか……」





激闘の末、主人公パーティーがフィオナを打倒した。


「貴様ら人間はいつだってそうだ、力で弱者をねじ伏せる。虐げられてきた者の気持ちなど分からんのだ」


「フィオナ……」


「この恨み、我の魂が朽ち果てようとも忘れぬ。憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、人間が憎い!」





意識がこちらの世界に戻ってきた。

俺の頬には涙が伝っていた。

こんなに人間と魔族の友好を信じていた少女が闇に堕ちるなんて……。


「どうしたの? 何か怖いことあった? お姉ちゃんが話聞いてあげるよ」


初対面の人間を心配させてしまった。

あ、人間じゃなくてハーフエルフだった。


「なんでもない。それよりお姉ちゃん、半魔の庭に行きたいんだよね? 半魔の庭を統治しているレイラは俺の母上なんだ。俺はエリアス」


善人を演じている様子はない。

信じてよいと思う。


「え、連れていってくれるの? 嬉しい。って、君も半魔? 完全に人間みたいだね。あ、お姉ちゃんはフィオナって言うんだよ」


「幻術で翼を隠してるんだ。さあ、行こう、フィオナお姉ちゃん」


名前が聞けた。

名前、容姿、同一人物で間違いないだろう。


途中、おかしな行動をしたら置いて行けば良い。

俺は何度も迷いの森に来ていて、正しい道を脳内再生出来るが、フィオナはそうでもないだろう。

一応信じたが、母上に危害が及ぶのは避けたい。


それにしても、緊張感の主がフィオナで良かった。

魔族や他国の兵が攻め込んできたのではなくて安心した。


俺達は迷いの森の奥の半魔の庭の入口ゲートまで来た。

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