第4話ソフィア&レオンside

 ソフィアside 


 私はソフィアと申します。

 ディートリヒ家でメイドをしております。

 本名のソフィアで呼ばれることもあれば、愛称のソフィで呼ばれることもあります。


 表向きの仕事は、エリアス様の身の回りのお世話をすることですが、エリアス様の護衛の任務も承っております。

 ただ、エリアス様を狙うということは、王様をも凌ぐ権力と兵力を誇るレオン様に敵対することですから、今までにそういうことはありませんでした。


 私のお仕えするエリアス様はというと、いつも食べるか寝ているかの怠惰な方です。

 それがどうしたことでしょう、急にゲームがしたいと仰いました。

 他にも『あーるぴーじー』といったよく分からないことを仰いましたので、私は心配になりましたが、やりたいことが見つかったので、とりあえず良かったということにしましょう。


 私はエリアス様にチェスのルールをお教えしました。

 何戦かしましたが、絶望的にエリアス様にはチェスの才能はありませんでした。

 正直、よっわ(笑)と思ってしまいました。


 エリアス様と日々過ごしていくうちに、私の中に生まれた感情は庇護欲です。

 この方を守りたい。駄目な部分も沢山ありますが、それすらも可愛いと思えます。

 この平和な時間が永遠に続けば良いと常々思います。


 そんな怠惰なエリアス様が急にモンスターを倒しに行きたいと仰いました。

『強くなりたい』とか『成長したい』とか、今までのエリアス様からは想像できない言葉が飛び出してきて、私は信じられない思いでした。


 成長したいという思いは素晴らしいですが、いつまでもエリアス様には平和な日々を過ごしてほしい。

 ディートリヒ家にはすべて揃っているので、そのままで良いのではと思ってしまいます。


 今までは母親の様な庇護欲しかなかったのですが、勇ましいエリアス様を見ていると胸の中に別の感情が湧いてきます。

 7歳の少年にこの様な感情を抱いてしまう私は変なのでしょうか。


 ただ、今は旅立つエリアス様の無事を祈ることと、チェスよっわって思う事しかできないです。





 レオンside


 私はレオン・フォン・ディートリヒだ。

 国内最大勢力、いや、世界でも最大勢力と言われるディートリヒ家の当主である。

 だが、そんなことはどうでも良い。


 私の頭の中は可愛い息子のエリアスのことで一杯だ。

 もちろん、妻エラの子供である娘達も可愛いのだが、妾の子供であるエリアスも同じ様に可愛いのであった。


 それなのに、私はいつもエリアスに厳しく接してしまう。

 いつも一緒にいて、仲睦まじく暮らせれば良いと心の底では思っているのだが、ついついディートリヒ家の当主ということに縛られてしまう。


 現在は本邸で一緒に暮らせてはいないが、食事の時間だけは一緒だ。

 妻のエラや娘達からはエリアスを本邸に立ち入らせない様に言われているが、それだけは無理だったので、本邸への立ち入りを許可している。


 一日一回顔を見られるのはありがたいが、正直それだけでは足りない。

 母のレイラに似て美しい顔立ちをしている。

 整った目鼻立ち、長い睫毛、美しい髪。


 日頃、殺すか殺されるかといった荒んだ日常を送っている身としては、エリアスの存在は癒しだ。

 もう、こんな生活止めて楽しく暮らせれば良いとも思う。

 だが、周りの目が怖くてそれは出来ずにいた。


 ある日、私は我慢できずに別邸にエリアスの顔を見に行った。

 使用人や、家族にどう思われようと構わなかった。

 そうすると、エリアスがソフィアに『ダンジョンにモンスターを倒しに行きたい。強くなりたい。成長したい』と言っているではないか。


 親としては子供の成長は嬉しいところではあるが、エリアスに危険な目に遭って欲しくないというのが本音だった。

 絶対に止めようと思った。


 先ほどまで勇んでいたエリアスは、少し及び腰になっていた。

 そりゃ、7歳の子供だもの。怖くもなる。

 私はここがエリアスを止める絶好の好機だと思った。


 だが、私の口から飛び出したのは、『何を申している。お前が行くと言ったのだろう? 何を日和っている? それとも、もう行かないとでも申すのか?』という言葉であった。


 私のバカー----!!!!! 絶好の止めるタイミングだろうがー----!!!!!

 それに何だ、アイアンソードって? ダイヤソードとかプラチナソード渡せよ! いや、私の持つ獅子王剣を渡しても良いだろうが!


 エリアスがモンスターから攻撃されているところなど見たくもない。

 傷一つ付いてもおかしくなってしまいそうだ。


 大人になろうとしているエリアスの背中を見守る私は、世界が恐れる貴族ではなく、只の親馬鹿だった。



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