第3話初戦闘

 俺は広いディートリヒ家の敷地を歩いていた。

 大勢の人が働いている。

 使用人だけでなく、兵士もいた。


 本来なら大規模な兵力は王と王宮のみ所持できるはずだが、ディートリヒ家は王宮の兵力よりも大規模な兵力を所持していた。

 騎士団、弓兵団、魔法兵団、どれも王宮のものより規模が大きかった。


 反乱の恐れがあるのに何故このような大規模な兵力を所持することを王は見逃しているのかというと、ディートリヒ家が魔族の侵攻の抑止力になっているからである。

 圧倒的な戦力を誇る魔族だが、ディートリヒ家に手を出せば只では済まないことは分かり切っていた。


 王宮の勢力は弱くはないが、ある程度の戦力を送り込めば勝てる見込みだ。

 だが、ディートリヒ家が邪魔だ。

 ディートリヒ家を相手取れば、魔族も甚大な被害を受ける。


 王の感情としては、魔族に対する抑止力になっているディートリヒ家に対する感謝というよりは、恐怖だった。

 恐怖のあまりディートリヒ家に口出しすることが出来なかった。


 そんな感じがディートリヒ家とアスルーン王国の現状だった。

 原作のエリアスは、そんな圧倒過ぎるレオンを見てやる気を失ってしまった。

 あんな風にはなれない。


 そして、エリアスは怠惰な貴族になり下がってしまった。

 努力することを止めてしまった。

 でも今は俺がエリアスだ。


 他人に努力することを止めろと言われても止めるつもりはない。

 だって楽しいから。

 ステータスが上がるのが気持ちがいいから。


 俺が今から向かうのはダンジョンだ。

 平原でもモンスターは出現するが、エンカウント率が違う。

 ステータスアップの効率が違い過ぎる。


 ダンジョンの場所は原作知識で覚えていた。

 ディートリヒ家と母上が住んでいる場所の中間地点だ。

 母上が住んでいるのは半魔の庭。


 ハーフエルフなど人間と他種族とのハーフや、比較的穏やかな魔族が暮らしていた。

 母上は純粋な魔族だが、人間から半魔が迫害されるのを危惧し、半魔の庭を作って統治している。


 王国と帝国の国境の森の中にある、迷いの森のさらに深い場所にある。

 人間は迷って入って来れないので半魔にとっては安全な場所だった。

 母上に会うために行きたい気持ちはあるが、俺の今日の目的地はその中間地点のダンジョンだ。


 ダワゼ平原を北上しているとモンスターとエンカウントした。

 狼のモンスター、名前はシルバーウルフだった。


「グルルルルッッッッ!」


 大罪英雄と運命の勇者のシステムはレベルアップシステムでなく、プレイヤーがとる行動でステータスが上がる。

 シルバーウルフが牙を剥き、俺に飛びかかってきたので俺はそれを横に避ける。


『システムメッセージ:敏捷性が1上がりました。スキル:サイドアヴォイダンスを覚えました』


 俺の脳に直接声が聞こえる。


 それにしても気持ちえぇぇぇ!!! 1とはいえ、リアルタイムでステータスが上がるのは気持ちよすぎる。


 プレイヤーの中には戦闘後にまとめて上がってくれたら、システムメッセージが何度も表示されなくて済むという意見があったが、俺はこのシステムがお気に入りだった。


 ステータスが上がるだけでなく、スキルを覚えた。

 サイドアヴォイダンスのアヴォイダンスは回避という意味だ。

 ウルフが嚙みついてきたので、今度は後ろに避ける。


「システムメッセージ:スキル:バックアヴォイダンスを覚えました」


 今度はステータスが上がらずに、スキルを覚えるだけだった。

 再度シルバーウルフが飛びかかってきたので、俺は再度避ける。


『システムメッセージ:敏捷性が1上がりました』


 なるほど、思い出してきた。

 一回一回の行動でステータスが上がるのではなく、徐々にステータスが上がりにくくなっていて、さらにステータスを上げたいと思ったら、より強い敵と戦うか、同じ敵と戦うとしても行動の回数を上げなければならないのか。


 それからシルバーウルフの攻撃を10回避けると敏捷性が1上がり、30回避けるとさらに1上がった。

 まだ避け続けてデータを取りたかったが、俺は疲れてきた。

 ウルフに剣で斬りつけ、止めを刺した。


『システムメッセージ:攻撃力が1上がりました。剣熟練度が1上がりました。スキル:シングルスラッシュを覚えました』


 やっぱりステータスが上がるのは気持ちえぇぇぇ!!! 成長が実感できる。

 もっとモンスターと戦いたい。ステータス上げたい。


『システムメッセージ:戦闘が終了しました。魔力粒子を吸収しますか? 吸収した場合HPが回復し、魔力と魔族度が上昇する可能性があります』


 倒したシルバーウルフは光の粒子となって宙に浮いていた。

 これが魔力粒子か。システムメッセージによるとHPが回復し、ステータスが上がるみたいだ。

 現在俺のHPは減っていないが、魔力が上がるか試してみたい。

 ただし、魔族度には気を付けなくてはいけない。


 魔族度が100に到達してしまうと、力が暴走してしまい世界を滅ぼし、バッドエンド不可避だ。

 俺は宙に浮いている、『はい』と『いいえ』の内、『はい』をタッチする。


『システムメッセージ:HPに変化はありません。魔力が1上がりました。魔族度が1上がり、人間度が1下がりました』


 俺は現在のステータスを確認してみることにした。


「ステータスオープン」


 名前:エリアス・フォン・ディートリヒ

 種族:半魔(人間とサキュバスのハーフ)

 年齢:7歳

 HP:10/10

 攻撃力:2(+10)

 防御力:1(+10)

 敏捷性:5

 器用さ:1

 魔力:2(+30)

 魔法防御:1

 スキル:シングルスラッシュ、サイドアヴォイダンス、バックアヴォイダンス

 魔法:

 装備:アイアンソード、貴族の服、フェニックスリング、サキュバスリング

()内は装備補正値、フェニックスリングの効果でHPが0の状態になっても1度だけ自動復活できる。

 剣熟練度:2

 体術熟練度:1

 斧熟練度:1

 槍熟練度:1

 弓熟練度:1


 人間度49:魔族度51


 装備品のアイアンソードは、出発の直前父上から贈られた物だ。


 あああああぁぁぁぁ!!!!! やっぱステータス上がるの気持ちえぇぇぇ!!!

 俺は改めてゲーム脳だと再認識するのだった。


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