サラマンダーの行方 1

 火を起こしていた場所まで戻って、空が白むまでぼーっとしていた。

 ユーインはエマの隣で黙って寄り添ってくれていた。

 アーサーとポリーは焚火から少し離れたところで眠っている。

 もう少し明るくなったら、山を下りなくてはならない。

 ユーインはエルフの秘薬を王太子に届けなくてはならないし、エマは――


(……しっかりしなさい、わたし)


 エマはゆっくりと息を吸い込む。

 オーベロンの言ったサラマンダーがロイであっても、ロイがエマに対して憎しみを抱いていたとしても、エマはロイに会わなくてはならない。

 ロイに会って、謝る。

 それが、ブラクテン国の家を追い出され、ブラットフォード伯爵令嬢からただのエマになった自分が唯一決めたことだから。

 たとえその先でどうなろうとも、エマはやっぱり、傷つけてしまった大好きな友達に会いたい。会って謝って、許してくれなくとも、きちんと自分の言葉で伝えたい。


 ごめんなさいと。

 大好きだと。


 それは自分の気持ちを優先した傲慢なことかもしれないけれど、このままにはしたくないのだ。

 だから、ロイに恨まれているかもしれないとわかったからと言って、ひるんではいけない。傷ついてはいけない。最初に彼を傷つけたのはエマなのだから。

 エマは大きく息を吐き出して、ユーインに向き直った。


「これ……これで、あなたの友達は助かると思うわ」

「エマ、俺は……」

「ユーイン。あなたの言葉はとても嬉しかったわ。……でも、ここでお別れにしましょう」


 ロイは、エマの死を望んでいるかもしれない。

 エマは、ロイがボギーに変質していても元にもどしてあげられないかもしれない。

 この先エマは、自分がどうなるのか、自分でもまだよくわかっていなかった。

 ロイに会って謝って、もしボギーになっていたのならば彼をシーリー・コートに戻してあげたい。でもそれに失敗してしまった後は――


(ごめんねユーイン。あなたは巻き込めない)


 もしユーインがそばにいたら、優しいユーインはエマを守ろうとしてくれるだろう。

 エマが最後に選んだ選択で、ユーインを悲しませてしまうこともあるかもしれない。


(……違うわね。きっとわたしは、甘えてしまうから)


 ユーインがそばにいたら、エマは彼にすがるだろう。甘えるだろう。

 でも、この問題だけは、誰かに甘えてはいけないのだ。

 エマが犯した罪だから、エマが一人でロイに向き合わなければならない。

 エマはショックを受けて目を見開くユーインに笑って見せた。


「これを持って王都の友達のところに帰ってあげて。……今までありがとう、ユーイン。あなたと一緒で楽しかったわ」


 さようなら、と。

 自分はちゃんと、彼に微笑むことができただろうか。



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