第16話 ショッピングとコーディネイト




 ふたりで馬車に乗り、屋敷を出る。


「今日の服ははじめて見るな」

「ソニアが商人を呼んでくれたんです。選ぶのも彼女に手伝ってもらって」


 そう答えると、シェンはそうかと頷く。


 それから少し考える素振りをしたあと。


「彼女は君の専属侍女にしようか」

「彼女って、ソニアのことですか?」

「ああ、ウチには父上と私しかいないから執事がいれば十分だったんだが」


 元々ソニアはメイドたちのとりまとめ役をしていたらしい。


 なので積極的に私のお世話もしてくれていたけど、この際だから専属としてしまおうということらしい。


「エリィも彼女を気に入っているようだし、どうだろう?」

「はい是非」


 私は頷く。


 話はいったん終わるが、シェンはまたジッと私の服を見て。


「せっかくだし、最初は服屋に行こうか」

「え? でも」


 服なら今日の分どころか、結構な数をこの前買い揃えた。


 そのことはさっき彼にも伝えたと思うけど……。


「私がエリィの服を選びたいんだ」

「……!」

「ソニアにばかり選ばせるのは不公平だろう?」


 そんなことを言われたら断れるはずもない。


 ただソニアにも悪いので、今日一日はこの服でいることを条件に、彼の提案を受け入れた。


 そうして連れて行かれたのは王都の一等地に建てられたお店だった。


「いらっしゃいませ」


 出迎えに現れた女性からして、ひと目で教養の高さを窺わせる品のよさ。


 店内に溢れる衣服類に小物類も様々。

 素材からして平民の着る服とは違って、デザインも洗練されてる。


「彼女が普段着るものが欲しい。よさそうなものを見繕ってくれ」

「かしこまりました」


 こちらへと案内され、私はお店の奥へ進む。


 そこからはもう凄かった。


 お店の人が3人4人と現れて、次々と服やそれに合う小物に靴まで持ってきてくれた。


「次はこれとこれを合わせてみましょうか」

「は、はい!」


 次から次へと試着を促され、それはもう目が回るようだった。


 ひと揃いよさそうな組み合わせができると、今度はそれをシェンに見せにいく。


「ああ、いいな」


 彼のひと言で購入が決まり、カウンターにドンドン服が積み上がる。


 最終的な合計金額を見たら目玉が飛び出そうになった。


「シェ、シェン? 何もこんなに買わなくてもいいんじゃない?」

「私がエリィに贈りたいんだ。ダメか?」


 つい遠慮を口にしたが、真顔でそう答えられて何も言えなくなる。


「ではこちらはサイズを調整次第、後日侯爵家へお届け致します」

「よろしく頼む」


 初っ端から凄いパンチ力だった……。


「いい店だったな」

「そうですね」


 馬車に戻ったあと、シェンが呟いた言葉に私も頷く。


 お店の人たちは皆丁寧で、慣れない私に気を遣ってくれていた。


 お陰であんなに綺麗な服を沢山着られたし、精神的な疲労はともかくとして、いい経験ができたと思う。


「届いた服の仕上がりによっては、これから贔屓の店にしてもいいかもな」

「そういえばこの前商人を呼んだ時、ソニアもそんなこと言ってましたよ」


 マルス様の奥さんが亡くなって以来、フリード家では女性向けの品を扱う商人との交流が途絶えているらしい。


 私がフリード家に入るなら、またつき合いを再開できると言っていた。


「そうか。ならソニアの意見も聞いてその辺りは検討しよう」


 シェンは頷き、私に微笑む。


「ついでにもう2、3軒回ろうか。気に入った店があれば言ってくれ」


 ひえ~。

 今度はどんなお店に連れて行かれるんだろう?


 まだまだデートは始まったばかり。



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