第7話 私室と挨拶




「うわぁ……!」


 広っ……。


 お屋敷に入ってからもう何回も同じことを思ってる気がする。


 でも実際広いのだから仕方がない。


 それに家具の数も何これ?

 天蓋付きのベッド。

 素敵な花の彫刻がされたサイドテーブル。

 大きな衣装棚がそれも2つ。

 金細工の縁つきの姿見。

 デザインの凝った化粧台。

 その上の化粧箱も3個もある。


 まだまだある。

 柔らかそうなソファ。

 もふもふのクッション。

 かわいいミニテーブル。

 ティーセットが入った飾り棚。

 月と星の意匠が入ったお洒落な壁時計。


 さらに部屋の四隅には花瓶が置かれ、そこにはたっぷりの花がいけられていた。


 しかもこれ私の好きな花だ。

 香りが部屋に満ちていい匂い。


 それ以外にも冬に使う暖炉。

 白いカーテンのついた大窓。

 窓の先には広々としたバルコニー。

 バルコニーには丸テーブルとチェアが用意されている。


「天気のいい日はこちらでもティータイムをお楽しみいただけます」


 ティータイムって、そんなお洒落なこと今までしたことない……。


「このほかにエリィ様専用のドレスルームもございますので、あとでそちらもご案内いたします」


 まだあるの!?

 もう驚きすぎて頭がクラクラしてきた。


「お部屋の様子はいかがでしょう?」

「……あ!」


 圧倒されすぎて反応が遅れてしまう。

 とはいえまだ呆気に取られるばかりで、上手い言葉が思いつかない。


「あの……はい、凄すぎて。素敵な部屋だと思います」


 たどたどしい返事に、ソニアは小さく頷く。


「では、ご満足いただけましたか?」

「それははい! もちろん!」


 正直、満足どころの話ではない。


 私が何度も頷いていると、ソニアは嬉しそうに微笑む。


「それはよかったです。こちらの部屋はシェン様がご用意されたんですよ」

「シェンが?」

「ええ、家具のひとつひとつから壁紙の色に絨毯まで、エリィ様を迎えるためにご準備されていました」


 シェンが……これ全部。


「じゃあ、あの花も?」

「はい。シェン様の指示で今朝庭で摘んできたものです」


 私の好きな花覚えててくれたんだ。


『10年前から貴女が好きだった』


 シェンの言葉が頭の中でリフレインする。


 この部屋を見ると、あの言葉が真実だったと改めて実感できた。


「~~~」


 あっ、また顔がカッと熱くなってきた。

 きっと赤らんでいる頬を両手で隠す。


「エリィ様」

「は、はい!」

「よろしければ、次はご挨拶用のドレスを選びに参りましょう」


 ドレス?

 そういえばさっきドレスルームがどうのって……ん?。


「あの、ご挨拶って……誰に?」

「もちろんご当主様への結婚のご挨拶です」


 あ……と気づいて、私は心の中で悲鳴を上げた。


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