第8話 ドレスと身支度
フリード家の当主様
つまりシェンの養父への挨拶。
挨拶すること自体は当然なんだけど。
でも緊張するものは緊張する。
だって相手は生粋の貴族だ。
私みたいな田舎娘……本当に認めてもらえるのかな?
「ではドレスルームに参りましょう」
「……」
多少の不安を抱えつつ、私はドレスルームへ移動する。
「……!」
そこに一歩入った瞬間、体が硬直した。
だってドレスルームが何なのか、実はよく分かってなかったから。
言葉の響きからドレスがしまってある部屋かなとは思ってたけど。
想像とは文字通り桁が違った。
だってまさかひと部屋丸々全部使って、所狭しとドレスが並べられているなんて!
「あ、あのこれって……まさか全部?」
「はい。全てエリィ様のためのドレスです」
やっぱりそうなんだ!?
まさかと思って尋ねたけど、本当にそうだと聞くと喜びより先に驚きが来てしまう。
「どうぞお好きなものを選んでください」
「は、はい!」
と、頷きはしたものの。
「……」
試しに手前にある一着に触れてみる。
もう手触りからして、私の普段着と違った。
薄くてサラサラで、生地に触れる指先が気持ちいい。
どう考えても高そう!
これ一着で孤児院の食費何ヶ月分だろう?
本当に私が袖を通して大丈夫なもの?
というかもう……もはや怖い。
「エリィ様?」
「あの……選ぶの手伝ってもらってもいいですか?」
私じゃ一生決められなさそうなので、ソニアにアドバイスを求めることにした。
「エリィ様の髪はこの国では珍しい色合いですし、そちらに合わせた色のドレスがいいかと思います」
「なるほど」
私の髪は桃色に近い赤。
確かに村でもめだつ色だったけど、この国でも珍しいんだ……。
「あとほかに何かエリィ様がこうしたいとか、こういうのがいいなどのご要望などございますか?」
「えっと、そうですね……」
私はしばし考え、ふと大事なことを思い出す。
「そういえば家を出る時に母からもたされたものがあって……」
そこでメイドの人に一度部屋に戻って私の荷物を取ってきてもらう。
鞄の奥底に大事にしまった白い箱。
ふたを開けると、中から小ぶりなペンダントが出てくる。
「……不思議な色の石ですね」
「そうなんですか? 母からは家に代々伝わってきた品と聞いてますが」
ペンダントに嵌められた石は光の加減で赤にも青にも見える。
確かに言われてみれば不思議な石だ。
「それではこちらの石にも合うようにドレスを選びましょう」
「はい」
ともあれソニアの助言に従いつつ、100着以上ある中から淡い青色のドレスを選ぶ。
時間がかかったけど、無事選び終わった。
「次はお化粧ですね。その前にお風呂でお体を綺麗にしませんと」
「えっ……え?」
これで終わりじゃないの……?
「お風呂でボディケアも同時に行います。その間にドレスの調整もしますので。それと」
「ま、まだあるんですか?」
「はい。ご挨拶はディナーの前ですので、それまで時間はありません。急ぎましょう」
聞いてるだけで目が回りそう。
貴族の身支度ってこんなに大変なの?
「さあさあ参りましょう」
「ひえ~!」
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