第3話 驚愕と気絶




「……ハッ!?」


 あれ? ここは?

 ベッドの上?


「気がついたかい」

「お母さん……」


 隣の椅子には心配する母の顔。


「えっと、私どうしたの?」

「まさか覚えてないのかい?」

「う、うん」

「あんた、あの人に結婚を申し込まれたあと、悲鳴を上げて気絶したんだよ」

「えぇ……」


 言われて段々と思い出す。


 そうだ。急な告白に驚いて、その場で目を回してしまったんだった。


 我ながら反応が失礼すぎる。

 でも、それくらい本当に驚いたのだ。


 だってあんな絶世の美男子と言って差し支えない男の人が急に、きゅ、求こ……。


「~~~!?」


 求婚!?

 えっ!? 私、告白されたの!?


 思い出すとまた頭が混乱してきた。


「お、お母さん、あの人は?」


 私は体を起こしながら母に尋ねる。


 とにもかくにも倒れたことを謝罪しなければ。


「ああ、それなら」


 と、母が口を開きかけたところで寝室のドアがノックされた。


「失礼。入ってもいいだろうか?」

「……!」


 その声は紛れもなくあの人だった。


 ま、まだ心の準備が!?


「どうぞお入りください」


 しかし、私の覚悟が決まる前に、母が相手を招き入れてしまう。


 ドアが開き、再び彼が目の前に現れる。


「……っ」


 やっぱり改めて見ても息を呑むほど綺麗。


 彼がベッドに近づくと、母は自然に椅子をあける。

 そのまま彼と入れ替わりに部屋の外へ。


「ごゆっくり」


 って、ごゆっくりじゃなくて!

 いきなりのふたりきり!?


「……」


 彼は無言で母が座っていた椅子に腰を下ろす。


「あ……あの!」


 緊張に堪えられず、私は声を振り絞る。


「申し訳ありませんでした。先程は急に倒れてしまって!」


 まずはさっきの無礼な態度を謝る。


 すると彼はあのアイスブルーの瞳で私の顔を覗き込み、


「なぜ倒れたんだ?」


 と理由を尋ねてきた。


「いえ、その、それはきゅ……急なことに驚いてしまって」


 求婚と言いかけて言い直す。

 まだそれを自分の口から言う勇気が持てない。


「それは本当に驚いたという意味か?」

「え?」

「私に結婚を申し込まれたのが嫌だったとかではなく?」

「……!?」


 ほ、本当に現実なんだ。

 ワンチャンさっきのは全部夢だったかもと思ってた。


 でも彼の真剣な眼差しは現実だ。


「い、嫌というわけではないのですが」

「ないのですが?」

「あ……あなたとは初対面ですし」

「……」


 しどろもどろになりながら私が答えていると、突然彼は少し目を細める。


「もしかして私を覚えてないのか?」

「え?」


 そんなこと言われても思い出せない。


 こんな絶世の美男子、一度見たら忘れることなんてできないと思うけど……。


 私が答えられずにいると、彼は残念そうに小さくため息を吐いた。


「私はシェン……シェン・フリードだ」

「……!」


 シェン――その名前を聞いた私は驚きのあまりベッドから転げ落ちそうになった。


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