第44話 訪問者

一緒に暮らしていたマンションを出て1週間が経った。 やっぱりカプセルホテルは慣れない。 狭いし、何か独特の臭いが嫌だし(俺が過敏なだけかもしれないけど)。 食事もテイクアウトや外食には飽きてきた。 早く住む場所を探さないと……。


……朋美の作ってくれたご飯が食べたい。 朋美の眩しい位の笑顔が見たい。 朋美に会いたい……。


……いや、駄目だ。 俺の存在は朋美にとって害にしかならない。朋美はあのイケメン男性と幸せになるべきなんだ。 もう会わない方が良いんだ……。



カプセルホテルから出社して仕事をこなすが、いまいち仕事に身が入らない。 同僚からも " 神谷さん、大丈夫ですか? 顔が死んでますけど? " と心配される始末。 禿げにはチクチク嫌味言われるし最悪だ。


そう言えば、5日前に朋美がうちの会社を訪ねて来たみたいだ。 その時俺は外出していて朋美とは会えなかったけど。 


外出先から帰ってきた俺に受付嬢から 


「先程神谷さんに面会に来られた女性がいましたよ。 物凄く綺麗な女性でした。 今外出している事をお伝えしたら、しょんぼりした様子で帰って行かれました。 名前は確か……水無月様と仰っていました。 私が言うのも何ですが、水無月様にご連絡を取られてみてはどうでしょうか?」


と言って貰ったが


「ありがとうございます。後で連絡してみます」


と答えたが、朋美に連絡はしていない。



正直な所、朋美から面と向かって別れの言葉を切り出されるのが怖いんだ。 直接朋美から別れの言葉を告げられたら、俺の心は確実に壊れてしまうから。 だから周りから卑怯だと言われても自然消滅を狙った方が良いんだ。




次の日の昼休み。


外出して昼飯を食べようと思い、財布を持ってロビーに行くと、受付嬢に


「神谷さん! 丁度良かった。今呼び出ししようと思っていた所だったんです。 神谷さんにご面会の方が来られていますよ」


と呼び止められた。 俺に面会? 誰だろうか?


俺は受付の方に視線を向けた。


……あのイケメン男性だ。 あのイケメン男性が何故此処に居るんだ? しかも俺に向かって頭を下げているじゃないか。


もしかして俺に面会の人ってこのイケメン男性か?


するとイケメン男性は俺に近付いて来て


「神谷雄二さんですか?」


「は、はい。神谷雄二と申します」


「私  と申します。 今日は水無月朋美の事に付いてお話がしたくて失礼を承知でお伺いさせて頂きました。お時間よろしいでしょうか」


もしかして朋美と別れて欲しいって言いに来たのかこのイケメンは。


「えっと、今から昼食に行こうとしていたのですが……」


今は朋美の事に触れたくなかったので、断ろうとしたのだが


「お時間は取らせませんので、どうか宜しくお願いいたします。私の話を聞いて頂けませんでしょうか」


イケメン男性が必死な表情でそう俺に訴えてきたので、俺は


「わ、分かりました。昼食を食べながらで良かったらお話お伺いいたします」


「あ、ありがとうございます!! あっ、昼食代は私が持ちますので!! 是非奢らせて下さい!!」


……そんなに俺に朋美と別れて欲しいのか。


大丈夫。俺の望みは朋美が幸せになる事だけだから。 そちらの要求を快く飲んで円満に別れてあげるよ。 でも、朋美には貴方から伝えて欲しいけどな。


俺はイケメン男性に連れられて、近くの寿司屋(回らない奴)に入り、イケメン男性の奢りで寿司を食べながら話を聞く事になった。



「お時間頂きましてありがとうございます。改めまして自己紹介を。私 と申します」


「は、はぁ。私は神谷雄二と申します」


「早速ですが、水無月朋美の事に付いてのお話ですが」


来た。覚悟を決めなくちゃな。


「どうか朋美に会ってやって頂けませんでしょうか! このままでは朋美は病気になってしまいます!」


イケメン男性は必死な表情で床に膝を付き俺に頭を下げてきた。所謂土下座だ。


「へっ? や、止めて下さい! 頭を上げて下さい!」


「いいえ!貴方がはい!と言ってくれるまで頭を上げる事なんて出来ません! どうか宜しくお願いいたします!!」


な、何なんだ!? 何故この人はこんなにも必死になっているんだ!? それに、この人物凄く気になる事を言っていた気がするんだが? 朋美が病気になりそうだって?


「わ、分かりましたから1度頭を上げて下さい。じゃないとまともに話が出来ませんから」


俺がそうお願いすると、イケメン男性はやっと頭を上げてくれた。 それと、店の中で土下座は止めて欲しい。周囲のお客様の視線が物凄く痛いから。


「で、何故俺が朋美と会わなかったら朋美が病気になるんですか? それと、貴方は朋美とはどんな関係なんでしょうか?」


「はい。私、朋美の親戚になります」


……えっ!? し、親戚だと!? そ、そういえばこの人の名字は水無月……それじゃあ本当にこの人は朋美の親戚!?


「私と中古車を見に行った後、朋美が気に入った中古車の購入の契約は何時にするかを決める為に朋美に連絡をしたのですが、電話口で朋美はずっと泣いていてまともに話が出来なかったんです。 だから私は朋美のマンションに向かいました。 エントランスで朋美にマイク越しで説得をして、やっと部屋の中に入れて貰いました。守衛さんに不審者に見られて通報されかけましたけど。 そして朋美と話をした結果、朋美は貴方が居なくなってからずっと泣いていてまともにご飯も食べていないと言うではありませんか。 それに、貴方が居なくなってからずっと仕事も行かず部屋の中に引きこもっている状態です。 このままでは本当に朋美は病気になってしまいます! どうか朋美に会ってやって頂けませんでしょうか! お願いいたします!!」


俺は修さんの必死な訴えを聞いて俺は店を飛び出して朋美の居るマンションへと必死に走った。


なんて俺は馬鹿なんだ!! 俺が勝手に勘違いしたせいで、朋美は病気になりかけている! あの時ちゃんと朋美と話し合いをするべきだったんだ! 勝手に勘違いして、勝手にマンションを出て朋美を1人にしてしまった。 悪いのは全部俺じゃないか! 今さら朋美が許してくれるとは思えないけど、俺は朋美の傍に居たい!


必死に走ったお陰なのか、マンションにあっという間に着いてしまった。





ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m


面白いと思われたら ♡ ☆評価 コメント レビュー等を頂けたら嬉しいです(* ̄∇ ̄*)


今後とも拙作を宜しくお願い致しますm(__)m








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