第42話 君の幸せが俺の幸せ

「む~ん。なかなか上手くいかないなぁ。丹羽課長に営業のノウハウを教えて貰おうかなぁ~」


俺は自宅近くにある小さな公園のベンチに座り、ネクタイを緩めながら空を眺めてそう呟いていた。


今俺は営業で外回りの真っ最中である。 しかし、最近は営業も上手くいかず、契約件数は0だ。 本当に丹羽課長に営業のノウハウを教えて貰おうかなぁ。 丹羽課長は営業一課でトップクラスの営業成績の実力者だし。 丹羽課長なら快く営業のノウハウを教えてくれそうだよな。 間違っても営業二課の禿げには教わりなくはない。 あの禿げは生理的に嫌いだし、あの禿げに教わったら何か見返りを要求されかねないからな。


……そんな事を考えた後、気持ちを切り替える為に俺はベンチから立ち上がり、近くの自販機にコーヒーを買いに行こうとした。 その時、自宅マンションから朋美が出てくる姿を見つけた。


そう言えば、朋美は今日は会社を有給使って休んでいたな。 それに何だか凄く嬉しそうにしていた。 何があるんだろうか? 朋美が凄く嬉しそうだったので詮索はしなかったのだが。


「お~い朋……えっ?」


マンションから出てきた朋美に声を掛けようとしたが…声を掛ける事が出来なくなってしまった。


何故か……それは、朋美がマンション前で1人の男性と合流し、楽しそうに話をし始めたからだ。 しかもその男性は、朋美の肩に手を置き、至近距離で楽しそうに朋美に話し掛けている。 朋美も拒絶する事無くその行為を受け入れ、仲良さそうに笑いながら話をしていた。 そして


「お待たせ修君。ずっと楽しみにしてたよ」


「そうなのか朋。それなら俺も嬉しいぜ」


「じゃあ早速移動しようよ」


「ああ。朋を満足させられる筈だから期待してなよ」


「うん」


という会話(距離があったから二人が話していた全部の会話は聞こえなかった)が俺の耳に届いた。


そして朋美はその男性にエスコートされ、男性の車であろう高級車の助手席に乗り込みどこかに行ってしまった。


俺はその場に立ちすくみ、暫くその場を動く事が出来なかった。


……めっちゃイケメンな男性だったな。それに高身長で身に付けている服もブランド品だったな。 それに……朋美、何だか本当に楽しそうにしていたな。



……俺は悟った。悟ってしまったんだ。


朋美は俺に見限りをつけたんだと。


最近朋美がそわそわする事が多くなっていたのを思い出した。 ああ……成る程な。


こんな何の取り柄も無く無趣味でビールと唐揚げと○etflixが好きなだけのつまらない男より、イケメンで、高収入で、将来性があって、何より自分を楽しませてくれる男の方が良いに決まっているよな。


朋美の幸せを願うなら、俺は身を引いた方が良い……。 俺がいくら頑張っても、朋美と一緒に居た男性には勝てそうには無いだろうな。天地が引っくり返っても無理だ。 そもそもスペックが違いすぎる。


……よし。俺は朋美の前から姿を消そう。 俺の存在は朋美の幸せの邪魔にしかならない。 そうと決まれば行動は早い方が良い。


俺はスーツからスマホを取り出して会社に電話を掛け


「……すみません。営業二課の神谷です。営業の出先で急に熱がでまして、今から病院に行こうと思いますので半日の有給を頂けたらと……はい……はい……ありがとうございます。御迷惑をお掛け致しますが宜しくお伝え下さい。それでは失礼します」


と会社に嘘の連絡を入れて半日の有給を取得した。


後はアパートを借りるまでの居場所の確保だな。 スマホで俺の銀行の残高をアプリから確認すると、数ヶ月はカプセルホテルに泊まれる位の金額があった。(こんなに貯金してなかった筈なんだけど何でこんなにあるんだろ? まぁ良いか)


さてと……出ていく準備をしないとな。


俺はマンションに戻り、クローゼットからスーツケースを取り出して、スーツケースに当面の間困らない位の自分の衣類を積めていく。 


スーツケースに衣類を積め終わり、後は出ていくだけになった。


……とりあえず手紙だけでも残していこう。


俺は便箋に文章をしたため、リビングのテーブルの上に置いた。 手紙の内容はというと


" 水無月朋美様


今まで沢山の素敵な思い出をありがとうございました。 

どうか私の事は忘れて幸せになって下さい。 


部屋の鍵は後日封書で郵送致します。 


貴女に作って貰った食事とても美味しかったし、とても嬉しかったです。


少しの間でしたが貴女と過ごした時間は私にとって掛け替えの無い思い出です。


どうかお体に気を付けて幸せにお過ごし下さい。


                 神谷雄二 "




俺はスーツケースを持って玄関から外に出て、静かに玄関のドアを閉めた。


……これで良いんだ……これで……。 朋美、どうか幸せに……。 


さようなら……。





ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m


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今後とも拙作を宜しくお願い致しますm(__)m















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