第27話 雨

朝……何気なくアパートの部屋の窓から外の景色を見た。 ……雨が降っているな…。


俺は雨の日が嫌いだ。 気持ちが憂鬱になるから? 違う。 体が濡れるから? 違う。


俺が雨の日が嫌いな理由……。それは、父さんと母さんが3年前の雨の日に交通事故で亡くなったからだ。


こんな雨が降っている日はどうしても思い出してしまう。


あれは今入っている会社の内定が決まって、後少しで大学を卒業する間近だった。 


今まで苦労を掛けた父さんと母さんにやっと恩返しが出来ると思っていた矢先、母さんを助手席に乗せ、父さんが運転していた自動車に、居眠りをしていたドライバーが運転する自動車が衝突してきた。しかもタイヤがスリップした状態で。 かなりの勢いで衝突してきた為、父さんと母さんは勿論の事、居眠りをしていた相手のドライバーも即死だった。


……その日は結構な勢いで雨が降っていた。


俺はその日大学に行っていた。 父さんと母さんが亡くなったと警察からの電話で知ったのは、後少しで大学の今日の講義が終わり、帰宅出来るという時間帯だった。


俺は警察官の案内で病院の遺体安置所に向かい、父さんと母さんの遺体を確認した。


遺体安置所に設置してあるベッドの上に父さんと母さんは静かに横になっていた。 2人共顔には傷は無く、綺麗なままだった。


「……嘘だろ? またまた……何の冗談だよ? 質が悪いぜ息子を夫婦揃って騙そうなんて……。 ドッキリなんだろ? 分かってんだから。 もうそんな冗談は止めて2人共起きてくれよ。 で、早く家に帰ろうぜ? ……なぁ、父さん。起きてくれよ。 母さん、返事……して……くれ…よ」


俺は両親の遺体に抱き付き、大粒の涙を流しながら大声で泣いた。 警察官に肩を叩かれ慰められたのを憶えている。


それから俺は、両親の葬儀を執り行い、両親の遺体を火葬し、両親の遺骨を神谷家の墓に埋葬した。


その行程を俺が全部1人で行った。 いや、1人じゃないか。下野家の皆様も手伝ってくれたっけ。 だから下野家の皆様には頭が上がらない。本当に感謝している。  


俺の親戚は誰1人両親の葬儀には来なかった。 葬儀の案内状も出したのにも関わらずだ。 いくら疎遠になっていたからと言っても、2人の葬儀位は参列して欲しかった。


両親が残してくれた遺産を全部俺が受け取れたから(親戚一同は遺産相続にも一切興味を示さなかった)大学も無事卒業出来たし、今住んでいるアパートにも引っ越す事が出来た。 両親と住んでいた実家は、両親の葬儀が終わった後直ぐに売りに出した。 両親との思い出の一杯詰まった実家で1人暮らす事は辛すぎて俺には出来なかった。


あれから3年の月日が流れた。


俺は雨の日が嫌いだ。 俺から大切な両親を奪った雨の日が。 






……おっと、いつまでも外を眺めて感傷に浸っている訳にはいかないな。今日も会社はあるから支度して出勤しないとな。のんびりしていたら遅刻してしまう。


俺は身支度を整え、トーストとブラックコーヒーで朝食を済ませてアパートの鍵を閉めて出社する。 勿論傘は忘れない。


…ん? アパートの前に見た事のある赤い軽自動車が止まっているのが俺の視界に入った。 ……あの車は確か……。


俺が赤い軽自動車を見ると同時に赤い軽自動車の運転席側のドアが開き、軽自動車の中から1人の女性が降りてきた。


「雄二さん、おはようございます。今朝は結構雨が降っていましたので、迎えに来ちゃいました。もしかして余計な事しちゃいましたか?」


軽自動車から降りてきたのは、俺の大好きな彼女である朋美だった。


「いや、余計な事じゃないよ。むしろありがたいよ。雨に濡れなくて済むからさ。わざわざ迎えに来てくれてありがとう朋美」


「雄二さんのお役に立てたなら嬉しいです♡ さぁ乗って下さい♡ 会社近く迄送りますから♡ 帰りも一緒に帰りましょうね♡」


自分の自動車に乗る様に促してくれる朋美の言葉に従い、朋美の自動車まで移動して助手席に乗り込んだ。


朋美も運転席に座り、シートベルトをしっかりと締めてから自動車を発進させた。


雨の降る中、朋美の運転する自動車は俺の会社に向かって進んで行く。


「……朋美」


「はい。何ですか?」


「……だけは十分気をつけて運転してくれよな」


「大丈夫ですよ。私、こう見えても優良ドライバーなんですから♪」


「それでもだよ。 ……朋美、俺の前から居なくならないでくれよ……」


「? 何か今言いましたか?」


俺の呟きは朋美には聞こえていなかったみたいだ。


「……何でも無いよ。 さぁ、安全運転宜しくね」


「? 変な雄二さん。 了解です。安全安心を心掛けて運転しますよ♪」


……そう。本当に俺の前から居なくならないでくれよ朋美。 朋美を父さんと母さんに紹介したかったなぁ……。


俺は雨が降る空を眺めながらそう思った。





ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m


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今後とも拙作を宜しくお願い致しますm(__)m


BOOK☆WALKER様にて発売している私の小説も宜しくお願い致しますm(__)m




















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