第21話 来ちゃった♡

只今の時刻は12時ジャストだ。社内で正午を告げるチャイムの音が響き渡る。


さて、午前中の業務はこれで終わりだ。昼飯でも食べに行くかな。


俺は自分のデスクから立ち上がり、財布をポケットに入れて営業2課のオフィスから出て1階のロビーに向かって歩きだした。


この会社には社食もあるんだけど、俺はもっぱら外食組だ。 社食のメニューも安くて美味しいんだけど、やっぱり外に出て、自分が食べた事がない飯を発掘するのが楽しいよな。


そんな事を考えながら1階のロビーに着き、自動ドアから外に出ようとした時、いきなり俺の視界が真っ暗になった。


!? ど、どうした!? 停電か!? 何も見えないぞ!?


い、いや、待てよ。停電にしては俺の目に圧迫感を感じる。 そして何だか柔らかくて暖かい。そして俺の背後から安心出来る様な甘く良い香りがするんだが?


困惑している俺の耳元に


「だ~れだ♡」


ん? この甘く可愛らしく魅惑的な声……聞いた事がある。 当たり前だ。この声を忘れる事なんて生涯有る訳無いじゃないか。


「朋美?」


俺がそう答えると、パッと真っ暗だった視界が明るくなる。 ま、眩しい! 真っ暗からいきなり光を浴びると滅茶苦茶眩しいんだな。初めて知ったよ。


「えへへ♡ 流石雄二さんだぁ♡ 私って直ぐに分かっちゃうんだ♡ 嬉しいなぁ♡」


後を振り向くと、俺の最愛の彼女である朋美がニコニコ笑いながら立っていた。 朋美の格好は受付嬢の姿だ。 本当に似合ってるな。


「分からない訳無いだろ? 朋美の声ならどんなに目隠しされても必ず分かるさ」


「そうなんだぁ♡ 雄二さんてば凄いんだぁ♡」


「で、何で朋美が此処に居るんだ?」


「えっとね、私、今からお昼ご飯を食べに行こうとしてたんだぁ。でね、あのね、私、雄二さんと一緒にお昼ご飯が食べたくてね、来ちゃった♡」


……何だろうなこの超絶可愛い生き物は。 朋美と一緒に昼飯? 答えは勿論YESに決まってるじゃないか。


「勿論一緒に食べよう」


「やった♡」


朋美と一緒に昼飯を食べる為に会社の外に出ようとすると


「神谷ぁ~!お前何処に行こうとしてるんだぁ~?」


と昼飯時には1番聞きたくない声が聞こえてきた。 ゲッ!? 禿げ!?  何で話し掛けて来るんだよ!


「雄二さん、誰ですか?」


「田貫さん。営業2課の課長だよ」


「という事は、雄二さんの上司さんですね」


朋美はそう言って禿げの前に行き


「いつも神谷が御世話になっております」


と禿げに頭を下げて挨拶をした。


「おっ、滅茶苦茶べっぴんさんじゃないか! 神谷には勿体ない女だなぁ。なぁ、神谷なんかほっといて俺とランチに行こうぜ! 楽しませてやるからよ。ランチの後もな……ぐぇへへへへ」


おい! 何俺の彼女を口説いてんだよこの禿げ!! ぶち殺すぞ!!


「うわぁ……この禿げ物凄く気持ち悪い……何言っているのかなぁ……しまったなぁ。頭を下げて挨拶なんかしなければ良かったなぁ……」


朋美が滅茶苦茶ドン引いている。 そんな朋美の態度なんかお構い無しに禿げは朋美の肩を掴んで


「なぁ行こうぜ。昼飯奢ってやるからよ♪その後のホテル代も♪」


「止めて下さい! セクハラですよ! 訴えますよ!」


「嫌よ嫌よも好きの内ってな。1回ヤッたら忘れなれなくなるぜ♪」


……プチッ!


俺はぶちギレた。 もう俺の上司って事なんか知るか! こいつはぶち殴る!


俺は腕捲りして憎き禿げに近付こうとした。その時


「おい田貫! お前何してんだ!」


朋美の肩を掴んでいた禿げの腕を思いっきり叩き落とした人物がいた。


営業1課課長の丹羽圭介課長だ。


「痛っ!! 何すんだ丹羽!!」


禿げが丹羽課長に食って掛かった。 すると丹羽課長は禿げの胸ぐらを掴み上げ


「田貫~! お前はまだ懲りてないみたいだなぁ~! お前、昔俺の妻にちょっかい掛けて俺にボコられたのを忘れたのかぁ? その後妻にもボコられた事も。 で、今度は部下の彼女に手を出そうってか? ふざけるのもいい加減にしろよ田貫~? お前の面と体型を鏡で良く見てから物を喋れよ? お前が女の子、しかも彼女みたいな綺麗で可愛い女の子がお前について行く訳無いだろうが! 転生してから出直してこいや!」


と鬼の形相で禿げにそう言った。


「く、くそ! 丹羽、憶えてろよ!」


禿げは一目散に自動ドアに向かって走って逃げた。 ……あっ、無様に転んだ。そのまま転生すれば良いのに。


「ふぅ。やれやれ。あの禿げは本当に転生しないと治らないな。 えっと……大丈夫だった?」


丹羽課長は優しい笑顔を朋美に向けて心配してくれた。


「あ、ありがとうございました! お陰で助かりました!」


「御礼は良いよ。ただのお節介だから。それに俺が助けなくても格好良い彼氏が助けてくれただろうしな。なっ、君♪ 腕捲りなんかしちゃってさ♪ 彼女を助ける為にあの禿げ殴るつもりだったんだろ? ヒューヒュー♪ 格好良いねぇ♪ おじさん感動しちゃう♪」


丹羽課長に茶化され俺は急に恥ずかしくなってしまった。


「雄二さん……私の為に……もぅ大好きっ♡」


朋美が俺にギュッと抱き付いてきた。


「でも君、あの禿げ殴ったらヤバかったよ。仮にも課長だからね。君の会社での立場が危うくなる所だった」


「……そ、そうですね。 ありがとうございました!」


「良いって良いって♪ 困った時はお互い様だからさ。じゃあ俺は行くね♪ 妻の弁当が俺を待っているからさ♪」


丹羽課長は笑いながら俺達の前から去って行こうとした。 すると丹羽課長が俺に振り向き


「あっ、そうだ。君、名前は?」


「あっ、名乗らず失礼致しました! 私、営業2課の神谷雄二と申します!」


「ん♪ 神谷君ね♪ よし憶えた♪ 何か困った事があったら何時でも俺の所においでよ。相談に乗るからさ♪ じゃあ今度こそ失礼するよ♪」


今度こそ丹羽課長は俺達の前から去っていった。


……滅茶苦茶格好良い人だ。憧れる。


「雄二さん、滅茶苦茶格好良い人ですね丹羽課長って」


「俺もそう思った」


「あっ、雄二さん! お昼ご飯早く行かないと! 時間が無くなっちゃう!」


「そ、そうだな! じゃあ行くか。朋美は何が食べたい?」


「雄二さんが食べる物なら何でも♡」


俺達はそう言いながら外へ昼飯を食べに出掛けた。


丹羽課長、本当にありがとうございました!





ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m


面白いと思われたら★評価 🖤 コメント レビュー等を頂けたら今後の励みになります。


今後とも拙作を宜しくお願い致しますm(__)m












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