第2話

【 たった1人の親友⠀】


「もう少しで中学卒業か、長かった」


っとボソッと呟く


俺の名前はA男、中学3年生だ


俺には友達がいない、いやたった1人親友がいる


「おはよう!ゆきお!」


「おはよう、A男君」


そう、ゆきおだ


俺に友達が少ない理由は明確で、中学1年の時に俺が主犯でクラスメイトに意地悪をしていた。


意地悪はどんどん度が過ぎて行き、気づけば俺の周りから皆離れて行った。


もちろん、ゆきおにも意地悪をした。


今では酷いことをしたと思っているが中々謝る機会がなく、いや、機会はあるがごめんなさいの言葉を伝えるのが恥ずかしいだけだ。


俺は決めている、卒業式の日にちゃんとあの時はごめんなさいと伝える事を。


俺とゆきおが仲良くなったきっかけがある。


中学2年生の体育祭の時、俺は二人三脚の競技に出ることになった。


もちろん俺の周りには友達がいないし近づこうとする人もいなかった。


そんな時、唯一まだ誰とも組んでいなかったのがゆきおだ。


ゆきおは物静かで休憩時間がある度に本を読んでいるような奴だから友達も少なく誰ともペアを組めずに残ったのだろう。


余り物同士、俺とゆきおはペアを組んだが、俺は負けず嫌いな性格であり、ゆきおを積極的に練習に連れ出した。


練習を重ねる事に二人三脚のペースも早くなり、上手になっていくに連れ、お互いに会話も増え友情が芽生えてきたのだ。


そして体育祭当日、二人三脚では練習の成果もあり上位の結果で終わる事が出来た。


俺はとにかく楽しくて、体育祭が終わってもゆきおに積極的に話しかけ、今の仲に至っている。


授業が終わり帰宅の時間となった。


ゆきおは必ずすぐには帰らず、本を少し読んでから帰るのが日課だ。


「ゆきおはいつも本読んでるけど飽きないのか?」


「飽きないよ、本を読んでいる時が1番好きなんだ」


「へぇー、俺にはよく分からんな、しかもずっと同じ本読んでるよな」


タイトルは(Grim Reaper)


表紙は真っ黒で気味が悪い


「うん、面白いんだ」


「A男君は死神とか、幽霊とか信じる?」


俺は正直びっくりしていた、ゆきおから当然話題を出してきたことに。


「急にどうしたんだよ」


「いやいや、意味は無いけど昨日観たテレビでそう言う特集をやっててね、面白いなーっと思って」


「いないだろ」


「そうかな?僕はいると思うんだ、実際に見てみたくない?」


「まぁ、見れるなら」


俺は内心バカバカしいと思っていた。


「なんか死神を降臨させるには条件があってね、 第1に誰かに恨みをもってる人じゃないと呼ぶ事は不可能なんだって」


「へぇー」


「それでもう1つがね、苦痛と感じる事を1000回耐えたら死神が現れて恨みの対象者を消すんだって」


「へぇー、怖いな、俺も消される可能性あるかもな」


ゆきおはクスッと笑った


「苦痛と感じる事を1000回も耐えないといけないんだよ?誰もそこまでしないって」


俺も笑えてきた


「だよな〜」


2人で笑いあった


「よし、じゃあ帰るか!」


「うん!」


俺たちは帰り道が反対方向だ。


バイバイをしてお互いが背を向けて帰ろうとした時。


「982回」


ゆきおがボソッと呟いた気がした。


よくわからないから気にしなかった。


卒業式前日を迎え、いつものように学校生活を過ごした。


もちろん、親友であるゆきおに話しかけに行った。


「ゆきお、明日で卒業だな」


「そうだね」


「明日卒業式終わったらでっかい桜の木があるだろ?あそこに来てくれないか?」


学校内にある大きくそびえ立つ桜の木


「わかった」


「じゃあまた明日な!」


「ばいばい」


卒業式当日、無事に式は終わり、でっかい桜の木に向かった。


既にゆきおが立っていた


「よお、話したいことがあって」


ゆきおの表情を見ると涙ぐんでいる様に見えた。


ゆきおもやっぱり学校に思い入れがあるんだな。


「あのさ、俺ずっとゆきおに言いたかったことがあって」


「うん」


「中学1年の時、ゆきおに意地悪してた事俺すっごく後悔してて、ほんとに、あの時はごめん」


「あー長かった」


ゆきおは冷たい声で呟いた。


ゆきおは涙ぐんだ目を拭い、今までで見た事ない満面の笑みで言った。


「これで1000回目なんだ!ありがとね!今まで話し掛けてくれて!」


俺は全てを悟った


「本当にごめんなさい」


構内には大号泣する声と、人とは思えない笑い声が響きあった。

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