第2話
深夜二時、僕は公園で出会った傍若無人な銀髪女性─
「お邪魔します」
雷菜さんはペコリと一礼してから部屋の中に入ってきた。元カノが荷物を纏めて出ていったおかげで、部屋の中は随分と寂しくなっていた。
「思ったより綺麗ですね。もっと荒れてるかと思ってましたよ」
「僕をなんだと思ってるのさ…」
「クソみたいな元カノに利用されてた、哀れな優男って所でしょうか」
「的確な評価、痛みにいるよ。荷物は邪魔にならないような場所にテキトーに置いといて」
雷菜さんが持ってきた荷物はギターと旅行鞄だけ。家が無いにしてはあまりにも荷物が少ない。本当に何かワケがあるのか、それとも僕を利用して宿泊費を節約しようとしているのか…
「シャワー借りても良いですか?ダメなら汗かいたまま抱き着きますよ」
「いちいち脅さなくても貸すよ!」
「それじゃ、お先に失礼しますね」
全く…彼女にはペースを乱されてばっかりだ。いまいち掴み所がないと言うか、フワフワしていると言うか。とにかく実態が掴めない雲のような女性だ。
髪は銀色に染めてるしピアスは沢山つけてる。派手な見た目なのに、家に入る時にはお辞儀をしたりと意外に礼儀正しい。雷菜さんって何者なんだろう…
室内で1人思案していると、風呂場の方からシャワーの流れる音が聞こえてきた。元カノと別れた直後に別の女の人がシャワーを使ってる。何故か後ろめたさを感じるのは、僕の考えすぎだろうか。
「あれ?そういえば雷菜さん…脱衣所に何も持っていなかったような…」
彼女の荷物は開けられておらず、本当に手ブラでシャワーを浴びに行ったらしい。部屋を濡らされるのはごめんだし、仕方なく僕はタオルを持って風呂場に向かった。
「雷菜さん、タオル置いときますよ」
「ありがとうございます。あとついでに牛乳用意しといてください。私、風呂上がりには牛乳って決めてますから」
「キミよく図々しいって言われない?」
人を脅して泊まりに来ておいて、シャワーを借りて牛乳を要求する。随分とまぁ我の強いことで!
タオルを置いてリビングへと引き返し、冷蔵庫の中を覗いてみる。ほとんどカラ同然だったが、腹立たしいことに牛乳だけはちゃんと残っていた。
「いっそ無ければ良かったのに…」
コップに残っていた牛乳を全て注ぐ。パックの中が無くなったのを確認したと同時に、風呂場の扉が開く音が聞こえた。
次は僕もシャワーを浴びようかと考えていると、雷菜さんが予想外の姿でリビングに現れた。
「ら、雷菜さん!なんで裸なの!?」
風呂場から出てきた雷菜さんは何も着ていなかった。一糸まとわぬ白い肌に銀色の髪が強調され、その姿は彫像の様に美しかった。
「どうせ脱ぐんだから着るだけ無駄でしょう」
「脱ぐ!?なんで!?」
「えっ、しないんですか?」
「何を…ってまさか…!」
「何をって言うかナニをですけど」
嘘だろ…さっき会ったばっかりなのに、もうそこまで考えてるの!?どうやら僕はとんでもない変態を拾ってしまったらしい。
「しないよ!する訳ないでしょ!?」
「しないんですか。貴方になら抱かれても良いって思ったんですけどね」
「抱かっ…あぁもう!とにかく服を着て!」
「そうしたいのは山々ですけど、着替え持ってないですよ、私」
「下着も?」
「下着も、です」
「マジか…はぁ…仕方ない、今日はこれ着て」
僕は自分のシャツを雷菜さんに手渡す。元カノが服の1枚でも残してくれれば良かったのだが、生憎と手元に女物は1つも無い。
僕のシャツは雷菜さんにはやや大きかったらしく、太腿まで隠れている。これなら隠して欲しい所は隠れただろう。
「ズボンもあるけど履く?」
「ノーパンズボンは気持ち悪いのでイヤです」
これ以上は仕方ない。秘部が隠れているだけ良しとしよう。
「おかしな人なんですね、疾風さんって」
「今年度お前が言うなオブザイヤー受賞おめでとう」
「普通、女の子の裸って喜びませんか?」
「別れた直後じゃなければ喜んでたよ!タイミングが最悪なんだよ…」
「じゃあタイミングさえ合えば喜んでたんですね。やーん、疾風さんのえっちー」
「せめてもうちょい色気出す努力しよう?」
相変わらず無表情で何を考えているか分からないが、1つ言えることは彼女は遠慮を知らないってことだけだ。
困惑する僕を置いてけぼりにして、雷菜さんは牛乳を飲み干した。
「ご馳走様です。ところで私ってどこで寝れば良いんですか?床は嫌ですよ?」
「僕のベッドを貸すから…」
「お、添い寝ですか。カップルっぽくて良い感じですね。早くベッド行きましょう」
「僕はソファで寝るよ…なんか疲れたし…」
「…添い寝はお預けですか…ではおやすみなさい、疾風さん。良い夢を」
雷菜さんが僕の部屋へと入ったのを見てから、僕はようやく一息ついた。
もはや元カノと別れたことが遥か昔の事のように思えるが、実は数時間しか経っていない。そう感じるほどに
「色々気になるけど…明日から考えよう…」
僕は疲れた身体をソファに投げ出し、そのまま瞼を閉じた。着替えも片付けも、何もかも後回し。今は休むことを優先しよう。じゃないと雷菜さんについていける気がしないし。
想像以上に僕は疲れていたらしく、瞼を閉じてから数分で僕の意識は、夢の中へと霧散していった…
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