幼少期編

第4話 10歳

吾輩はうんざりしていた。


母上は痛く吾輩を可愛がり、沢山の洋服を見繕ってくれた。


しかし、先ほどからその洋服を次から次へと着せてくるのだ。


それはどれもフリルの多くあしらわれた可愛らしいドレスばかりで、甲冑ばかり身につけていた吾輩にとって違和感の塊だった。


「アスティル、とっても可愛いわ!まるでお人形さんみたい」

「はは...」


母上は吾輩にドレスを着せて鏡の前に立たせると、黄色い歓声をあげる。


鏡の前に映る吾輩は、サラサラとした淡いベージュ色の髪に、母上に似た赤い瞳を持った美しい少女だ。この姿は何度見ても違和感がある。


部屋をノックする音がすると、吾輩と同い年ぐらいのメイドが入ってくる。


「失礼致します、奥様。お嬢様のお稽古のお迎えにあがりました」


ついに着替せ替え人形の地獄から解放される...吾輩を迎えに来た彼女がまるで救世主のように見えた。吾輩は早る気持ちを抑えて稽古の支度をする。


「お迎えありがとう、ステラちゃん。アスティル、お稽古頑張ってね」

「はい、お母様。行ってまいります」


吾輩は練習を重ねて作り上げた完璧な笑顔で母上に手を振った。


「...はぁ」


吾輩は部屋を出て扉が閉まったのを確認すると、大きなため息をついた。

そんな様子の吾輩にステラは心配そうに声をかける。


「だ、大丈夫ですか、お嬢様。どこか気分が悪いのですか?」

「いや...ただ、私はこの華美なドレスがあまり好きではなくて」


吾輩はドレスの裾を指で摘んでそう言うと、彼女は納得したようで口に手を当ててクスクスと笑った。綺麗な栗色の髪を揺らしながら眼を細める。


「確かに、お嬢様はあまり可愛らしい服は好きではないっておっしゃってましたもんね」

「それに、こういうドレスは私よりも貴女によく似合うと思う。ステラはとても美しい顔をしてるから」


彼女ならこのような服が似合うだろうと思い、正直にその思いを彼女の目を見て伝える。ステラは一瞬その動きをピタリと止めると、みるみるうちにその顔を赤くした。


「お、お嬢さまは可愛いのに、かっこいいところがあるからずるいです!」


彼女はそう言うと、足早に先へといってしまった。

吾輩は訳がわからなかったが、ひとまずその後を急いで追った。


(吾輩は何か怒らせることを言ったのか?人間の感情というものは難解だ)


平穏に暮らすためには、良好な人間関係を築くことが必要不可欠だ。もっと人間の感情を学ぶ必要がありそうだ。吾輩は再びため息をついた。

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