第3話 3歳
吾輩は優しい母上に見守られて順調に成長し、ついに1人で立って移動できるようになった。1人で自室を出ると、長い廊下を抜けて一番奥の部屋に入る。
そこは沢山の本が所狭しと並んでいる書斎だった。吾輩はまだこの世界について知らないことも多かったので、書斎でよく情報を収集していた。
(ふむ、この世界には魔族は居ないのか...)
吾輩は椅子に乗り、棚から取り出した文献をパラパラと捲る。その本はこの国に関するもので、歴史や王族について書かれていた。気になった本を手当たり次第読み、どんどんと積んでいく。
(こんな幼子が書斎で古い書を読んでいることが見られたら怪しまれるだろうな)
ふとそんなことを考えていると、突然扉が開く。吾輩は急いで読んでいた本を閉じて積んでいる本の上にどかりと乗せると、カムフラージュの童話の本を広げて読んでいるふりをした。
本棚から顔を出したのは母上だった。吾輩を見つけるとふんわりと微笑んだ。
「ははうえ、おはようございます」
「おはよう、アスティル。貴女はすごいわねえ。まだ3歳なのに文字が読めるなんて」
母上は嬉しそうに吾輩の頭を優しく撫でる。吾輩は300年以上生きていた魔王だからな。文字なんて朝飯前である。しかし、幼子であるから当然なのだが、どうも言葉がうまく喋れない。吾輩は幾度となく発音の練習をし、ついに言葉を話せるようになったのだ。しかし、まだ舌足らずな発音なのでまだ練習が必要なようだ。
「ははうえが、いつもわがはいに、ごほんをよんでくださったからです」
「あらもう、お世辞も上手ねぇ」
母上が嬉しそうに頬を手で押さえて体を揺らす。
(ズッ)
ふと物音がしたので上を見ると、吾輩がさっき急いで置いた何冊もの本がバランスを崩して落ちそうになっているのが見えた。このままでは母上の頭にぶつかってしまう。
吾輩は手を前に出すと、その本に対して力を込める。すると、その本は一瞬光ると母上の頭上から消え、少し遠くの場所でドサドサと落ちた。母上は本が落ちた音に驚き、小さく悲鳴をあげた。
「まぁ!危ない。誰かしらこんなに沢山の本を積んだままにした人は...。アスティルも居るのに危ないわ」
(母上、吾輩だ...)
ひとまず、吾輩は無事に本を別の場所に”転移”できたようで息を吐いた。
最近、吾輩は書物からこの世界にも魔術が存在することを知り、そして魔王の時に使えた魔術が同じようにまだ使えることに気がついた。吾輩の魔術は『空間』を操る力であり、空間転移や指定の空間に結界を貼ることなどが出来る。
この力さえあれば、平穏な生活も実現できるだろう。
(もっと早く成長し、早くこの家から出てみせるぞ)
吾輩は母上の見えないところでニヤリと笑った。
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