43_美澪の成長
美澪が琥太郎に背を向けて、ゆっくりと歩いて距離をとる。25mプール1つ分位離れたところで立ち止まると、琥太郎の方へと向き直った。
子供の頃、美澪は同世代の妖との模擬戦では敵無しだった。そして、唯一勝てなかった琥太郎相手には、何度負けても「もう1回!」と言って繰り返し挑んできた。
当時から美澪は模擬戦を始める際に、他の妖達と比べて少し遠目に距離をとっていたのだが、今のこの距離がまさにそうだ。
「「……この感じ、懐かしいな。」」
琥太郎がそんな事を感じていると、視線が合った美澪もニコニコと微笑みながらこちらを見て立っている。おそらく美澪も、琥太郎と同じように子供の頃の事を思い出しているのだろう。
9月に入り季節は秋になったとはいえ、日中の気温はまだまだ30度以上ある。それでも日が落ちて夜になると、だいぶ過ごしやすい季節になってきた。美澪に対峙する琥太郎の頬を、初秋の快い風がそっと撫でていく。
ここで、ニコニコと微笑んでいた美澪の顔からスッと笑みが消えた。
肩幅に足を開き、まっすぐに立っていた姿勢からストンと肩が落ちる。
軽く猫背の態勢で、両腕はぶらりと下に垂らされている。
そして、普段全身から僅かに滲み出ている妖気が、今は完全に抑えられていた。
美澪の妖としての気配が、今はほとんど感じられないほど希薄になっている。
完全に表情の抜け落ちたその視線の先は、静かに、それでいて鋭く琥太郎を見据えていた。
一見すると鏡面のように静かに凪いだ佇まいだ。
しかしその奥底には、極限まで集中し鋭利な刀剣のように研ぎ澄まされた闘気と、噴火直前のマグマのように凝縮された濃密な妖気が、ぐっと抑え込まれて潜んでいた。
ここで、突然美澪の身体が琥太郎から向かって右側へ僅かにブレた。
琥太郎の視線がそれにつられて、右側へ動くも、そこに美澪はいない。
瞬間、妖気の気配を感じてハッと左側へ視線を動かすと、最初の立ち位置よりも左側から美澪の妖気連弾が迫ってきていた。
琥太郎は左手を軽く払うように動かして、美澪の妖気連弾を自身の左肩上へと逸らす。
すると、その真後ろには美澪が肉薄しており、至近距離から爪による妖気の斬撃を放ってきた。
琥太郎は咄嗟に体の前に自らの「気」によって盾を形成し美澪の斬撃を受け止める。同時に、迫ってきた美澪に「気」の盾をぶつけるように突き出した。
ダンッ
突き出された琥太郎の「気」の盾が美澪に触れると、弾かれるように美澪が吹き飛んだ。いわゆるシールドバッシュと呼ばれる動きだ。
斜め上方向に縦回転しながら吹き飛ばされた美澪だが、10m程吹き飛ばされたところで、頭上に妖気による足場を作り一瞬だけ踏ん張ると、そのまま真下に向かって飛んだ。真下に向かってではあるが、落下ではなく地面に突き刺さるような勢いの方向転換だ。
そのまま地面に着地すると同時に、再び琥太郎に向かって真っすぐ突進してくる。そこから、琥太郎の5m程手前で右側へ急ターンをし、走りながら左右の爪による妖気の斬撃を放ってきた。
琥太郎が美澪の斬撃を再び左手で払うと、琥太郎に向かって右側にターンしたはずの美澪が、向かって左側から琥太郎に迫ってきていた。妖気の斬撃の裏で、逆方向に向きを変えていたようだ。
「うぉっ、早いな…」
つい先日、風音さんの式神であるダディとの模擬戦を見ていた時のように、離れた位置から第三者的に美澪の動きを見るのに比べて、対面で美澪の動きを捉えるのは相当に難易度が高い。妖気による攻撃を目眩ましに上手く利用している上に、間近で見ると速さの感じ方も段違いだ。当然だが、子供の頃に比べて美澪は戦闘でも相当成長していたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます