41_生活感

「えぇっ、そんな風に言われると、なんだかおばさんになったみたいで嫌。」

「あっ、ごめん、そんなつもりはなかったんだけど。なんかこの携帯見たら懐かしくて。」


 流伽によると、携帯キャリアの契約はなくても、霊力を使ってメールの送受信やインターネット接続などは可能らしい。これらは、いわゆる呪いの類に近いもので、遠隔で人を呪ったり祟ったりするのと似た技術や能力を使っているとの事だった。更には充電していない携帯電話であっても、霊力によって電源を入れた状態にできるらしい。ただし、電源まで霊力で賄うのはちょっと面倒との事で、流伽は普通にケーブルをつないで充電していると言っていた。どうやら今まで気が付かなかったのだが、表からは見えにくい冷蔵庫の上のコンセントを使用していたようだ。そういえば、国産ホラー映画の「貞〇」でも、テレビから出てくるシーンが有名だったが、やはり霊力と電化製品は相性が良いのだろうか。


 そうこうしているうちに帰ってきた美澪と、スーパーで購入したお惣菜で夕飯を済ませた。いつもは何も言わずにすぐに押し入れに入ってしまう流伽だが、今日は美澪にもお土産の信玄餅のお礼を言っていた。その後も夕飯の支度を少し手伝ってくれてから押し入れへと戻っていった。まあ、夕飯の支度といっても、スーパーのお惣菜を並べるくらいなのだが、今までの流伽にはなかった事だ。

 美澪と流伽には、スーパーで貧乏神と遭遇した事を伝えておいた。邪神のような存在であるとはいえ、一応は神様なので妖や霊である美澪や流伽にとって害がないとも言い切れない。注意しておくに越した事はないだろう。

 高層ビルの屋上で妖気を打ちまくってきた美澪は少しすっきりしたのか、夕飯を食べた後はシャワーを浴びてすぐにベッドに入って寝てしまった。


「「……美澪にもっと強い攻撃が欲しいってアドバイスを求められたけど、美澪の場合はどうするのがいいんだろう? 一度、きちんと美澪の攻撃や能力なんかをしっかり観察しない事には難しいな…」」




 翌日、美澪は琥太郎と一緒に自宅を出るも、この日もトレーニングをしてくるとの事で西新宿で別れて高層ビル街へと出かけていった。高層ビルの屋上にはどうやって登ってるのかを訊いたところ、ビルの窓枠を足場にジャンプした後、空中に妖気の足場を作ってジャンプするというのを繰り返して屋上まで登るとの事だった。妖気の足場だけでも登れるとは思うと言っていたが、さすがに高層ビルの屋上までの高さを妖気の足場だけで登るのはかなり大変らしい。

 美澪と別れた琥太郎が会社に行くと、先に出社していた風音さんから週末のお礼をされた。風音さんは絶対に自分一人で霊気の圧縮ができるようになってみせますと意気込んでおり、早速今朝も霊気圧縮の練習をしてから家を出てきたらしい。


「「……なんかみんな頑張ってるなぁ…。俺も真面目に美澪の攻撃の事考えなきゃ。」」


昼休みに、コンビニで買ってきた昼食をオフィスで食べながら美澪の攻撃の事をボーっと考えていたところ、スマホのメール受信音が鳴った。


『夕飯は家で食べる? ♪♡るか♪♡』


「……うわっ、本当に流伽からメールが来たよ。」


『うん、家で食べる。』

『おっけー。ご飯炊いとくね。冷蔵庫見たけど、何も入ってないからおかずは作れなそう。 ♪♡るか♪♡』


 琥太郎が送られてきた流伽のメールアドレスを見てみると、ruka@の後ろのドメイン部分は思いっきり文字化けしていた。通信を霊力で行ってるのなら、メールアドレスは飾りみたいなものなのだろうとも思ったが、返信が流伽に無事届くというのはちょっと不思議な感じがする。このあたりはどういった仕組みになっているのだろう。

 夕方、スーパーでこの日も簡単なお惣菜のおかずを購入して帰宅し、玄関のドアを開けると、部屋の中はめちゃめちゃいい匂いがしていた。

 おかずは作れないと言っていた流伽だが、買い置きしてあった魚肉ソーセージに片栗粉をまぶしてこんがり焼いてくれていた。醤油と味醂で甘辛いタレを作って和えてくれていたので、これがいい匂いの発生源だった。更に、冷蔵庫に残っていたキャベツを千切りにして付け合わせにしてくれていたのだが、このキャベツの千切りが機械で切ったのかというくらいに細く切れていた。流伽によると、キャベツの葉をはがして軽く丸めてから包丁で切ると細かく切れるらしい。ご飯は琥太郎の帰宅時間にタイマーを合わせて炊いてくれたようだ。

 ゴスロリファッションに身を包んで、あまり生活感を感じさせない見た目だが、そんな見た目に反して、流伽はかなり料理上手なのかもしれない。


「流伽って料理出来るんだね。」

「うん、お料理は好きだから、生きてる時はほとんど毎日自分で作ってたよ。もしかして私の見た目って料理出来なそうに見える?」

「う~ん、料理が出来なそうっていうか、生活感を感じさせないって感じかなぁ。」

「たしかにメイドさん風ファッションとは少し路線が違ってるから、もうちょっとメイドさんチックなファッションなら料理も出来そうに見えるのかなぁ…。新婚のかわいい若奥様風メイドとかね♪」


「「……新婚のかわいい若奥様風メイドって何??…」」


 その後、昼間のトレーニングで疲れたのかベッドで寝てしまっていた美澪を琥太郎が起こして、今日は3人で一緒に夕飯を食べた。

 美澪と流伽はまだ完全に打ち解けたわけではないようで、2人の間で直接の会話は無かったが、だからといって以前のようなギスギスした感じはお互いなかった。夕飯を食べ終わった後も、流伽が洗い物をしてくれたのだが、美澪が台所まで使った食器などを運んでくれていた。


「「……このまま2人とも仲良くなってくれるといいんだけどなぁ…」」

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