40_メアド交換
琥太郎は飛び込んできた貧乏神の爺さんが纏っている神気をまるごと絡め取り、貧乏神の爺さんを空中で捉えた。そして、飛び込んできた勢いは殺さずに自分の体の左側へと受け流すと、そのままぐるりと体を半回転させてハンマー投げのようにスーパーの前の商店街の道路へと貧乏神の爺さんをぶん投げた。
ズポッ
「うわぁっ、やべぇっ!」
琥太郎にぶん投げられた貧乏神の爺さんが、ちょうどタイミング悪く商店街の道路に入ってきていた真っ赤な外国製スポーツカーの、開いていた助手席の窓に入ってしまったのだ。
ガリッ、ガリガリガリッ
その直後、真っ赤なスポーツカーが道路脇の電柱にボディを擦ってしまった。商店街を歩く人を避けようと左側に車を寄せすぎたようだ。
「あっちゃぁ~、マジか…、先週保険が切れてから、まだ更新してねえのに…」
車から降りてきた40歳前後のイケメンおじさんの独り言が聞こえる。
どうやらイケメンおじさんが車を擦ってしまったのは、車に入ってきた貧乏神の爺さんの影響が多分にあるようだ。やはり見た目がボロいとはいえ、日本有数の超有名神様の実力は伊達ではないようだ。
スポーツカーを見ると、貧乏神の爺さんは助手席で開いている窓枠に肘をかけて、斜め上の空に顔を向けて上機嫌で鼻歌を歌っていた。しかもよく見ると、閉じているように見えるその目はうっすらと僅かに開いていて、得意気に琥太郎の方を見ている。
そうこうしているうちに、イケメンおじさんはブツブツと悪態をつきながら車に乗り込むと、乱暴に運転席のドアを閉めて走り出した。助手席の窓からは、貧乏神の爺さんが腕だけ外に出して、手の平は前に向けたまま指先を上に向けた状態でヒラヒラと軽く手を振っていた。どうやらそのままイケメンおじさんに取り憑くことにしたようだ。
「「……なんかムカつく。すっげームカつく。なんなんだろう、この俺の方が負けたみたいな感じって…。あいつ薄目で完全に上から目線でこっち見てやがった上に、なんだかすげぇ機嫌良さそうだったし…。」」」
琥太郎は、いつも思っていた「神様になんか関わったら碌なことがなさそう」というのをあらためて実感した。
「「……だけど、さっきのイケメンおじさんには悪いことしちゃったなぁ…。おじさん、なんだかごめんなさい。まあだけど、ここは俺の(???)素敵な五岡さんのためにも、おじさんには頑張ってもらおう。」」
琥太郎が帰宅して流伽にお土産の信玄餅とヤンヤーヤチョコビスケットを渡したところ、ヤンヤーヤチョコビスケットが本当に嬉しかったらしく、流伽はその場でぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた。その後何度もお礼を言われた上に、その目にはうっすらと涙まで浮かべていた。
「「……そんなにこれ好きだったんだ。また買ってきてあげなきゃ。…」」
信玄餅も、生きていた頃に何度か食べた事があったとの事で、きな粉をこぼさないように混ぜて食べる緊張感が懐かしいと言っていた。
「ねえ琥太郎、この部屋の食材とか、冷蔵庫の中の食べ物って勝手に使ってもいい?」
「えっ、あぁ、別にたいしたもの置いてないし、そんなの全然かまわないよ。あっ、ただ、仕事帰りとかに家にある食材を当てにして帰ってきちゃうと困りそうだから、食べたら一応連絡だけ欲しいかなぁ。」
「本当?!ありがとう。じゃあ、メールアドレス教えて。」
「えっ?流伽ってメール使えるの?」
「うん、普通に送受信できるよ。ただ、私の携帯って昔のだから、今時のアプリとかは使えないんだよね。だから連絡はメールね。」
そう言って流伽が見せてくれたのは、最近ではあまり見る事のない二つ折り携帯だ。手に取って見せてもらうと、一応カメラはついているものの、もちろんキーボードは昔ながらの物理キーボードだ。
「おぉ、すげぇ! 子供の頃に実家にこんなのあったなぁ。」
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