38_ボロ雑巾

 琥太郎はびっくりして、思わず五岡さんを凝視してしまう。纏っている「気」は、かなり邪悪な感じはするものの、それはやはり神気で間違いなさそうだ。しかし、その神気を纏っている感じがしっくりこないというか、ちょっと妙な違和感を感じる。琥太郎が今まで見た事のない、なんだか奇妙な感じだ。

 そうこうしているうちに琥太郎の順番が来て、更に運よく(?)ちょうど五岡さんのレジが空いた。

琥太郎が五岡さんの纏う神気を観察しながら、買い物カゴを持って五岡さんのレジへと向かう。そしていつものように五岡さんと挨拶を交わした。


「こんばんは。」

「こんばんは~。」


 その時、五岡さんの足元で、五岡さんの履いているズボンを掴んで立っているそいつと目が合った。

五岡さんの足元には、身長が80cm程度で、みすぼらしい身なりをした爺さんがこちらを見上げて立っていたのだ。

神気を発していたのは、五岡さん自身ではなく、こいつだったらしい。こいつが発する邪悪な神気を五岡さんが纏わされてしまっていたようだ。


「「……こっ、こいつって、噂に聞く貧乏神だろ…」」


 琥太郎は過去にも何度か神様と呼ばれる存在を見かけた事はあった。道端のお地蔵様や小さな祠の小さな神様などだ。しかし琥太郎は、神様になんか関わったら碌なことがなさそうという理由から、神様と呼ばれる存在を見かけても、是絶対に目は合わせずに、自分はあなたに気が付いていませんという体裁を常に装った。そうして神様と呼ばれる存在とは極力関わらないようにしてきたのだ。

 しかし今は、この一応は神様と呼ばれる存在と、がっつり目が合ってしまっている。迂闊にも突然の事に驚いて、思わず凝視してしまったからだ。しかもこいつに限っていうならば、こいつは「関わったら碌な事がない」のスペシャリストである。

 琥太郎はそぉ~っと視線を横にずらし、今更ながらあなたには気が付いていませんという体裁を装った。間接視野の端に映る貧乏神の爺さんは、引き続き五岡さんのズボンを掴んだまま琥太郎を凝視している。


「「……こいつ、完全に五岡さんに憑りついてるだろ。くそぉ~、俺の(?)素敵な五岡さんをこいつが不幸にしてやがるってのか…」」


 そうこうしているうちに、五岡さんのレジ打ちが終わったので、琥太郎は電子マネーで支払いを済ませた。


「ありがとうございました。」

「どうも~」


 レジの後ろにある台に移動して、購入した商品を袋詰めしながら琥太郎がそぉ~っと五岡さんの方を伺うと、貧乏神の爺さんは引き続き琥太郎を凝視している。


「「……うぅっ、俺があいつに気が付いた事が完全にバレてるよ。だけど、そんな事よりも俺の(??)五岡さんを不幸にするとは、なんだかやっぱり許せないな…」」


「ふぅ~…」


 琥太郎は諦めるかのように一つ大きな溜息を吐いた。そして、視線は購入した商品の方に向けたまま、五岡さんが纏っている邪悪な神気を丸ごと剥がし取る。更に貧乏神の爺さんが発している神気を操作して、貧乏神の爺さんを五岡さんから引き剥がすと、そのままスーパーの入口から外に放り出してやった。


「「……五岡さんには2度と関わるなコノヤロ~!…」」


 袋詰めを終えてスーパーの入口の方を向きながら、琥太郎が心の中でそう呟いた直後、なんと入口から貧乏神の爺さんが走って戻ってきた。貧乏神の爺さんは琥太郎の脇を一直線に駆け抜けると、そのまま五岡さんの足にジャンプして抱き着く。そして、再び琥太郎をじぃ~っと凝視してきた。


「「……くっそぉ~!、また五岡さんに憑りつきやがった。いっそ神気ごと燃やしちゃいたいところだけど、神殺しなんて称号をもらうわけにはいかないからなぁ…」」


 琥太郎は五岡さんにしがみついている貧乏神の爺さんをもう一度引き剥がすと、今度はその場で高速で横回転させてみた。それはまるで洗濯機で脱水されているボロ雑巾のようだ。そして10秒程回転を続けた後に、もう一度スーパーの入口から外に放り出してやった。

 先程は放り出してすぐに店内に戻ってきたが、今回はすぐに戻ってはこれないようだ。


「「……おっ、うまくいったか?」」

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