37_女神様?

 その後自宅近くまで戻ってガソリンを入れてからレンタカー屋さんで車を返却すると、時刻は既に夜の7時半を過ぎていた。レンタカー屋さんからは自宅まで歩いても5分程度だ。


「スーパーで晩御飯買って帰らなきゃ。」

「ねえ琥太郎、私ちょっとだけトレーニングしてから帰ってもいい?」

「うん、かまわないけど、どこ行ってやるの。」

「あの辺のビルの上。」


そう言って美澪が指さしたのは、西新宿の高層ビル街だった。


「あの辺の高層ビルの屋上って滅多に人も来ないんだ。」


まあ、それはそうだろう。たしかにあそこなら美澪が少々妖力を使ったところで、誰にも見られなそうだし、美澪のトレーニング場所にはよさそうだ。美澪は琥太郎が仕事に行っている間などに何度か行った事があるらしい。やはり美澪は今日のダディとの模擬戦で自分の攻撃が通用しなかった事を相当気にしているようだ。帰宅する前にそうしたモヤモヤを少しでも発散したいのだろう。


「美澪も帰ったらご飯は食べるでしょ?」

「うん。」

「何か食べたいのある?」

「肉。」

「了解。なんか適当に買っとくから、美澪もあんまり遅くならないでね。」


そう言って美澪と別れた琥太郎は、自宅近くの商店街にある食品スーパー、ボンガボンガに向かう。琥太郎のアパートからは徒歩5分程度の場所に、大手スーパーのG8と、反対方面にはこのボンガボンガの2つの食品スーパーがある。その他にコンビニも複数あり、都心とはいえ適度に生活感のある、住むにはなかなか便利な地域だ。


「「……ちょうどお惣菜も安くなってる時間帯だし、今日もお惣菜で済ませちゃうかな。流伽にリクエストもらってたチョコビスケットも買って帰らなきゃ。」」


 流伽には本栖湖入口にあるお土産屋さんで、山梨県の定番土産である信玄餅をお土産に買ってはあった。しかし、流伽からは先日ヤンヤーヤチョコビスケットが食べたいとリクエストをもらっていたのだ。ヤンヤーヤチョコビスケットは琥太郎が子供の頃からあるが、琥太郎もちょっと塩気が効いているヤンヤーヤチョコビスケットは好きだ。

 スーパー、ボンガボンガに到着すると、ちょうどお惣菜が割引の時間という事で、お惣菜売り場には大勢の人が集まっていた。半額に値引きされたお惣菜類をいくつか選び、さらにお菓子売り場でヤンヤーヤチョコビスケットと他にいくつかのお菓子を買い物カゴに入れてレジに向かうと、複数あるレジの一つで、細身で背の高い美人女性がレジ打ちをしていた。


「「……あっ、今日は五岡(いつおか)さんがいる!へへへ。」」


五岡さんはスーパー、ボンガボンガでいつもレジ打ちをしている、琥太郎のお気に入りの店員さんだ。


歳はおそらく30前後。

身長は170cm近い。

スラリと伸びた長い脚。

透き通るように白い肌。

ほっそりとして華奢な女性らしい手指。

小さくてかわいらしい顔と少し高めの可愛らしい声。

その胸に膨らみを見出す事は微塵も出来ないが、またそれが清楚さや可憐さを後押ししているのかもしれない。

忙しいレジ打ち仕事ながら、たおやかな所作と明るい笑顔でいつも優しく対応してくれる五岡さんは、まさに女神様のような女性だった。

 琥太郎がいつも仕事帰りに買い物でボンガボンガに立ち寄る時間帯と、五岡さんの仕事のシフトがちょうど同じようで、琥太郎が買い物に行くとかなり高い頻度で五岡さんも働いている。そのため、五岡さんのレジで支払いをする際は、軽く挨拶位は交わすようになっていた。

 琥太郎がレジ待ちの列に並びながら、五岡さんにあたるといいななどと考えて見ていると、五岡さんがなんだかちょっと邪悪な感じの「気」を纏っている事に気が付いた。よく見てみるが、邪悪な感じとはいっても、妖の妖気とは違っているようだ。もちろん、人が纏う「気」とも違う。


「「……えぇっ! ちょっ、ちょっと…、あれって神気じゃない?!なんかめちゃめちゃ邪悪な感じだけど…。えっ、そんな馬鹿な…。五岡さんって、リアル女神様? っていうか、あの感じだと邪神だったりする?? いや、だけど、そんなわけないと思うんだけど…」」

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