1_幼少期

 幼少の頃、琥太郎は人ならざるものを見ることが出来た。


 妖(あやかし/妖怪)

 霊(幽霊)

 神(神様)


 ちなみに神様といっても、お釈迦様や菩薩様、キリスト教やイスラム教の神様など、皆が知っているような有名な神様は見た事がなかった。見た事があるのは、道端のお地蔵様や、山の麓の小さな祠に祀られている神様などの姿だ。

 琥太郎はそうした人ならざるものを見る事が出来ただけでなく、彼らが纏っている「気」も見る事が出来た。更にはそうした「気」を操る事も出来た。


 妖気

 霊気

 神気


 そうした「気」というのは、人ならざる彼らだけが纏っているわけでなく、通常の人間も人間特有の「気」を纏っていた。「気」は妖、霊、神、人それぞれで違っていて、その「気」を見たり感じたりするだけで彼らが妖なのか霊なのか神なのかといった事も判別出来た。また、「気」は彼らの周りを覆っているだけでなく、霧のように何もない空中を漂っていたり、道端の石や植物、人の作った道具などの物が纏っている場合もあった。琥太郎はそれらも同様に見たり操ったり出来た。操るというのは、見えたり感じたり出来ている「気」を別の場所に動かしたり、集めたり散らしたり、集めた「気」を圧縮したり、更にはそれらの「気」を燃やす事も出来た。


 幼かった琥太郎は、その日に出会った妖や霊の事を友達や両親に話した。しかし、そうした人ならざるものが見えない友達は、やがて琥太郎の事を嘘つきと呼んで遊んでくれなくなる。両親は、琥太郎には本当にそうしたものが見えているのかもしれないと思いつつも、友達が離れていく琥太郎を見て心配した。

 自分には見える人ならざるものが、他の人達は皆見えないという。更には友達からは嘘つき呼ばわりされてしまう。

 そのうちに琥太郎は人間の子供達と遊ぶ事がなくなり、毎日妖とだけ遊ぶようになった。特に仲が良かったのが、美澪(みれい)という1歳年下の妖の女の子だった。


 美澪は水虎だった。水虎は妖の中でも強い妖気を持つ妖だった。そのため、当時まわりにいたほかの妖の子供達よりも、妖力、運動能力ともに優れていた。

 お転婆な美澪は、追いかけっこや相撲や妖気の打ち合いなど、男の子のような活発な遊びを好んだ。しかし他の妖の子供達は、妖力と運動能力に勝る美澪には全く歯がたたない。そんな中、琥太郎だけは美澪と対等以上の勝負が出来た。

 美澪が攻撃してきても、その攻撃は琥太郎にはあたらない。琥太郎に当たる前に軌道を変えて逸れていくか、体に当たる直前に弾かれてしまうのだ。美澪がどのような攻撃を仕掛けてきても、それらの攻撃は全て妖気や邪気や怒気など、何かしらの「気」を纏っている。もしくは「気」そのものである。「気」を操作出来る琥太郎にとっては、「気」を纏ったもの、もしくは「気」そのものの攻撃の軌道を逸らしたり、自分の体に当たる前に弾くのは、自分の手足を動かすのと何ら変わりない事であった。

 逆に攻撃面では「気」を圧縮して打ち出したり、相手が纏っている「気」や自らが放出する「気」燃やしたり、相手が纏っている「気」を操作する事で纏っている本人を動かしたり固定したりして攻める事が出来た。美澪がどんなに早く移動しようと、操作される「気」のスピードには到底かなわない。そのため、少なくともバトル系の遊びで琥太郎が美澪に負ける事は一度も無かった。


 美澪も、唯一自分と対等以上に遊ぶ事が出来る琥太郎が大好きだった。

 琥太郎が幼稚園から帰ってくる時間になると、美澪は毎日必ず琥太郎の家の前で待っていた。そんな美澪と遊ぶのを琥太郎も毎日楽しみにしていた。


 両親は、人間の友達を一切持たず、毎日一人で遊んでいる琥太郎を心配した。琥太郎に話を聞くと、琥太郎は「美澪」という妖の女の子と遊んでいるという。更には、美澪だけでなく、河童や鬼などとも時折遊んでいるらしい。

 琥太郎の両親にとって、琥太郎の話を全て信じるというのは難しかった。とはいえ、琥太郎が嘘をついているようにも見えない。しかし、このままでは小学校にあがっても友達を作る事が出来ないだけでなく、琥太郎は学校で虐めにあってしまうだろう。

 琥太郎を心配した両親は、琥太郎の祖父である繁蔵(しげぞう)に相談した。繁蔵によると、遠い親戚の知人に除霊や退魔で有名な神主さんがいるという。そこで一度、遠い親戚を頼り、その神主さんに琥太郎を見てもらう事にした。

 両親と祖父の繁蔵に連れられて琥太郎は神主さんに会ったが、神主さんにも琥太郎の力の詳細はよくわからなかったらしい。しかし、琥太郎が何かしら強力な力を持っているのは間違いないという。

 そこで両親は神主さんに頼んで、琥太郎の力を封印してもらう事にした。

 琥太郎の所持していた力は神主さんの想定以上で、最終的に神主さんが仲間の神主さんを6名も呼び寄せ、計7人の神主さん達によって封印が完成した。琥太郎はその後1週間以上熱がさがらずに寝たきりになったが、それ以来琥太郎には人ならざるものが見える事は無くなった。

 当時の神主さんの話では、昔の成人にあたる15歳を過ぎる頃には封印が解けるのではないかとの事だった。しかし琥太郎が15歳を過ぎても、以前のように人ならざるものが見えるようになる事は無かった。5年前には繁蔵じいさんも亡くなって封印の話が話題に出る事もなくなり、いつしか琥太郎も両親も、琥太郎が持っていた不思議な力は封印とともに消滅したのかもしれないと思うようになっていた。


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