第10話(3)灼熱のギター
「ふぅ~さっきは結構焦ったぜ……」
陽炎が額の汗を拭う。腕を組んでいた現がぼそっと呟く。
「……大体分かってきたな」
「ん? 何がだ?」
陽炎が現に問う。
「影は遭遇するというか、遭遇させられているんだ……」
「はあ? どういうこった?」
「侵入者である私たちを強制的に排除するようにプログラムされているんだ……」
「プ、プログラムって……そんなパソコンみてえなことをいきなり言われてもな……」
陽炎が戸惑う。
「まあ、プログラムというのは適切な言葉ではないかもしれないが……なんと言えば良いのかな。そのように設定されているとでも言うか……」
「まあ、なんとなくのニュアンスみたいなものは分かったぜ」
「それならば良い……」
陽炎の言葉に現が頷く。
「ということは……」
「どうかしたの、刹那ちゃん?」
口を開いた刹那に幻が問う。刹那が船の前方を指差す。
「今、この船は風の流れに任せて進んでいるよね?」
「ええ、そうね……」
幻が首を縦に振る。
「つまりほぼ強引に影たちとエンカウントさせられるってことじゃないの⁉」
「まあ、そうなるかしらね……」
幻が顎に手を添えて頷く。
「雪の夢世界、砂の夢世界、雲の夢世界などではそういうことはなかったな……」
現が口を開く。
「そ、そうでしょ⁉」
「水の夢世界でも漕ぐくらいのことは出来た……ここでは自由性が無いな……」
「で、でしょ⁉」
「まあ、ちょっと落ち着けよ、セットゥーナ……」
慌てふためく刹那を陽炎が苦笑交じりでなだめる。
「落ち着けないよ!」
刹那が声を上げる。
「まあまあ、ものは考えようよ……」
「ものは考えよう?」
幻の言葉に刹那が首を傾げる。
「つまりは……そういうことよ」
「どういうこと⁉」
「まあ、ああいうことよ……」
「だからどういうこと⁉」
「……どういうことだと思う?」
「それを聞いているんだよ!」
刹那が大きな声を上げる。
「冗談よ。ちゃんと説明するわ……」
「ったく……」
「要はこの夢世界のボスまで一本道が敷かれているということでしょう?」
「ああ……」
「この場合は航路と言った方が良いかしらね? とにかく、そこに向かわざるを得ないような仕組みになっている……」
「うん……」
「ボスと遭遇するのならば話が早いでしょう?」
「ボ、ボスだよ⁉ 手ごわいんじゃないかな⁉」
刹那が困惑する。
「それはまあ、手ごわいでしょうねえ……ボスだもの」
「た、大変じゃないか⁉」
現が口を開く。
「……しかし、ボスを倒すか、もしくは沈静化させなければ、この夢世界というものから脱する方法は今のところない……」
「あ……」
「現ちゃんの言うとおりでしょう?」
幻が刹那に向かって微笑む。
「そ、それは確かにそうだけど……」
刹那が頷く。
「こんな広い大海原をあてもなくさまようよりは大分効率が良い話だわ」
幻がわざとらしく両手を大きく広げる。
「現状は“さまよう”というより“ただよう”って感じだけどな……」
「それはそうかもね……」
陽炎の言葉に幻が苦笑する。陽炎が幻に尋ねる。
「とにかくこのまま行けば、ボスに出くわすってことだな⁉」
「恐らくはその可能性が高いと思うわ」
「よっしゃ、そいつを懲らしめてこの夢世界からさっさと脱出だ!」
陽炎が拳を高々と突き上げる。
「ふふっ、なかなか勇ましいねえ……」
「!」
現たちが視線を向けると、海上に浮かぶ、小柄でスタイルの良い、緑髪のポニーテールが印象的な女性が悪戯っぽい笑みを浮かべている。現が尋ねる。
「……誰だ?」
「さしずめドリームとでも呼んでもらおうかねえ?」
「先の二人との関係性は?」
「……」
「答える気はないか……」
「アンタたちは知る必要はないわ。アタイらが欲しいのは厳島甘美だけだから……」
「なんだと?」
「喋り過ぎたね……ここらでアンタらはジエンドみたいだよ……」
「なに⁉ ……消えたか」
「はあ……思わせぶりなことを言う娘たちねえ~」
幻がため息交じりで呟く。
「ああ、しかし、どこかで見かけたことがあるような……むっ⁉」
船が大きく揺れる。陽炎が声を上げる。
「な、なんだ⁉」
「あ、あれを……」
刹那が指差す。その先には船に足を絡みつけようとする大きいタコの影があった。
「大ダコ⁉」
「どちらかといえばクラーケンというやつだろうな……」
現が陽炎の言葉を訂正する。
「海賊の次はクラーケンを登場させるとは……甘美ちゃんってば想像力豊かねえ~」
幻が優しく微笑む。現が苦笑する。
「夢見がちなお嬢様なんだよ……」
「リアリストよりは好感が持てるわ」
「そ、そんなことを言っている場合じゃないよ! このままだと絡まった足で船体が握りつぶされちゃう!」
刹那がクラーケンを指差しながら叫ぶ。
「~~~♪」
「⁉」
陽炎がギターを弾くと、クラーケンが茹でダコのようになり、霧消する。現が唖然とする。
「陽炎の情熱的なギターで海水の温度が上昇し、クラーケンが茹で上がったのか……」
「へへっ! テンションがブチ上がっていつもより良い音を出しちまったぜ!」
陽炎が鼻の頭をごしごしとこする。
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