第10話(2)雷鳴のドラム
「ふう~さっきは焦ったぜ……」
陽炎が汗と顔についた雨粒を拭う。
「しかし……」
現が顎に手を当てて考え込む。
「ん?」
「うむ……」
「んん?」
「そうか……」
「んんん?」
「うん、なるほどな……」
「いや、ひとりで納得すんなって!」
ひとりで頷く現に対し、陽炎が声を上げる。
「……え?」
「え?じゃねえのよ!」
「……考えがまとまったのならばアタシたちにも聞かせてくれるかしら?」
幻が尋ねる。
「いや、これまでの夢世界でも私たちは先に進んでいた……」
「ええ、そうね」
「しかし、正しくは……」
「え?」
「進んでいるものだと思わせられていた……」
「ふむ……」
幻が顎に手を添える。
「ど、どういうことだよ?」
陽炎が困惑する。現が刹那に視線を向ける。
「……刹那、説明してやってくれないか」
「ええ?」
「頼む」
現が頭を下げる。
「な、なんでボクが?」
刹那が戸惑う。
「いや、こういうのに一番詳しいだろうなと思って……」
現が頭をゆっくりと上げる。
「へ、偏見じゃないかな⁉」
「そんなことはない。極めて公平に見ているつもりだ」
現が真っすぐな瞳で刹那を見つめる。
「そ、そういう目で見られても……」
「セットゥーナ、夢世界に自信ありなんだな⁉」
「い、いや、自信なんてないよ……」
「頼む! 教えてくれ!」
陽炎が勢いよく頭を下げる。
「あ、頭を下げられても……」
「頼む!」
「ボ、ボクもはっきりとしたことは……」
「そこをなんとか!」
「な、なんとかって言われても……」
「さわりだけ、さわりだけでいいからお願い!」
陽炎が頭を下げたまま、両手を合わせ、頭の上に掲げる。
「な、なんか頼み方が嫌だな!」
「教えてくれよ!」
「と、とにかく顔を上げてよ……」
「ああ」
陽炎が頭を上げる。
「夢世界には影がいるでしょ? 色んな形をした……」
「いるな」
「こちらを確認すると攻撃してくる……」
「そうだな」
「要するにああいう影とランダムエンカウントするのか、シンボルエンカウントするものだと思っていたのだけど……どうやらこの夢世界の性質上というか、システム上、半強制的にエンカウントするようになっているらしい……」
「……はあ?」
陽炎がこれでもかとばかりに首を傾げる。
「まあ、分からないよね?」
「ああ、全然分からん!」
陽炎がまたも勢いよく頷く。
「はあ……だからボクに説明役は無理だって」
ため息をひとつついて、刹那は現たちを見る。
「いや……おかけで考えはわりとまとまったわ……」
「そ、そう?」
幻の言葉に刹那が困惑する。
「さながらシステムエンカウントと言ったところか……」
現が腕を組んで頷く。
「へえ、なかなか察しが良いじゃん……」
「!」
現たちが視線を向けると、その先の海上に浮かんでいる、ピンク色の髪でツインテールをした、豊満なバストが印象的な女性がいた。陽炎が声を上げる。
「ま、またかよ!」
「お前は誰だ……?」
現が問う。
「ぼくはハート……」
「……やはりそれ以上は教える気もないか?」
「そうだね、君たちにはそろそろご退場願いたい……うん、手を下す必要はなさそうだ……」
そう言い残して、ハートと名乗った女性は消える。
「む……」
「‼ あれは!」
刹那が指差すと、いつの間にか、大きな海賊船が現たちの船に隣接しようとしてきた。海賊船には剣や拳銃のようなものを構えた影たちがひしめいている。幻が目を細めて呟く。
「このままだと乗り込んでくるわね……」
「マ、マジかよ⁉」
「くっ……」
陽炎が叫ぶ横で現が顔をしかめる。
「うわっ⁉」
船が大きく揺れる。海賊船が船体をぶつけてきたためである。陽炎が動揺する。
「り、隣接された⁉」
刹那が声を上げる。
「マズいな……」
「ウットゥーツ! 海賊と遭遇したらどうなるんだ⁉」
「生憎遭遇したことがないから分からん!」
「そういうと思ったぜ!」
現の答えに陽炎がやけくそ気味に叫ぶ。刹那がさらに声を上げる。
「の、乗り込んでくるよ⁉」
「~~♪」
「⁉」
雷が落ち、その直撃を受けた海賊船が霧消する。陽炎たちが唖然とする。現が呟く。
「激しいドラミングで雷を落としたか……たしかに雷様がドラムや太鼓を叩いているというイメージは昔からなんとなくあるが……」
「嵐を呼ぶドラマーならぬ雷を呼ぶドラマーになっちゃったわ♪」
ドラムスティックを器用に回しながら、幻がウインクする。
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