第10話(1)静寂のベース
10
「ど、どうする⁉」
「決まっている、夢世界に入るぞ!」
陽炎の問いに現が答える。
「か、甘美が不在という状態で?」
刹那が戸惑う。
「……いや、今までのケースから考えてみれば、途中でその夢世界の当事者と合流するパターンは十分あり得るわ」
幻が冷静に呟く。
「そ、そうか……」
刹那が頷く。
「よし、行くぞ!」
現が鈴を鳴らし、四人が夢世界に入る。
「……こ、ここは……」
陽炎が周囲を見回す。
「海の夢世界ね……」
「一面見渡す限りの広い海だ……」
幻と刹那も周囲を確認する。
「な、なんか意外な感じだな……」
「そうか?」
陽炎の呟きに現が反応する。
「カンビアッソなら、もっと豪華な都会!って感じの夢世界でもおかしくはないだろう?」
「むしろこっちの方がしっくりくるな」
「そうかよ?」
「ああ」
「どういうところがだ?」
「大海原に乗り出す!というのが、いかにもあいつらしいじゃないか」
「そ、そう言われると……」
陽炎が腕を組む。
「乗り出すというか、今のところは漂っている感じだけどね……」
「っていうか、船に乗っている?」
幻が呟く横で、刹那が驚く。
「帆船か……誰か船の心得は?」
「……」
現の問いに三人が揃って首を振る。現が苦笑する。
「それも当然か……これは風任せでいくしかないのか……」
「だ、大丈夫なのかよ?」
「とはいえ、他に手はないだろう」
「ま、まあ、そうだけどよ……」
現の言葉に陽炎が頷く。
「……案外なんとかなるんじゃないの?」
「ど、どういうこと?」
刹那が幻に尋ねる。
「また同じような論理になるけど、先を進むとこれまでも何かが起こっていた……」
「何かが?」
刹那が首を傾げる。
「夢世界への侵入者を放っておくということはまずありえない……」
「そ、そう言われると確かに……」
「そういうシステムだということか……」
幻の言葉に刹那と現が頷く。
「大体正解だ……」
「!」
声のした方に目を向けると、茶髪のサイドテールが特徴的なスレンダーな体型の女性が海の上にふんわりと浮かんでいる。陽炎が驚く。
「う、海の上に浮かんでいやがる⁉」
「……何者だ?」
「我はフェーズ……」
「何?」
「それ以上は教える気はないし、貴様らが知る必要もない……」
「なんだと?」
現が眉をひそめる。
「甘美ちゃんの夢世界に我が物顔でいるってことは……悪いこと企んでいるわね?」
幻がフェースと名乗った女性を指差す。
「どう捉えても構わない……我々が欲しているのは、厳島甘美一人だけだ」
「欲している……?」
フェースの言葉に刹那が首を捻る。
「貴様らにはご退場願おう……」
「なんだやんのか⁉ ケンカなら買うぞ⁉」
「お、落ち着け!」
船から身を乗り出そうとする陽炎を現が慌てて止める。
「直接手を下すまでもないだろう……」
フェーズはそう言って姿を消す。
「き、消えた⁉」
「む……!」
現が上を見上げる。晴れていた空に大きな雨雲が現れたからである。
「ま、まさか……」
「悪い予感は当たるものよね……」
刹那の呟きに幻が反応する。
「‼」
それからすぐに大雨が降りつけ、強風によって海が荒れる。
「うおおっ⁉」
陽炎が大きく揺れる船上で叫ぶ。
「くっ! この雨嵐はやつの仕業か⁉」
「あるいは違うかも……!」
「なに⁉」
現が幻に視線を向ける。
「……あのサイドテールちゃんは直接手を下すまでもないとか言っていた。つまり……」
「夢世界側が侵入者を排除しようとしているということか⁉」
「あくまでも推測だけどね……」
現に対し、幻が頷く。
「そういうのは後でいい! 今はこの状況をどうするかだろうが!」
陽炎が叫ぶ。現が頷く。
「確かに、このままでは沈没だな……」
「沈むとどうなるのかしらね?」
「沈んだことがないから分からん」
「それもそうね」
現の答えに幻が苦笑を浮かべる。陽炎が再び叫ぶ。
「だから、そういうやりとりはいいから……!」
「こ、これだ!」
刹那がベースを構える。
「セットゥーナ⁉」
「~♪」
刹那がベースを弾く。すると吹きすさんでいた嵐がピタリと止む。
「あ、嵐が止んだ……?」
陽炎が困惑する。幻が淡々と呟く。
「刹那ちゃんの正確なリズムとペースがこの夢世界に落ち着きを取り戻したのかもね……」
「と、とりあえずはなんとかなったか……」
現がほっと胸をなでおろす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます