二十二話 トラウマの炎

 僕と姫様はとある道で止まった。


「……やっぱり家までは駄目ですか」


「あぁ。私の親に見つかってろくなこと無いと思うからな」


「……さようなら」


 下校中いつも姫様から手を離して一人になる時、僕は寂しい気持ちに襲われていた。


「椛、十分待っていろ」


 姫様は僕にそう指示して走り始めた。



 十分が経過した頃、僕の元に荷物が無い姫様に会った。


「はぁ……はぁ……いつもお前が後で帰るから……今日はお前の家までついていこう……」


「え!? 良いんですか!?」


「申し訳ないと思い始めてな」


「そんな……僕の勝手なのに……」


「ほら! 手を繋ぎたいのだろう!」


 姫様は右手を僕の目の前に差し出した。


「ありがとうございます!!」



 その後、僕と姫様は共に僕が住む大きな家の前まで歩いた。


「椛の家も立派だな」


「そんなこと無いですよ。姫様宅には負けます」


「これで今日はお別れだな」


 姫様は僕の頭を右手で撫でた。


「ありがとうございました」


 僕は姫様と離れて帰宅した。



 十分後、荷物を家に置いてきた僕は一人で歩いている姫様と合流した。


「も……椛……!? なぜ!?」


「え?」


「馬鹿なのか椛は!」


「え?」


「死ぬまで私と歩くつもりか!」


「姫様って無限帰宅部じゃないんですか?」


「わけの分からない単語を作るな!」


 姫様は僕の肩を押して僕を玄関の所まで移動させた。


「お前はまだ小学二年生だ。一人で行動し続けるのは危ない。お前なら理解出来ると思うが」


「……分かりました。姫様もお気を付けて」


 姫様が僕に背を向けた瞬間、僕は一歩踏み出した。


「椛、歩いたな」


「一歩踏み出しただけです」


「どうしたらお前は帰ってくれる」


 振り向いた姫様は僕にそう質問をした。


「恋人繋ぎしてくれたら大人しく家に入ります」


「な……なんだそれは」


「右手を出して下さい」


 僕と姫様は右手で恋人繋ぎをした。


「……これは何の儀式だ?」


「何の儀式でもありません! ありがとうございました!」


 僕は姫様にお礼を言って姫様から手を離してお辞儀し、家の中に入った。



 その日の夕方頃、姫様の両親が苛立った様子で僕が住む豪邸のイスに座って向かいのイスに座る僕と僕の両親と話し始めた。


「すみません……この子がまたお宅の娘様にちょっかいを……」


 母が姫様の両親に謝罪した。


「全くです! 姫はいずれダンジョン調査隊の隊長になるのに!」


 姫様の母の妃さんがイライラしてるな……


「あなたの息子のせいで北海道が滅びたらどうするの!?」


「あの……僕もダンジョン調査隊になろうと思うので駄目ですか?」


「駄目に決まっています! あなたみたいなイヤらしい男がいれば!」


「僕はイヤらしくないです」


「黙りなさい!」


 姫様の母は両手を東二にかざした。すると東二さんの両手が燃えた。


「火……!?」


「この家を燃やしましょう。北海道の為に」


 な……何を言ったんだ!? 


 僕も含め、周りにいる僕の両親や執事達が燃える東二さんの両手を見て騒然としていた。


「……英雄様! 止めて下さい!」


 僕の父が東二さんに呼びかけると、妃さんは首を横に振った。


「何を言っても無駄……私の記憶を操る魔法でこの家を北海道の為に燃やすべきと判断させたのよ」


 記憶を操る魔法だって……!? 


「バイバイ」


 姫様の母がそう言った瞬間、東二の両手から炎を噴射して辺りの壁や床に火を付けた。


「英雄様! 何をするんですか!」


 僕の父が姫様の父にそう言って駆け寄った瞬間、膝を床に着けて何も言わずに立ち尽くした。


「ゴミの父も同罪よ。そのまま立ち尽くして燃えなさい」


 妃はそう言うと僕の母に右手の掌を向けた。


「椛! 逃げて!」


 母は感情も無くなったかの様な顔付きになり、父と同様に膝立ちした。


「止めろ! いくら英雄と言われてたあんたらでも犯罪を犯して良いわけないだろ!」


「私と東二は北海道の英雄だから何をしても捕まらない。捕まれば北海道は滅びるから。私達はそう言う人間なの」


「……みんな! 逃げましょう!」


 そう言ったのは召使いの一人で、その人は僕を抱っこした。


「え!? お父さんとお母さんは見捨てるんですか!?」


「坊ちゃま! こっちです!」


 僕を抱っこした人とは違う別の召使いがそう言った時、僕を抱っこしていた召使いが倒れた。召使いは僕から手を離した。


「痛たっ……」


 僕は倒れている召使いの顔を見ると、感情が無くなっているようだった。


「逃さない」


 遠くから僕に向かって追いかける姫様の両親。


「ここは私達が足止めします! 坊っちゃんは逃げて下さい!!」


 召使いの一人にそう言われた僕は怖さで両親や召使いを見捨てて逃げてしまった。



 それから一日後、目覚めた僕は病院のベッドにいた。後から聞いた話では僕が住む豪邸は全焼していて、両親と数十人の召使いが亡くなっていたということだった。


 僕は病院の方に姫様の両親のことを聞いたが、捕まったとは聞かなかった。恐らく犯人は分かっているが逮捕は出来なかったのだろう。



 数日後に一度、仲の良かった真と文太がお見舞いに来たが二人の親が僕を睨んでいたことを覚えている。理由は恐らく今後事件に巻き込まれる可能性があるからだろう。



 さらに数日後に育ての親になる予定の二人に会った。その二人が現在の僕の両親に当たる人だ。


 育ての親になる予定の二人から北海道から離れる話を持ちかけられたが、その頃の僕は北海道を離れることをとても嫌がった。なぜなら大好きな姫様がいるからであった。自分を殺そうとした犯人もいるのに。



 そして僕が巨人のボスを倒した日から翌朝、僕は自宅のベッドで目を覚ました。


「椛!?」


 部屋には育ての親二人がいた。


「椛また勝手にダンジョンに行ったのか! 配信観たぞ!」


 ……両親に配信のことがバレていたか。


「あぁ……ごめんなさい」


「とにかく今後一切ダンジョンに入るな! 分かったな!」


 育ての父は僕にそう言うと僕の部屋を出た。


「あ……お母さん……配信見てた?」


「えぇ……」


「知ってたの?」


「実はね……全部知ってたの。姫から聞いてたから……」


「姫様から!? 」


「えぇ……椛が小学二年生の時から私は姫と連絡を取り合っていたの」


「え〜……姫様と連絡取っていたから言って欲しかった……」


「姫がどうしても椛に言うなって……」


「そういえば……僕って巨人のボスを倒した後の僕って観た……?」


「えぇ……酷く泣き叫んでいたわ……」


 ……恐らく僕はトラウマが蘇ったことで泣いてしまったのだろう。


「お母さん。僕が生みの親の仇を討ちたいって」


「え!? 殺したいの!?」


「いや……殺したいほど憎んでいるけど、殺さずに罪を世間に知らしめたいと言う思いはある」


「気持ちは分かるけど……」


「手はある。今は姫様の両親は引退しているから警察に訴えれば捕まえに行くはず……」


「椛……考えても見て。もし警察に訴えて捕まえられるなら姫が訴えてとっくに捕まってる筈よ」


「確かに……いくら英雄で罪が許されていたとしても引退したら即捕まる筈だし……他の可能性があるとすれば……警察でも捕まえられない程物凄く強いってことか……」


「とにかく今後絶対にダンジョンに行かないでちょうだい」


 両親二人共に怒られたな……何がいけないんだ理不尽に焼き殺された生みの親の仇を討つ為に強くなることが……! 


「お母さん。事情を知っているのに何故僕を北海道に留まらせたの? チャンスをくれたからじゃないの!?」


「それは……」


「小二の時も僕がよく長い間出かけていたけどダンジョンに行っていたこと知ってたんじゃないの!?」


「それは……知らなかったから……」


「知らなかった……それは全然あり得るけど……」


「私は母として椛が死んで欲しくない! それは父も同じだから……」


 母が泣きながら僕にそう訴えた。父に怒られて母には泣かれて最悪だな僕……


「分かったよ……じゃあこうしよう。お父さんとお母さんが納得したら僕は仇を打ちに行くってことにするから」


 そうだ……焦る必要は無いんだ……僕の家を焼いたんだぞ……絶対いつかどうにかして捕まえてくれる筈だ……

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ダンジョン配信中に記憶が無くなりました みかづき椛 @tanshio0721

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