十七話 小学六年生の姫様
「まじですか……」
「やはり私達はここで……」
「姫様! 生きましょう!」
「無理だ……たった二人で……」
「僕も全力で挑むので!」
僕は姫様が腰に差してある剣を一本取った。
「あ……姫様は一刀流なのになんで二本持っていたんですか?」
「万が一の為にお前用に持っていた剣だ……抜いてみろ」
僕は手にした剣を抜くと刃が金色だった。
「この剣……まさか金色の鳥だった……」
「その剣を持ち帰った後、一度剣から鳥になって暴れた」
「え? この剣一回鳥に戻ったんですか?」
「そうだ。誰にも懐かないから封印していたのだ」
「懐いていた僕になら使いこなせるかもしれないってことか……」
「金色の鳥に乗って脱出する作戦をしようにも道が分からなくなる仕掛けがあるから……やはり無理だな……」
「何言ってるんですか! 僕と姫様のツートップならいけますよ!」
「実績が無いだろ!」
「だったら二人でダンジョンをクリアしたら抱き締める約束しても良いですか? そうしたら僕は覚醒して超強くなるので!」
「恋愛はしないと言えど痴漢はお断りだぞ」
「痴漢て!」
ちょっと待て……そもそもこうなったのは僕のせいだよな……
「すみません姫様……僕がふざけてる場合じゃないですよね。真面目にじゃあ……配信して良いですか? 攻略の糸口になる良い情報がコメントで来るかもしれないですし」
僕はポケットからスマホを取り出して電源を入れようとしたがスマホの画面は真っ暗から変化が無かった。
「あれ……!? 電源つかなくなってる!?」
もしかして姫様の水に濡れた時……?
「す……すまない! 恐らく私のせいだ」
「ちょ! 姫様が謝るとか一番無いので止めて下さい……!」
配信出来ないし姫様はやる気が無い……こうなったら話すしか無いか。
「姫様……じゃあお話をしましょう」
「……内容は?」
「姫様って記憶失う前の僕に会ったことありますよね? 僕の予想では裁ちバサミカッターとイスのローラーは幼馴染で、姫様とは一年だけ同じ小学生にいた感じがします」
「……何故そう思った」
「なんか三人共僕のことを気にかけ過ぎている印象があるからです」
「適当だな……」
「特に姫様は別格です! 姫様は僕のことが大好きってぐらい気に掛けている気がします!」
「はぁ……まぁ良い。どうせ死ぬから途中まで話してやる」
「途中まで……?」
「最後の方は墓まで持って行きたい」
最後の方……?
「私が小学六年生の頃、同じ小学校に通っていた小学一年生のお前と出会った」
「もしかして……僕めっちゃ姫様にラブレター贈ったりプロポーズしたり……」
「……かなりされた」
「あ……すみません……」
「だが……私は嫌な感じがしなかった。両親の怖い顔のせいで友達が出来なかったからな」
両親の怖い顔……? 姫様は絶対人気者になれると思うのに……
「クラス全員……恐らく担任も私の両親にビビっていたのだろうな……」
どんだけ圧飛ばしてたんだ姫様の両親は……
「ある日、階段を降りると二人の男の子にいじめられている男の子がいた。私はいじめられていると思ってその男の子を助けた」
いじめられていると思って……?
「実はそのいじめられていたと思われる男の子は二人に一万円ずつ渡し、私の前でいじめる演技をするように指示したらしい」
「一万円ずつ渡していじめるよう指示!? 小一が!?」
「その男の子は私が正義感が強いから絶対に自分を助けに来てくれるだろうと……」
「なんじゃその男の子……あっまさか」
「そんなことをしたのはお前だ椛」
「僕!? いや〜記憶にございませんね〜……」
もしかして……そのいじめる演技をしたのが裁ちバサミカッターとイスのローラー……!?
「私も演技を依頼された二人からそのことを聞いた時は驚いたが、私は小学一年生なのに賢いなと感銘を受けた」
そんなんで感銘受けられると恥ずかしいな……
「……父はそんなお前に対してギフテッドだと言っていたな」
「えぇ……ギフテッドと言うか……ただのイヤらしい男の子ですねそいつ……」
「二人の男の子から詳しく聞いた後、私からお前に話しかけたりしたな」
「その時から既に両想いになったんですね!」
「いや……両想いと言うか……興味を持っただけだ」
まぁ……その時はさすがに興味持っただけか。
「それからお前と私は学校で良く話すようになっていったな」
うわー……マジで記憶取り戻したい……姫様との思い出を思い出してぇ〜……
「おい! よだれ出ているぞ!」
姫様にそう言われた僕は自分が少量のよだれを垂らしていることに気が付いた。
「あ……すみません!」
僕はよだれを服の袖で拭き取った。
「あ……あの……小一の時から僕はこんな変態でしたか?」
「いや……大人しかったしお前の両親は厳しいと聞いた……」
「そ……そうなんですか……」
「……これで話は終わりだ」
「え!? 続きは!?」
話の続き……僕も姫様もショックを受ける出来事があったのだろう……その出来事は僕の引っ越し……? いや……それだけじゃ弱い気がする。
「ところで椛、先程ダンジョンをクリアしたら抱き締めて欲しいと……」
「まぁはい……」
僕は応答した瞬間、姫様は僕を抱き締めた。
「もう良いんだもう……我慢しなくて……他人のフリをするなんて……」
「姫様我慢してたんですか……!?」
「お前が度々会いに来るせいで私は……自身の心がどんどんおかしくなっていくのを感じていた……」
「それって恋と言う名の魔法じゃないですか?」
「う……うるさい馬鹿者……」
うるさいと言いながら全然離れない姫様…………だがこんな悲しんでいる姫様に抱きしめられても喜べないし抱き締め返せない。
「姫様……クリアしてからって言いましたよね」
僕は姫様と少し距離を取った。
「やっぱり二人でクリアするんです! とにかく歩きましょう!」
僕は自身の右手で姫様の左手を握って歩き出そうとした。
「うぐぐ……」
姫様を引っ張ろうとしたいのに……進まない……
「ふっ……全然鍛えていないな」
「姫様……綱引き止めてぇ……」
「思い出すな……小学生のお前と手を繋いでいたことを……」
僕は姫様を無理矢理歩かせるのを諦めて手を離した。
「ハァ……ハァ……」
「全く鍛えていなかったのだな」
「姫様……! 腕を見せて下さい! どんな筋力しているんですか!」
「お前が弱いだけだ」
「じゃ……じゃあ最低でもどれくらい鍛えたら良いか教えて下さい!」
「最低でも剣の素振りを連続で百回だな」
「……素振り百回より姫様だけにお姫様抱っこしながら一分全力ダッシュで合格はどうですか?」
「お姫様抱っこ……? なんだそれは?」
「お姫様抱っこ知らないんですか!?」
「あ……あぁ……」
僕は姫様の隙を突くようにお姫様抱っこした。
「な……何をする!?」
「姫様が全くやる気が出ないから僕もダンジョン攻略を諦めましたよ! お姫様抱っこでも何でもやりたいことしてやる! ギャーハッハッハ!!」
「ど……どうした!?」
僕は姫様をお姫様抱っこしながら全力ダッシュし始めた。
「おりゃーー!!」
なんか姫様が僕に何か叫んでいるような気がするけどもう知らない!
*
一分後、疲れた僕は姫様を床に降ろして倒れた。姫様は立って僕を見下ろし始めた。
「ハァ……ハァ……」
「思ったより走れたな椛……」
「ハァ……ハァ……えぇ……?」
「お前の覚醒を計算に入れればもしかすると……このダンジョンをクリア出来るかもしれないな……」
「つまり……ハァ……やる気が出たんですか!?」
「一応勇気付けられた」
お姫様抱っこで勇気付けられたのか……結果オーライ?
「今の……楽しかったからダンジョンクリアしたらまたやってくれ」
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