十八話 姫様とチュー

「……はい! 是非!」


「頼むぞ椛」


「じゃあ進みますか!」


「椛、配信をしたいならこれを使え」


 姫様は着ている探検服のポケットからスマホを取り出した。


「え……良いんですか?」


「アプリは入れてある」


 姫様はブラック林道と言う名のアカウントで僕を見てたんだよな……


「もしかしたら記憶を失う前の僕って……ブラック林道のことが姫様って気付いていたのかもしれませんね……」


「気付いていた?」


「分かんないですけど狙いは姫様と会う為だとか……」


「確かに私はお前と会ってしまったな……」


「そして予期せぬ記憶を失う出来事があった……」


 僕は服のポケットから自撮り棒を出して伸ばして姫様のスマホをセットした。


 えっと……アカウントを僕が使っているタンしおに変えて……


「まだ幸運にもタンしおのアカウントは消されていませんね……」


「お前のアカウントはかなり有名になってるらしいな」


「いやぁ〜そうですよね〜。有名になったら恋愛し辛いですよね〜」


「いいから配信をスタートさせろ」


 僕は配信をスタートさせるとあっという間に視聴者が殺到した。


 裁ちバサミカッター

 来た


 イスのローラー

 始まったね


 裁ちバサミカッターとイスのローラーの反応が早いな……コメントする余裕があるから二人はダンジョンに来てないな……そこは安心した。


 √√λ∂∞{⁇χ

 おっ! 


 ·“η∞”≈

 生きてた


 7”≥∠”∈⊗‾

 出た犯罪者


「今回も絶対に生き残るんで! あの金色の鳥になっていた剣を持ってるから!」


 ∀Α"⊇⊇λ{↙

 前回の金鳥のか? 


「剣から金鳥と入れ替われる機能あるから絶対行けるでしょ!」


 ⁇Ο∠⊗:∞≧∫

 メンバーは何人いるの? 


「今日の仲間は一人しかいないけど……北海道のダンジョン調査隊の隊長を務める姫様の双子の姉だ!」


 僕はスマホで姫様の顔を見せた。どうせ隠し通すのは無理だから最初から見せるのは吉だ。


 ∧√”∣⊄№

 おぉ! 美しい!! 


 ≈“Ωμ∏ω∏¿

 姫様に双子の姉っていたっけ!? 


 ∑:⊄Ο⑸$∧≥≥

 とりあえず羨ましい! 


 -∈↘∂©⊇-⊇(

 タンしおだけタヒね!! 


「うるさい!!」


 ∏∑‾∞⊆∞∃

 姫様の双子の姉と付き合ってんの!? 


 ∷⊆≧Ω

 どうしてこうなった


「それはカクカクシカジカだね」



 数分間僕は姫様の双子の姉の作り話をした後、僕と姫様はダンジョン内を進み始めた。


「さっき巨人見たから……ここは巨人のダンジョンかもしれない……」


 Ρ-μΟ:{¿χ∈∫

 巨人がいるダンジョン!? 


 ↴⊇∧7⊆∀∧

 大丈夫なのか? 


「さっき会った巨人は姫……様の妹が瞬殺したんですよ」


 ;$©∠©⊗;©

 凄いな


 χ©∑Α∏

 姫様の姉じゃなくて? 


「え……あ……間違えた……」


 姉がブラック林道で妹が隊長……設定ちゃんと覚えとかないと……! 


「はぁ……自己紹介が遅れたな……私の名前はひなだ」


 あ……普通にブラック林道がお気に召していなかった……


 √↙∫⁇∈‾∈‾∈

 何か部屋があるよ! 


「部屋!?」


 僕は前をよく見ると、狭い道から広い空間があることを確認した。


「前に行ってみましょう! 雛さん!」


「気を引き締めろ」


「はい!」


 僕と姫様は広い空間に出た。そこはまた一人暮らし感がある部屋だった。


「また部屋……? ここは地下マンションなのか……?」


「タンしお!! 前に出ろ!!」


「え?」


 僕は姫様の言葉で前に走ると後ろの天井が降りて壁になり、道が塞がれた。


「危な!」


 Ρ“⊆Α≥"

 危なかった


 “∑∠Ω∀∀$$

 閉じ込められたってことはボスが出るな


「ようこそ〜」


 部屋全体に女子の声が響いた。


「誰だ! どこにいる!?」


「ここの部屋にはいないな……声だけがする……」


「お前も巨人なのか!?」


「そうだけど?」


「出て来い! 私が相手になるぞ!」


「私はねぇ〜。あんたが見張りを一瞬でやったのを見たんだよ」


「見たからなんだ。怖気ついたか」


「あの! 誰か知らないけどさっさと現れてやられてくれないですか?」


「雑魚んちょは一回黙っててー」


 雑魚んちょって!? 


 ∈≮∷⊇ηη⊇%

 雑魚んちょw


 ¿{{⊄⑸∞((

 この声の主の言いたいことはなんとなく分かる


 恐らく……僕だけと戦いたいのだろう……


「今から雑魚んちょだけ壁に当たるまで真っ直ぐ歩きなさい。私は壁を開けるからさらに先へ進んでちょうだい。もちろん一人でね」


 雑魚んちょって……やっぱ僕のことか。


「断る。こいつを単独行動させるのは危険だ」


「へぇ〜。じゃあ一生この部屋にいたら良いじゃない?」


 ¿∧! ↘∃‾∨∑∨

 閉じ込める気か


 ∂φ↙φ∪φ↴(μχ

 どうしても一人ずつやりたいようだね


「……破るか」


「え……?」


 姫様は物凄い勢いの水を両手から放って遠くの壁にぶつけ、道を出現させた。


「ちょ……!! なんて魔法を使えるの……!!」


 ∂:∨№! η≮

 すご


 ∫ΟΡ‥‥↴Α

 凄すぎる


 ⊄∈≥↘“φ∷””

 水ってことは姫様と同じ!? 


「さぁ行くぞタンしお」


「ちょ……ちょっと待ったーー!!」


 天井がパカって開いて上からおっぱいがでかい巨人が出て来た。


 №∑--χ-{"{{

 上にいたんだ


 Ο≥$"Ζ∂¿№

 やっとお出ましか


「このまま素通りしたらボスに怒られるんだよ! しょうがないから私直々に相手してあげる!」


「タンしお、お前は下がっていろ」


「えぇ〜!? いいの〜!? あんたまた守られてさぁ〜! それでも男!? あたしとサシで勝負しなさいよ! 弱虫! 弱虫!」


 ∨‾$$$∏

 超あからさまな挑発すぎる……


 Ω∑·‥∈∀∀

 逆に乗り辛いだろ


 “! Ρ‾∂7⊆∧∧

 そうだそうだ弱虫! 


「なんでコメントがあっちの味方なんだ……」


「こいつは私が弱らせるからタンしお、お前がトドメを刺せ」


「……やっぱりどうしても二対一でなりたいようね。それならこれでどう!?」


 巨人は両手の掌を上に向けて一直線に挙げた。


「全身に強い魔力……! 何をする気だ……!?」


「これで強制的にサシになれたよー!」


 ⊗↴√⑸⊇∏↴$:

 はぁ? なんにも状況は変わってないけど


「フッフッフ……私は完全防水の魔法を覚えたのよーー!! オーホッホッホー!!」


 姫様は物凄い勢いの水の噴射を巨人にぶつけたが、水を弾いた。


 ≮”ΩμΩ↙∨(≥©↘©(

 ほんとに完全防水の魔法を覚えた! 


「うふ。こう見えても私はありまくりの才能で人間を何十人も殺してるから。もちろん魔法を使えた者もね」


「まずいな……もしかするとこいつが王将さんを倒したかもしれない……どうする……」


「……雛さん!」


「どうした。まさか一人で戦いたいと言うつもりではあるまいな」


「そのまさかです」


「止めとけお前は……お前は弱いんだ……」


 姫様……そんなに僕のこと心配なんですか……


「ねぇ! この程度の敵を一人で倒せない様な弱虫が! ここのダンジョンで生き残れる筈が無いんだよ!」


 ! ↴∧∧∣χχ

 巨人の女うるさい


 ≡"↘↘∋Ο↙ΟΟ

 音量下げて


 Ρ! ΑΑχ∪;

 雛様一旦タンしおとサシでやらせましょう


 ⁇⁇⁇№⊗≡Ζ≡·Ψ

 ムカつくからサシでやれーー!! 


 Ω≥Ω¿∷∃¿

 1対1だーー!! 


「ふふぅーーん! 分かっちゃいました! あんたこの弱虫ヤローのことが好きなんでしょ!?」


「好きと言うか……心配なだけだ」


「だったらさぁ! チューしなよ! チューしたらあたしも許して素通りさせてあげる!」


 姫様とチュー!? 


 ©№∞%∋№

 なに提案してんだ! 


「ならばタンしお……目を瞑っていろ」


「や……やややる気ですか……?」


 まぁしないと思うけど期待して目を瞑るか。


 僕が両の目を瞑って刹那だった。姫様は僕から自撮り棒を取り上げた後、僕の上唇に一回くちづけした。


 くちづけをした!? 


 ∧⊄¿↙↙‾∨”$”∧

 うわーーーーー


 μ№“Α“-√©Α√∈μ©≮

 えええええあえええ


 ≥∋∋∷∞∞⑸;↘

 したーー!! 


 うわーーーー!! 


 僕は思わず姫様の体を両手で押し飛ばしてしまった……


「チューしちゃった……」


 姫様が……照れと真顔の間を取った様な顔してる……


「あーーハッハッハッ!!」


 巨人が急に笑い出した……


「バァカ! バァカ! ほんとにバァカ女ね!! チューしたら通すなんて嘘に決まってるでしょ! ただの冗談だって気付くでしょ普通なら!」


 ΡΡ"∪ΟχΡ⊗

 ムカつくな〜


「さっき素通りさせたらボスに怒られるって言ったでしょ!!」


 ‥⊆⁉∃φ⁉

 もっともなこと言ってる風なのがムカつく


 !‾≧∏≧∥∥

 いやもっともだよ


 ∨∋Α⁉Α⊇Αφ∥

 チューでダンジョンクリア出来るならこの世のダンジョン無くなってるわw


 ∧∋∈∧∑⊄⊄∑

 タンしおも黙ってないでなんか言え


「……デカ女!」


「なにぃ〜! 弱虫ちゃーーん!」


 マジで……マジでキレてるからな。


「お前がバカ女だよっっ!!」


 僕は怒りにまかせて剣を抜くと、その勢いで刃先から金色に燃える斬撃が飛び出た。


 ∨∂∂↴⊇Ο⁇≥μ∂

 なんか出た


 金色の斬撃は高速で飛び、巨人の体を縦に真っ二つにして全身を焼滅させた。


 ᕙ⁠(⁠☉⁠ਊ⁠☉⁠)⁠ᕗ

 決着早っ!

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