十五話 兄弟の有無

「それじゃあ姫様が話したいことを教えて下さい」


「そのことだが話したいことはお前が決めて良い。ただし一つな」


「どう言うことですか?」


「なんでも一つ話す代わりにお前はダンジョンに行かないで欲しい」


「なんでも一つですって!?」


「さぁ……質問内容を決めてくれ」


「……話さないで僕にダンジョンに行くチャンスは」


「私と話すチャンスは要らないのか」


「いや……僕は姫様が率いるダンジョン調査隊に入りたいんです。ダンジョンに行かなかったら……」


「あのな……ダンジョンに行かなくても数ヶ月頑張れば調査隊に入れるぞ」


「でも早くしないと姫様が他の調査隊の男と恋愛関係にぃ……」


「そうか……それでお前はダンジョンに入ろうとするのか……」


「実はそれめっちゃ本質です」


「はいはい分かったから。お前が私のダンジョン調査隊に入るまで誰とも恋愛関係にならないと約束しよう」


「ちょ……そこまでしてくれるんですか!?」


「私は今まで恋愛したことがなくてな。私にとって恋愛しないは軽い約束なんだ」


「分かりました……そう言うことなら家で大人しくしときます」


「はぁ……本当に世話のかかる奴だ」


「すみません……悪いと思ってるのでなんでも一つ質問に答えることはしなくて良いです」


「そうか……だがせっかく来たんだ。答えてやる」


「いいんですか?」


 一つ……ここで小学生から好きな人はいますかと聞き、仮にいないと答えたとしてもじゃああの写真立てはなんなんだってなるから……


「えっと……迷いますね……」


 ここで迷ったフリして温かい茶を飲む姫様を見てるってのもあるけどそれはただの放置プレイだし……


「ってかマジ話題何にしましょう……」


「私が茶を飲み干すまでに決めろ」


「はい……」


 正直……写真立てのことが気になるし小学生の時から好きな人はいますかって聞きたいけど……それ聞いて仮にいるってなったらじゃあ誰? ってなるし……


 姫様と一緒に写っている男の子が僕は無いか……仮にそうだとしたら両想いになるんだから僕に明かさない筈が無い。


「結構悩んでいるな。お前の悩み顔を眺めてるのも悪くない」


「いや……そりゃあ悩みますよ……」


 落ち着け僕……仮にあの写真立てに写ってる男が弟とかじゃなかったらヤバいよな。よし、これにしよう。


「ひ……姫様……決まりました……」


「そうか。質問してみろ」


 この質問で良いんだ……実質姫様は二つ答えてくれる様なもんだし……


「姫様は……兄弟とかっています?」


「ん……? 思っていたのと違うな。そんなので良いのか?」


「僕にとって姫様が自分の部屋に来ただけでも幸せなんです。なのでブラのサイズなどは聞きません」


「……よく堪えたな」


「そうでしょ?」


「兄弟の存在はない。私は一人っ子だ」


「なるほど……」


「なぜ私に兄弟いるか確かめたいんだ?」


「それは……兄弟がいたらその人と友達になろうかなあと……なんて」


「それは残念だったな」


「ちなみに僕も一人っ子らしいです」


「それはどうでもいい」


「すみません……」


 僕は謝ると姫様が立ち上がった。


「もう帰られるんですか?」


「用はもう済んだからな」


 そして……姫様は僕の部屋を出て、僕の母に挨拶をして外に出た。


「姫様が僕の部屋に来るって超ヤバいことが起きたぁぁー……」


 うわー! 鼻から息吸えば姫様の香りーー!! 


「って……興奮してる場合じゃなかった」


「椛?」


 お母さんが僕の名を呼んで僕の部屋に入って来た。


「なに?」


「姫さんが飲んだコップちょうだい」


「はい」


 僕は机にあるコップを母に渡した。洗うのもったいないとか一瞬よぎったけどそれは普通に良くないな……


「記憶無いのにあの姫さんを家に呼ぶなんてやるじゃん!」


「確かに……」


 母は部屋を出で扉を閉めた。


「偉業だよな……マジでこのイスに座ってたんだよな……」


 イスを眺めていると僕はとあるチャンスが存在してたことに気付いた。


「あ! 間接キスのチャンス!」


 大慌てで僕は部屋を出て台所に来ると、母が姫様が口付けたコップを泡ついてるスポンジで洗っていた。


「遅かった……もうスポンジになっちゃった……」


 間接キスのチャンスを逃した僕はトボトボ部屋に戻った。


「気を取り直して……姫様の謎を考えよう……」


 はぁ……まず姫様は恋愛に興味無いって言ってたが……じゃあなんで男の子といる写真を取っておくんだ……


「姫様の一回も恋愛してないってのは本当っぽい……知らんけど」


 数十分後、僕はとあることについてスマホで調べ始めた。


「えっと……人から継続する魔法の効果を受けてしまった場合、解除するには魔法を発動させた本人からか、ダンジョンでゲット出来る解除の杖で解除させなければならない……」


 うわーー!! やらかしたーー!! 今まで僕に記憶喪失をかけた人を見つければ記憶が戻ると思っていたが、普通に解除の杖って物があったんだーー!! 


「はぁ……はぁ……」


 僕は馬鹿だぁ……最初から魔法を解除する方法のことを調べれば良かったのに……そうすれば姫様に頼んで……


「……あれ?」


 調べなかった僕も悪いんだけど、なんで姫様はその解除の杖のことを一度も僕に話さなかったんだ……? 知らなかったわけでも無いと思うし……


「う〜ん……もう姫様帰っちゃったし明日ダメもとで聞いてみるか」


 解除の杖を使って僕の記憶を戻そうと提案しないのは……単に興味無いから? いや……興味無くても一回は解除の杖のことを話すか……


 まさか姫様には僕が記憶を取り戻してほしくない理由があるってこと……? 理由があるってことは……どういうことなんだ? 


「色々気になるな……」



 次の日の朝、色々考え終わった僕はダンジョン調査隊の本部に来て姫様がいる部屋に入った。部屋にあるイスに姫様が座っていた。


「姫様おはようございます!」


「お前とはしばらく会わないだろうと思っていたが……何故私に会いに来た?」


「あの……実はネットで調べたら解除の杖って物が出まして……」


「そうか」


「僕は誰かに記憶喪失にされたから解除の杖を見つけて僕に届けて欲しいのですが……」


「なんだそんなことか……解除の杖なら探してやる」


「本当ですか! ありがとうございます!」


「これからダンジョンに行かなければならないんだ。お前はもう帰れ」


「すみません! もう帰りまーす!」


 僕は姫様がいる部屋を出た。


「……行くか」


 僕は裁ちバサミカッターとイスのローラーに向けてダンジョンに行くとメールを送った。



 僕はとある洞窟の入口の前……ダンジョンの入口の前に立っている。


「絶対来るはず……」


 僕は一時間前に裁ちバサミカッターとイスのローラーにダンジョンの場所だけ伝えていた。僕の予想が合っていれば二人のどっちかが高級な車にでも乗って来るだろう……


 数分後、見た感じ高級そうな車が僕の前に停まった。運転席にはイスのローラーが乗っていた。


「来たか……」


「椛!! お前なんでダンジョンに来たんだ!?」


 助手席の扉が開いてすぐに裁ちバサミカッターが僕に話しかけてきた。


「僕は別にダンジョンに入ろうと思って無いんだ」


「はぁ? じゃあなんでこんな所に来たんだ」


「……僕は車に興味無いけどなんか高級そうだな」


「高級だったらどうなんだよ」


「椛……何か話があるの?」


「裁ちバサミカッターとイスのローラーは姫様と同じ金持ちの家に生まれたんだな?」


「おい椛! 運転してるイスのローラーはともかくなんで俺まで……」


「否定したいなら今から二人の家に連れてけよ」


「な……なんだと!?」


「別に嫌なら案内しなくて良い。僕の今の目的は話すことだからな。

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