十四話 おうちデート?

 僕は母がいる部屋に入った。


「椛! 起きたの!?」


「お母さん、僕ってどうなったの?」


「どうなったって……途中で倒れたらしいわよ。体調が悪いって執事が家に送ってくれて」


「倒れたって……確かに後ろから叩かれた様な気がするけど……」


「え? それって大丈夫なの!?」


「まぁ……大丈夫じゃない?」


 後ろには執事しかいなかった様な気がするけど、その執事が僕を気絶させて家に送り返したってどういうことだ……? 


「お母さん、僕を家に連れて帰った執事は行きの時の執事と同じ?」


「えぇ……顔が同じだったわねぇ……」


「分かった。ありがとうお母さん。僕は元気だから」


 僕は部屋から出ようとドアノブに手をかけた。


「死なないでね椛」


「もちろん!」


 僕は笑顔で母にそう返事した。死なないでねって……僕が何をしているかお見通しなんだろうな……


 僕は部屋に戻りイスに座った。


「さぁこれからどうする」


 もう一回姫様の家に行こうにも場所が分かんないし……


 いや……いっちょ姫様に直接聞いてみるってのもある? 今回は僕呼ばれた側だし姫様が答えてくれるだろう……よし! 会いに行こう! 



 僕は母から車で出かける許可をもらい、車を運転して姫様が率いるダンジョン調査隊の本部に来た。今僕の目の前に姫様がいる。僕と姫様は部屋に二人っきり。


「お前……今日は何の用だ」


「姫様……僕呼ばれたんですけど。姫様のお父様に」


「父がお前を!?」


 姫様が驚いている……? もしかして知らなかった? 


「それは本当なのか!?」


「はい……」


 なんかすげー深刻な出来事があったってお顔をしている……


「なぜなんだ……」


「なぜって……僕の配信を観て見込みがあると思ったんじゃないですか?」


「お前は……私の家に来たのか」


「はい。執事に連れられて。でも途中で気を失って家に帰らされたんですよ」


「そうか……父と話せなくて残念だったな」


「残念なので姫様! もう一度僕を家に招待して下さい!」


「落ち着け。とにかく私は執事と連絡をしてみる」


「執事? 父じゃなくて?」


「父とは連絡したくない」


 えっ! 反抗期……? 意外だ……反抗期だったらだったで可愛げを感じてしまう。



 数分後、姫様はスマホを見て何かを確認した。


「執事に確認したがお前が父に呼ばれたのは本当だったな」


「ね? だから家の場所を教えて下さい!」


「分かった……迷ったらいけないから私が休みの日に案内してやろう」


「ひっ……姫様が直々に!? それっておうちデート!?」


「話を変な方向に持っていくな」


「すみません! どうしても考えました!」


「はいはい……とにかくお前を介抱して家に返した優しい執事と違って私は倒れたら叩き起こすからな」


「えぇ!? それはありがたいです!」


「ありがたいだと?」


「もし僕が倒れたら尻を叩いて下さい! 尻じゃないと起きないんで!」


「はいはい。次の日曜日にお前の家に行くから、それまで大人しくしておくんだぞ」


「分かりました!」



 そして日曜日の朝、僕が住む家のインターホンが鳴った。


「姫様!? 今行きます!」


 僕は部屋からダッシュで玄関に向かい、扉を優しくそっと開けた。


「お前か。早速行くぞ」


 玄関にコートを着た姫様がいた。めっちゃドキドキする……


「わ……分かりました……」


 僕は家を出て、家の前に停めてある車の助手席に座った。姫様は運転席に座った。


「寒くはないのか? 何も上に着なくて」


「姫様に優しくされるだけで温まりますよ!」


「それだけのことで温まるのかお前は……」


「それは僕が姫様のことが大好きってことですよ!」


「意味が分からん……」


 逆に姫様は僕を見て暖まることは無いよな……もう五月中旬だけど寒いのかな……


「ちなみにだがお前の両親は私のことを何か話したか?」


「え……? 特に何も……」


「そうか」


 もしかして姫様が僕の両親からの好感度を気にしてる!? 立場が逆なら分かるが……もしかして両想いの可能性があるのかーー!? うおーー!! 



 しばらくの時が経ち、僕は再び姫様宅に着いて姫様と一緒に玄関の前まで来た。


「この間、私の家に来た時は父がいる部屋とは別の部屋で待っていたらしいが今日は待たずに行く。覚悟はいいな」


「はい!」


 僕と姫様は家の中に入りすぐに姫様のお父様がいる部屋に入った。部屋には机の前にあるイスに座って僕らの方を見ている姫様のお父様……法灯村東二さんがいた。


「父さん。あなたが呼んだこの男を連れて来ました」


「姫、お前は下がれ」


「分かりました」


 姫様は返事して部屋を出た。あぁ……姫様がいなくなった瞬間から一気に緊張感が……


「お前」


「はっ……はい!」


 姫様のお父様からの『お前』に僕はめっちゃビビってる感で返事をしてしまった。


「名は」


「名は……天照椛てんしょうもみじと言います!」


「何て書くんだ」


「天を照らすで、名前のもみじは木へんに花です!」


「分かった」


「あの……」


「お前、これ以上姫と関わるな。姫に迷惑だ」


「えっ……」


 妙だな……さっき姫様は父と仲良くなさそうな感じがしたが……父に僕のことを相談したのか……? 


「話は終わりだ。部屋を出ろ」


「……分かりました」


 僕は姫様のお父様がいる部屋を出た。


「うわっ……!」


 部屋を出て真左に姫様がいた。まさか盗み聞きしていた……? 


「用事が済んだから帰るぞ」 


「えぇ……もう!? 姫様のお部屋は!?」


「……は?」


「おうちデート……」


 僕は精一杯の作り悲し顔を姫様に向けた。


「くだらないことを言ってないでお前は帰れ」


 姫様はそう言って僕の肩を両手で帰る方向に向けて押した。


「うぅ……」



 僕と姫様は姫様宅から外に出た。


「姫様はお父様に僕のことを話したんですか?」


「話してはないな」


「じゃあなんでお父様は僕が姫様にちょっかい出してることを知ってたんですか……」


「あぁ、それは私も気になっていた……」


「ってか姫様盗み聞きしてたんですか? 変態!」


「うっ……! お前に変態呼ばわりされるとは……今日は立ち直れそうにない……」


「そんなにですか!?」


「……車に乗れ」


「はい……」


 僕と姫様は行きと同じ車に乗り込んだ。姫様は運転席で僕は助手席。


「お前と話がある。運転しながら話すぞ」


「話? あ……運転しながらじゃ危ないんで、僕の部屋で話しませんか?」


「……なんで?」


「姫様のお宅でおうちデート出来なかったので……」


「まだ言うかそれを……」


 姫様が引いてる気もするが怯まず行こう! 


「じゃあ僕は車で話しません!」


「大事な話なんだが……」


「大事な話だからこそ部屋でじっくりしましょう!」


「しょうがないな……分かった。温かい茶を出してくれればな」


「えぇ!?」


「なんで誘ったお前が驚く……」



 しばらく時が過ぎた後、僕は勢い良く家の母がいる部屋の扉を開けて勢い良く部屋に入った。


「お母さん!! 温かい茶ぁぁぁ!!」


「どうしたの椛?」


「姫様が来たーー!! 家にーー!!」


「なんだって!?」


「頼むーー温かい茶ーー!!」


「分かった……!」


 数分後、僕の部屋にあるイスに姫様が座っていて、僕は姫様の前に立っている……という状況にあった。


「ベッドに飛び込みたかったら飛び込んで良いですよ」


「誰が飛び込むか!」


 姫様のツッコミは体に染みる〜! 


「すみません……! さっきの話の続きをしましょう!」


「私が父と仲良くないのに父がお前のことを知ってることか」


「それってお父様が僕の配信を観てるってことですよね?」


「それはあり得る。だがお前と話をした時にお前を認めるような発言はしなかったけどな」


 うっ……確かに僕の配信は観てても僕を認めなかった可能性はある……


「父は引退してからダンジョン配信者に目を光らせてるのだろう」


 なるほど……日頃色んなダンジョン配信を見て姫様と一回関わった人を呼び出すってことか……


「姫様! 言っておきますけどお父様に警告されても僕は止まりませんからね! 姫様が大好きなので!」


「お前はいい加減止まった方がいいぞ……」


 と言った姫様はちょっと照れくさそう……と僕は勝手に感じた。

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