十三話 姫様のお宅

 服のポケットにスマホと伸びる自撮り棒を入れている僕は今、姫様がお住まいのお宅にお仕えてるという執事が運転中のお車にお乗車している。


「はぁ〜……」


 急な急展開で緊張してる……なんか考え事でもしよう。姫様のお父様……この間一瞬会ったけど印象悪めだった記憶はある。やっぱ僕って見込みあるのかな? 


「あ」


 裁ちバサミカッターとイスのローラーにメールしよう。


 僕は服のポケットに入っているスマホを取り出し、裁ちバサミカッターとイスのローラーに『なんか姫様のお宅に向かっている』と送った。


 めっちゃビックリするだろうな……



 しばらくして車は姫様のお宅と思われる所の駐車場に止まった。


「はぁ……」


 緊張で何も考えられなかった……景色を見る余裕も……つまり姫様のお宅の位置が全く掴めなかった……


「どうかなさいましたか?」


 車を運転している執事が心配の眼差しで僕にそう声をかけた。


「いえ……」


「酔ったのですか?」


「酔っては無いです……緊張してるだけです……」


「そうですか……一応トイレの場所を確認しておきましょう」


 トイレ……姫様が使うトイレ!? 


 下を向いていた僕は顔を上げると、ものすごくでかい家があった。


「うおっ! 名前が姫だけに超お金持ちだった……」


 トイレとか絶対お客様用のやつあるな! 



 二十分後、僕は執事に『姫様のお父様が来るまで待ってて欲しい』と言われ、どっかの部屋のイスに座っていた。部屋には僕一人しかいない。


「このどっかの部屋も広いな……僕の家の全体より広いぞこれは……」


 ってか本当にトイレ行きたくなってきたな……小だし、すぐ行けば間に合って怒られないか……



 僕はトイレを済ました。執事がトイレの位置を教えてくれて助かった……


「さて戻るか……」


 ……一応帰り道は分かっている。だが迷ったフリして姫様の部屋を探すという選択肢もある。


「……行くか」


 僕は覚悟を決めてしまった。迷ったフリして姫様の部屋を探すと! 姫様はお仕事だから今ここに居ない筈だからきっと大丈夫! 


「……行くか」


 待っててと言われた部屋は一階だ。ここは何階建てか知らんが階段は上らない方が良い。迷ったから階段上ったという言い訳は通じないだろうし。


 覚悟を決めて僕は歩き始めた。序盤は同じルート……途中から変えて。


 姫様の部屋が一階じゃないことは……いや、いつでも出動出来る様に一階の可能性が高い! 



 数分後――


「くそ……」


 ヤバいな……ガチで迷ったし部屋もたくさんある……まるでダンジョンだ……! 


「お客様ーー!!」


「は……!」


 返事しそうだった危ない! 執事が僕が迷子ってことも気付いている! 戻るか? いや! ここまできたら姫様の部屋に入る! 


「おっ!」


 僕は遂に壁に姫と書かれた板がかけられてある扉を見つけた。やった! 


「ガチャ」


 僕は扉を開けて部屋に入った。姫様のお部屋……雰囲気は……質素だな。僕は部屋にある本棚を見た。


「色んな本があるな……どれもダンジョンに関する……」


 部屋の本棚にはダンジョンに関する本がある。机にもダンジョンの本がある……この本は昨日読んでいたのか……


「それにしても物の種類が少ない。本棚と机とイスと照明とベッドくらいしかない。ただ本を読む為の部屋ってことか? でもベッドあるし……」


 部屋には土台が木で出来ていて布団がめっちゃフカフカそうなベッドがあった。


「姫様のベッド……流石に飛び込んだらライン越えか」


 もう出るか……これ以上の情報は無いし。


「あ……一応ベッドの下を調べてみるか」


 僕は床で横になってベッドの下を覗いた。


「ん……?」


 なんか木の板が一枚あった。形は長方形……? 縦は分からないが横は10センチくらい。


「ベッド壊れた!?」


 と一瞬思うが壊れた箇所が見当たらない。


「気になるな……取ってみるか」


 僕はベッドの隙間に右腕を入れたが、木の板には届かなかった。


「手じゃ駄目か」


 僕はベッドの隙間から腕を抜いて立ち上がった。


 僕はスマホを入れていた服のポケットの反対側のポケットに入れてある自撮り棒を手にした。


「これを伸ばして回収しよう」


 僕は再び床に横になり、ベッドの下の隙間にある木の板を自撮り棒で取った。


「これは写真立て……!」


 僕が手にしたのは写真立てだった。今僕は写真立ての裏側を見ている。


「妙だな……ホコリが無い……」


 いや……ホコリの量気にするより写真を見てみよう。


 僕は恐る恐る写真立ての表側が見えるように上にした。


「こ……これは……!!」


 写真にはランドセルを背負った男女二人が右手で表情微笑みでピースサインをしていた。


「姫様……?」


 ランドセルを背負っている女の子は姫様? なんとなく姫様の面影を感じる……ってじゃあこの男の子は彼氏!? 


「そんな……」


 ってちょっと待ちなさい僕。姫様がそんなおませさんなわけがない。きっと弟だろう……身長差三十センチくらいあるし。弟いるって情報見たことないけど……


「コンコン」


「え!?」


 誰かがドアをノックした……!! ヤバいバレた!? 


 とにかく僕は見つけた写真立てをベッドの下に隠した。


「ガチャ」


 扉が開いた。僕はお辞儀した。


「申し訳ございません!! 迷ってしまいました!!」


 迷って姫様の部屋にいるわけないだろ! って言われたら終わりだな……


「……あなた誰?」


 え? 誰? 声がおばさんだ……


 僕は顔を上げると、豪華な服を着ている美魔女感があるおばさんがいた。この人どっかのネット記事で見たことある気が……


「姫の部屋で何してるの!?」


「何もしてません! すみません!」


 なんか見たことあると思ったら姫様のお母様じゃん!! 名前は確か法灯村 妃ほうとうむらきさき……ヤバい!! 相手の母親に嫌われるとか最悪だ!! 


「あの……僕は東二さんに呼ばれて部屋で待ってたんです……途中でトイレに行って帰りに迷ってここに……」


「本当? 泥棒じゃ無くて?」


「泥棒じゃないです」


「じゃあ一緒に東二の所に行きましょうか」


 姫様のお母様はそう言って微笑む。よくこんな怪しい僕に向けて余裕でいられるな……と思ったが若い頃は旦那さんと一緒にダンジョン調査してたんだった……今も普通に強そう。


「はい……案内宜しくお願いします……」


「……ところであなたのお名前は?」


「名前……僕の名前は……」


 ちょっと待て。今僕の印象悪いからあえて名乗らないでおこう。印象悪い時に覚えられても良くないから……すぐバレるかもしれないけど。


「僕の名前はですね。恥ずかしいんで言いたくありません!」


「なんで〜?」


「えっと……」


「妃様!!」


 この声は……今度こそ執事だ。


「ここにいらっしゃったんですかも――」


「申し訳ございません!! 迷ってしまって!!」


 僕は執事に精一杯に謝罪の言葉を叫び、勢い良く頭を下げた。


「あの……妃様」


「え……?」


「妃様! 妃様も迷っていたのですか!?」


 姫様のお母様も迷っていたのか……? それじゃあ僕も迷うわけだなってことにならないかな……


「それでは妃様はここで待っていて下さい。別の執事を呼んできます」


「え?」


「妃様はここで待っていて下さい!」


 ん? 姫様のお母様耳が遠いのか……? なんかそんな感じがする。まぁそれは置いといて……


「じゃあ僕を東二さんと話す部屋に案内して下さい!」


「もちろんそのつもりです。今すぐに」


 さっさと執事と共に退散しよう! 



 数分後、僕は執事の案内で姫様のお父様が待っているという部屋の扉の前まで来た。


「この部屋に東二様はいらっしゃいます。扉を開けて中へとお入り下さい」


「分かりました……あぁ……いっきに緊張して来た……」


「そうでございますか……」


 背後にいる執事にそう言葉を返された瞬間、頭に強い衝撃が走った。


「いっ……!」


 なに……が……



 それからどれだけの時間が流れたか。次に目覚めた時、僕は自宅の自分が寝るベッドで横になっていた。


「……夢オチ?」

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