十二話 水魔法
僕と裁ちバサミカッターは急いで扉の前まで移動した。
「イスのローラー……お前それ配信してないのか」
「うん……急に姫さんが配信止めたから……」
「そうか……」
終わった……なにもかも……せめて姫様の戦いを見届けよう……
「クェェェェ!!」
金色の鳥が姫様を見て叫んだ……僕の時とは違う真剣な叫びだ。
「どうした。かかって来ないのか」
金色の鳥が動けない……?
「おいタンしお……金色の鳥が炎吐かないぞ」
「姫様を見て固まってる……?」
「クェェェェ!!」
金色の鳥が姫様に向かって金色の炎を吐いた、しかし姫様はかわした。さすが余裕がある。
「姫様の手に魔力が……」
僕が姫様の両手に魔力を感じてまもなく姫様は両手から消防車の放水並の勢いの水を金色の鳥に当てて、金色の鳥を壁に激突させた。
「これはまさか……!」
裁ちバサミカッターが何かに気付いて叫んだ。
「このパターンはさっきの俺達!?」
姫様は落下していく金色の鳥に向かって跳び、自身が持つ剣で一回斬った。金色の鳥は地面に伏せた状態になった。
「倒したのか……?」
「いや……死んだフリをしてるかもしれない……」
僕がそう言った時、金色の鳥の全身から煙が出て金色の鳥の全身が煙で隠れた。
「倒したってことなのか……」
裁ちバサミカッターがそう言った瞬間、ダンジョン全体が揺れた。
「ダンジョンがクリアした時になる揺れ……? これは倒したっぽいな……」
って姫様が僕達の方に近付いて歩いている! ヤバいどうしよう……
「……思ったよりやるな」
「え!?」
「てっきり序盤で駄目になると思った」
姫様は意外にも若干認めてる感じだ! もう一回チャンスをなんとか……!
「あの……!」
「駄目だ」
早いっ!!
「姫様……まだ何も……」
「どうせあと一回チャンスを下さいと頼み込むつもりだったのだろう?」
あ……普通にバレバレでした。
「ダメなものはダメだ。お前達もう二度とダンジョンに関わるな」
うぅ……なんかいい手は無いのか。
「タンしお! あれ見て!」
イスのローラーがある方向を指差してそう叫んだ。その方向には金色の鳥が倒れている場所で、金色の煙がモクモクと立ち込め始めていた。
「何だあの煙!?」
「ダンジョン攻略されたらダンジョン内の仕掛けは全て無くなる筈だが……?」
数秒後に金色の煙が立ち込め終わり、煙が巻き上がっていくと、僕は金色の剣が地面に刺さっていることに気が付いた。
「剣!? もしかしてさっきの金色の鳥が……?」
「なるほど……あの金色の鳥は武器でもありボスでもあったということか。特殊な例だな」
「特殊な例なんで見逃して下さい!」
「それでも駄目だ」
「うぅ……」
僕が『うぅ……』って言った時、姫様は地面に刺さっている金色の剣を抜いた。
「……持ち帰るんですか?」
「あぁ、研究に使う」
言い訳が!! 言い訳がぁーー!! 思いつかなーーい!!
「ここを出るぞ」
「はい……」
*
その後四人はボス部屋を出て、外に出るために姫様を先頭にダンジョン内の道を歩いていた。
「はぁ……」
「タンしお……今日何回目のため息なんだよ」
「そりゃあダンジョン攻略に失敗したんだから……」
姫様の後ろ姿を歩くのはこれで最後なのか……
「ねぇタンしお……本当にこのまま黙って帰るの?」
小声でイスのローラーは僕にそう問いかけた。確かにこのまま姫様の後ろ姿とかを見てるだけじゃもったいない! なんか話そう!
「あの……姫様!」
「なんだ」
「なんか話してもいいですか!?」
「……なんかってなんだ」
「えっと……その……」
まだ話す内容決めてなかったーー!!
「ええっと……姫様はなんで水魔法にしたんですか?」
この間調べて分かったことで、人は一種類の魔法しか覚えることを許可されないらしい。
「水魔法を選んだ理由か……」
「なんか気になって……」
「私の父の魔法は何か分かるか?」
「……なんでしたっけ?」
「炎だ」
「あぁ……」
「炎を操る父を超える気持ちから私は水を選んだのだ」
「なるほど……」
その後三十秒間の沈黙が続いた。
「あの……姫様……なんか良い話題無いですか?」
「私に聞くな」
やばい……他になんも思いつかない……!!
「おい椛……」
「えぇ……?」
「彼氏のこととか聞かなくていいのか?」
小声で裁ちバサミカッターは僕にそう問いかけた。ってそうだ! それ系の話題をしよう!
「姫様! 姫様! 彼氏とかっているんですか!?」
これでいると答えたら超ショックだけど是非聞きたい!
「彼氏? いないな」
よっしゃーー!! とにかくよっしゃーー!!
「そんなこと聞いて何になるんだ……?」
「じゃあ姫様! 好きな人はいますか!?」
「圧が凄いな……」
「恋愛的に!」
「恋愛的にか……いないな」
あれ? なんか違和感を感じる! まさかいる!?
「出口だ」
姫様はそう言って前を指差した。すぐそこに外への光があった。
「もう出口……」
違和感……それは若干間があったってこと……間があったってことは好きな人がいるのか……!?
*
そしてダンジョンを出た僕・裁ちバサミカッター・イスローラーはダンジョン調査隊に囲まれた。
「どうだった!? 揺れがあったってことは攻略したから……」
小林さんが僕らにそう聞く。
「私がボスを倒した」
「そうですか……隊長が……」
「隊長! 三人はどうだったんですか?」
「予想よりは活躍した。ボスにもダメージを与えたが私がいなければ死んでいた」
「へぇ〜……でも惜しい所までいったんですよね?」
「一応な」
「お前等三人やるな〜! 俺と連絡先を交換しようぜ!」
「小林! それは駄目だ!」
「隊長……連絡先交換くらい良いじゃないですか……」
「隊長命令だ」
え……なぜ姫様はそんなにも拒絶するんだ……ダンジョン調査隊に関わると僕等がまたダンジョンに入りたくなるから……?
「解散だ。全員帰るぞ」
姫様の解散宣言でこの場にいる者全員、黙ったままそれぞれ車に乗り込んでその場を後にした。僕・裁ちバサミカッターイスのローラーは僕運転の車に乗り込んで走行し始めた。
「惜しかったな椛……」
後部座席に座る裁ちバサミカッターが運転中の僕にそう話しかけた。
「あぁ……」
ダンジョンに入る前……僕はダンジョン調査隊を呼んだことに怒ったけど……姫様がいなかったら死んでた……うぬぼれてたんだよ僕は……そりゃあ姫様に叱られるわなぁ。
*
僕は裁ちバサミカッターとイスのローラーを家に送り返した後、僕は自宅に帰って一人自分の部屋にいた。
「はぁ〜……」
姫様が小林さんと僕達との連絡先交換を拒絶したのは姫様が小林さんのことが好きだから……?
「いやまてよ?」
小林さんが姫様と付き合ってるなら僕みたいなあからさまな姫様ラブしてる奴と連絡先交換しようなんて思わない筈だ! その心配は絶対無い! うん!
「待て!!」
姫様が小林さんに片想いしてる可能性があるか! くそーー! ヤバい!
「くそ……! ピンチすぎる! やっぱり一から鍛えてダンジョン調査隊に入るしかないのか……? クソッ! 筋トレでもするか!」
僕はやけくそ気味に腕立て伏せを始めた。
*
そして次の日の朝六時頃――
「ピンポーン」
僕はインターホンの音で目覚めた。
「誰……?」
一分後、母が僕の部屋に入って来た。
「椛! お客さんよ!」
「え? 僕に?」
数分後、僕は玄関の扉を開けた。すると執事の格好をしている三十代くらいの男が一人いた。
「しつじ……?」
「私は法灯村東二様の命で天照椛を家にお招きするようにと――」
「えぇ!? 姫様のお父様が!?」
なんで急に!? もしかして僕の配信を観て見込みがあると思ってくれたのか!?
「じゃあ姫様のお宅に行けるってことですか!?」
「はい」
「じゃあ行きます!」
姫様の直近の部下になれるかもしれないってことか! やったーー!!
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