九話 激おこ姫様

 僕・裁ちバサミカッター・イスのローラーの三人は数台の車と数名のダンジョン調査隊に囲まれながら土下座していた。


「申し訳ございません!!」


 僕はそう叫んだ。特に姫様に向けて。姫様に全て事情を話した。全て話せば潔さで好感度はまだキープ出来る……と信じている! 


「つまり……簡単にまとめると隊長に憧れてるってことだな!」


 まとめるとそうですね小林さん……


「お前……またダンジョンに入ろうとしたのか!」


 姫様に叱られている……喜びもあるが好感度がぁ。


「どうします隊長」


 この声は橋本……! 今、姫様に叱られてる最中なんだよ! どうせならもっと叱られたいのに! 


「いや〜隊長、思い出しますねぇ。俺が一人でダンジョンに入って救助された時のことを」


「覚えてないな」


「俺はダンジョンで救助してくれたのは隊長ではないですが、その時に救助された人に俺は何て言われたと思いますか?」


「小林……何が言いたい」


「俺はダンジョン調査隊の人に『また勝手にダンジョンに入るな』って言われたんすよ!」


「お前がダンジョン調査隊に入るきっかけは一人でダンジョン攻略しての推薦だったな」


「こいつらここで返してもまた勝手にダンジョンに行きますよ!」


「まさか、こいつらだけでダンジョン攻略させてダンジョン調査隊に入隊させようと考えてるわけではあるまいな」


「はい!」


「本気でそんなことを思っているのか?」


「あの! 僕からもお願いします! チャンスを下さい! 姫様!」


 僕は顔を上げて姫様に頼み込んだ。


「お前は黙れ!」


 ぐはっ……! ミスった……!! 


「ダンジョンでドラゴンに襲われても懲りずにまたダンジョンに入ろうとする……心は弱くない様だが」


 心は弱くないと言うかただ姫様にぞっこんなだけなんです……


「俺……こいつらについて行きますよ。監視役として」


 監視役ってまさか! 


「三人だけでダンジョンに行かせ、俺が後ろで見守ります。三人がどうしようもない状況になれば俺が助けます! これでどうですか!?」


 小林さんが姫様にそう頼み込んだが、姫様は首を横に振った。


「……駄目だ。お前はあの三人に肩入れする。三人だけでダンジョンを攻略をしたと嘘をついたりするだろう」


「小林、何故三人プラス一人なんだ。全員で入れば良いだろう」


 橋本……もしかして僕達三人をダンジョンに入れるのは反対してない? 


「だってお前ら椛を信用してないだろ。なんか俺、こいつにはすげぇ可能性を感じるんだ!」


「私は三人をダンジョンに入れることを認める気は無いのだが……」


 姫様が喋ってる途中で背後にいる者が立ち上がって歩き、姫様の目の前まで移動したのを感じた。


「まさか……」


 僕は嫌な予感がした……とてつもなく嫌な予感を……だから僕は顔を上げて姫様がいる方を見ると、裁ちバサミカッターが目の前にいる姫様を睨んでいた。


「姫さん!! 椛がめっちゃダンジョンに入りたがっているのになんで入れてくれないんだよぉ!」


 なにしてんの裁ちバサミカッターー!! 


「椛はあんたの調査隊に入りたいのに何故チャンスをくれない! こいつは一人でドラゴンを倒したんですよ!」


「……おりゃー! 裁ちバサミカッター!」


 僕はジャンプして右足で裁ちバサミカッターを蹴り飛ばした。


「おま……姫様に向かってなんてことを!」


「姫様の従者かよ! 椛!」


「お前もう喋るな裁ちバサミカッター!」


「……やかましい!!」


 ゔっ……!! 


「椛!!」


 姫様が突然僕の名前を叫ばれた……!! 


「はい!!」


 僕は真っ直ぐ立って姫様の顔を見ながら返事した。姫様のお顔はなんだかムスッとしていた。


「一回だけチャンスをやる」


「え……!?」


「そのチャンスを逃せばもうお前を助けん! 勝手に死んでろ!」


 ムスッとしてる姫様も最高……!! 


「小林の提案通り一人監視につける。もしお前らだけでダンジョン攻略出来なかったらダンジョン調査隊に入る可能性はゼロだ!」


 まじか……イスのローラーと裁ちバサミカッターのせいでチャンスが一回のみになったじゃないか! 


「隊長、入口に残るメンバーはどうします?」


 いつも冷静そうな橋本がちょっとビビりながら姫様にそう質問した。


「監視役がダメだと判断したら入口に残った隊員全員に連絡を入れ、一斉にダンジョン調査を開始しろ」


「では……監視役は私に……」


「いや、この三人の監視役は私がやる」


 え? ひ……ひ……姫様が!? 


「隊長……それは駄目です。隊長に万が一のことがあれば……」


「この三人は恐らくダンジョンのことをよくわかっていない。全員で行っても一つのミスで隊が無くなるかもしれん」


 完全に怒ってるな姫様……僕達三人が死ぬならまだしも姫様が死んだらどうする! 


「ですが……!」


「姫様! 監視役は――」


「お前に黙れと言った筈だ!」


「はいっ! 黙ります!」


 隊長もまだ二十三歳で若いし……十八歳の僕と五歳差しか違わないし意外というか……まだ子供っぽい所があるのか……? 


「とにかく四人で行くからな! お前ら立て!」


「……はい!」



 僕・裁ちバサミカッター・イスのローラー・法灯村姫様の四人はダンジョン内部にいた。


「お前ら撮影はいいのか」


 撮影……? ダンジョン配信のことか……? 


「私は剣しか持ってない。記録に残さないと一生調査隊に入れないぞ」


「じゃあ配信する? 椛?」


『配信する? 椛?』じゃねーよ……ダンジョン調査隊に提出する映像にするから本人確認の為に顔出ししなきゃいけないし……


「おい椛! 配信する準備をしようぜ!」


 裁ちバサミカッター……いや今は怒ってる場合じゃない……攻略する可能性を上げる為に普通に撮るより配信の方が良いか……なんか凄い情報を送ってくれるかもしれないから……


「じゃあイスのローラー。拡散希望なんかして多くの人に見られるようにして」


「分かった!」


「姫さん! 配信しても良いのか!?」


「あぁ、多くの人に見てもらえ。栄光ある姿か無様な姿を」


 天国か地獄……結果次第で大きく人生が変わる。行くぞ! 人生を賭けたダンジョン配信!! 


「絶対ダンジョン攻略するんだ!」


 数分後、イスのローラーによる撮影が始まろうとしていた。


「SNSで拡散希望したらめっちゃ待機してくれてるよ」


「そうか……大勢の人に見られるより姫様に見られる方が断然緊張するが」


 というか……ダンジョン配信するって拡散希望すればすぐに大勢の人を呼べるのか……


「最後に確認する……裁ちバサミカッター、お前も顔出しして良いんだな」


「あぁ、椛の相棒って設定で行こう!」


 姫様と相棒関係になりたいけどな〜……


「じゃあもう始めて! イスのローラー!」


「分かった! 配信開始まで3……2……1……」


 ∏%≮∏∝≥%%∏√

 また無謀な奴が出て来たよ


 ≧∣∅∏∞∂∝∣α∵ⁿⁿ

 BANする前にタヒらなければいいが


 ΟμΞΞπςψ

 大丈夫かよ


 々96∣∝∝∵Ο¿

 せめてタヒるなよ


 #`・∅ψ’:

 まだ? 


 >'∂>Ξ¿ψ#€

 みんなで説得しよう


 ⊗Δχφς<≥

 やめろーー!! 


 εε≮≈≈ηΥΨ×

 止めるんだ無謀マン


 ∇≥∧∈Ιε⊆

 そもそも宝なんかあるのか? 


 ≡√∃ΥΡ∌∷∷⊅

 何があったか話は聞いてやる


 Ζμω≦+%≧√Αδν

 ダンジョンでタヒったら墓も作れないんだぞ


 ∈∂⊃ςν≯νΩ⊆

 おっ


 :"⁉µ¢;7*~{¡

 始まった


 ≥Ζ∧≡Ξ∌ΨΡ∃

 始まった? 


 #;≥Ι"↘ν∂μφ

 誰か映ってる


 7√ΑδδΨ*777

 ダンジョンにいるなら今すぐ出るんだ! 


 ∧ν∈≡Ι⊅*ΟΟ∂Ρ∈

 引き返せー! 


 {Α≡ΑΨΩΨ¢≧

 家に帰るんだ!! 


 Ζ√≈ΟΡΥ∧Ζφ

 誰か他に撮影してる人がいる? 


 ∷;;χμω∃η↘∃

 帰れ


 ©¿“7! $⁇‾№

 かえれ

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