八話 オフ会

 ある日、僕は両親に運転免許を取っているか聞いたら取ってなかったらしいので、僕はその一ヶ月後に車の免許を所得し、自分の部屋にいた。


「良かった……記憶を失くしたのが車の免許を取る前で……」


 とにかく……これで移動問題は解決したな。



 僕は母が運転する車に初心者マークを付けて裁ちバサミカッターとイスのローラーと待ち合わせの予定をしている広い公園まで一人で来た。


「ついたか……」


 僕は車を降り、外を歩き始めた。


「広いのにあんまり人がいない……平日だしな……」


 おっと……駐車場で待っててって言われたのに歩いちゃった……二人に会うのに緊張してその場から離れたくなったのかもしれない……


「あっ」


 公園の入口から僕と同じくらいの年齢の男子二人が歩いていた。まさかあの二人が……? 


「お前はタンしおか!」


「あぁ……二人は歩いて来たのか?」


 恐らく今タンしおって言った裁ちバサミカッターか……短気そうなニート……そして隣の暗そうなニートがイスのローラーか……


「やぁタンしお」


「こんにちは……あなたがイスのローラーですか?」


「敬語じゃなくていい。同い年だし」


「あぁ……ありがとうって同い年!?」


「この間タンしおが底辺のくせに年齢公表しててね」


「あぁそう……」


 なんかめっちゃ緊張するな……画面越しじゃないからか……


「じゃあ……名前とかもバラしたの?」


「え?」


 二人は一瞬驚きの表情になり、沈黙し始めた。僕はその二人が何かに悩んでる様に感じた。


「椛か?」


「あっ……! まさか……名前をバラしていたのか……」


「……確か言っていた気がするね」


「なにしてんだよ……僕」


「底辺で良かったな!」


「……その動画ってどんなの?」


「いや……お前の前のアカウント削除されてて見れねーんだよ」


 なんか若干怪しいな……


「まぁ……ダンジョン探索に行ったからね……」


「確かにね……」


 こんな疑り深い性格も友達いない原因の一つなのかな……


「どうした椛? 何を悩んでいるんだ?」


 この二人が宝を横取りしたグループの仲間なはずが無い……! なぜならお宝をゲットしたのにめっちゃ底辺の僕とつるむ理由が無い! 


「椛大丈夫?」


「あ……ちょっと緊張してな……」


「じゃあ話すか! 今後について!」



 その後、僕達三人は公園にあるベンチでダンジョンについて色々二時間程話した。その後、僕は二人と別れて家に帰って茶の間に移動した。


「おかえり椛。大丈夫だった?」


「あぁ……二人共僕と同い年で全然良い人に見えた」


「そう……」


 ぶっちゃけ両親も怪しいと思っている……二人がいない時に部屋をこっそり調べたら僕との思い出と思われる物が一つも無かったから……


「昼ご飯、作ったから食べてね」


「……ありがとう」


 昼ご飯を食べ終わった僕は部屋に戻った。


「疑いすぎかな〜……」


 思い出が無い……過去に嫌なことがあったから……? それを思い出させない様に僕の記憶を消した……? 


「……だから犯人探しは止めよう」


 余計な詮索してもどうせやることは変わらない。最優先事項は姫様に近付くことだから……! 



 そして数日後、僕は母に『友達と遊びたいから車貸して』と頼んで車を借り、裁ちバサミカッターとイスのローラーと一緒にとあるダンジョンの入口の洞窟前まで来た。


「ここがダンジョンの入口かぁ〜!」


「裁ちバサミカッター……やけにテンション高いな……」


「おいおい椛! 配信の時みたくテンション上げていこうぜ!」


「裁ちバサミカッター……配信で僕の名前言うなよ。バレるから」


「へ〜い」


 なんか思ったより明るい奴だな裁ちバサミカッター……


「椛って配信の時と姫さんのことを話してるときめっちゃテンション高いよね」


「確かに……」


 イスのローラーの言う通りだな……最近姫様に会えてないし……


「あ〜……もう裁ちバサミカッターが配信やってくれ……タンしおを名乗ってくれ!」


「おいどうしたタンしお!」


「体調でも悪いの?」


「目がな……昨日スマホ見すぎた」


「大丈夫かよ」


「眼精疲労なのにダンジョン行くの危なくない?」


「ちょっと遠く見てる。予定より少し遅れて出発するかな」


「……え!?」


「悪い……ちょっとネットでダンジョンについて調べ過ぎたか」


「あぁ……」


 ん……? なんか隠してる感を感じるが……


「タンしお、スマホは僕が操作するから」


「タンしおは喋りで、俺がボスを倒してやるよ!」


「お前がボス倒してどうする……」


「やっぱりめっちゃテンション低いね椛」


「あぁ……だってここで仮にダンジョンクリアしても姫様のダンジョン調査隊に入れる可能性は限りなく低いからな……」


「姫さんの隊は北海道のダンジョン調査隊で一番偉いからな」


「椛……早くダンジョンに入ろう……」


 なんだ……イスのローラー急かして……


「そうだぜ椛! 目の疲れはもう取れただろう!?」


「……お前らまさかお宝を盗んだグループとグルじゃないだろうな」


「ち……違うぜ椛! それだけはねぇ! なぁイスのローラー!」


「う……うん! それだけは違う!」


「じゃあなぜ焦ってる!!」


 もう問いたださないと気がすまない! 


「裁ちバサミカッター……正直に話そう……」


 イスのローラーが腹を括った……? 


「実は万が一やられても良いようにダンジョン調査隊を呼ぶ仕掛けを作ったんだ」


「仕掛け……?」


「僕の家にはその仕掛けがあり、今から十分後にダンジョン調査隊に音声付きで通報することになってるんだ」


「なるほど……ワンチャン僕達が姫様達にダンジョン攻略の目撃者になって貰おうってことだな」


「そうそうそれ!」


「ナイスアイデア……と思ったが、姫様に目撃されても無謀なことするな! って言われて好感度下がりそうだな〜……」


「好感度……」


「大丈夫かイスのローラー……椛にバラして」


 恐らく仕掛けはガチ……そんで相手がお宝を盗んだグループかダンジョン調査隊か……ここは圏外だし今から十分でイスのローラーの家に向かって仕掛けを止める時間も無いだろうし……どうする僕……! 


「よし! これからどうするか決めた。まず僕は君達二人をあまり信用してない!」


「そりゃあ悲しいぜ椛……」


「まぁ……そうか」


「だから車に乗って移動し、ダンジョンの入口が見える所で隠れて見張る!」


「見張る……?」


「そんでダンジョンに訪れたのがお宝を盗んだグループだったら君達と縁を切り、姫様率いるダンジョン調査だったら謝りに行く」


「なんで謝るんだ!?」


「いいかお前ら! 僕は……姫様からの好感度が一番大事なんだ!」


「好感度……」


「そんで僕は姫様率いるダンジョン調査隊に推薦で入る男になるまでに姫様に会わないと決めてたんだ!」


「そうか……椛は姫さんの好感度まで気にしているんだね……」


「僕は……姫様に嫌われるなら死んだ方がマシなんだーー!!」


 僕の想い全てぶつけたぞ……! この二人はどう返す……! 


「分かった……僕は椛に従う」


「イスのローラー……! 本気か!?」


「あぁ」


「しょうがないか」


「悪いな裁ちバサミカッター……イスのローラー……今日のダンジョン配信はどっちにしても中止だ……」


 その後、僕達三人は車に乗って少し離れてダンジョンの入口を見張った。四十分が経過した頃、数台の車がダンジョン調査隊に向かって行くのが見えた。


「あの車は……!」


 僕は過去に橋本運転でダンジョン調査隊の小林さんと乗った車を見つけた。


「僕が姫様に会いに行った時に乗った車……! ナンバーも同じだ……!」


「ね? 呼んだのはダンジョン調査隊だったでしょ?」


「ねじゃねーよ……謝りに行くぞ。打ち合わせ通り誠心誠意の土下座しに行くぞ……!」

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