七話 あの時のリスナー
僕は一人、部屋でイスに座って悩んでいた。ちなみに僕、今後どうするかの流れはまず一人でダンジョンを攻略してどっかのダンジョン調査隊に入り、移籍で姫様のダンジョン調査隊に入る! だ。
「困ったな……」
今の僕は記憶喪失より困った悩みが二つある。一つはダンジョンへの移動と配信サイトのログインだ。移動はまず置いといて……ログイン……
「パスワードなんだよ……」
配信サイトはコメントが喋る配信アプリを探し、一時間経って見たことある画面を見かけて確定させた。今はログイン画面に手こずっている。
「メールアドレスは以前のままらしいから大丈夫だと思うが……」
それにしても気に食わない……部屋には生活に必要な物のみで思い出に関する物が一切見当たらない……思い出に縛られるのは嫌いなタイプだったのかそれとも……
「……もういい。新規ログインから始めよう」
僕は以前使っていたと思われる配信サイトを、以前使っていたというメールアドレスで新規ログインした。
「ユーザー名か……出来ることならブラック林道・裁ちバサミカッター・イスのローラーに会いたいな……」
ネーミングセンスは置いといて難しいな……タンしおってアカウント名にして放置してみるか。
そしてこの日の夕方頃、ブラック林道・裁ちバサミカッター・イスのローラーからフォローされることは無く、フォロワー0人のままだった。
「あぁ〜……どうしよう……ユーザー名を一人でダンジョンに入って行ったタンしおに変えるか……?」
試しにユーザー名を一人でダンジョンに入って行ったタンしおにしてみた。
やっぱりこの日、深夜になっても配信サイトのフォロワーが0人のままだった。
「くそっ……!」
もう……あの三人との再会を諦めるしかないのか……!
「……いや! まだだ……!!」
僕はユーザー名を、ブラック林道・裁ちバサミカッター・イスのローラーに変えた。
「これが最後の望みだ……!!」
*
次の日の昼、昼ごはんを食べ終えた僕が部屋に戻ると配信サイトのフォロワー数が一人増えたと言う通知が来ていた……これは!!?
「これはこれはこれは!?」
僕はフォローして来たユーザー名を確認した瞬間、無言の雄叫びを上げながらガッツポーズをした。
「来たーー!! 裁ちバサミカッター!」
今日お父さん仕事だから怒られないーー!! お母さんは多分スルーしてくれるだろう!! やったーー!! あの裁ちバサミカッターが気付いてフォローしてくれたーー!!
「まじで嬉しい……! どうしよう……!」
僕は嬉しさのあまり真っ先に配信スタートする所を押し、慌てて僕は顔が映らないように画面を何も無い壁に向けた。
裁ちバサミカッター
来たか
「おっ! 裁ちバサミカッターさん!」
裁ちバサミカッター
おっ! じゃねぇよ!
「待ってた?」
裁ちバサミカッター
待ってたってか死んだかと思った
「いや〜死ぬ寸前で姫様が助けに来てくれたのよ〜」
裁ちバサミカッター
姫様って……それ助けられる側だろ
「ダンジョン調査隊の隊長! 法灯村姫様!」
裁ちバサミカッター
女の隊長か
「知ってる!? 美しいよね!」
イスのローラー
タンしお?
「イスのローラーさんも来たーー!」
イスのローラー
とにかく生きてて良かった
「いや〜マジで良かったよ〜……あと僕も再会できて嬉しい!」
裁ちバサミカッター
リスナーがずっと三人しかいないからユーザー名をリスナー三人にするって愚痴を思い出してな
「マジか……ナイス記憶失う前の自分!」
裁ちバサミカッター
記憶は戻ったのか?
「記憶は……戻ってない」
イスのローラー
それにしても災難だったね。記憶を失うわお宝は盗まれるわで
「くそ……せめて犯人の顔さえ見てたら……!」
裁ちバサミカッター
後ろから殴った犯人は見たぜ
「マジ!?」
イスのローラー
見たけど誰か分からなかった。恐らく勝手にダンジョンに入る集団だと思うけど
「……いや、その件より最優先せねばならぬことがある!」
イスのローラー
え?
裁ちバサミカッター
宝は?
「宝より姫様じゃーー!!」
イスのローラー
姫様……
裁ちバサミカッター
お前女の隊長に惚れてるな?
イスのローラー
ダンジョン調査隊の法灯村姫?
「そーだよ! 盗まれた宝なんかの話より聞いてくれ! 僕の夢は姫様の永久旦那に決めたんだーー!!」
イスのローラー
永久旦那って……
裁ちバサミカッター
せっかく犯人の顔を忘れないように知り合いの絵が上手い人に描かせたのに……
「いや〜すまん! それは一旦保留な!」
裁ちバサミカッター
絵は?
「置いとけ!」
イスのローラー
残念だったね
あ〜楽しいな〜……そう言えば……ブラック林道さんは来ないな……仕事中なのかな……
「とにかく僕は姫様率いるダンジョン調査隊に入隊したい! その為に僕一人でダンジョンを攻略したいと思う!」
裁ちバサミカッター
止めとけそれで前回どうなったか
イスのローラー
そうだよ一人じゃ危ないよ!
「分かってるが……行かせてくれ……! 僕にはどうしても姫様が……」
裁ちバサミカッター
イスのローラー! お前一人じゃ危ないって言ったな
イスのローラー
言ったけど
裁ちバサミ
だったら俺達三人でパーティを組まねぇか?
パーティ……!?
イスのローラー
え?
裁ちバサミカッター
イスのローラー! お前が嫌でも俺はタンしおの手伝いをするぜ!
「た……裁ちバサミカッター……お前……もしかしてニート?」
いや……昼間っからこんな会話してるから二人共ニートなんだろうけど……?
裁ちバサミカッター
おい! そこに触れるな! 確かに俺はニートだが!
イスのローラー
僕もニートで引きこもってるけど……
裁ちバサミカッター
どうせ俺達三人このまま暗い人生送るだろうし、ブラック林道は社会人だし、この三人で一度集まってダンジョン攻略しに行こーぜ!
イスのローラー
それってオフ会するってこと!?
「オフ会……」
裁ちバサミカッター
行こーぜイスのローラー!
イスのローラー
う〜ん……
「でも……小林さんって人が一人でダンジョン攻略して調査隊に入ったって……」
裁ちバサミカッター
攻略した人数なんて三人でも十分凄いだろ!
「確かに……」
イスのローラー
裁ちバサミカッター……本気?
裁ちバサミカッター
イスのローラー……お前タンしおが画面越しにやられている姿を見ることしか出来なくて辛かっただろ?
イスのローラー
確かに……あの時の僕達は何も出来なかった……
裁ちバサミカッター
だから三人集まろーぜ!
「なんか盛り上がってるけど……僕一人で良いし……」
イスのローラー
分かった。僕も一緒に行く! 三人でダンジョン攻略しに行こう!
「ちょ……」
裁ちバサミカッター
よし決まりだ! 集合場所はどこにするんだ?
な……なんか勝手に決まっちゃったし……まぁ多分この二人の真の狙いは僕に便乗して一緒に有名になりたいんだろうけど……
裁ちバサミカッター
ってかタンしおはどこに住んでんだ?
「まぁまぁ落ち着いて……一日考えさせて……明日の配信で答えを出すから」
イスのローラー
とにかく、一人で無茶はしないように!
「はいはい……じゃあ一旦配信切るね……」
僕はスマホの画面をタッチして配信を終了させた。
「危なかった……」
これ以上盛り上がったら二人を止める方向に持ってき辛くなるし……あの二人はリスナー止まりで良いんだ……僕一人で……
「一人……か」
そう言えば僕がダンジョンから保護されてから誰とも友達と呼べる人と会ってない……僕は元々友達いなくて一人を好む人間だったのかもしれないな……
「はぁ……」
*
次の日の昼、前日と同じ時間に僕は配信スタートさせた。ブラック林道さんからフォローは来ていなかった。
裁ちバサミカッター
おっ! 俺達と行く決心がついたか!
「あぁ……答えは出た」
イスのローラー
聞かせて
「恐らく僕は今友達がいない。家族としか話さない」
裁ちバサミカッター
確かに前の配信で友達いないって言ってたな
僕は長台詞を言うために大きく息を吸った。
「こんなコミュニケーション不足な僕が急に姫様に会ってもタジタジになるだけ! だから僕は君達二人と実際に会ってコミュニーケーション能力を磨き! お前達三人でダンジョンを攻略することに僕は決めたんだーー!!」
イスのローラー
な……なるほど……
裁ちバサミカッター
なんだ? 一緒に行きたいなら素直にスッと言えよ
「ぐっ……! 一人が寂しいからじゃない! コミュニケーション能力を高める為に僕は二人と組むんだ!」
イスのローラー
素直じゃないね
「悪かったな……素直じゃなくて……!」
なぜだか知らないが僕は照れてる……そんな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます