スーパーのレジ袋
「これ、お願いします」
「はーい」
恵方巻きをレジに持っていくと、レジ打ちのおばさんが鮮やかな手捌きでレジを打ってくれる。
「しまった……エコバッグを持つのを忘れていた」
水越は思い出したようにそう言う。最近では、ゴミを削減するためにレジ袋が有料化されている。そのせいなのか、買い物をするときにエコバッグを持っている人を見かけるのが増えた。
「レジ袋に金を払いたく無いのなら、リュックにしまっちゃうか?」
そう提案した弓波に対し
「バカなことをいうな。リュックには資料も入ってるんだぞ……大事な資料が汚れてしまったり、恵方巻きが潰れでもしたらどうするつもりだ」
水越は冷静に弓波を諭す。
「言われてみればそうかも。恵方巻きが潰れたら、残念だし……」
弓波はすこし考え直し、そう言った。
「じゃあ決まりだ。すみません、レジ袋一枚ください」
水越はそう言い、店員からレジ袋を貰った。
「これで恵方巻きが買えたな! よし、あとは帰って食べるだけ!」
なにはともあれ、恵方巻きを買えて良かったと、弓波は胸を撫で下ろした。
家に帰り、弓波と水越はレジ袋から恵方巻きのパックを取り出した。
「今年は、どっちの方角向いて食べるんだっけ?」
そう疑問を露わにした弓波に、水越は冷静に答える。
「今年は、東北東の方角を向いて食べるんだ。……今切り分けるから、
ちょっと待ってろ」
水越は恵方巻きを自分用と弓波が食べる用に切り分けていた。
「ほら、お前の分だ」
水越は弓波の分の恵方巻きを切り分け、皿に置いた。
「ありがとな〜。うわー美味しそう!」
恵方巻きでこんなに喜ぶなんて、つくづく幸せな奴だ、と水越は思った。
「まだ食うなよ、まだ俺の分を切り分けてない」
水越は弓波に釘を刺した。
「分かってるって。そんなに空気読まない俺じゃないし」
弓波は少し機嫌が悪そうにそう言った。
水越は、自分の分を切り分け、自分の皿に置いた。
「お待たせ。じゃあ、いただきます」
「いただきまーす!」
水越と弓波は、食前の挨拶をし、恵方巻きを口に運んだ。
恵方巻きを噛んだ途端に、酢飯ときゅうり、そして錦糸卵の風味が口いっぱいに
広がる。
「これ、めっちゃ美味いんだけど!」
「ほんとだ、美味いな」
二人は、そう言い合った。自然と、二人とも笑顔になっている。
美味しいものを食べたときは、そうなるのだろう。
「わざわざあんまり客がいないスーパーに行った甲斐があったな」
「うん、そのおかげで今この美味しい恵方巻きにありつけてるって思うと、
あのスーパーに感謝しなきゃな〜」
二人はそう言い合っていた。近所のスーパーに対してどことなく失礼な気がしなくもないが、スーパーが空いていたおかげで恵方巻きを買うことができたので、結果的には良かったのかもしれない。
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