メリークリスマス!

「よしっ、ツリーの飾り付けかんりょ〜!」


 ツリーの飾り付けを終えた弓波は、額の汗を拭いながらそう呟いた。


「お疲れ、弓波。少し休憩するか」


 天辺の星を飾り終わった水越が、脚立から降りながら言う。


「休憩だ! よし、ココアでも飲もう!」


 弓波は休憩と聞いた途端、急に元気になり、二人分のマグカップを出した。


「やれやれ。ココアの素は俺が出すから、座ってろ」


 水越が脚立を物置にしまい、台所に行きココアの素を出し、マグカップに

注いだ。そしてお湯を注ぎ、ココアの素を溶き混ぜた。


「サンキュ、水越! やっぱり、糖分補給しないとね〜」


 水越が持ってきたココアを一口飲み、弓波は明るくそう言った。

子供っぽいところは相変わらずだな、と水越は思った。


「そういえば、明日はもうクリスマスだけど、水越はなにか予定あるの?」


 弓波は思い出したように水越に聞いた。


「あぁ、クリスマスは用事があるんだ」


 水越はさらりとそう言った。しかし水越の今の発言は、弓波にとって全身に電流が走ったかのように威力のある発言だった。


「よ、用事……? まさか」


 嫌な予感が弓波の全身を包んだ。クリスマスに用事があるなんて、それってつまり……


 ––––彼女?


 まさか、そんなに女性に興味とかなさそうな水越が、ちゃっかり彼女がいたとか⁉︎

弓波の脳内は、もう水越の発言のことでいっぱいだった。


「弓波? さっきから、何をぶつぶつ言ってるんだ」

「お、俺より先に抜け駆けするなんてズルいぞ〜!」


 弓波は、テーブルを力強く叩き、そう息巻いた。


「お、落ち着けよ……。何の話だ?」


 水越は、困惑しながら弓波を宥める。


「だってさ……クリスマスに用事があるなんて、もう『アレ』しか

思いつかないじゃん! まさか水越に先越されるなんて!」

「話が見えないんだが……」


 一人で悲嘆にくれる弓波に、水越は呆れた。


「とにかく落ち着け。『アレ』ってなんだ、弓波?」


 とりあえず、落ち着きを取り戻してもらおうと、水越は弓波に聞いた。


「……彼女」

「え?」


 弓波はぼそりと水越に言った。


「彼女だよ。いるんだろ、どうせ」


 弓波は力無い声で水越にそう言った。


「彼女? いないが」


 水越は平然とそう答えた。


「……え」


 弓波は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔でしばしフリーズしてしまった。


「まさかお前、さっきの発言は、俺が(架空の)彼女とデートするって思い込んで

いたのか⁉︎」


 水越は目を丸くした。自分はそんなこと微塵も考えていなかったのに、

弓波が勝手に自分にあらぬ疑いをかけていたのだ。


「じゃ、用事って一体何だよ!」


 はっと我にかえった弓波が、水越に噛み付く。


「実家に帰る。それが用事だ。父さんと母さんに顔を見せにな」


 と、水越は呆れたように言う。


「実家……? なーんだ、勝手に思い込んで損した〜」


 弓波は安堵のため息をついた。


「勝手に思い込んで突っ走るな。お前の悪い癖だぞ」


 水越は呆れながら弓波に言った。


「それにしても、実家に帰るのって普通お正月にやるものだと

思うんだけど、なんで水越はクリスマスに実家に帰るんだよ」


 普通はお正月に実家に帰省するはずだが、水越の家は割と珍しい。


「うちの両親、正月は旅行で実家にいないから、クリスマスに前倒しで

俺が実家に帰ることになったんだ」


 そう言った水越の顔は、心なしか嬉しそうだった。


「そういうことだったのか。お前のお父さんとお母さんに、元気な顔を見せてやれよ!」


 弓波はそう微笑んで水越に言った。


「ありがとう。弓波も、楽しいクリスマスを過ごしてくれ」


 水越も、お返しにとばかりに弓波に言った。


「っていうか、じゃあツリーはどうするんだよ! せっかく飾ったのに!」


 弓波は慌ててそう言った。水越がいなければ、ツリーはどうするんだろう。


「安心してくれ。ツリーは大丈夫だ。俺は二十五日には帰ってくるから、二人で過ごせるだろ」


 そう言った水越の言葉を、弓波は聞き逃さなかった。


「じゃあ、二十五日には二人で過ごせるのか!」


 弓波は満面の笑顔で喜んだ。その姿は犬が尻尾を振っているようであった。


「はは、まったくお前には参ったな」


 水越はそう呟いた。


 ココアはすっかり冷めてしまっていたが、二人の会話の熱意は冷めなかった。







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