トリック・オア・トリート

「あっというまにハロウィンが来たな」


 ソファに座りながら、水越が呟く。


「そうだな! ワクワクするよ!」


 弓波も、ソファの縁に座りながら、嬉しそうに相槌を打つ。

 ハロウィンといえば、お菓子か悪戯か、という恒例の台詞だろう。


「ところでさぁ、ハロウィンといえばお菓子か悪戯だよな! 水越は

どっちか用意しているのか?」


 弓波が瞳をキラキラさせながら、水越の顔を覗き込む。

水越は、後ろ手に隠し持っている”箱”をぎゅっと握り、弓波に言う。

後ろがクッションになっているので、箱が潰れないように気をつけながら

水越は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、言う。


「あぁ、そうだな。その前に、お前はどっちなんだ? トリック・オア・トリート

どっちか選べ」


 すると弓波は待ってましたと言わんばかりに嬉々として言う。


「その質問を待ってましたー! 俺は、トリートだな! お菓子を水越に

あげるよ!」


 そして上着のポケットから飴やチョコを取り出す。


「おぉ、ポケットに入ってたのか。ありがとう、弓波」


 弓波はそんなところにお菓子を隠し持っていたのか、相変わらず行動が読めない奴だな、と水越は思い、お菓子を受け取った。

そういえば、最近お菓子をあまり食べていなかったな、と水越は思う。


「お菓子なんて、最近あまり食べていなかったからな。嬉しいよ」


 水越は弓波にお礼を言い、ふっと微笑んだ。

水越の笑顔を見た弓波は、満更でもない顔をしながら、うんうんと頷く。


「水越の満足そうな顔が見れて嬉しい! 俺もお菓子をあげたかいが

あったよ!」


 弓波はそう嬉しそうに言い、水越の顔をじっと見た。

おそらく、俺のアクションを待っているのだろう。


「……じゃあ、今度は俺だな。俺は、”これ”だ」


 水越は後ろ手に隠し持っていた箱を、弓波の前にさっと出す。


「おぉ! これは、チョコかな! それとも、大きさからしたら

クッキーかもしれない!」


 子供のようにはしゃぐ弓波を見て、水越は言う。


「とにかく、箱を開けてみてくれ。これはトリート––––」


 水越が箱を開けろと促したのを聞き、弓波は箱を開けた。

途端に、不気味な顔の風船のような物が弓波を襲う。


「うわぁっ⁉︎」


 てっきり、お菓子が入っていると思い切っていた弓波は驚き、思いっきり

のけぞり、ソファの縁から盛大に転けて尻餅をついた。


「び、びっくりしたー! ついでに尻も痛いし! 水越、気合い入りすぎ!」


 弓波はお尻をさすりながら水越に文句を言う。


「悪い。まさかソファから落ちるとは思っていなくて……。立てるか?」


 水越は慌てて弓波の元に駆け寄る。


「大丈夫だけど……。それにしても珍しいなぁ、水越がトリック側になるなんて。

俺、てっきりお菓子が箱に入ってるのかと思ったよ」


 弓波は驚きを隠せないといった様子で、水越に言う。


「今年はちょっと趣向を変えてみたんだ。驚いてくれて良かったよ」


 水越は嬉しそうな様子で弓波に言う。


「くっ……悔しいな。来年こそは、俺は水越を驚かすぞ!」


 弓波は悔しそうに言った。


「あはは、楽しみにしてるぞ」


 水越は、笑いながら弓波に言った。


 どこかで犬の鳴き声が聞こえた気がした。











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