第45話「ワガママ王女登場!勇者親子、破綻の危機…」

 埼玉さいたま県の県庁所在地であるおおみや市は東に瀬戌せいぬ市と新居須にいす市、西に稀沙良きさら市、ふじみ野市、富士見ふじみ市、志木しき市の4市、北に上尾あげお市、伊奈いな町、蓮田はすだ市の2市1町、南は戸田とだ市、わらび市、川口かわぐち市の3市に囲まれている。そんなおおみや市の中心駅であるおおみや駅のコンコースに、赤茶色とカスタード色の襟に、ベージュのセーラーカラージャケット、赤茶色とカスタード色のプリーツスカート姿の女子高生が仁王立ちをしている。ミルクティーのようなさらさらロングヘアーを頭頂部で2つにまとめ、ラベンダーのような色をした瞳の彼女の隣には、スーツケースが1つ…その制服姿はまさしくセントエトワール学院大学附属高等学校の制服で、右手には「交換留学の手引き」と書かれた冊子を持っている事から、彼女はどうやら交換留学先へ向かうようだ。


「やっと居場所を突き止めたわよ…キョーコ!!!今すぐあなたの職場に乗り込んでやるわ!」


 少女はそう叫ぶと、スーツケースを引きながら桃舞とうぶ鉄道の乗り場へと走り出した。




 ………




「それで、今日からネロと涼也りょうやは聖エトワール学院に向かうのね?」

「はい!聖エトワール学院とサン・ジェルマン学園の学校法人は違うんですけど、共に同じ米花よねはなグループが設立したので、その縁で毎年この時期に、学年ごとに2人の代表を選んで、交換留学をする事になってるんです。」

 新型コロナウイルスの件で一時期中止していた時期もあったが、去年は無事開催し、その交換留学で去年、玉菜たまなも聖エトワール学院に留学したのである。

「あれはいい刺激になりましたわー…それに、去年はあそこの理事長の娘が、いちごんを追いかけるゆっきーを見て、びっくりするような事を中等部でやってくれたそうじゃん!」

 去年の事を懐かしむ玉菜と隣で、みるくは顔全体を真っ赤に染め上げる。それを見つめるシュトーレンの方は体調がすぐれないのか、珍しく私服姿で昼間のリビングにいる。



「今から、1年C組の氷見雪斗ひみゆきとを捕まえた人には…期末テストを免除する権利を与えまーーーーーーーーーーーす!!!!!」



 他校の理事長の娘の鶴の一声で雪斗からの難を逃れた一悟いちごは、これ以上巻き込まれぬよう教室の掃除用具入れに逃げ込んだのである。そんな事も露知らず、教室の掃除を終えたみるくが掃除用具入れを開けると…


「バンッ!!!」


 なんと、みるくも掃除用具入れに入るハメになってしまったのだった。教職員達から雪斗達が大目玉を食らうまでの間、息苦しいながらも2人は狭い掃除用具入れの中黙って過ごし、拡声器から教師の怒号が混じるお説教が響き渡る中、2人はひっそりと気づかれぬよう下校を始めたのは言うまでもない。

「ホント、去年と比べりゃゆっきーも丸くなったモンよ。最近ユキちゃんの件で苦戦してるっぽいけどさ…」

 玉菜の言葉に、周囲はしんみりとする。カオスから生み出されたユキ自身の運命と、ユキ自身の本当の想いとの板挟み…雪斗自身は後者にまったく気づいてはいないも同然だが、前と違う態度には戸惑っているようだ。

「気づけよ…バカゆっきー…このたまにゃんが御膳立てしてやんのに…」


『まなちゃんも人の事言えないけどなー…』


 肘を立てながらジト目で窓の外を見つめる玉菜を見て、みるくはそう思った。どうやら玉菜は、瑞希みずきの感情に未だに気づいていない模様…




「カランカラン…」


「いらっしゃいませー!!!」

 ほぼ同時刻、カフェのドアが開き、そこから20代前半の男性と、10代後半の少年、小学校高学年ほどの少年が1人ずつ入ってきた。小学生程の少年は、応対しようとしたマリアの姿を見るや否や…

「あーっ!!首藤しゅとうのおじさんと同じ綺麗な赤い髪だーっ!」

「えっ…?」

 客として来た小学生に自分の髪の色を言われたマリアは思わず硬直するが…

「コラ、あらしっ!!!すみません…弟が…」

 20代前半の男性が、小学生の少年を窘めた。男性に窘められた少年は、咄嗟に10代後半の少年の後ろに隠れてしまう。

「自分は黒石くろいし楽器の大久保隆おおくぼたかしと言いますが、首藤和真しゅとうかずまさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「父は今、厨房にいますので、呼んできますね?明日香あすか、お客様3名!案内して!」


 すぐ近くにいた明日香にバトンタッチしたマリアは、急いで厨房へと入る。そこにはチョコケーキにトッピングを施す義兄のトルテと、カレー皿にご飯を盛り付けている父親のガレットがいる。

「パパちゃま!」

「マリー、仕事中はその呼び方やめろって言ってるだろ!!!」

「ごめんなさーい…それでね、黒石楽器の大久保隆って人が男の子を2人連れて来てるんだけど?」

「黒石楽器…大久保…」

 次女の言葉に、ガレットのカレーに乗せるためのトンカツを盛りつけようとする手が止まった。

「マリー、このカツカレーを盛り付けたら僧侶ちゃんの所に運んどいて!!!」

 次女にそう言うと、ガレットは大慌てで厨房をあとにしたのだった。

「おやっさん、何があったんスか?」

「知らない…」


 厨房を出たガレットは、明日香に案内された3人組の所にやってきた。

「首藤のおじちゃん、久しぶりーっ!!!」

「お前ら、元気してたかぁ?」

「お陰様で…本当は茂宮もみやさんも一緒に来る予定でしたが、急な仕事で来られなくなりまして…」


 実を言うとカフェにやって来た大久保隆、大久保嵐、友部健太ともべけんたの3人は、ガレットが温泉巡りをしながら瀬戌市方面に向かう様に南下している途中の茨城いばらき県で知り合った者達で、特に大久保兄弟の次男・嵐には非常に懐かれてしまったのである。


「ところで、親父さんの方はどうなった?」

「はい…8月の初公判で香苗かなえの件が認められまして、「犯行は短絡的ではあるが、被害者にも落ち度がある」…と。首藤さんが変電所前の丁字路で転倒した件については、「事件とは関係のない単独事故」として処理されましたけど。」

 ガレットの質問に、隆は落ち着いた口調で話す。大久保兄弟の父・大久保猛おおくぼたけしは茨城県警の巡査部長であったが、ガレットが巻き込まれた事件の件で逮捕され、現在は水戸みと市にある水戸拘置支所に収監されている。




 ………




「つまり、4月に茨城で起きた事件に、大勇者様が関わっていたってことか!」

 自宅のマンションに戻ってくるや否や、僧侶はそう言いながらリビングの椅子に腰かける。

「4月に茨城で発生した事件といえば、日立ひたち市で高校生が襲われた事件が大きく取り上げられてましたね?警察の方が逮捕されたあとは特に…」

「あぁ、それに被害者へのバッシングもな!私のシャベッターのタイムラインにイヤという程流れて来たから、忘れはしない…カオスイーツが現れたって話も出ていたからな。」

 アンドロイドの話に、僧侶はため息をつきながらそう話す。

「あらあら…アンヌはん、そんなにカルマンを責めたらアカンよ?」

「別に責めてなどいない…」


「そうなん?あぁ…そういえば、アンヌはんもせかんどはんもいない時間に、マンションの入り口に高校生の女の子が来ていたんよ。ミルクティーのような金髪をツインテールにした、どこかの学校の制服を着た女の子…」


 大賢者の言葉に、僧侶だけならず、アンドロイドも「ぎくり」と背筋が動く。僧侶一家が暮らすマンションはオートロック式で、住人はカードキーで入る事ができる。しかし、訪問者は入口のインターホンを使用し、オートロックを解除してもらってから入れる仕様となっている。

「大賢者様、つかぬ事をお聞きしますが、その女子高生はこの制服姿でありませんでしたか?」

 アンドロイドはそう言いながら、埼玉県の高校の資料集のカラーページを大賢者に向ける。

「そうそう…この聖エトワール学院大学付属高校の制服やったわ。」

「それで…名は名乗ったのか?」

「名前は「知ってて当然やろ」って態度やったから、名乗らへんかったなぁ…それに、彼女からアンヌはんに伝言預かってるんよ…」


「「キョーコ、やっとあなたの居場所を突き止めたわ!明日を楽しみにする事ね!!!」…って。」


 母の口から聞かされた伝言に、僧侶の顔は思いっきり青ざめる。




 ………




「えー…本日より、聖エトワール学院との交換留学が始まり、このクラスでは中津なかつゆめさんが聖エトワール学院へ向かうことになった。そして、その中津と交換という事で、このクラスでは赤間あかまリカさんを迎えることになった。」

 翌日の一悟のクラスのホームルーム…下妻しもつま先生の真横には桃色のボブカットの少女が立っている。

「赤間リカです!1週間の間、よろしくお願いします!!!」

「赤間は1週間、中津が使用している席を使用してもらう。千葉一悟ちばいちごの隣の廊下側の席だ。」

「はい…」

 先生に席の場所を告げられたリカは、指定された席へ向かおうとするが…


「あひゃっ…」


 途中で右足と左足がクロスするように絡まり、リカはそのまま前のめりへ倒れこみ、彼女が持っていたカバンは…


「いっくん!!!」

「いちごんっ!!!」

「大丈夫けぇ?」


 一悟の顔面に直撃したのであった。その様子を目の当たりにした下妻先生は、今朝の職員室での仁賀保にかほ先生の様子を思い出す。


『アンニンが不安視していたのは、こういう事だったのか?本人は二日酔いだと見え透いた嘘をついていたが…これは一波乱では終わらなそうな予感がする…』


 下妻先生はそう思ってはいるが、仁賀保先生の実際の悩みの種はリカの事ではない。




「今日から1週間、このクラスでは十津川とつかわさんが交換留学で聖エトワール学院へ向かい、その十津川さんと交換として、聖エトワール学院より綾音・アズマリア・ヴィルマンドさんを迎えることになりました。」


 僧侶の本当の不安の種はなんと、マリアと友菓ともかのクラスにやって来た。

綾音あやね・アズマリア・ヴィルマンドです。1週間の間だけど、よろしく!」

「それでは、席は…」

「十津川って子が使用している席…って事ですよね?先生?」

 石狩いしかり先生のセリフを遮るかのように、綾音が自分の席の場所を言い、彼女は黙って空席となっている窓際の席へと向かった。そんな彼女の後ろにはマリアの席がある。椅子を引いた綾音は、マリアと目が合い…


「あら、あなた…随分と珍しい髪色をしてるのね?」


 突然の少女の言葉に、マリアはきょとんとする。




「一体、どういうつもりだ?あずみ…」

 中等部の保健室のパソコンの前、僧侶はある人物にオンライン通話を行っている。

「私も知らなかったんだよ…アイツが交換留学でそっちに行くのが決まったって事…」

 僧侶の通話相手の背景には、実験器具と人体模型…どうやら理科準備室のようだ。彼女の名は「植草うえくさあずみ」。普段は聖エトワール学院大学附属中学校で教師をしているが、時折稀沙良市内のアンドロイド研究所で研究チームにボランティアで入っている。

「しかも、リカとバンビも一緒にいるってきたもんだよ…」

「ウチの学校は厄介者預り所じゃないんだぞ!!!重度の方向音痴ですぐ転ぶ中学生の赤間リカに、ヴィルマンドの脳筋軍人のバンビーナ・アレッサンドリア…そして、ヴィルマンド王国の気の強い超ワガママなプリンセス・アヤネ…」


「ガラッ…」


 僧侶アンニンもとい、仁賀保先生のセリフの途中、保健室の扉が開く音がした。

「それにしても、杏子…その子、メイプルズのKAEDEと似てるね?可愛いじゃん…」

「えっ…KAEDE?確かに、彼女の息子はこの学校で一番の神童と言われたOBで、娘は現在在学中…」

 そう言いながら振り向いた僧侶の背後には、みるくと顔面に殴打のあとがある一悟の姿…

「あの…いっくんの顔に、赤間さんのカバンが…」

 その言葉に、画面越しにあずみは項垂れ…


「すまねぇ…杏子…言ってるそばから被害者出して…」


 リカの転倒による被害者が、誕生してしまったのだった。




 ………




「よりにもよって、大勇者様は…」

「件の連続襲撃事件の控訴審に、弁護側からの依頼で出廷するそうだ。」

「アレ、茨城県警の上層部が地裁の判決に納得しなかったんだよなぁ…」

 どうやら大勇者は大久保兄弟の父の裁判の件で、東京にある高等裁判所に出廷する事になったようだ。

「だから昨日、カフェに大久保猛の息子達が来たんだ。3年前の大久保香苗の自殺が、殺人だったって事実を証明させるために!!!」

「やけに詳しいな…」

「カウンター席で、聞き耳立ててたんだ。それに、私も大久保香苗の自殺に違和感があったし…」

 当時、僧侶が在籍していた看護学校でも「あの状況で自殺はおかしい」という話も出ていたほど、暫く話題になっていた。僧侶は有馬ありまのセリフにそう返しながら、購入した食券を食堂の職員に見せる。

「そもそも、「いじめ」というくくりがおかしい…物を隠すのは窃盗、物を壊すのは器物損壊として扱うべき…あっ!!!10円足りない!!!!!」

 教師としては理にかなった事を言う下妻先生だが、食券を買うお金が足りない事が発覚している時点で締まりがない。

「仕方ない…10円は私が立て替えてやろう…トイチでな!」


『うわっ…この僧侶、せこっ!』


 食事を受け取り、空いている席についた僧侶は、向かいにふくれっ面で食事をしているマリアがいる事に気づく。

「マリー、お前…今日は弁当持参じゃなかったのか?」

「取られた…お姉ちゃんの手作りのお弁当…」

「取られた!?誰にだ?」

 弁当を取り上げられた事を聞かされた僧侶は、思わず身を乗り出して声を荒げる。


「綾音・アズマリア・ヴィルマンド…」

「ほほぅ…私の妹同然のマリーが持ってきた弁当を奪うとは…王女だろうが、尻たたきでは済まさんぞ…」

 そう話す僧侶の周囲には、彼女の怒りの炎が燃え上がる。




 放課後、一悟は頭に大きなたんこぶをこさえたまま、教室を出る。

「何回、俺が巻き添えになれば気が済むんだよ…」

「赤間さん…いっくんに恨みでもあるんですか?」

 一悟はまた、リカの転倒の巻き添えを食らってしまったため、放課後になるとすっかり、みるくに「要注意人物」としてマークされてしまったのだった。

「ご、誤解ですぅー…」


「どうなんだか…みるく、今日は下校時刻まで弓道部の練習があるから…」

「あれは、あたしが直接相談してみます。」

 石の様に仄暗ほのぐらいスプーンを見せながら話す雪斗の連絡に、みるくはそう答える。

「まだ解決してながっぺかぁ…」

 実は一昨日の夜から一悟達のブレイブスプーンの色が石化してしまい、一悟達は変身できなくなってしまったのである。

「そ、それって…どゆこと?」


「赤間さんが首突っ込む必要ねーべ!あだすらだけで解決すべき問題だぁ!!!」


「ひぃっ!!!」

 リカの疑問に、トロールが思わず声を荒げる。

「雪斗も、赤間さんと一緒の時にそんなものちらつかせて話ばするの不躾だっぺよ!!!」

「トロ子、そんなに罵る必要…」

「一悟も、ちんたらしてっと、遅刻で館長さんに怒られっぺよ?みるく、早く行ぐべ!」

 トロールの言葉に、一悟達は仕方なく大急ぎで昇降口へと向かう。



 走る一悟を見送ったみるくとトロールは、カフェへ向かおうとするが、守衛の前を通り過ぎるところである人物と遭遇する。

「先ほど、高等部から電話をいただいた、高等部国際学科1年の首藤まりあの姉です。」

 勇者シュトーレンはみるくとトロールの目の前で、守衛から入場許可証を受け取ると、そのまま高等部へ赤いデミオを走らせた。


「マリーに何かあったに違いねーべ!!!」

「行きましょう!」

 白いマスクを付け、スーツ姿で急いでいる様子だった女勇者の姿を見た2人は、再び学校の敷地内へ走り出す。その途中で僧侶と合流し、3人で高等部へ通じる石段を駆け上がる。

「僧侶様、マリーは…」

 普段の落ち着いたような表情ではない僧侶に2人は戸惑いを隠せない。

「詳細は高等部に行かない限り判らん…ただ、セーラからのLIGNEリーニュによると…」

 みるくとトロールに説明する僧侶の表情が、さらに険しくなり…


「マリーが…とんでもない相手を殴ったらしい…」




 生徒指導室には高等部の校長、生徒指導教員、担任の石狩先生、聖エトワール学院大学附属高校の教師が1人と、シュトーレンにマリア…そして、マリアが殴ったとされる相手は…

「妹さんは、大変な事をされました…交換留学始まって以来の事です…」


 まるでマリアに対して「この私に暴力を振った相手は、厳罰で当然」と言わんばかりの態度をとる少女…綾音・アズマリア・ヴィルマンドだ。


「私は首藤さんにお弁当箱を返却しただけです。なのに、彼女は突然殴り掛かったのです。」

 マリアの方は言いたい事があったようだが、殆ど綾音の主張が受け入れられたも同然で、マリアは仮処分として1週間の停学となってしまった。


「ガチャッ…」


 生徒指導室の扉が開き、そこから勇者姉妹が出て来る。その姿を野次馬の最前列で、みるく、トロール、友菓の3人は落胆の表情を浮かべるが…

「マリー…何も話そうとしないのよ…ずっと黙ったままで…」

 そんなマリアの表情は、どことなく悔し気だ。その表情を見るや否や、僧侶は昼休みのマリアの言葉を思い出し、怒りで拳を震わせる。


「ガチャッ…」


 勇者姉妹が生徒指導室をあとにして5分後、今度は綾音が生徒指導室から出てきた。


「所詮は庶民の味ね!ああいう悪趣味な味付け、好んで食べる人の気が知れないわ…それに、こっちが「友達になってやる」って言ってるのに、家族の事を「ストーカーしてそう」って言ったらすぐ怒って…」


 綾音の口から放たれた言葉を聞いた刹那、僧侶は咄嗟に綾音に飛び掛かり…


「バシッ!!!!!」


 生徒指導室の前が、一瞬にして騒然となった瞬間だった。綾音が吹き飛ばされるほどの平手打ちを放った僧侶の怒りのボルテージは最高潮に達している。

「キョー…コ…」


「私に言った「楽しみにしていろ」…とは、私の妹分を退学処分にまで陥れるという事か?マリアから勝手に弁当を取り上げた分際で、マリアに対してのその言い草…王女として、恥ずかしくないのかっ!!!!!この大バカもんっ!!!」


「せ、先生が「聖奈せいな」さんの事以外で…ここまで怒るなんて…」

 昼休みの事は高等部に向かいながら僧侶から聞いていたみるくとトロールだが、僧侶の壮絶な形相に、2人は手を出すこともできなかった。

「た、確かに…あのごじゃっぺ女、叩かれて当然かもしれねっぺ…でも…」

 まるで凍り付いたように張り詰めた廊下…僧侶はそのまま綾音の胸倉を掴み…


「国際問題になろうが、知った事ではない…その腐った性根、私が叩きなおしてやるっ!!!!!」


 高等部の教師達に止められるまで、怒り狂った僧侶の平手打ちは止まらなかった。血の気が引くように青ざめるみるくとトロールの間で、友菓は呟く…


『マリーも…僧侶様も…怒るのは仕方ないと思う…大切な人をバカにしたら、あたしだって…黙っていられないから…』




 ………




「大体の事はセーラ達から聞いたけど…マリー、どうして王女に手を出したんだ?」

 夕飯を終え、片づけをトルテに任せたシュトーレンは、2人で父親に向かい合うように、妹の隣に座る。

「食べようとしたお弁当…勝手に取り上げた癖に、「美味しくない」…って。」

「それを…王女が言ったの?」

「「ちょうだい」って言うなら、分けてあげたし、「ありがとう」って言うなら、許せたのに…」


「友菓もその様子を見ていたから、そうかもしれねぇけど…人の味覚や味付けは人それぞれ…だけどな、マリー…味付けを侮辱されたからって、他人に手を出すなんて…スイーツ界の勇者としてあるまじき行為だ!!!!!」


 父親の言葉に、マリアは愕然とする。

「とにかく…正式な処分が決まるまで、お前の剣は俺が預かる!それに、お前のせいでアンヌちゃんは自宅謹慎になったんだからな?」

 大勇者が僧侶が謹慎になった事を告げた途端、今度は姉であるシュトーレンも愕然がくぜんとする。

「あ、アンヌが謹慎!?どうして?」

「詳しい事はエクレール達に聞かねぇとわかんねぇよ…お前がマリーと一緒に指導室を出たあと、王女に罵声浴びせた上に往復ビンタかましたらしい。」

「そんな…それに、ヴィルマンド王国の王女なんでしょ?キョーコせかんどは…」

「最悪の場合、せかんどちゃんは処分の対象だろう…今はせかんどちゃんと通信すらできねぇ…」

 その言葉に、シュトーレンは血の気が引いたかのようにソファに倒れそうになる。

「それに、セーラ…今日、病院に行ったのか?昨夜は「食欲ない」って言って、早めに食事を終えただろ?」

「忘れてた…」

「お前の体調不良で一悟達に影響出てんだから、どうするかハッキリさせとけよ?明日も食堂の仕事休んで、カフェ手伝ってやるから…」

 一悟達のブレイブスプーンが石化した理由は、どうやらシュトーレンが影響しているようだ。体調が思わしくない長女を気遣う父親の姿に、次女の表情は段々と険しくなる…




 一方、アンニンのいるマンションでは、暗い部屋の一室で、女の僧侶は1人…機能停止したままのアンドロイドを見つめている。

「すまない…キョーコせかんど…」

 ベッドを背もたれにしつつ、赤く泣きはらした目の僧侶…彼女はあの後、仮処分として1週間の自宅謹慎となり、さらにヴィルマンド王国産のアンドロイドの使用停止を告げられ、正式な処分が決まるまでの間、キョーコせかんどが動くことはない。


「コンコン…」


「入ってもえぇやろか?」

 扉をノックする音が響き、開いたドアからブランシュ卿夫人が顔を出す。

「構わん…」

 娘の返事を聞いた夫人は、彼女の隣にそっと座る。

「昔と変わってへんなぁ…大切な人を守るために、相手に対して怒る事…セーラはんが町の男の子たちにいじめられてた時も、そうやって怒っておったなぁ…」

「でも…私は、それが原因でキョーコせかんどを…」

「せかんどはん、アンヌはんの事…怒ってへんと思うけどなぁ…?」

「えっ…?」

 母からの言葉に、僧侶は狐につままれたような顔をする。


「それに、アンヌはんは大切な人を守りたかったから、王女様を叩いたんやろ?アンヌはんがそうでもせなあかんと思っとったんなら、それでえぇ!王女様は世間知らずすぎただけ!マリアはんは、お弁当を作ってくれたセーラはんのために、王女様に対して怒っただけ!ウチはそれでえぇと思うよ?」


 そう言いながら、大賢者は24歳の娘を優しく抱きしめる。

「今は、アンヌはんにとっては辛いかもしれんけどなぁ…せかんどはんは、ちゃんとアンヌはんの所に戻ってくる…そういう予感がするんよ。」

 母の言葉に、僧侶はゆっくりと両目を閉じる。


「安心せぇ…ウチがアンヌはんの世話も、上申書を書く手伝いもしたるから…」




「ピーンポーン…」


 玄関のチャイムが鳴り響く。一家の大黒柱であるガレットが扉を開けると、そこにはミルクティーのような髪色をしたストレートロングで、執事服姿の青年が立っていた。

「夜分遅くに失礼いたします。私はALFORDアルフォード.MystarAndroidマイスターアンドロイド9-20セプ・トゥエニ…昼間は私の元主がご息女にご迷惑をお掛け致しまして、申し訳ございません!!!」

 突然訪問して来た執事服姿のアンドロイドは、大勇者の前でいきなり土下座をして謝罪する。その様子に、大勇者は戸惑いを隠せない。

「い…いや…迷惑なのは、王女を殴った…」

「アレは王女ではございません!世間知らずな王家の出がらしです。ご息女に殴られて、残念でもないし、当然でございます。ちなみに、当のワガママ女は兄である国王からお説教中です。」

 アルフォードと名乗るアンドロイドは、綾音に対する暴言を吐きつつ、彼女の現状を簡潔に伝える。綾音はヴィルマンド国王である長兄・シオンから、オンラインではあるが説教を受けているため、アルフォードが単身で訪問したようだ。

「それで、アンドロイドがどうしてウチに?」

「王家の面汚しがご家族に暴言を吐いたという事実確認をしたいのですが、まりあさんは御在宅でしょうか?」

 アンドロイドの問いかけに、大勇者はふいに言葉を詰まらせた。「勝手にマリアのお弁当を食べた」という事は聞いていたが、「家族に対して暴言を吐いた」という事は聞いていない。

「国王の汚点が、まりあさんのスマホに入っていたご家族の写真を見て「臭そう」とか「ストーカーしてそう」とののしったと申してまして…私も、それ聞いた時にゲンコツを1本落としました。」

 アルフォードからの発言に、一切のでっち上げが見えない。それを悟った大勇者は、王女に対するいきどおりを募らせつつ、階段の方へ足を運ぼうとするが…


「ダダダダダダ…」


 突然勢いよく階段を下りる音が響き、アランが血相を変えた状態で父親の前にやって来た。

「父さん!マリーが…マリアがいなくなった!!!!!」

 アランの左手には、マリアが書いたと思われる書置きが握りしめられている。


「こんな問題児、この家にいなくていいよね?」


「バカやろう…」

 そう言いながら、ガレットは息子から受け取った書置きを握りつぶしてしまった。

「あの世間知らずは、「家庭崩壊」というとんでもない事をしてくれたようですね。ご不在ならば、日を改めて出直します。それでは…」

 呆れた表情で王女の失態の影響を痛感したアルフォードは、大勇者とアランの前で最敬礼をすると、そのまま首藤家をあとにしたのだった。


 突然の末っ子の家出に、勇者一家は大騒ぎに発展し、すぐさま家族全員玄関に召集された。

「セーラ、俺はアランとトルテと手分けして捜しに行くから、お前は家に残って一悟達に問い合わせるんだ!まだ遠くへは行ってないはずだから!!!」

「は、はい…でも、気を付けてよ?いつ、あのゴリラが来るかわからないんだから…」

 女勇者がそう言う間に、ガレット達は玄関を飛び出した。女勇者は男手全員見送った後、玄関を閉め、一悟達にグループLIGNEでマリアがいなくなった事を告げ、ある人物に連絡を入れた。




「マリアが家出をした?一体どうして…」


 電話の相手は、ブランシュ卿である。女勇者は事の起こりを説明するが、自分の娘も王女に手を上げた事は既に聞かされていたようだ。

「もとはと言えば、勝手にマリアの弁当食べた上に、お前やカルマンに対する暴言を吐いたお姫様が悪いんだろ?確かに手を上げた事はよくないが…でも、マリアが家出したのは、その事を叱られたからじゃなくて、カルマンが目の前でお前にばっかり気を遣うものだから、それが面白くないんじゃないかなぁ…」

「えっ…?」

 ブランシュ卿からの言葉に、シュトーレンは驚いたような顔をする。

「よくあるだろ?上の子が得とか、下の子が得…とか。特にあの子にとっては…アランは、仕方ないって割り切っていたみたいだけどな?マリアの方は、「お姉ちゃんの事ばかりで私の事見てくれない」って、カルマンがニコラスの調査を終えて戻って来たのに、すぐお前を捜しに人間界に戻って…そのあと、ずっと愚痴をこぼしてたんだぞ?」

「そうだったのね…親父は平等に接しているつもりでも…」


 しかし、ブランシュ卿は現在、彩聖さいせい会瀬戌病院の一室で入院患者のカルテを書いている。そんな彼がのんびり通話しているワケにはいかない。

「先生!陣痛室で待機しているの羽鳥はとりさんが破水しましたっ!!!」

「今すぐ分娩室へ!!!私もすぐ行く!とにかく…お前は、マリアがいずれ戻ってくると信じて待ってなさい。アンヌの事は、ジュリアに任せてあるから…」

 陣痛でうめき声を上げる女性の声と共に、通話が終わる。ブランシュ卿に預けていた時の妹の事を知ったシュトーレンは、まるで力が抜けたかのように、テーブルの上にもたれかかった。




 ………




「ピーンポーン…」


 極真会館近くにある小洒落たマンション「シャンゼリゼ木苺きいちご」の302号室で、インターフォンが鳴り響く。この部屋の住人である20代の女性がドアを明けると、そこにはアランが立っている。

「1人暮らしの…ましてや、自分の姉より年上の女性の家に、何の御用ですかぁ?首藤嵐くん…」

「マリーが有馬さんの所に来てないか聞きに来ただけだよ?それに、泥酔状態でその恰好…元男である事隠しても、貰い手来ないよ?」

「うっせぇ!!!家で自堕落じだらくにしてんのは、虫除けだ!虫除け!!!」

 下はジーンズにも関わらず、上は黒いスポブラで、口元にはあたりめを加えている姿を指摘された有馬は、大慌てで玄関にかけてあるブルゾンを取り、羽織る。アランは、そんな有馬の足元にマリアの靴がある事に気づく。

「そう言えば、有馬さんって…実際は3人兄弟の末っ子なんだよね?」

「あぁ…今は横浜で歯科医やってる兄貴と、東京のアパレル会社に努めている姉貴がな?」

 有馬の答えに、アランは何かを察したようだ。

「そっか…だったら、俺がマリーを捜しに行くまでもないかな?何かあったら、連絡して。どーせ、俺はマリーを連れ戻せるワケないし…マリーの気が晴れるまで、そっとしといた方がいいよな?」

 有馬にそう告げたアランは、そのままエレベーターへ向かった。


 アランが帰った事に気づいたのか否か、有馬の部屋のバスルームからマリアが出てきた。

「誰か来たの?」

「マンションの管理人さんだよ。この辺に高瀬一誠たかせいっせいの家があるから、マナーの悪い追っかけが多いんだ。」

 有馬はそう言いながらドアを閉め、マリアと一緒にリビングへ向かう。テーブルにはビールの缶が散乱し、無造作にコンビニで買ったあたりめとチーズかまぼこが置かれている。

「それにしても驚いたぜ…エイトテンで買い物中に、お前がこれからコミケに行くような荷物で入って来るんだからな?」

「だって…パパはいっつもお姉ちゃんの事ばっかり…もうお姉ちゃんにはトルテお兄ちゃんがいるのに…お姉ちゃんから離れようとしない…」

 勇者のタマゴの言葉に、有馬は不意に実家の事を思い出す。


 3人兄弟の末っ子で、いつも親は一番上の兄をひいきにしていた事…親自身は平等に接しているように思っても、当の子供にはそう思われていないのである。


「若干12歳で病弱の母親と、まだ赤ん坊だった双子の弟と妹を、一家の大黒柱として支えてきたってのに…自分の子供の事はまだ何もわかっちゃいねぇんだよな?だから長女に口紅で顔に落書きされたり、焼肉にワサビたっぷり塗られたりするんだよ…」

「それって…」

「お前の親父さんの事!クラフティから聞いたエピソードも山ほどあるぜ!生まれたばかりのクラフティに木の実丸のみさせようとしたり、教会の外壁に魔法陣描いたのをクラフティのせいにしたら、エレナさんとブランシュ卿がチクってブランシュ卿の親父さんにこっぴどく叱られたり…」

 殆ど、勇者クラフティに対する悪態である。それを聞いたマリアも、今までずっと黙っていた父親への不満を暴露する。


「ママが死んで半年ぐらいの時だったかな…私、熱を出したの。必死にパパに伝えたんだけど、取り合ってもらえなくって…」




「あちゅい…パパしゃま…マリー…かりゃだ…あちゅいの…」

 今でも覚えている…突然の高熱を出した時の事。だが、父は3歳の娘の必死の訴えに聞き耳を持つことはなく…

「今、忙しいんだ!あっち行って大人しくしてなさい!」

 高熱を訴える3歳のマリアにとっては、ショック以外のなんでもなかった。兄と叔母がマリアを教会に運んだあとの事はあまり覚えていないが、父は叔母とブランシュ卿にこっぴどく叱られたらしい。




「パパにとって…私はいらない子なのよ…私も…パパの娘なのに…パパなんて…大っ嫌い!!!!!」


 紙コップに注がれたジンジャーエールに映るマリアの顔から、大粒の涙がぽたり…ぽたり…と落ちる。まるで、マリアが長年黙り続けてきた父親への不満が暴露されるかのように…




 ………




「もうワケわかんなくなってきたぜ…マリーが停学になるわ、僧侶様が王女様叩いて謹慎になるわ、勇者様はあのLIGNEのあとから音信不通だし…」

 昨日の騒動から一夜が明け、一悟達はどんよりとした表情で登校中だ。特にリカの転倒の被害に遭った一悟の様子は、まるでイヤイヤ登校しているような状態だ。

「ただでさえ、マジパティの事で忙しいのに…ここで、赤間さんが合流なんてしたら…」

「みるく…噂をすれば…」

 トロールの言葉にみるくが振り向くと、そこには転倒したリカの下敷きとなった一悟の姿…


「赤間さんっ!!!ホントのホントにいい加減にしてくださいっ!!!!!」


 リカに悪気はない…本当に悪気はない…多分。




「コレでよし…と。一悟もとんだ災難ね?」

 中等部の保健室にて、明日香が一悟に応急処置を施す。本日より仁賀保先生が不在ではあるが、鍵は職員室にあるため、鍵があれば保健室での治療は可能だ。明日香は通信課程の登校日で、登校中にリカの巻き添えを食らっている一悟を見つけたらしく、咄嗟に合流したようだ。

「ありがとうございます、明日香さん…そういえば昨夜、マリーは…」

「あーちゃ…じゃなかった、木津きづ先生のマンションに行ったみたい。ウチには来なかったわ…」

 一悟の額に貼った冷えピタの剝離フィルムを片付けながら、明日香は答える。

「でも、私達が思っている以上にマリーと大勇者様はこじれてた。家出の理由が、王女を殴った事を叱られたからじゃなくて、セーラの事ばかり構うのが気に入らない…って。」

 その言葉に、一悟は勇者モンブランのミルフィーユこと、姫路若葉ひめじわかばの事を思い出す。彼女は一悟の母方の祖母である娘・森野一葉もりのかずはと折り合いが悪く、娘と和解を決意した時には、既に娘は亡くなっていた…一悟が女の姿で面会した時の言葉が、それを証明していた。


『人間関係って…一度こじれると、簡単に直らねぇんだよな…』


 一悟の応急処置を終えた明日香は、そのまま高等部へと向かい、一悟達は教室へと入った。ホームルームで仁賀保先生の謹慎の話が伝えられ、一悟のクラス全体に落胆の声が響く。生徒の人気が高い先生だけに、猶更だ。問題の王女は国王の命令が下ったらしく、登校していないようだ。

「それから黒部くろべと氷見は本日、風邪で休むと連絡が入った。季節の変わり目で体調を崩しやすい…体調管理には気を付けたまえ!」

 その言葉に、一悟とみるくは勇者シュトーレンの事を思い出す。昨夜から彼女へのLIGNEに「既読」が付かず、今はどうしているのか分からない。そんな一悟達の違和感はまだ続く…




 ………




「中等部養護教諭・仁賀保杏子にかほきょうこ教諭及び、高等部国際学科1年・首藤まりあの昨日の謹慎及び停学処分内容ですが、これらを全て撤回と致します!!!繰り返します。中等部養護教諭・仁賀保杏子教諭の謹慎及び、国際学科1年・首藤まりあの停学処分は、全て撤回!明日より出勤、通学を許可致します!!!」


 昼休みの緊急放送に、一悟達は唖然とする。昨日決まった処分が翌日に撤回され、なかった事にされる…確かに2人はヴィルマンド王国の王女を殴った事に間違いはない。それなのに、どうしてこんなにも早くお咎めなし扱いをされるのか…一悟達はそれを奇妙に感じた。

「国王からの要請…だろうな。」

「「「国王からの要請!?」」」

「あぁ…ヴィルマンド王国は現在、シオン・オーギュスト・ヴィルマンド…綾音・アズマリア・ヴィルマンドの兄が齢26にして、国の長を務めている。」

 驚く2人に、ここなはヴィルマンド王国の国王と綾音の血縁関係について説明する。今日は珍しくここなが食堂に来ており、一悟達はここな達と同じテーブルに座っている。

「それに、9年前よね?前国王夫妻が、大統領の側近に銃で撃たれたの…」


 当時の大統領側近・ムンバイ大牟田おおむたによる9年前の夏の銃撃事件は、日本でも衝撃が走った事件で、それがきっかけでヴィルマンド王国でクーデターが発生。100人近い犠牲者が出てしまい、その犠牲者のうち、9人が日本人だった。


「あの事件は、今でもインターポールが調べているくらい、謎が多すぎる。赤間夫妻までもが、なぜムンバイ大牟田の凶弾に倒れねばならなかったのか…それに、現国王の弟・レオン・アルフォンソの死亡説…」

 そう言いながら、ここなはカレーを口に運ぶ。赤間夫妻はここなの父親が金城きんじょう不動産の社長だった頃に支援していたらしく、ここなも赤間夫妻の事はよく知っている。

「ところで、友菓は?」

「ホームルーム中に、「この中に、件の王女の言動を録画、もしくは録音していた者はおらぬか」…と、国王の側近に連れ出された。来賓らいひん室で割といい待遇受けてるって、パソコン室から戻って来るボネから聞いた。」

 その発言に、みるくと明日香はゾッとする。2人はどうやら、国王によって友菓が口封じをされる事を予想したようだ。

「で、でも…口封じなら…どうして処分撤回に…」

「それが知ることができたら、苦労しねぇよ…っつーか、今日のカレー…いつもと違う…」

 カレーの異変に気付いた一悟は、みるくにもカレーを食べさせる。

「ホントだ…いつもより辛くない…」

「確かに…マリーの事で気が動転してるなら、ごじゃっぺな味付けになるはずだっぺ。美味しいけど、今日の味付けは「首藤和真の味付け」ではねぇ…」

 目の前でカレーの異変に気付いた一悟達見る明日香は大量の冷や汗を垂らし、目線は厨房で調理をしているガレットらしき人物に向けられる。見た目は確かにガレットではあるが、今日はどうにも手際が悪く見える。




 放課後になり、リカはため息をつきながら教室を出る。

「はぁ…ついてない…また千葉君巻き込ませちゃって、その度に米沢よねざわさんと土呂とろさんが怒るし…火消しみたいな事してくれる氷見君はいないし…」

「雪斗のあれのどこが火消しだ?」…と、突っ込みを入れたくはなるリカのひとりごとではあるが、流石に2日連続で一悟を巻き添えにした事について、相当堪えているようだ。

「こころが私を推薦したから来たけど…来るんじゃなかった…それに、マルチメディア部の部室見つからないし…」

 そうボヤきながらマルチメディア部の部室を目指すリカではあるが、実際に向かっているのは、マルチメディア部の部室とは正反対の方角だった。

「一緒に部室に行くはずの柚麻は、「氷見雪斗が休みだから張り合う気無くした」って言って、ホテルに戻るし…」

 リカの友人である綾部柚麻あやべゆまは、一悟のいとこである涼也の交換相手として交換留学に来ている生徒で、聖エトワール学院大学付属中学校女子弓道部のエースにして、京都育ちの中学生である。黙っていればおしとやかな大和撫子だが、弓道に関してはいつも雪斗と張り合おうとするので、弓道仲間からは「氷見雪斗のライバル」として扱われている。


「それで…ここ、どこ?」

 ボヤきながら歩いてきたリカがたどり着いたのは、高等部の中庭であった。気づいた時、既に遅し!周囲を歩いているのは、高校生ばかり…


「また道に迷ったーーーーーーーーーーー!!!!!」


 そう叫んだ刹那、リカの背後に黒いもやが直撃し、リカの姿はみるみるうちに巨大なスイーツの怪物へと変わっていく。

「行け、バナナロールカオスイーツ…」

 黒いフードを纏った男がそう言うと、バナナロールケーキのカオスイーツは両目を赤く光らせ、仄暗く染まった空の下、高等部に襲い掛かる。




「遅いな…赤間…」

 マルチメディア部の部室では、部長の瑞希、副部長のトロールに、部員のみるく、そして顧問の下妻先生が待機している。

「赤間は方向音痴だと聞いてはいるが、方向音痴にしては随分と迷いすぎではないか?」

 リカの方向音痴っぷりを甘く見てはいけない!どんよりとした外の景色に、瑞希はある事を察する…


「カオスイーツが現れ、巻き込まれたのかもしれません!!!危険な状況ではありますが、手分けして赤間さんを探すしか方法はありません。」


 部長の鶴の一声で、部室にいた部員と顧問は部室を飛び出し、手分けしてリカを探し始めた。トロールは咄嗟にブレイブレットを使って信号を送るが…


『ガレちんの反応がねーべ…やっぱり昼間、食堂にいたのは、ガレちんに化けた他人…』


 高等部から上空目掛けて放たれる3色の光を背景に、トロールは深刻な表情を浮かべる。




 ………




「トロールからの信号のお陰で助かった!まったく、とんでもないカオスイーツだ…」

 プディングに変身したここなは、高等部校舎内の廊下を走り、カオスイーツを捜している。

「カオスイーツにされたのは、超ド級の方向音痴で間違いないだろう。引き続き探索頼むぞ、セイロン!」

 パートナーと似ているのか、ティーカップに身体を入れた精霊は、ここなの言葉に黙って頷く。


「ドゴッ!!!」


 高等部の校舎内にある音楽室で合唱部の練習中だった玉菜は、スカートの中が見えるのも構わず、素早い足技でチョコレート色のスポンジ状の物体を蹴り上げる。

「変身できなくても、私にはテコンドーがあるのよっ!!!」

 音楽室がチョコレート色のスポンジ状の物体で埋め尽くされている所からして、合唱部の部員達はそれらの中に閉じ込められてしまったのである。

「それに、トモちん達にも手柄をあげたいもんね?」

茅ケ崎ちがさきでは、真っ当にマジパティとして力を合わせられなかったし、今日は一肌脱いじゃうもんね♪」

 ソルベに変身した友菓と合流した玉菜は、友菓と共にカオスイーツを追いかける。


 カオスイーツは高等部のあちらこちらに瞬間移動しては、スポンジ状の物体をまき散らし、生徒及び教員たちを物体の中へ閉じ込める。

「ミルフィーユ、カオスイーツがいます!!!」

 ミルフィーユに変身した明日香がモカと共に校舎内から昇降口へ抜けると、そこにはバナナロールケーキのカオスイーツが立っている。


禍々まがまがしい混沌こんとんのスイーツ、勇者の力を受ける覚悟を決めなさい!!!!!」


 マジパティの姿に気づいたカオスイーツは、マジパティと精霊目掛けてチョコレート色のスポンジを飛ばすが…

「ミルフィーユリフレクション!!!!!」

 回転したミルフィーユグレイブによって、スポンジ状の物体は弾き飛ばされる。

「今度はこっちから行くわ!行くわよ、モカ!!!」

「かしこまりました!」

 明日香の言葉に、モカはしゃんとお辞儀をする。


「精霊の力と…」

「勇者の力を一つに合わせて…」

「グレイブエクステンション!!!」

 モカはピンクの光を纏いながら、ロボットアニメの主役機が武器を構えるような姿で立つミルフィーユが持っているピンクの長薙刀の飾り布の付け根に飛び乗る。その瞬間、ミルフィーユグレイブの刃の部分がピンクの光を放ちながら刃先が長く変形する。明日香は思いっきり地面を踏みこみ、勢いよく飛び上がる。


「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」


 明日香は掛け声と同時に、長薙刀を振り上げる。


「ストライク!!!」


 明日香が叫んだ瞬間、長薙刀はピンクの光を放ちながらカオスイーツを頭上から一刀両断するが…


「NOOOOOOOOOOOOO!!!!!そんなもの、振り回したらいけまセーーーーーーーン!!!」


 突然の銃声と共に響く少女の声に、明日香とミルフィーユグレイブは強制的に引き離され、明日香は地面に身体を叩きつけるように倒れてしまった。

「ミルフィーユ!!!」

「銃刀法違反デース!!!」

 そう言う黄金の髪をサイドテールに纏めた少女の両手には、拳銃が1丁ずつ…言っている事と、戦うヒロインに対してやっている事が矛盾している。モカは咄嗟に明日香を助け出そうとするが…


「うぐっ…」


 カオスイーツが丸腰同然のマジパティを片手でひょいと持ち上げ、明日香を掴む手を思いっきり握り始めた。戦いの邪魔をした脳筋軍人には、明日香が悪人にしか見えていないらしく…

「OH!逮捕のご協力感謝しマース!」

 そう言いながら、脳筋軍人は再び、明日香に銃口を向け、発砲する。今度はあちらこちらに銃弾が飛び交い、今度はカオスイーツやモカも銃弾を受けてしまう。


『なんて空気を読まない方なんでしょう…自分の世界しか見えていらっしゃらないのですか?』




 ………




「因果応報だよ…父さんの娘は姉さんだけじゃないのに、姉さんにばっかり気を使うから、マリーはキレたんだよ…」

「大勇者様にとって、マリーは本当に要らない子なんですか?」


 ほぼ同時刻 ― 「本物の」大勇者ガレットは、有馬から預かった自宅の鍵を使って、有馬の部屋へ入る。昨夜、帰宅した息子に言われた辛辣な言葉と、今朝の有馬の質問が脳裏にこだまする。今まで子供達に対して平等に愛情を注いでいたつもりだった。しかし、アランとマリアはそれが平等の愛情だとは思っていなかった。特に、マリアは…


「何やってんだろうな…マリーも俺の娘なのに…娘だってわかってんのに…まるで、違う存在に見えてきちまう…」

 それでも、マリアを迎えに来たことに変わりはない。ガレットは部屋の奥へと進むが、そこにいたのは熱を出してぐったりとしている次女の姿…



「あちゅい…パパしゃま…」




 ………




「トロ子!!!」

 校舎内の途中で、トロールと玉菜が合流する。そんなトロールの持つエンジェルスプーンは、玉菜と同じく石化している。

「どうしたのよ…そのブレイブスプーン…」

「ガレちんの心が弱っちまった…もうあだしもマジパティに変身できねぇ…(ガレちんの心が弱ったのよ…もうあたしもマジパティに変身できないわ…)」

 その言葉に、玉菜は耳を疑った。

「13年前、同じ現象が2回もあんべよ…ガレちんの嫁さんが亡くなった日と…(13年前、同じ現象が2回もあったわ…ガレちんの嫁さんが亡くなった日と…)」


「パンパンパン!!!」


 トロールのセリフを遮るかのように、銃声が響き渡る。脳筋軍人が乱射する銃弾が飛び交うため、丸腰の玉菜は愚か、他のマジパティもカオスイーツに近づくことができない。

「あの交換留学生、どうにかできないかしら…このままじゃ、明日香が本当にハチの巣になっちゃう!!!」

「ごじゃっぺヤローが…せめてごじゃっぺの弱点さえわかれば…」

 青ざめる玉菜の隣で、トロールが苦虫をかみつぶしたような表情をする。


「それなら任せろ!」


 突然の僧侶の言葉に、玉菜とトロールが振り向く。そこには謹慎を解かれた僧侶と、栗色のセミロングの女性が1人。そして…


「あ、あ…あなたは…」

 玉菜も驚くほどの人物の姿に、トロールも目を皿のように丸くする。

「軍人を止めるには、このお方の存在が最も強力だ!!!」

 そう言いながら、僧侶はある人物に拡声器を捧げる。


「ヴィルマンド王国国軍陸上部隊・バンビーナ・アレッサンドリア中尉に告ぐ!!!そなたは余に対する謀反により、ヴィルマンド王国への強制送還を命ずる!!!!!」


 僧侶が連れて来たのは、ヴィルマンド王国国王であるシオン・オーギュスト・ヴィルマンド王だった。突然の国王の言葉に、脳筋軍人は背筋をビシッと正し、拳銃の乱射を止めてしまった。

「マジパティの戦闘妨害は、余に対する謀反そのものである!!!直ちに祖国で反省せよ!」

 ご丁寧にも、ビシッと敬礼をするのがいかにも軍人らしい。

「素晴らしいお言葉にあらせられました。あとはマジパティと勇者にお任せください。」

 国王は僧侶の言葉に安堵すると、今度は拡声器で…


「マジパティと勇者達よ、その醜い化け物を余の前で人間の姿へ戻していただけるか?」


 その言葉に、明日香は友菓に支えられながら立ち上がり、ここなの回復魔法でモカ共々傷を癒す。だが、カオスイーツは3人のマジパティに向けてスポンジ状の物体を投げつけようとする。


「バンバンバン…」


 今度の銃声は、全てスポンジ状の物体を光の粒子に変えてしまった。

「銃は人に向けるモンじゃないぜ?」

 クリームパフに変身した有馬がポーズを決めると、今度は1人の人影が明日香達の前に出てきた。


「はあああああああああああああああああっ!!!!!」


 道着姿の一悟は力を溜めるや否や、拳を思いっきりカオスイーツのバナナの部分にぶつけ、カオスイーツの身体の中心に風穴が開いた。

「押忍っ!!!あとは頼んだぜ、勇者クラフティ!」

「結局、バレてんのかよ…」

「いつも大勇者様のカレー食ってる俺の舌は誤魔化せねーよ!」

 一悟の発言に悔しさを浮かべる男の勇者は、ケーキスタンドの上段にレインボーポットをセットした。


「みんなの心を一つに会わせて!!!」


 勇者の叫び声と共に、マジパティ達は勇者の元へあつまり、白い光の中で仲間たちと手を取った刹那、3段式のケーキスタンドから新たなるスイーツのエネルギーが送り込まれる。


「強き勇者の力!!!」


 白い光がおさまると、ミルフィーユのコスチュームは、ピンクからパステルピンクを基調としたコスチュームに変化した。


「育まれゆく勇者の愛!!!」


 ミルフィーユに続いて、プディングのコスチュームは、クリーム色を基調としたコスチュームに変化し、ケーキスタンドの上で紳士のようなお辞儀をした。


「深き勇者の知性!!!」


 今度はソルベがコスチュームをパステルブルーを基調としたコスチュームにチェンジし、可愛くポーズを決める。


「眩き勇者の光!!!」


 クリームパフはコスチュームを淡いラベンダー色を基調としたコスチュームに変化させ、ファイティングポーズを決める。


「そして、大いなるみんなの勇気!!!!!」


 最後に男勇者が叫び、勇者の甲冑は白金の甲冑へと変わった。


「生まれゆく奇跡、紡がれる絆と共に!!!!!」


 精霊達の言葉と共に、レインボーポットを乗せたケーキスタンドが巨大化し、下段にマジパティが4人全員乗り、中段に精霊が4人全員乗る。有馬と一体化したバニラも一緒だ。最後にケーキスタンドの上段に勇者が着地すると、勇者は大剣を構え、光の魔法陣でバナナロールカオスイーツの動きを封じ、マジパティ達は全員右手を空高くつき上げる。


「「「「「マジパティ・ブレイブ・ファウンテン!!!!!」」」」」


 ケーキスタンドの頂点のハートの飾りから虹色の光が放たれ、勇者の大剣が虹色の光を帯びながら分身し、バナナロールケーキカオスイーツに次々と炸裂する。


「「「「「Adieuアデュー.」」」」」

 カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿である赤間リカに戻る。

「えがった…コレで部活に戻れっぺ!(よかった…コレで部活に戻れるわ!)」




 ………




「13年前のスイーツ界では「原因不明の熱病」と診断せざるを得なかったが、アレは人間界で言う「インフルエンザA型」だったという事だ。」

 一悟達のブレイブスプーンが石化したのは、シュトーレンがインフルエンザにかかってしまったからだった。有馬の家でぐったりしていたマリアも、父親によって連れていかれた病院で「インフルエンザA型」と診断された。シュトーレンはマリアが家出したその日のうちに、夫の運転で彩聖会の夜間救急に運ばれ、そのまま入院したのだった。

「流石に、父さんも同じミスはしなかったか…そりゃあ、熱出した姉さんに構いすぎて、当時3歳のマリーが3日間生死の世界を彷徨って、大泣きしてたんだから…」

「まぁ、そんな本人もインフルエンザにかかっちゃったけどね?完治次第、シオン国王が妹連れてご挨拶に来られるそうだ。」

 カフェのカウンターでそう話すブランシュ卿の真横で、アランはため息をついた。

「ところで、アンヌ姉とおバカ王女の関係って?」

「アンドロイドを作ってもらいに来た看護学生なのに、一方的に気に入られた…つまり、あの王女はウチの娘のストーカー!」

「イヤな予感しかしない…」


 処分の撤回が早かったのは、シオン国王がいち早く「妹のワガママが原因」という事に気づいた為で、友菓が側近に提出したボイスレコーダーの録音データも、証拠として認められた。友菓が何でボイスレコーダーを持っているのかと言うと、祖父母の影響で持ち歩く癖がついたようだ。


 交換留学は予定通り続いたが、バンビーナと交換として聖エトワール学院大学付属高校に行っていたネロは、バンビーナがヴィルマンド王国へ強制送還されたためネロだけ留学は中止という事になり、暫くの間バンビーナとの連帯責任という名目で、聖エトワール学院大学付属高校の女子制服の姿のままサン・ジェルマン学園で過ごすハメになったのだった。とんだとばっちりである。綾音の方は予定通りに続けられ、お目付け役として綾音の次兄を模したアンドロイド・アルフォードが終始彼女を見張っていたそうだ。リカは相変わらず、転倒するたび一悟を巻き添えにするが、リカがしっかり懺悔したため、みるくとトロールが彼女を叱責する事はなくなった。




「お姉ちゃんは?」

「入院したよ…あと一歩遅けりゃ、肺炎になるところだったってよ…」

「そうなんだ…」

 インフルエンザにかかったため、これ以上有馬の家に厄介になるワケにいかず、マリアはしぶしぶ家に戻ることになった。そんな彼女は、父親に背を向けたままベッドに横たわっている。

「お姉ちゃんの所に行かなくていいの?」

「行けるワケねぇだろ!!!俺もインフルエンザになっちまったんだし、セーラの事はトルテとヨハンに任せてんだから…それに、今は隣に大切な奴がいるんだ。娘の姿をした、俺の分身がな…」

「それ…どういう意味?全然似てないじゃない!!!」

「セーラが退院したら、本人から聞いてみろよ…セーラの奴、俺達が思った以上に、俺達が似た者同士だって理解してんだから。」

「えっ…」

「お前、以前…俺と瓜二つの男の子と出会ったんだろ?セーラから聞いたぞ…また出会ったら、今度は俺にも紹介しろよな?」

 父親の言葉に、マリアは思わず言葉を失った。まだ姉と叔父にしか話していない事なのに、父親はまるで全てを知っているかのように話しているからだ。


「それに、あの王女の事はもう気にすんなよ。王様が全部「妹のワガママで発生した事」だと気付いて、お前の停学もアンヌちゃんの停職もなかったことになったんだからな。」

 ガレットがマリアにそう告げると、マリアは全身をくるっと、父親の方へ向ける。

「でも、アイツの顔は二度と見たくない…」

「あと1回だけ!あと1回だけなら、もう2度とアホヅラ拝まなくて済むんだから、それでいいだろ?」

 ガレットがそう言うと、マリアは不機嫌そうな表情のまま、同意する。

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