第37話「ひれ伏しなさい!お嬢様は魔法使いですのよ!!!」
2015年1月10日、早朝。
「あなた…「レイラ・モンブラン・クラージュ・シュヴァリエ」はご存じかしら?」
70代の女性の問いかけに、33歳のガレットは驚いたような顔をするが、すぐさまシュッと立ち上がる。
「「レイラ・モンブラン・クラージュ・シュヴァリエ」は、俺のばあさんだ。俺は勇者モンブランの孫のカルマン・ガレット・ブラーヴ・シュヴァリエ…」
青年の言葉に、氷見家の当主は懐かしさでほんの一瞬ではあるが、言葉を失ってしまった。
「あなたが…レイちゃんの…子孫…」
感激の涙を流しつつ、氷見しぐれは使用人たちに理由を話すと、青年勇者を氷見家の中に入れ、男物の衣類を提供する。
………
「そうだったの…レイちゃんは、もうこの世にはいないのね…」
「あぁ…俺が12の頃に、王族の派閥争いに巻き込まれて…」
思い出すのも辛いのだろう…氷見家の当主に祖母の事を話す勇者の表情は、悲しげだ。
「私ももう…長くはありません。ですが、あなたがスイーツ界から来た理由はわかってます。」
そう言いながら、当主は勇者に1週間前の事件の新聞記事を見せる。
「
「2年ほど前から、茅ケ崎でカオスイーツが絡む事件が頻発してまして…丁度この事件で、茅ケ崎でカオスイーツの出現は途絶えました。」
「ばあさんの名前を知っている上に、カオスイーツを知っている…って事は…」
その言葉に、当主は勇者に古びた2本の銀のスプーンを見せる。青い宝石に、白い羽飾りのスプーンと、紫の宝石に、白い羽飾りのスプーン…それこそ、当主がマジパティであった事を証明する動かぬ証拠だ。
「私は、レイちゃん…いいえ、勇者モンブランの知性を受け継いだマジパティ・ソルベでした。そして、もう帰らぬ人とはなりましたが、私の主人・
マジパティであった当主は、青年勇者に60年前の事を話し、青年勇者は、マジパティであった当主に人間界へ飛ばされた弟の事を話した。
それはお互いが茅ケ崎で消息を絶った5人の中に、青年勇者の弟が含まれている事を悟ったからだ。
………
8月5日、午前7時。今日は弓道部の練習がないため、
「雪斗さん、いつまで寝ていらっしゃるの?速やかに起床なさいっ!!!」
「いちごん、あと5分…あと5分だけぇ…」
鮮やかな撫子色のロングヘアーに、黒いリボンが付いたカチューシャ。白いパフスリーブのブラウスに、ビロードのような真紅の膝丈のジャンパースカートの少女は、雪斗の寝言を聞くや否や、「ふぅ」とため息をつく。
「玉菜さんも仰ってましたけど、こういうだらしないところは、緋月と変わりませんわね…かくなる上は…」
少女がそう言いながら雪斗が寝ているベッドに背を向けた刹那、雪斗の頭からアホ毛が飛び出し、雪斗の右手が、枕元にあるブレイブスプーンを掴む。水色の宝石が付いたスプーンが左腕のブレイブレットに触れたと同時に、雪斗の姿は瞬く間にユキの姿へと変身する。雪斗は藍色の浴衣姿だが、ユキに変わると、来ていた浴衣は水色と白を基調としたナイトウェアに変わり、ベッドから起き上がったユキは、欠伸をしながら部屋にいる少女の姿を見つける。
「おはよ…って…誰?」
「人に名前を聞くときは、まずは自分から名乗るのが礼儀でしてよ?」
撫子色のロングヘアーに風格のある落ち着いたたたずまいの少女の姿に、ユキの眠気は一気に吹き飛んだ。
「ぼ、僕はユキ!雪斗とは…その…」
「水やお湯を被らずに異性に変身する以外は、まるでどこぞの無差別格闘流の殿方ですわね…わたしは
その言葉にユキは大慌てで雪斗を起こし、身支度をさせる。雪斗の祖父を「叔父様」と呼んでいるため、ユキがあかねを雪斗の親族だと認識したからだ。
だが、彼女がガトー共々「雪斗にとって「あかね」という親族がいる事すら初耳である」という事を知るのは、それから20分後だった。
朝食を済ませ、身だしなみを整えた雪斗は、祖父の部屋に呼び出された。勿論、あかねも一緒だ。
「雪斗に紹介がまだだったな…私の姉・
「ようやくお目覚めでして?まぁ…無理もありませんわね。わたしが両親と妹のあやめ、弟の
祖父とあかねの言葉に、雪斗は首をかしげる。初めて知らされたはとこの存在…確かに弟と妹が度々「あかねお姉ちゃん」って口走っていた事はあったが、その「あかねお姉ちゃん」が目の前…しかも、自分のはとこだとこの場で言われる始末…混乱するのも無理はない。
「あの時は、あやめちゃん共々白鷺城学院の女子中等部に入学したてだったからなぁ…あの時は、大和くんが冷斗とみかんの面倒をみてくれて…確か、今は
雪斗の祖父があかねと最後に会ったのは、今年の6月…あかねの兄・
「えっ…あかねって、何歳なんですか?おじい様…」
はとこの言葉に、あかねの眉はぴくりと吊り上がった。
「雪斗さん…あなた、「デリカシー」という言葉はご存じでして?しかも、今日顔を合わせたばかりの者を呼び捨てなんて…無礼にも程がありましてよ!!!」
「それに、あかねちゃんは姫路グループ総帥・
祖父に叱責された雪斗は、背筋を凍り付かせながらピシっと直立する。
「無礼な態度の詫びとして、わたしの頼みを聞いていただきます!今すぐ、わたしを
その言葉に対して、雪斗に拒否権はなく、雪斗はしぶしぶとあかねを首藤和真もとい、大勇者・ガレットのいるカフェへと連れていくことになったのだった。
雪斗があかねを連れてカフェへ向かう途中、
「アレ…ぜってーあずきにバラしたら…」
「ゴールデンレトリバーも引き連れてますし、端から見れば、犬の散歩中のカップル…修羅場確定ですね!!!」
「まったく…隅に置けん男だ…」
2人の言葉に、たまたま合流したネロが賛同する。
その頃、大勇者・ガレットは自身のアルトフルートについているモチーフに耳をあてがいながら、ある話を聞いていた。
「マリーがいなくなったァ!?」
「そうなんだよ、父さん…1人になったスキを突いて、転移の祠に…」
大勇者の話し相手は、息子であるアラン・キルシュ・シュヴァリエで、どうやら大勇者の次女・マリアが異世界へとつながる転移の祠へ向かったようだ。
「転移の祠って事は…」
「もしかすると、父さん達の所へ向かったのかもしれないって思って…あいつ、父さんや姉さんに会いたがっていたから…」
息子の話を聞いている大勇者は、焦りの表情を見せる。幸いにもシュトーレンは部屋で着替えており、トルテに至っては厨房で仕込みの真っ最中だ。
「父さん、もしマリーを見かけたら…」
「バウワウワウワウワウッ!!!!!」
カフェの外で犬が吠える声がして、ガレットは咄嗟にベランダから顔を出す。そこには
「アラン…確か、マリーは…」
2人同時に「はぁ…」とため息をつきながら、大勇者・ガレットは住居スペースの階段を降り、玄関へと赴く。
「ガチャッ…」
「あ、大勇者様…おはようございます。」
「お、おはようございます…」
赤いデミオの背後から、明日香と雪斗の姿…先ほどの明日香の父親からして、身を隠していたのだろう。ガレージの目の前では…
「ご、ゴールデンが…土佐…犬…」
「いっくん、しっかりしてっ!!!」
混乱する一悟と、そんな一悟を支えるみるく…そして、撫子色の髪の少女の姿と左耳に白いリボンを付けた土佐犬…
「クソゴリラ…カフェに近づくなって言われてんのに…懲りない奴ぅー」
ガレットの声に気づいた土佐犬は、くるっと玄関の方に身体を向けると、徐々に人間の少女へ姿を変えながらガレットに飛びついた。
「パパちゃまーっ!!!久しブリーーーーーっ!!!!!」
炎のような赤い髪の一部を左側に寄せ、白いリボンでまとめた青い瞳の少女…彼女こそ、大勇者・ガレットの次女・マリア・タタン・シュヴァリエなのである。
「こっちの撫子色の髪の子が、ゆっきーのはとこの…」
「姫路あかねと申します。
開店準備中という事もあり、着替えを済ませた一悟達はカフェのホールへ集められた。なお、あかねとマリアの服装はカフェに来た時のままである。
「そんで、こいつは俺の娘で、セーラの妹のマリア。」
「マリアよ!マリーって呼んでね?」
無邪気に一悟達に自己紹介をする次女に、ガレットは再びため息をついた。
「俺…雪斗のじーちゃんから姫路グループのお嬢様が訪問に来るって事だけ、聞いてたんだけど?」
「こんな可愛い娘がはるばるスイーツ界から来たのに、そんな事言う?」
「俺の娘、ゲリラ訪問しないもーん♪」
娘に対しての塩対応っぷりに、マリアは両頬をフグのように膨らませる。
「ガチャッ…」
「親父…マリーはアタシが何とかするから、姫路グループのお嬢様と話…さっさとした方がいいんじゃない?」
住居スペースからメイド服姿のシュトーレンがやって来て、父親にアルトフルートを手渡すと、女勇者は妹をカフェの事務スペースへ連れていった。
「雪斗のじーちゃん絡みの話だから、あとの開店準備は任せたからね?」
大勇者はそう言うと、一悟達をカフェへ残し、あかねを連れて住居スペースへ行ってしまった。
「ねぇ、マリー…アランから聞いたけど、あなた…グラッセと大喧嘩したんですって?」
おぞましいオーラを放つ姉の姿に、マリアは黙って頷いた。シュトーレンは、父親が玄関に放置していたアルトフルート越しに、弟から妹がやって来た理由を聞いていたようだ。
「お兄ちゃんやブランシュ卿と約束してたのよね?グラッセとは仲良く過ごすって…どうして、約束守れなかったの?」
姉の質問に、マリアは両肩を震わせながら、2枚の写真を革製のボストンバッグから取り出す。2枚の写真は少々汚れがあり、シュトーレンは妹にとって約束を破らざるを得ない状況で会ったことを悟る。
「守る…つもりだった…もん…でも…あのウサギ…」
マリアの頬から大粒の涙が伝って落ちる。母親のセレーネが戦争で亡くなる前の家族写真と、少女セーラとしての最後の姉弟同士の写真…それらをスイーツ界で持ってきたという事は、グラッセはマリアにとって大切なものを壊してしまった…そう読み取れる。
「私…今まで、いい子でお留守番…頑張ったのに…ずっと…おうちを守ってきたのに…パパのお部屋も…お姉ちゃんと私の部屋も…お兄ちゃんたちの部屋も…台所も…お風呂場も…みんな…あのウサギが…」
2歳で母親を亡くし、7歳で父親が行方をくらませ、姉は勇者として旅立った…幼き妹にとって、まだ甘えていたい時期に兄以外の家族が家に戻らなくなったのは過酷だった…
「ごめん…寂しい想いをさせてごめんね…マリー…」
女勇者は姉として、泣いている妹を優しく抱きしめるしかできなかった。
………
その頃、ガレットはリビングにあかねを案内すると、コーヒーを差し出す。
「君の事は、雪斗のじーちゃんから聞いてる。君の祖先の中に…勇者モンブランのマジパティが全員いるって事が…」
「左様でございます。私の母・神戸摩耶の祖父母はクリームパフもとい白石螢次郎と、ソルベもとい氷見しぐれ…つまり、母方の曽祖父母です。」
氷見しぐれが
「そして、私の父・姫路伯斗の祖母は
持ってきた父方の祖母・
「ところで、今回ここに来た理由は?」
「父方の曾祖母・千平若葉についてです。4年前に氷見しぐれの葬儀に参列して以来、彼女は姫路家を出てまして…」
「やっぱり、あの時の老婆は千平若葉だったのか…」
今でも記憶に鮮明に残る、氷見しぐれの棺の前で号泣していた老婆の姿…100万円台くらいは軽くいくような黒い喪服を着ていた彼女は、あかねの父に支えられながら棺を離れてもなお、ずっと泣いていた…
「あれから彼女は、生まれ故郷である旧・
「それで、今…千平若葉は…」
「瀬戌市内の有料老人ホームに…ですが、先日から容体が急変しまして…ひいおばあ様の嫁ぎ先が神戸でしたので、おじい様が「姫路家代表として見舞いに行きなさい」…と。それから、家系図からは抹消されましたが、千平若葉の娘・
勇者モンブランのマジパティ全員の血を引く者の言葉に、ガレットはぐっと息を呑みつつ、事態は一刻を争う状況である事を悟った。
大勇者が姫路グループ総帥の娘から勇者モンブランのマジパティのその後は、以下の通りであった。
クリームパフもとい白石螢次郎は、勇者と精霊達と別れた後、幼馴染であるソルベもとい氷見しぐれと結婚し、氷見家に婿入りした。
ミルフィーユもとい千平若葉は、勇者と精霊達と別れた後、父親である千平重工の社長の命令で、
プディングもとい鞍馬竜二は、勇者と精霊達と別れた後、大学で知り合った
姫路美智子の手帳によると、姉妹同士絶縁状態ではあっても、甥や姪の事は心配だったようで、嫁の摩耶が佳代子の長男と特撮ドラマで共演し、彼の本名が「
「鞍馬佳代子の長男がみるくの父ちゃん…つまり、みるくのひいじいちゃんが鞍馬竜二だった…」
「ボネっち以外の歴代プディングに血縁があるって、驚きよねぇ…それにここなのお父さん、私のお父さんと同じ政党で、めちゃくちゃ仲がいいでしょ?んで、ここなのお父さんがここなのお兄ちゃんに子供が生まれた時、ウチのお父さんにこんな事を話したワケ。「私は祖父母というものを知らない…孫にどう接していいのか分からない…」…って。」
休憩中の大勇者の呟きに、
「父上、そんな事話してたのか!?」
「そうよー、元々は同じ
「あぁ、祖父は父上が大学生の頃にイギリスで事件に巻き込まれ、祖母は父上が結婚してすぐにガンで亡くなったと聞いている。」
「それは父方の方の話ね。母方はお母さんが中学生の頃、ツアーバスの事故で…無事だったのは、そのお母さんと、後の姫路美智子、そして…幼な妻ちゃんのおばあちゃん。3人とも学校行事と部活でツアーバスに乗れなくって、難を逃れたんだって。」
玉菜の話にここなと大勇者だけでなく、妹を追って駆けつけてきた大勇者の息子アランも驚きを隠せない。
「もし、玉菜の話した事が事実なら…ボクもみるくと同じ、鞍馬竜二の子孫だという事なのか!?それも…みるくとは…」
同じプディングであるみるくとの意外なつながりを知ってしまったここなは、玉菜の説明に頭を抱えてしまった。
「知らなかったのも無理もないわ…残された姉妹、全員仲が悪かったんだから…それも、ツアーを勧めた、勧めてないって責任のなすり合い…ここなのお父さん、母方のいとこの存在すら知らなかったらしいわ。」
「今後、どうみるくと接していいのか…」
「幼な妻ちゃんだって、この事知らないんだし、いつもどおりに接していればいいって!!!」
玉菜はそう言いながら、ここなの背中を優しくたたく。
「そうだな…それに、今は姫路一葉の子孫の事と…」
「グラ子…絶対、とっちめる…」
玉菜がグラッセの名前を出したと同時に、玉菜と大勇者、アランの表情がスタンドをいつ発動してもおかしくないほどに険しくなった。
マリアが「もうグラッセと仲良くなんてできない」と罵ったのも無理はない…勇者親子は納得するしかなかった。グラッセはマジパティとしての力を上手く制御できず、ガレットが23年前に建てた一軒家を全壊しただけならず、ガレットの妻・セレーネの墓の一部を崩壊させた挙句…ブランシュ卿の教会の屋根の一部を吹き飛ばしてしまったのである。謝罪で済むような問題ではなかった。
「それで、今後グラ子はどうする?」
「マリーが「
「それはやりすぎだよ…父さん…まぁ、俺もウサギの姿のまま封印の首輪つけた時点で、人の事言えないけどね。」
妹の話を聞いた姉からの連絡で、アランは教会の地下室に幽閉していたグラッセに封印の首輪をつけ、急いで家族のいる人間界へ駆けつけてきたのだった。シュトーレンとトルテが休憩に入る時の事だったため、周囲からめちゃくちゃ驚かれてしまったが。
「んで、お前…仕事はどうした?」
「8年前の父さんと同じ事をしてきた。今は「
要するに、本日付で魔導騎士第3部隊を退職したのである。住所と人間界での名前に関しては、雪斗の祖父に理由を話した上で聞いたようだ。
「なら、繋ぎで仕事手伝え…」
そんなアランは求人情報誌をじっと見つめている。一方、マリアは姉からの厳しい指導の下でカフェを手伝っており、本人も姉と一緒にいられて嬉しいようだ。
ほぼ同時刻、あかねは雪斗の母の運転で、氷見家から少し離れた住宅街にある瀬戌メモリアルパークという霊園にやって来ている。この霊園に氷見家代々の墓があり、そこに氷見しぐれと夫の螢次郎が眠っている。
「ひいおばあ様の隣にあるあのお墓が、勇者モンブランのお墓ですわね。」
「えぇ…おばあ様はよっぽど、勇者モンブランが好きだったの。私の名前…彼女の真名の一部から取ったって…だから、勇者ガレットが来た時、あれだけ目を輝かせて彼女の人間界用のお墓の用意をしていたのね。」
氷見家の墓の隣には、「首藤家之墓」と記された勇者モンブランの人間界としての墓がある。この墓に関しては、時折氷見家が掃除に来ていたが、大勇者ガレットが瀬戌市で長女と再び暮らし始めて以降、ガレットが度々掃除に来ている。そんな勇者モンブランの墓の真横にある墓誌には「
「いずれ、彼は家族を連れてこちらへ来られるでしょう…その前に…」
雪斗の母に見せる穏やかな表情から一変して、あかねは険しい表情をしながら、1人の少年を睨みつける。赤と黒が混ざったような髪色で、両目の殆どは前髪で覆われている17歳ほどの若い少年は、あかねの表情を見るや否や、慌てふためく。
「わたしは今日、親族の用事のために瀬戌の街へ行くと言ったはずですが?
「あかねちゃん…あの子は?」
「
まるで母のいとこを守るかのように、あかねは魔導義塾高等学校に入学した際に支給された専用のスマートフォンを構える。
「し、親戚の用事でも…あかねに変な虫が寄り付いたら…」
「彼氏ヅラしないでいただけます?わたし、あなたのようなしつこい男の彼女となった覚えはありません!今すぐ神聖なる霊園から立ち去りなさい!!!」
「で、でも…俺は…」
「緋月さん、日本語理解できてます?学習能力はございます?これ以上しつこくするなら、今…この場であなたとの雇用契約を破棄してもいいのですわよ?」
いとこの娘の言葉に、雪斗の母は緋月が自分の息子が過去に一悟に対してのストーカー行為以上にタチが悪い行為をやっと理解した。
あかねの反対を押し切ってでも、あかねにつきまとう…言葉が通じないのである。息子と一緒にカフェを手伝う明日香も、父親に付きまとわれていると、息子から聞いている。要するに、緋月は高確率で危害を加える恐れがある…氷見冷華はそう判断した。
「あらぁ、ボナパルト
わざとらしい大きな声で、いるはずもない一悟の母のリングネームを叫んだ刹那、雪斗の母はあかねの手を引き、緋月に目もくれず駐車場へ走り去ってしまった。
「冷華さん…ボナパルト森野って…」
「一悟くんのお母さんの現役時代のリングネームよ!普段は元夫避けに防犯ブザー持ち歩いてるんだけど、あいにく車の中に置いてきちゃって…」
あかねと共に、運転してきたスバル社製の青いステラに滑るようにして乗り込むと、そのまま
墓地へ取り残された緋月は、大急ぎで魔導義塾高等学校から支給されたスマートフォンであかねの居場所を探ろうとするが…
「マナを補給してください」
スマートフォンの操作に必要な魔力が足りず、愕然とする。それでも、あかねの行きそうな場所へと走ろうとするが…
「フラれたストーカーの負の感情…美味そう…食っちまお♪」
突然タヌキが緋月の肩に乗り、緋月の全身に黒い光を解き放つ。タヌキが放った黒い光を浴びた緋月はみるみるうちにスイーツの怪物へと姿を変えていく…
「なんて強い負の感情…1人の人間から、2体のカオスイーツ…上玉♪」
「♪~」
大勇者のスマートフォンから、着信音が鳴り響く。カフェは本日の営業が終わる30分前のため、大勇者は手が離せない状況だ。そんな彼に変わって、1人の青年がスマートフォンを手に取り…
「はい、首藤です。」
息子が出た。電話の主は、大勇者ではない男性の声に戸惑いを示すが…
「て、
「いかにも、俺は大勇者ガレットの長男アラン。現在、「首藤嵐」として求職中。」
「きゅ、求職中?それはさておき…どら焼きのカオスイーツが2体、瀬戌メモリアルパーク近隣に現れました!!!現在、
「まだ川へはたどり着いていないって事だな?了解っ!!!すぐ父さんたちに伝える!」
アランはそう言うと、スマートフォンをそのままテーブルの上に置き、カフェの方へ降りる。
「父さん、姉さん!!!緊急事態だ!瀬戌メモリアルパーク近隣でどら焼きのカオスイーツが2体現れた!!!」
アランの言葉に、2人の勇者はアランの方へ駆け寄る。
「「てら」瑞希って女の子から電話があって、カオスイーツは斜瑠々川方面…東の方角へ逃走中…って連絡が来た。」
アランも…「汀良」が読めなかった。(「首里駅」で検索してください)
「とにかく今は一悟、明日香、ユキ、玉菜!!!手の空いてるお前らが先に行け!!!セーラとみるくは手が空き次第、後から合流だ!!!他のマジパティにも対応できるか問い合わせる。」
大勇者の言葉に、一悟達はブレイブスプーンを構える。
「「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」」」」
カフェにいる客たちに見えぬよう、一悟達は住居スペース内の階段で変身を始めた。
緋月をまいた雪斗の母は、無事に彩聖会瀬戌病院に到着し、あかねと共に姫路若葉が入院している病室へと向かう。
「病室は?」
「C棟の5階…内科の501号室です。」
病室のある5階へ向かうエレベーターの中、あかねのカバンから、黄色い光がぼわっと光る。
「あかねちゃん…」
「わかってます…ですが、父方のひいおばあ様の様子を一目だけでも見させてください。」
姫路家代表としての意地と、勇者モンブランのマジパティの血を引く者としての想い…それらがあかねの心の中、板挟みとなる。それは、まるで彼女を迷いの海へ誘うようだ。
「
精霊ガトーの力によって一悟達は、発見した瑞希と共に木苺ヶ丘地区とくるみの地区のほぼ境目付近にある瀬戌市立
「2体もいるのぉ~?ありえなーい!!!」
「カオスソルベ時代に合体カオスイーツ出していながら、何を言ってるんですか…あのカオスイーツ、元々は1人の人物のようです。」
ユキの苦言に、瑞希は1台のスマートフォン型のデバイスを見せる。魔導義塾高等学校の生徒に支給されるデバイスだ。
「このデバイス、学生証にもなるようで…出ました。ご説明いたします!あの2体のどら焼きのカオスイーツの正体は、魔導義塾高等学校普通科2年、神宮寺緋月ですっ!!!」
「うわっ…あかねちゃんに付きまとってるメカクシくんじゃん!!!最悪…」
瑞希の説明を聞くや否や、玉菜は右手を顔に当てる。どうやら、玉菜はあかねから彼の事を聞いていたようである。
「知ってるの?」
「あかねちゃんから聞いてたの…あのゴリラみたいに気持ち悪いストーカーよ!!!しかも、表向きは普通の高校を謳った魔法学校の子だから一筋縄ではいかないわ。」
玉菜がそう言うと、2体のカオスイーツは目を光らせると、瞬く間に分身し、4人のマジパティを取り囲みつつ、グラウンドの真ん中で爆発した。
「皆さんっ!!!!!」
「へぇー…2体も出てきたのは、魔法学校の生徒だから…ねぇ…超上玉♪」
瑞希の背後に、タヌキがガムを音を立てて噛みながら現れる。
「俺はニョニャ…双子の狐のようにはいかないよ?」
ニョニャの言葉に振り向いた瑞希だが、ニョニャは噛んでいたガムを瑞希と精霊達に向かって吐き出した。
「プップップッ…」
瑞希は両手の自由を失ったと同時にグラウンドに倒れこみ、ショコラ兄妹はガムによって平皿ごと拘束されてしまった。
「ガトー!フォンダン!!!」
「な、なんて外道な行い…」
ココアの叫びに、瑞希は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「俺はヒタム様の命令に忠実なだけ。一般ぴーぽーと無能精霊は引っ込んでなよ。」
爆発による土煙が晴れた瞬間、2人のミルフィーユはあんこのような個体で片足ずつ拘束され、ソルベとクリームパフは、向かい合うように両方の手首をあんこのような個体で拘束されてしまった。
「ちょ…なにこれーっ!!!」
「クリームグレネード、出せないんですけどーっ!!!」
「あすちゃん…」
「とにかく、キックくらいなら大丈夫よね?行くわよ、一悟!!!!!」
明日香がそう言うと、2人はお互いの右手、左手を互いの腰に回し、二人三脚の要領でカオスイーツに飛び掛かるが…
「プッ…」
ニョニャが吐き出したガムに明日香がつまづき、2人は転倒してしまった。
「ヒタム様の命令に従うためなら、妨害くらいはしておくものさ。あの差別主義の悪趣味鎧とは違うんでね…」
そんなタヌキの言葉に逆上したココアは、モカと連携しつつニョニャにココアパウダーを振りかけようとするが…
「んげっ!!!」
「くっ…」
2人もニョニャが吐き出したガムをまともに食らい、瑞希の足元へ投げ出された。
「ココア!モカ!」
ユキと玉菜も何とかあんこのような個体を壊そうとするが、びくともしない。そんなマジパティ達に追い打ちをかけるかのように、2体のカオスイーツは4人のマジパティに襲い掛かる。
「こんにちわ…」
雪斗の母とあかねは姫路若葉の病室に入り、挨拶をする。姫路若葉は瀬戌市に移住後、アルツハイマー型認知症と診断され、瀬戌市内の有料老人ホームで生活していた。最近になって病状が深刻化し、彩聖会瀬戌病院に入院してからは10代の頃の事をうわごとのように呟くようになっていた。
「しぐ…れ…」
84歳の姫路若葉には、雪斗の母・氷見冷華が氷見しぐれに見えるのだろう…雪斗の母は、16歳の祖母になりきったように振舞う。
「そうよ、しぐれよ。久しぶりね…若葉…」
その言葉に、老いた若葉は無邪気に微笑む。そんな彼女の枕元の古びたピンクのブレイブスプーンは、淡い光を放ちながら老いた若葉の姿を在りし日の姿へと変えていく…
「こ、この力は…」
若葉の姿が若返る中、あかねが持っている古びた黄色のブレイブスプーンと、特殊デバイスが共鳴する。そんな不思議な光景を目の当たりにした雪斗の母は、ハンドバックから祖父母の形見である水色と紫の光を放つ古びた2つのブレイブスプーンを…
「あかねちゃん、これらは今…あなたに託します!!!私の4人目の子供を助けに行ってあげて!」
「んぎぎ…私らはあんこじゃないっつーの!!!」
「猫型ロボットに献上したけりゃ、カオスイーツ自らが猫型ロボットの所に行けっつーの!!!」
玉菜とユキは上下からどら焼きの皮に挟まれかけていた。さりげなく玉菜の口調がうつっている時点で、ユキも相当気が立っているようだ。
「立てるか?あすちゃん…」
「何とか…ね。」
一悟と明日香は何度もカオスイーツにキックを決めようとするが、ニョニャの妨害を受け続け、ボロボロの状態だ。
「ここまで痛めつけりゃ十分っしょ…カオスイーツ、トドメを刺しちゃって!」
余裕の笑みを浮かべるタヌキは、4人のマジパティの今の姿を見て、鼻で嗤う。
「諦めてはダメ!!!どんなに傷つけられても、私達マジパティは何度でも立ち上がる!!!!!」
突然のピンクの光が放たれた刹那、一悟達を拘束していたあんこ状の物体が砕け、一悟達は全員、身体の自由を取り戻し、ニョニャが吐き出したガムで拘束されていた瑞希と精霊達も解放される。
「こ、これは…」
「力が…みなぎってくる…」
その様子に気づいたユキと玉菜はどら焼きの皮を放り上げ、ニョニャは2人が投げた皮の下敷きとなってしまった。
「ぶべっ…」
「間一髪でしたわね…」
ピンクの光の真下から、あかねが現れる。
「あ、あかねちゃん…彩聖会にお見舞いに行ったんじゃ…」
「えぇ、わたしは先ほどまで彩聖会にいました。ですが、勇者モンブランのマジパティ達の光によって、こちらに導かれたのです。」
そんなあかねの周囲には3つの古びたブレイブスプーンが光を放ちながら浮かび上がっている。
「それにしても、すげー力!!!モカさんも、そう思うだろ?」
「えぇ…これまでに感じた事のない力です。」
2人の精霊がそう言うと、一悟、明日香、ココア、モカの全身がピンクの光に包まれ、一悟と明日香のコスチュームは何事もなかったかのように復元され、4人の目の前にピンクの光を放つ葉っぱと、ピンクの色調の違う2種類の宝石が浮かび上がる。色の濃い方は一悟の腰のチェーン、色の淡い方は明日香の腰のチェーンへそれぞれエンジェルスプーンの隣へ付けられる。
「まさに奇跡よね…ひいおばあちゃんのマジパティ達の力で、アタシらここまで瞬間移動させられたんだから。」
女の勇者の声がして、一悟達が振り向くと、そこには甲冑姿のシュトーレンとクラフティ、そしてコック衣装のままの大勇者、マジパティに変身したみるくとここながいた。2人の勇者の前には、緑色の光を放つ葉っぱが1枚ずつ浮かんでいる。
「勇者シュトーレン、勇者クラフティ…力のリーフと奇跡のリーフをレインボーポットの中へ…」
「「御意…大勇者ガレット!」」
2人の声がハモると、2人は同時にティーポットの蓋を開け、ピンクの光を放つ力のリーフと、緑の光を放つ奇跡のリーフは1枚ずつ、それぞれの勇者が持つティーポットの中へ入り、ポットの底からピンクの光と緑の光がまるで水のように湧き上がり、マジパティの紋章に女の勇者の横顔をかたどったレリーフと、マジパティの紋章に男の勇者の横顔をかたどったレリーフが同時にピンクと緑の光を放つ。
4枚のレインボーリーフがポットの中に入ったと同時に、ピンクの光の中から、ピンクのオーラを纏ったマジパティが姿を見せる。ピンク色のポニーテールに、ピンクを基調とした大正ロマン漂う和装コスチュームの10代後半の女性は、にっこりと微笑む。
「後世のマジパティ達…そして、勇者と精霊達…これは私達勇者モンブランのマジパティ達からの贈り物です。私達全員が人としての一生を終えても、私達の想い…決して忘れないでください。」
胡桃野中学校のグラウンドに集まったマジパティと勇者達は黙って頷き、あかねはスマートフォン型のデバイスを構える。
「カオスイーツにされたのが魔法使いなら、魔法使いであるわたしも加勢致しましょう…カオスイーツにされた雇用者の不手際は、雇用主であるわたしの責任でもあります。」
スマートフォン型のデバイスからバラ色のレイピアが現れると、あかねの恰好は瞬く間にドレスと甲冑を合わせたような赤い鎧の防具へと変わった。
「ご先祖様達が守ってきた瀬戌の街…乱すことは許しませんよ。」
あかねはそう言いながらレイピアで魔法陣を描いた刹那、魔法陣はバラ色の光を放ちつつ、飛び掛かる2体のどら焼きのカオスイーツのうちの1体を光の粒子でタバコほどの大きさにしてしまった。タバコサイズになったカオスイーツは、勇者クラフティの一突きで光の粒子となって消え去ってしまう。
「よっしゃ、今度こそ決めるぜ!」
「勇者モンブランのミルフィーユの前で、ヘマなんてできないわ!!!」
2人のミルフィーユは1体になったカオスイーツに向かって走り出した。
「させるかっ!!!」
ニョニャは再び噛んでいたガムを2人のミルフィーユへ飛ばそうとするが…
「「プディングメテオ!!!ツインキャラメリゼ!!!!!」」
2人のプディングによって、今度はニョニャが妨害を受けた。
「妨害とか、卑怯だぞ!!!」
「自分の事を棚に上げておいて、よくそんな事が言えますね!!!本当の卑怯はあなたではありませんか!」
ニョニャの文句に、彼の妨害を受けた瑞希と精霊達が一蹴する。
「今だ、勇者シュトーレン!!!」
「御意…みんな、いくわよ!!!」
女勇者は、先輩勇者、祖先と己のマジパティの前で大剣を構えた。そして彼女のマジパティ達も、武器を構える。
「「「3つの心を1つに合わせて…」」」
ミルフィーユ、プディング、ソルベの3人がそう叫んだ瞬間、3人の武器は光の粒子となり、それぞれのカラーに合わせた細身の剣・パティブレードに変わった。
「勇者の力を1つの剣に!!!ミルフィーユブレード!!!」
「勇者の愛を1つの剣に!!!プディングブレード!!!」
「勇者の知性を1つの剣に!!!ソルベブレード!!!」
3人はそれぞれのパティブレードを構え、ピンク、黄色、水色の光をまといつつ、カオスイーツに飛び掛かる。
「さぁ、行くわよ!!!フォンダンっ!」
「はいでしゅ!!!」
フォンダンがクリームパフの右肩に乗ると、クリームパフはウインクをする。
「精霊の力と…」
「勇者の光を一つにあわせて…」
「バレットリロード!!!」
フォンダンの身体が白く光るなり、フォンダンはクリームパフの持つクリームグレネードのレンコン状のシリンダーに光の銃弾を装填する。そして、クリームパフは左手でシリンダーをくるくると回転させ、狙いを定めると同時に、クリームパフは拳銃のトリガーを引く。
そして、勇者は白い光を纏いながらカオスイーツの前で高くジャンプする…
「「「「「マジパティ・ブレイブ・ピュニシオン!!!!!」」」」」
その掛け声とともに、カオスイーツはミルフィーユ、プディング、ソルベの順に斬られ、クリームパフの無数の光の銃弾を浴びる。最後に、勇者シュトーレンがカオスイーツの頭上から大きく振りかぶってカオスイーツを一刀両断する。
「「「「「アデュー♪」」」」」
5人が同時にウインクをすると、どら焼きのカオスイーツは光の粒子となって本来の姿である神宮寺緋月の姿へ戻って行った。
緋月はあかねがあらかじめ連絡していた緋月の姉の魔法によって、瀬戌市から強制的に姉のいる日暮里へ強制送還された。カオスイーツが緋月に戻った事で、カオスイーツが暴れた後は何事もなかったかのように回復する。その様子に安堵した勇者モンブランのミルフィーユは、16歳の千平若葉の姿へ変わる。その姿は、女の子の姿の一悟と瓜二つで、一悟達は思わず言葉を失った。その様子に、あかねは遂にある事に気づいた。
「勇者シュトーレン、ユキさん…そして、一悟さん…わたしと一緒に、彩聖会に来ていただけますか?是非、会って欲しい人がいるんです…」
レイピアをスマートフォンの中へ戻したあかねはそう言いながら、微笑む。
「そんじゃ、セーラ…あとで彼女の話、聞かせてくれよ?俺達はこのまま帰るさ。」
「いいや、その必要はない!!!私の移動魔法に任せろ!」
勇者達にとって聞き覚えのある声がすると、ガレット、みるく、ここな、玉菜、瑞希、精霊達はカフェへ瞬間移動し、一悟、ユキ、シュトーレン、クラフティ、あかねは彩聖会瀬戌病院にある姫路若葉の病室へと瞬間移動した。
「今の…ブランシュ卿?」
病室に飛ばされた一悟達の前には、雪斗の母と、ベッドに仰向けとなっている姫路若葉の姿があった。
「やっぱり、そうだったのね…一悟くん…」
元の千葉一悟へと戻った一悟を見るなり、雪斗の母は微笑んだ。
「えっ…?」
「ちょっと、女の子の姿になっていただけます?」
一悟は言われるがまま、ブレイブレットにブレイブスプーンをかざすと、一悟は夏の私服姿の少女の姿へと変わった。それを見た雪斗の母は、ベッド脇のサイドテーブルにあった写真の人物と一悟を照らし合わせる。
「やっぱり、ほくろの位置が逆であるのを除けば、生き写しだわ…」
「そ、それって…つまり…一悟は…」
「一悟くん…母方の祖父母の名前、言ってみて?」
「俺が生まれる前に、どっちも死んじゃってたんだけど…母ちゃんの方のじーちゃんは、「
その瞬間、雪斗の母は祖母・しぐれになりきって、姫路若葉に声をかける。
「若葉…来たわよ、一葉ちゃん…一葉ちゃんがあなたに会いに来たのよ!!!」
その言葉に、年老いた若葉は一悟の手をそっと握る。
「かず…は…ごめんね…あなたを愛していたのに…真也さんの事…」
一悟の事は駆け落ちでいなくなった娘に見えたのだろう…年老いた若葉の口からは、娘に対する謝罪の言葉があふれ出す。
年老いた若葉にとって、ユキはマジパティだった頃の氷見しぐれに見えているようで、マジパティだった頃のケンカの数々を詫びた。そして…
「勇者…様…」
勇者シュトーレンの手を握る年老いた若葉には、シュトーレンは勇者:モンブランに見えているようだ。
「ごめん…なさい…あなたの力を…男たちへのケンカに…」
「過ちに気づいただけで、何よりです。あの力は自分のためではない…他の人のため…」
「あかね…ありがとう…みんなに会わせてくれて…」
勇者の手を握ったまま、年老いた若葉は微笑み、あかねは2人の手を包み込みながら微笑んだ。
「ひいおばあさまの笑顔が見られるだけで、わたしは幸せ者です。私…絶対に、他人を笑顔にする実業家になりますわ。」
ピッピッピ…と鳴り響く姫路若葉の心臓音と、心拍数を示すグラフ…ひ孫の夢を聞き終えた刹那、グラフは平行線を描き、心臓音は「ピーーーーー」と鳴り響く。
68年前に活躍したミルフィーユこと姫路(旧姓・千平)若葉は、勇者モンブランもとい、レイラ・モンブラン・クラージュ・シュヴァリエと、同じ時代に活躍した他のマジパティ達の元へと旅立っていった…84歳の生涯であった。
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