第32話「ビスコッティの裏切り!姉弟のきずなは湘南の海に…」
「今から8年前…私はブラックビターのティラミスとして生活していた頃、この海で
平穏に包まれた夜の海…今の一悟達にとっては、まるで「嵐の中の静けさ」のようだ。
「あの時、彼は大きな岩にしがみつきながら、うわごとのように
「それで、柊ちゃんを…助けたのか?」
一悟の問いに、瑞希は海を見つめながら
「えぇ…まだ息もありましたし、あとは海岸に打ち上げられた状態で、現地の人間に任せるつもりでした。でも…カオスはそんな千葉柊也を黒いもやの中へ取り込み、ブラックビターの幹部・ビスコッティに作り替えてしまったのです。」
瑞希は、カオスによる幹部の生成方法も一悟達に説明する。
カオスが
「柊也の時も…マカロン様の時も…ムッシュ・エクレールの時も…
「瑞希さん…無理して説明しなくても…」
ブラックビターから離れてから、一層恐怖と化した生成方法…ほなみは瑞希を止めようとするが…
「ほなみさん、お気遣いありがとうございます。ですが、涼也の姉と兄がカオスに囚われているのも同然の状態で、幹部だった頃に見た事、聞いた事を黙っているワケにはいかないんです。私も勇者とマジパティの協力者ですから…」
かつでの主である
「なので、一悟…次に現れるカオスイーツは、恐らくカオスイーツ化したビスコッティでしょう。その時は…あなたの力で、千葉柊也に戻してくださいっ!!!」
一悟に向かって叫ぶ瑞希は、全身を震わせながら、ウッドデッキから見える
「お願い…します…私にできる事は、あなたをマジパティとして導く事…それだけなんです…」
彼女の言葉に一悟は息を呑み、まるで瑞希の覚悟を受け入れるかのようなきりっとした表情で、烏帽子岩を見つめる。
「俺に迷っているヒマなんてねぇっ!!!あすちゃんも…柊ちゃんも…絶対にカオスから取り戻して見せる!!!」
一悟達がウッドデッキから離れ、屋敷の中へ入ると、リビングがざわついていた。
「どうしたんだ?みるく…」
「いっくん…実は…」
ビスコッティが背負っていたスポーツバッグの中から大きな八面体の黒い水晶が出てきたのである。戸惑う
「明日香っ…どうして…」
大きな黒い水晶の中には、千葉明日香が閉じ込められていたのだった。それはまるで、ビスコッティがブラックビターを裏切った事を決定づける雰囲気だ。
「ビスコッティは千葉柊也として、明日香をカオスから助け出そうとしたのか…」
「兄貴は、姉さんの事を大事にしていたんだ。あの親父に気づかれぬように反発するくらいにな…」
ガレットの呟きに応える涼也の真横で、賢者は黒い水晶を手で触って調べる。
「ふむ…この状態なら…」
「任せろ…カオスから引きずり出すのは得意技だ!!!」
賢者のセリフを遮るかの如く、僧侶は杖を構えるが…
「いや…今回は、僧侶ちゃんの出番じゃない。」
大勇者の言葉が、僧侶の手を止めらせる。
「えっ…親父、こういう時はアンヌの出番じゃ…」
「僧侶ちゃん…本当はブランシュ卿と同じ「プラージュ症候群」なんだろ?海辺の街ではパワーダウンするっていう…」
大勇者の言葉に、僧侶は黙って頷く。
「やっぱり…」
「プラージュ症候群?」
「スイーツ界の病気だ。僧侶ちゃん、食事で漬物とか塩分の多いものは食べないだろ?その影響だ。」
ネロの呟きに、大勇者が分かりやすく答える。
「プラージュ症候群」は大量の塩を浴びたり、潮の香りを嗅ぐと、眩暈や息切れなどを起こすスイーツ界の病気の一つである。遺伝性の病気で、ブランシュ家で生まれた人間の半数はこの病気にかかっている。祖先の呪いもあるアンニンだけではない…弟のジュレも、同じく「プラージュ症候群」だ。
「道理で…調子が狂うわけだ…」
アンニンは、がっくりと肩を落とす。
「そのせいで…目の前の患者を…助けられないなんて…」
今の己の無力さを嘆く僧侶を、女勇者は幼馴染として、アンドロイドは従者としてそっと支える。
「マスター、ここ数日の睡眠時間が足りていないのも、今回力を発揮できなかった一因ですよ?これ以上の無茶はやめてください!!!」
従者の言葉に、アンニンはがっくりと膝を落とす。終業式があった日以降、合宿の準備や、受け持っている茶道部の関係で忙しく、日付が変わる頃に寝て、明け方に起きる生活リズムの繰り返しだったようで、更に
「シンシア…明日香は助かるのか?」
「大丈夫よ、ニコラス!ちょーっと荒っぽくなるけど、ニコラス達の明日香を助けたい想いがあれば、あたしの力で助け出す事は可能よ。」
クラフティの質問に、トリュフはにこっと笑いながら親指を立てる。
「だから、明け方まで待ってちょうだい。賢者の力がたまるには朝焼けの光が必要なの。」
「そうか…ありがとう、シンシア。」
「いいって事よ!!!」
夕食と入浴を済ませた後、勇者クラフティは
「俺からの本音もちゃんと明かせていないし、8年間のわだかまりもまだ消えていない状態で話すのも変だけど、お前たちに協力してほしいんだ。」
クラフティは友菓、ここな、有馬の3人の前で自分が思っている事を全て打ち明ける。マジパティ同士が自分をかけて争う事が嫌だった事、本当は明日香の事を愛している事、兄であるガレットと比較される事が嫌だった事…
「こんなムシの良すぎる勇者なんて、俺…くらいだよな…?でも、俺は明日香を愛している事に変わりはないし、勇者として明日香やお前達と一緒に戦いたい!!!たとえ今後も兄さんを越えられなくても…」
友菓達は笑いもせず、真剣な表情で話を聞いている。そんな空気にクラフティは少々戸惑いを示すが…
「俺からも話していいか?」
「あ、あぁ…」
クラフティから見て正面を向いている有馬が、クラフティに問いかけ、クラフティは思わず頷く。
「俺は、8年前から明日香がクラフティを愛している事に気づいてた…だから俺はあの時、「明日香の幼馴染」として明日香を応援していた。俺は、明日香がクラフティと一緒にいて幸せだと思うなら、それでよかったんだ。俺にとって、明日香は「可愛い妹」みてぇなもんだしな…」
有馬が明日香の幼馴染としての当時の心境を打ち明ける。
「だから…有馬は、カオスイーツに対して戦いに必死に打ち込んでいたんだな…」
有馬は黙って頷き、話を続ける。
「あの時の俺は明日香に負担をかけないように必死だった…その結果、明日香達はクラフティをかけて争い合うようになっていた…マジパティとして、失格だよな?俺は仲間同士の
「そんなことないっ!!!」
有馬の言葉を、友菓が否定する。
「マジパティの最大の目的は、カオスイーツを浄化する事…でしょ?あたし達よりもいっぱいカオスイーツと戦い続けた先輩が、マジパティ失格なワケないじゃん!!!寧ろ、あたし達の方がマジパティ失格だよっ!!!」
その言葉に、クラフティがハッとする。兄に対してのコンプレックスが勝りすぎたあまり、自分のマジパティ達に伝えることができなかった「マジパティの最大の目的」を、自分のマジパティが口走ったのである。
「あのね…ネロちゃんとユキたんから聞いたんだ…マジパティの最大の目的を。でもね、ネロちゃんも…ユキたんの本体でもあるゆっきーも…最初はその事全然知らずに、心を閉ざしたまま好き勝手してたんだって。」
友菓は落ち着いた口調で、クラフティ、ここな、有馬の3人に、友菓が雪斗とネロと初めて出会った日、自分が勇者クラフティのマジパティであることを打ち明けた後、ネロとユキから聞いた話を説明する。ネロがマジパティになった事で、勇者ガレット、グラッセ、ボネと協力せずに
「だからね…あすちゃんを助けるには、あたし達もマジパティの最大の目的を知った上で、心を開く必要があると思うんだ。過ぎちゃった時間は戻せない…っつーか、遠回りしすぎたけど…今度こそ、一緒に力合わせて戦おうよ!マジパティとして!!!」
「フン…甘いな、友菓。8年も時間が経った状態で、ボク達が簡単に和解できるとでも思ったか?」
友菓の提案に、ここなは鼻で嗤うが…
「…って、8年前のボクならそう言うだろう。でも、今のボクは友菓の意見に賛同する。クラフが明日香を愛していると知ったのは悔しくも悲しくもあるが、クラフが選んだ事だ。否定はしないさ。その代わり、クラフにはボクに手を出した責任を取ってもらうけどな。」
クラフティの心に釘を刺しながらも、ここなはフフッと笑う。そんな彼女のスケッチブックに書かれている文字は…
「これからは絶対に明日香を泣かすな。それがボクに手を出した責任だ。」
全員がそのスケッチブックに注目した途端、4人は一斉に笑い出した。
「だから、みんなで明日香を助けよう…そして、明日香に好きな恰好をさせよう。明日香はこれまでずっと父親の束縛で、好きな恰好ができなかったからな。」
「そうだよな。俺もあのゴリラ男には進学の件でムカついてんだ!
「トモちんだって、あすちゃんをちゃんと支えたいっ!!!あの老害ゴリラには腹が立つけど、想いが一つになった今、トモちん達の辞書に「不可能」の文字はないっ!!!」
友菓の言葉に、クラフティは安堵の表情を示す。友菓の提案で一つになった「明日香に対する想い」…それは、まるで長年の
「そんじゃ…8年ぶりだけど、改めて自己紹介しとく!俺はクラフティ…ニコラス・クラフティ・ブラーヴ・シュヴァリエ。人間界での名前は「
「俺は
「あたしは
「ボクは
そんな4人の様子を、ガレットと賢者は扉の向こうで聞き耳を立てて一部始終を聞き届ける。
「よかったな…ニコラス…」
「やっと、カル兄に対するコンプレックスから離れられたって感じね…」
「あぁ…でもな、元々ニコラスは勇者としての資質はなかったし、本来ならエレナが俺の次に勇者になるはずだった…」
賢者の言葉に、大勇者は勇者クラフティが勇者として覚醒した時の事を思い出す。
クラフティには双子の姉・エレナがおり、彼女も兄である勇者ガレットの下で剣の修行に明け暮れた。姉弟げんかも、剣を交えた試合も、スイーツを作る才能も、精霊と心を通わせる能力も…姉であるエレナの方が上だった。2人の兄であるガレットも、自分の次に勇者になるのはエレナだろう…そう信じて疑わなかった。
しかし、13年前の7月14日の朝、彼の前に現れた光に包まれた大剣…運命はニコラス・クラフティ・シュヴァリエが勇者クラフティとして覚醒する事を選んでしまったのである。勇者としての資質に欠けていた双子の弟が勇者に選ばれた様子を見て、エレナのショックは計り知れなかった事だろう。それ以来、エレナと勇者クラフティには長年の確執が生じ、つい最近まで2人が顔を合わせる事はなかったのだった。
「あん時は、旅の仲間を探すの大変だったわぁー…エレナは断固拒否の態度だったし、あたしが元クラスメイトだったエクレールを説得して引き入れてさぁ…」
「それで、成り行きで俺の部下の妹も武闘家として加わって…」
「あぁ、ロールちゃん!元気かなぁ…」
「今も現役で武闘部隊の隊長やってるぜ。」
大勇者と賢者の思い出話も積もりに積もり、僧侶アンニンに注意されるまで続いたのだった。
………
クラフティが自身のマジパティ達と胸中を打ち明けてから、夜が明けようとする。一悟は不意に目を覚まし、寝間着から着替えるや否や、2階のバルコニーから海を見つめる。
「…!?」
烏帽子岩に佇む細長いチョコレート色でビスケット状のカオスイーツ…その姿を確認した一悟は、昨晩の瑞希の言葉を思い出す。
「なので、一悟…次に現れるカオスイーツは、恐らくカオスイーツ化したビスコッティでしょう。その時は…あなたの力で、千葉柊也に戻してくださいっ!!!」
カオスイーツの姿を見て、迷っているヒマなんてない。一悟は急いで同じ部屋で眠っているみるく、ユキ、玉菜の3人を起こし、寝間着から着替えた3人とココア達と共に屋敷を飛び出す。幸いにも、浜辺に来ている人達がいない。
「「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」」」」
一悟達は走りながらブレイブスプーンを構え、4人の中学生から4人のマジパティへ姿を変える。行先は勿論、カオスイーツ化したビスコッティの所だ。
勇者シュトーレンのマジパティ達が浜辺を駆け抜ける。そんな彼女達の様子を見ながら、勇者クラフティは自身の大剣を構え、友菓、ここな、有馬の3人はそれぞれのブレイブスプーンを構える。
「ニコラス、準備はいいわね?」
「頼むぞ…シンシア…」
人の気配がまだない浜辺…夜明けの海を見つめつつ、明日香のいる黒い大きな水晶の前で、賢者のローブをまとった賢者トリュフは自身の杖をまるで指揮棒のように振りかざす。
「賢者トリュフの名において命ず…
賢者の杖に夜明けの光が集まり始め、まるで黒水晶を取り囲むかのように前後左右に朝焼けの光のような魔法陣が現れると、クラフティは友菓達に合図をする。
「今だっ!!!!!」
「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」」」
湘南の海に水色、黄色、紫の3色の光の柱が現れるや否や、友菓達は瞬く間にマジパティにそれぞれ変身を遂げ、勇者クラフティも青いアロハシャツ姿から一瞬にして真紅の甲冑姿に変わる。
「ブルーのマジパティ・ソルベ!!!」
「黄色のマジパティ・プディング!!!」
「白銀のマジパティ・クリームパフ!!!」
「行くぞ…みんなっ!!!」
賢者の杖に集まった夜明けの光が、明日香のいる黒い大きな水晶を空中に浮遊させ、瞬く間に黒い大きな扉へと形を変えてしまった。扉が「ギィ」と音を立てながらゆっくりと開いた刹那、1人の男の勇者と3人のマジパティは扉の中へと飛び込んだ。
「Good luck…」
賢者がそう言うと、黒い大きな扉が「バタン」と音を立てて閉まる。
「禍々しい混沌のスイーツ、勇者の力で姉思いの柊ちゃんの姿に戻してやるぜ!!!」
勇者クラフティと3人のマジパティが大きな扉の中へ入ったと同時に、勇者シュトーレンのマジパティ達はカオスイーツ化したビスコッティと対峙する。カオスイーツ化したビスコッティの懐には、涼也が父親の暴走の際にカオスイーツ化された時と同じく、明日香と似たような雰囲気のツインテールの人形が佇む。
「ビスコッティはナイフを使ってくるわ!ナイフの動きに気を付けて!!!」
「バシュ!バシュ!バシュッ!!!」
クリームパフが叫んだと同時に、カオスイーツは空中に無数のスライス状のナッツを浮遊させ、4人のマジパティ目掛けて解き放つ。
「やっぱりな…」
ミルフィーユはクリームパフの注意に納得するや否や、咄嗟にミルフィーユグレイブを出す。
「ミルフィーユリフレクション!!!」
ミルフィーユは勢いよくミルフィーユグレイブを回転させ、無数のナッツを弾く。カオスイーツが放ったナッツはまるで鋭利な刃物のようにぼちゃぼちゃと水音をたてながら海底に刺さる。
「うわっ!!!あぶなっ…まるでガラス片みたい…」
「柊ちゃんは、ペーパーナイフをコレクションしてたんだ。それに、投げナイフとダーツも得意…ナイフによる攻撃が分かってるからには、対策もぬかりなしだぜ?」
「って、小学生でなんてものコレクションしてんの!!!」
ソルベはそう言いつつも、ソルベアローを回転させながらでナッツを次々と弾き、クリームパフは白銀のドリルで応戦する。
「プディングアムールウィップ!!!」
プディングも、プディングワンドから黄色い光の鎖を放ち、まるで鞭のように振り回す。
「あたしも…ミルフィーユの願いに協力を惜しみません!!!かかってきなさい!」
ミルフィーユもとい、千葉一悟の「千葉明日香と千葉柊也をカオスから解放したい」という想いに呼応しているのか、プディング、ソルベ、クリームパフの3人の動きに迷いとスキが一切ない。特に、パリで戦い続けてきたクリームパフは猶更だ。
「ほらほら、あなたのナイフさばきって、そんなものかしら?初対面で私に浴びせた時より劣ってるんじゃない?」
カオスイーツを煽ったり、白銀のドリルによる攻撃ばかりだけでなく、テコンドーで鍛えた足技でナッツを弾くのもお手の物だ。弾かれたナッツは砂浜と海底に刺さり、プディングの光の鞭で次々と砕かれる。
どれほどの時間が経過しただろう…段々とカオスイーツがナッツを放つ間隔が長くなり、とうとうカオスイーツの身体からナッツが消えてしまう。
「弾切れ…ってトコだね?それなら、大人しくしてもらうよ!!!ソルベブリザード!!!!!」
ソルベは砂浜からソルベアローを回転させ、カオスイーツの下半身を烏帽子岩ごと凍らせてしまった。
「プディングサーチャー!!!」
ソルベがカオスイーツの動きを封じたと同時に、プディングは頭の2本の触角をぴこぴこと動かして、カオスイーツの弱点を見つけ出す。
「今です、ミルフィーユ!!!明日香さんとよく似たお人形を狙ってくださいっ!!!!!」
弱点を見つけたプディングは、咄嗟にミルフィーユに伝え、ミルフィーユは改めてミルフィーユグレイブを構える。
「了解っ!!!行くぜ、ココア!!!!!」
「合点でぃっ!!!」
ココアがミルフィーユの右肩に乗ると、ミルフィーユとココアは同時にウインクをする。
「精霊の力と…」
「勇者の力を一つに合わせて…」
「グレイブエクステンション!!!」
ココアはピンクの光を纏いながら、ロボットアニメの主役機が武器を構えるような姿で立つミルフィーユが持っているピンクの長薙刀の飾り布の付け根に飛び乗る。その瞬間、ミルフィーユグレイブの刃の部分がピンクの光を放ちながら刃先が長く変形すると同時に、ビスコッティ方面に伸びるピンクの光の道を駆け抜け、ミルフィーユは光の道の終点を思いっきり踏みこむと、勢いよく飛び上がる。
「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」
ミルフィーユは掛け声と同時に、長薙刀を振り上げる。
「ストライク!!!」
ミルフィーユが叫んだ瞬間、長薙刀はピンクの光を放ちながらカオスイーツを明日香とよく似た人形目掛けて一刀両断する。その太刀筋と姿は、まさしく勇者の力を受け継ぐ者に
「アデュー♪」
2人がウインクをしたと同時に、カオスイーツ化したビスコッティは光の粒子となり、本来の姿である千葉柊也へと戻っていく…
「おかえり…柊ちゃん…」
烏帽子岩の傍で、ミルフィーユは穏やかな表情で柊也を優しく抱きしめ、既に変身を解いたみるく達のいる砂浜へと戻る。柊也は意識を失っているものの、まだ息はあるようで、賢者の近くで様子を見に来た勇者親子とネロ、ボネ、トロールの所へ急いでかけつける。
「救急車は既に呼んである。一悟、今すぐ変身を解いて…」
大勇者はミルフィーユにそう言いかけるが…
「ギィ…」
「えっ…?どうして扉が…」
賢者の目の前の扉が突然開き、白い光が扉から放たれ、4人のマジパティとネロ、ボネ、トロールの7人を一瞬にして光の中へ飲み込んでしまった。
「みんなっ!!!」
扉が閉じて光がおさまると、一悟達の姿はどこにもなく、大勇者は砂浜に倒れる寸前の所で柊也を抱きとめる。女勇者のマジパティがいた場所には、ぽつんとマジパティ達のパートナーである精霊が空中に佇むのみ…
「一悟…」
「みるく…」
ココアは、呆然とするラテの手を握り、苦虫を噛み潰したような表情で扉を見つめる。
「玉菜ぁ…」
「…っ…ユキ…」
突然玉菜が消えてしまい、大粒の涙を流す妹を優しく抱きしめつつ、ガトーは悔し涙を浮かべる。
「セーラ…お前は、一悟のじーちゃんが来るまでの間、病院まで柊也に付き添え。一悟のじーちゃんの番号は
父親の言葉に、シュトーレンは息を呑む。
「わかったわ…親父。」
「一悟達と海の家は、俺が全部責任を取る…」
ガレットが呼び出した救急車のサイレンが段々と大きくなる…迷っている時間はないほどの緊急事態に、ガレットは娘に深刻な表情でそう伝える。
「一体…扉の中で何が起ころうとしてるの…?」
賢者の足元に転がる、ピンクのマグカップに身体を入れた精霊…予想外の事態と、扉から漂うただならぬ空気に、賢者の背筋が凍りつく。
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