第26話「廃部決定?マルチメディア部を守れ!」

「5年前に瀬戌せいぬ市内の廃墟に男の赤ちゃんを捨てたとして、警察はタレントで、瀬戌テレビアナウンサーの白石甘音しろいしあまね容疑者を保護責任者遺棄いきの容疑で逮捕しました。」



 7月4日、夕方―


 玉菜たまなの姉・甘音は夫の進次郎しんじろうと共に瀬戌警察署に出頭し、5年前にマカロンの媒体を産み捨てた事を認めたのだった。進次郎自身はリムジンでテレビ局に向かう際、「何があったとしても、甘音の事を信じて待っている」と豪語しており、2人は別れないだろう…と、玉菜は考える。

「進次郎さん…とてもいい人ですね…」

「ホント…バカ姉とは釣り合わない性格しているけど、進次郎さんのバカ姉に対する愛は本物よ…」

 そう会話をしながら、瑞希と玉菜は並んで帰路につく。本当なら信じたくない事ではあったが、玉菜がそれを受け入れたのは、進次郎の甘音に対する真っ直ぐな気持ちがあってのものだった。玉菜は母親から帰宅を促されたので、2日ぶりに家に戻れることとなったのである。


 そんな2人と入れ違いになるかのように、大荷物を包んだ風呂敷を背負った紫色の髪の少女が、カフェ「ルーヴル」の住居スペースの玄関へとやってくる。

「おぉ~…ここがガレちんが暮らしてるカフェっぺかぁ…」

 少女は独特な茨城弁でそう話すと、荷物を下ろし、インターホンを押す。


「ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪」


 カフェのインターホンがけたたましく響いた10秒後、玄関からガレットがもの凄い勢いで階段を下り、玄関のドアを開ける。

「「すぐ行く」の連絡から1週間後に来るんじゃねぇっ!!!!!」

 どうやら、大勇者ガレットとは顔見知りのようである。



 ………



「えぇー…漆山うるしやまマコの事だが、親御さんの再婚の都合で急遽きゅうきょフランスに転校することになった。」

 下妻しもつま先生から漆山マコの事を聞かされた生徒達は、驚きの声を上げる。漆山マコの本当の行く末を知っている一悟いちご達には、正直言って複雑な気持ちになる。

「あまりにも突然の事で、我々教職員達も驚きを隠せていない。だが、漆山はいずれまた…我々の前に現れる事を約束した。我々にできる事は、漆山のその言葉を信じるだけだ。」

 最後の言葉で一悟の隣であるマカロンの席を挟んで廊下側に座っている中津なかつゆめが嗚咽する。突然親友と呼べる存在がいなくなっただけに、彼女の心の傷がいえるのは容易ではないだろう。

米沢よねざわ…中津を保健室に連れて行ってやりなさい。」

「は、はい!ゆめちゃん…肩…かしたげる…」

 下妻先生にゆめの介抱を任されたみるくは、ゆめを保健室へと連れて行く。


「本来なら、漆山がいる状態で紹介すべきだったのだが、こちらも家の都合で転校が本日付けとなった者がいる。入りたまえ!」

 よく見れば、今日の一悟のクラスには窓寄りに座席が1つ増えている。そんな転校生は下妻先生が教室に入るよう促しても、入って来る気配がない。


「ガラッ…」


 下妻先生は教室の扉を開け、1人の紫色の髪の小さな少女の腕を引いて教室に戻って来た。彼女の頭部の左側にはお団子の状態に括られている。下妻先生は少女を黒板の前に立たせると、黒板に「土呂とろひばり」と名前を書き始めた。

「本日付でこのクラスの一員となった、土呂ひばりさんだ!」

「土呂ひばりだっぺ。どうがよろすぐお願いすっぺ。」

 独特な喋り方をする少女は、ニコニコと笑いながらクラスメイト達に手を振る。

「土呂は、茨城いばらき常陸太田ひたちおおた市からやってきたそうだ。漆山の件で困惑していると思うが、どうか土呂の事も受け入れていただきたい。」

 その言葉に、他の生徒達はざわつきはじめる。

「それで、座席は…」

 下妻先生は窓際の空席を指し示そうとするが…


「先生、わだすはあの茶髪のちんちゃい男子の隣がえーべ!窓っこ寄りの…」


 なんと、ひばりは一悟を指さしながら下妻先生の腕を引っ張る。一悟の窓よりの隣…そこには既に松江慎司まつえしんじという男子生徒が座っており、自分の座席を指刺された松江は盛大にびっくりする。

「先生が決めた席だと、黒板見えにぐいんだぁ…」

 その言葉に、下妻先生はため息をつき…

「松江、仕方ない…窓際の一番後ろに移ってくれ。」

 松江に座席の移動を促し、一悟に対してはひばりに教科書を見せるように頼む。

「よろすぐなぁ!」

 ひばりが一悟にそう声をかけながら席についたと同時に、みるくが教室に戻って来た。ゆめは授業を受けられるような精神状態ではないようだ。

「米沢、千葉ちば一悟の隣にいるのは、転校生の土呂ひばりさんだ。あくまで教科書を見せるだけなので、彼にもわからない事があったらフォローするように。」

「は、はい…」

 下妻先生はそう言うが、みるくのひばりに対する目線は厳しい。

「さ、さて…授業を始めよう。今日は昨日返却予定だった、期末テストの答案を返却する。」




「はぁ…まさかの追試かよ…」

 サン・ジェルマン学園中等部では、期末試験の時に平均点より30点以下の科目が1つでもあると、追加試験を受けなければならない。一悟は今日のテスト返却で理科と数学が平均点よりも30点以下だったため、追試を受ける事となった。

「いちごん…追試くらいいいじゃないか。僕なんて、今年も補習フラグ…」

 さらに、追試でも合格点以下の場合は、夏休みに補習を受ける事となる。雪斗ゆきとの場合、昨年の英語の期末試験が10点。さらに、追試では英語の問題だけ0点を取るという結果で合格点に満たず、夏休みは部活の傍ら、補習に参加していたのである。

「そんなもん…自慢になんねーぞ…みるくは…」

 そう言いながら、一悟は昇降口の掲示板を見る。そこには、期末試験の成績上位者の名前が張り出されており、2年生の方にはみるくの名前が7位に入っている。

「はー…これは公開処刑けー?」

 その言葉に、一悟は盛大にずっこける。

「これは、成績上位者の発表で…おっ、涼也りょうやは26位か。」

「涼也は努力家ですもの。ワタクシも見習わねば…追試になげく暇など…ございませんわ…」

 どうやら、あずきも追試のようである。3年生の方は玉菜が学年5位で、科目別では英語が1位。瑞希みずきは10位で、科目別では国語が100点満点の1位だ。


 そんな成績ではあるのに、瑞希は浮かない顔をする。

「まだ東山ひがしやま先生に言われた事、気にしてるの?」

 どうやら、成績とは関係ないようだ。東山先生は弓道部顧問の他に、生徒会の顧問を受け持っており、生徒会役員ではない瑞希が呼び出されたのはどうやら部活関係のようだ。

「あの方がいなくなってしまったのです…先生のおっしゃる通り、廃部にすべきだとは思いますが…」

 部室には、マカロンがアジトから持ってきたパソコン機材がおいてあり、瑞希はマカロンの意志を感じたのか、マルチメディア部を存続させたいようだ。

「瑞希…私だって応援したい。でも、私は生徒会もやってるし…合唱部の部長。親友としてのこれ以上のサポートは難しいわ。」

「でも…金曜日までに部員をあと4人集めないと…」

 そう言いながら、瑞希はため息をつく。


 現在、マルチメディア部は瑞希が所属しているだけであり、部員が5人そろっていない部活は、校則通り廃部となる。マルチメディア部は元々パソコン部として活動しており、瑞希がサン・ジェルマン学園に入学した時点でそれなりの部員がいた。そこから部員は減る一方で、瑞希が部長になってからは殆どの部員が顔を出さなくなった。4月から「マルチメディア部」に名前を変え、マカロンのコネで何人かの生徒が名前のみ所属という事にはなった。だが、先日の炎上騒動でその名義貸しをしていた生徒はマルチメディア部に退部届を提出してしまったのである。


 そのうえ、マルチメディア部の顧問は先月懲戒免職ちょうかいめんしょく処分となった佐貫さぬき先生が名ばかり顧問を受け持っていた。今の瑞希には、部員を揃えるだけではどうにもならないのである。悩む瑞希の姿に、ひばりは少々首をかしげる。



 ………



 放課後になり、雪斗とあずきは弓道部、涼也は剣道部へ向かったため、一悟とみるくはひばりが「カフェに行きたい」という事で、カフェ「ルーヴル」に向かっている。

「悪がっぺなぁ…わだす、カフェで下宿しとって…」

「なぜ結婚を控えている勇者の所に下宿に来たのか」という疑問こそあるが、昼休みにガレットと親しく話していたことから、ガレットの知り合いのようだ。


「ガチャッ…」


 合鍵でカフェの住居スペースに入ると、リビングでガレットがテレビを見ていた。

「ガレちん、今、けぇったべ…」

 その話し方に、一悟、みるく、ラテ、ココアは目を丸くする。

「一悟とみるくも一緒か…ネロは今、店で仕事中だからあとで話すとして…まぁ、全員そこに座れ。」

 ガレットは一悟達をテーブルの前に座らせる。


「まさか一悟達のクラスに編入したとは思わなかったけど、コイツはトロール。魔界のマジパティの1人で、今日から「土呂ひばり」として学校に通ってるんだ。」

「よろすぐなぁ!」

 転校生・土呂ひばりは、魔界のクリームパフ…つまり、マジパティであった。

「元々編入は決まってたんだけど、コイツ…「超」が付くほどの方向音痴でさぁ…人間界に来てすぐにツバメに気をとられて…」

「親ツバメがエサ探すのに困ってっぺさ。鳥類の魔族だがら、困っでる鳥はほっとげねー。(親ツバメがエサ探すのに困ってたのよ。鳥類の魔族だから、困ってる鳥はほっとけないわ。)」

 どうやらトロールは、グラッセ達と同時期に人間界に来たようだが、氷見家の敷地内にいるツバメの親子に気を取られてしまい、気が付けば北は北海道、南は沖縄…と、日本列島をうろついていたようだ。

「1週間ほど前、ボネと連絡がついて「茨城にいる」「すぐ行く」って連絡が来てたんだけどなぁ…」

「茨城はわだすの話してる言葉と似でっぺ。故郷みだいで居心地よぐて、つい長居しじまったぁ…(茨城はあたしの話している言葉と似てるの。故郷みたいで居心地よくって、つい長居しちゃった…)」

 あっけらかんと話すトロールの姿に、流石の一悟達も僻辞へきじする。

「それに、東京の鉄道は乗り換えばっがで、どごさ行ぐにもごじゃっぺな行先になって好かんけぇ…ほんで、ここまではヒッチハイクで来たっぺ。(それに、東京の鉄道は乗り換えばかりで、どこ行くにもでたらめな行先になって好きじゃないの…それで、ここまではヒッチハイクで来たわ。)」


 先代のマジパティ達の事に関しては、トロール自身も把握しており、ダークミルフィーユも先代マジパティと関わりがある…と、トロール自身は睨んでいるようだ。

「こんなわだすだげど、マジパティとしてやるごとはやる!そいで一悟も雪斗もなぁ…夏休みを補習で潰すのはやめどけ?(こんなあたしだけど、マジパティとしてやることはやる!それで一悟と雪斗もね…夏休みを補習で潰すのはやめなさい?)」

 その瞬間、一悟の背筋が凍り付いた。

「あちらさんはチカラつげてわだすらに向がってくる。補習やってる場合でねーべ!大体、補習やっでたら…マジパティの名に傷がつぐっぺなぁ…ガレちん。(あちらさんは力つけてあたし達に向かってくる。補習やってる場合じゃないわ!大体、補習やってたら…マジパティの名に傷がつくわよね…ガレちん。)」

「ま、まぁ…ブラックビターが一筋縄ではいかない以上、確かに補習に行くヒマ…ないもんなぁ…」

 ガレットはそう言うが、ガレットの方にも心当たりのある人物が1人いるようだ。そんな彼の背後には…


「へぇ~…補習ねぇ~…(男声)」


 シュトーレンだ。そんな彼女は、異様な笑顔で怒りのオーラをまとっている。

「おぉ、嬢ちゃん!一悟は理科と数学がいしけー点でなぁ…雪斗に至っては、英語でごじゃっぺな答えばっか書いで、下妻先生が…(あら、嬢ちゃん!一悟は理科が酷い点でね…雪斗に至っては、英語ででたらめな答えばかり書いて、下妻先生が…)」

「親父…一悟といい…グラッセといい…何で歴代ミルフィーユは常に理数系が壊滅的なの?(男声)」

「グラッセさんも追試なんですかぁっ!!!?」

 高等部の方も期末テストの結果が出たようで、ネロは学年2位、ボネは成績上位ではないものの、全教科ほぼ平均点な上に、順位も中間テスト同様、学年のほぼ真ん中というある意味奇跡的な成績をたたき出していた。だが、グラッセだけは英語と日本史以外は赤点。特に生物と数学は雪斗の英語並みの酷さだったのである。勿論、通信課程にも期末テストがあるため、シュトーレンも先日の期末テスト期間は「首藤しゅとうまりあ」として高等部で期末テストを受けていたのだった。結果は、古文が平均点とほぼ同じ点数あった事以外は、高等部1年内で23位に食い込んだのである。

「夏休みはカフェの手伝いするって約束したわよねぇ…それなのに、数学30点に理科45点ってどーゆー事よ!!!(男声)」

 そう言いながら、勇者は一悟にヘッドロックをかます。

「わーーーーーーっ!!!やめなさい!セーラ、やめたげてよぉぉぉぉぉ!!!!!」


『でも…先代のミルフィーユは、茅ケ崎ちがさきの図書館で見たけど…中学生で数学検定2級持ちだったし…涼也が言うには、英語が雪斗並みに酷かったらしいけどね…』




 魔界のマジパティが全員揃った事もあり、ネロはトロールを連れて帰宅する。トロールも、今晩から他の魔界のマジパティと同じくアパートで一緒に暮らすのである。

「まったく…最後はヒッチハイクだなんて…」

「んだが、楽しがったー。海沿いの町で戦車に乗っだ女の子追っかけでるおじさん達もえぇ人達だったし、吊り橋からバンジージャンプしだのもいい思い出だー!(でも、楽しかったー。海沿いの町で戦車に乗った女の子追っかけてるおじさんたちもいい人達だったし、吊り橋からバンジージャンプしたのもいい思い出よ!)」

 呆れるネロに対して、トロールは笑いながらそう答える。

「でも…大変なことになったな。お嬢があれほど発狂するなんて…」

「んで、グラッセは期末テスト、どうだっぺか?(それで、グラッセは期末テストどうだった?)」

「英語はリスニング合わせて200点満点のうち190点、現国36点、古文40点、数学18点、生物22点、日本史98点…一悟よりもひどい有様だ。」

 因みに、一悟は国語58点、数学30点、英語84点、理科45点、社会88点である。

「わだす達も、少しでもグラッセのチカラにならんといげねー。嬢ちゃんのあの様子には、流石のガレちんも困ってっぺ!(あたし達も、少しでもグラッセの力にならないといけないわ。嬢ちゃんのあの様子には流石のガレちんも困ってる!)」

 トロールの言葉に、ネロは頷くしかなかった。

「結婚式を控えたお嬢の負担を減らすだけでなく、イナバの方もカバーしなければならないのも…」

「あぁ、話変わっけども…ネロは部活とかやっでみる気にはならねー?(あぁ、話変わるけど…ネロは部活とかやってみる気にならない?)」

「…はぁ?」

 突然の話題変更で、ネロの思考回路は一瞬だけ停止した。



 ネロ達が住んでいるアパートに戻ると、既にグラッセとボネが帰宅していた。ネロはカフェであった事を2人に話すと…

「む…娘ちゃんがいっちーをヘッドロックするほど発狂って…よっぽどじゃねーか!!!」

 ボネは顔全体が真っ青になり、グラッセは嘆き悲しんだのだった。

「ふえぇー…追試やだー!!!補習もやだー!!!」

「だったら、勉強すりゃえぇべ!びだけんな!(だったら、勉強なさい!甘ったれんな!)」

「お勉強もむりぃー!!!」

 本当にどうしようもない程勉強嫌いなところが、グラッセの悪いところだったりする。

「って事は、今頃いっちーは一華いちかと一緒にお説教コース…か。貯金みてぇにコツコツやってりゃ、それなりに成績取れんのになぁ…」


 ほぼ同時刻の千葉家では、まさにボネの予想通りの展開が行われているのは言うまでもない。仕事からの帰宅早々、我が子の酷い成績を見てしまえば、怒り狂うのも無理はないだろう。




「ちかちゃん…また赤点取ったんだって…?」

 部屋の窓から、みるくは一悟の部屋の窓にいるココアに話しかける。

「通信課程の生徒含めた132人中、107位だってよ!120人中、72位の一悟よりもひでぇ成績!」

 ココアの言葉に、みるくはラテと共にため息をつく。実を言うと、一華は去年も定期テストの成績が悪いものばかりで、学年末テストの時には成績不良による留年を宣告されたほどだ。

「いっくんはカフェの手伝いで補習どころじゃないし、ちかちゃんはインターハイ控えているのに…このままだと…」

「一華さん、このままだとインターハイどころじゃないですね。」

「せめて瑞希や涼也みてぇに…ってか、瑞希の奴さぁ…期末の成績良かった割に、元気ねぇよなぁ…」

「じ、実はね…マルチメディア部…廃部になるかもしれないんだって…」


 瑞希本人から直接聞いたワケではないが、トロールがたまたまその話を小耳に挟んだようで、カフェへ向かう途中で…


「とごろで、「まるちめであ部」って何ちゃ?(ところで、「まるちまでぃあ部」って何かしら?)」


 …と、マルチメディア部について聞いてきたのである。

「やはり、マカロンの媒体ばいたいが成長するまでは残したいんでしょうね…」

「そうなんだよね…あたしでも、瑞希さんに対して何か…できないかな…」

 みるくの言葉に、ココアは何かひらめいたようだ。

「そういや、みるく…お前、部活入ってないんだよな?」

「う…うん…やりたい部もなかったし、パパやお兄ちゃんの事もあるから入ってなかったけど…」

 そう答えた刹那、みるくは自分でも瑞希のためにできる事に気が付いたのだった。


「これだ!!!」




 ………




 翌朝、みるくはトロールと一緒に職員室で下妻先生にマルチメディア部に入部するための必要書類をもらいにやって来た。

「みるく、お前は父子ふし家庭で部活は入れないって言ってたはずだが…」

「パパ…いえ、父からの許可はとってあります!「汀良てら先輩」にはまだ話をしていませんが、せめてお力になれれば…」

 その言葉に、下妻先生はハッとする。ブラックビターの幹部の頃からのティラミスとマカロンの主従関係の事を思い出せば、ティラミスもとい瑞希の性格上、「マルチメディア部を守りたい」と考えるのも納得がいく。

「それなら、この入部届に親御さん…土呂は親が遠方だから、身元保証人である氷見ひみ家の当主様にサインと印鑑をもらい、汀良に渡すように。私もマルチメディア部に関しては気がかりな所もあるから、部活の件は私に預けて欲しい。」

「「はい!」」

 みるくとトロールは下妻先生から入部届を受け取ると、そのまま職員室を出る。そこへ…


「みるく、今日の日直はいちごんだったはずじゃ…」


 朝練を終えた雪斗と廊下でバッタリ会ったのだった。

「トロちゃんがね、マルチメディア部に入りたいって言うから職員室に案内したの。」

 トロールは昨日も職員室に来たのだが、一晩で場所を忘れてしまったようだ。

「それなら、どうしてみるくも入部届を持ってるんだ?家の事は…」

「パパからOKもらったから、大丈夫!それに、「漆山さん」の意志を守ろうとしている瑞希さんのためにできるのはこれくらいだし。」

 みるくがそう言うと、雪斗の意識の中でユキが動き出す。ユキの方も、マカロンの事で何かやれることがないか、模索しているようである。


 一昨日、マカロンの媒体である赤ん坊を彩聖さいせい会瀬戌病院に運んだ時の事は、ユキの記憶の中で忘れる事はないだろう。赤ん坊の様子はジュレから聞かされている。彼の健康状態は良好で、引き取り先が見つかり次第、彩聖会から退院するそうだ。名前はまだ決まっていない。でも、ユキ自身には赤ん坊にと、密かに決めている名前がある。


 それは「まこと」という名前だった。マカロンの学生としての名前、「漆山マコ」から取って、漢字に当てた名前で、雪斗の意識の中で一晩考えていたようだ。 


「僕も…マカロンお姉ちゃん…ううん、「真」のために何かがしたい…僕にしかできない事…きっとあると思うんだ…」


 会いたい気持ちは日に日に募る一方だが、引き取り先が見つかるまでは会いに行かないと決めた。でも、「会いたい」と想えば想うほど、ユキの心の中に家族として接してくれたマカロンの媒体のこれからを見届けたくなる…歯がゆい気持ちになる…この気持ちは一体、何なのだろう。



 ………



 放課後になり、雪斗はユキに言われるがまま特別棟にある空き教室に入る。ここは主に吹奏楽部のパート練習で使われることが多く、実質的には吹奏楽部の部室の1つと言ってもいい。ユキはいつもここで雪斗と入れ替わっており、マルチメディア部の部室も近いという点でも、彼女はこの空き教室を気に入っている。誰も来ない事を確認した雪斗は、ブレイブレットにブレイブスプーンをかざす。

「ユキ…一昨日からぼーっとしてるが、どうしたんだ?いつものお前らしくもない…」

 雪斗の姿は瞬く間にユキの姿に変わり、意識も雪斗からユキへ入れ替わる。

「別に…雪斗に…僕の気持ちなんて理解できるワケないじゃん…」

 いつもは雪斗の言動にギャンギャン反論するユキが、そっけない反論をするので、雪斗もどことなく調子が狂う。理由は大体想像がつくが、言ったら言ったでユキは激怒するので、雪斗には確認しづらい状況である。


「バキバキバキ…ガシャーーーーーーーーーーン!!!」


 空き教室の静寂を破るかのように、突然教室のドアがなぎ倒され、水色のゼリー状の物体がまるでスライムのような動きをしながらユキのいる空き教室に入り込む。

「か、カオスイーツ!?」

 ユキは咄嗟にブレイブスプーンを構えようとするが、ゼリー状の物体は触手のようにうねりながらユキの両腕と両脚を拘束し、その拍子にユキはブレイブスプーンを落としてしまう。

「うぐっ…」

 ゼリー状の物体を生成した相手の姿が見えない…恐らく、これはダークミルフィーユが生成したカオスイーツだと、ユキは推測する。


「うひゃっ!!!」

 ゼリーのカオスイーツは、ユキの動きを封じたまま頭上に持ち上げ、さらに別の触手を6本生やし、1本をユキの腰に、2本を両肘、2本を両太ももにそれぞれ巻き付ける。瞬く間にカオスイーツは頭上でユキの全身をまるでアルファベットの「N」の字を斜めにしたかのように拘束し、両脚に至ってはM字開脚に固められ、めくれ上がったスカートからは水色のチェック柄のショーツが顔を出す。

「や、やだっ…」

 最後の一本はセーラー服の襟ぐりに潜り込み、ユキの上半身を舐めまわすかのように徘徊する。まるでナメクジが身体を這うような感覚に、ユキは悶絶する。

「ユキ、今すぐ意識を…」

「わかってるけど…ぴゃうっ!!!」

 雪斗と意識を入れ替えようとしても、上半身を這う触手が意識の入れ替えを妨害する。


 あろうことか、触手はユキのブラの中に潜り込み、ユキは突然こそばゆい感覚を覚える。

「ぴえっ…」

 触手がブラの仲を這いずり回り始めたと同時に、制服のリボンタイがはじけ飛び、セーラー服の開きを止める黄色いボタンとボタンが徐々に隙間を広げていく…

「こ、このままだとユキは…」

 以前ひどい目に遭った事から、雪斗は意識の中でユキ自身の辱めを覚悟した。そんな雪斗とユキの事を嘲笑うかのように、ダークミルフィーユの笑い声が空き教室に響き渡る。


「ハーッハッハッハ!!!!!ソルベに変身できないお前など、ただの中学生!このまま絶望に陥れるまで!!!」


 ダークミルフィーユの叫びと同時に、ユキのセーラー服の第1ボタンが弾け飛び、今度は水色のチェック柄に白い綿レースがあしらわれたブラが晒しものとなってしまった。

「きゃうんっ!!!」


「私…元々、ソルベが大っ嫌いなのよ!私の事を散々おちょくって…だから、真っ先に始末する事にした!!!ソルベの正体であるユキ…いいえ、媒体である氷見雪斗もろともね!!!!!」


 その言葉に、自身の身の危険を感じた雪斗は、ダークミルフィーユに気づかれぬよう、意識を左腕に集中させ始めた。




 ほぼ同時刻、調理室では高等部の実技試験が行われていた。高等部にも調理室はあるが、実技試験で使用するはずだったクッキングヒーターが故障で使えず、急遽放課後の中等部の調理室を使うこととなったのである。そこには、何故か女子高生の姿となっている勇者・シュトーレンも混ざっている。

「トイレに行ったにしては、遅いわね…十津川くん…」

 今回の実技試験で使うジャガイモを切りながら、シュトーレンはそう呟く。高等部1年C組の十津川新とつかわしんは、テスト期間中は交通事故で入院しており、テストそのものを受ける事ができなかった。そのため首藤まりあこと、勇者・シュトーレン達通信課程の生徒と共に実技試験を受ける事になったのだった。

『カオスイーツの気配がしてるけど…まさか、十津川くんがカオスイーツにされたなんてないわよね?』

 悪い予感が女勇者の脳裏をよぎる。しかし、衛生面の問題で調理実習中のアクセサリー着用は不可…したがって、今のシュトーレンには「ブレイブディメンション」を発動できる状況ではない。


「♪~」


 突然アルトフルートの音色がし始めた途端、勇者の周囲の時間が止められ、勇者は試験会場の調理室から飛び出した。




「散々自分の身体を辱められる気分はどうかしら?ソルベは私に対して、そーゆー事をしてきたもの…倍にしてお返ししてやるわ!!!!!」

 黒いマジパティの笑い声と同時に、ユキの声にならない悲鳴が響く。セーラー服のボタンは全て弾け飛び、辛うじて局部は隠れているものの、ブラも外され、這いずり回る触手は両太ももを支える触手と共にユキの股間を覆うショーツにその身を引っかけ始めている。


「はー…さっきから黙って聞ーでりゃ、ごじゃっぺな事を…うっとせーな…」


 空き教室の隅から突然、トロールの声がすると、掃除用具入れからトロールが現れた。

「おめ、いじやけるやっちゃね…調子に乗ってんじゃねーかんな!!!」

 そう言いながら、トロールはユキと黒いマジパティの目の前でブレイブスプーンを構える。


「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!(標準語)」


 特徴的な茨城弁から標準語で呪文を叫んだトロールは、紫色のお団子つきのセミロングから銀髪のハーフアップに髪型を変え、来ている服もサン・ジェルマン学園中等部の夏服から白と赤紫を基調としたコスチュームに変わり、彼女のおみ足を白いタイツが覆い、耳はエルフのように尖り、背中に羽根が生える。この姿こそ、魔界のクリームパフの姿なのである。


「白銀のマジパティ・クリームパフ!!!禍々しい混沌のスイーツさん、勇者の光でよこしまな感情はお捨てなさい!!!!!」


「はっ…あなたがクリームパフ?こんな小さな子が…」

 ダークミルフィーユは鼻で嗤うが…

「魔界の住人は種族にもよるけど、寿命が人間界の人間よりも4倍長い…お前さんの見た目は15歳のようだけど、あたしが70歳だと言ったら…泡、吹いちゃうかしら?」

 ダークミルフィーユによる「侮辱ぶじょくとも解釈できる言葉」を論破して返す魔界のクリームパフの姿に、ダークミルフィーユは「ちっ」と舌打ちする。そんなダークミルフィーユの背後から、突然凍り付くような冷気が漂い始める。


「ソルベドラグーン!!!!!」


 ゼリー状のカオスイーツの身体を突き破るかの如く、氷を纏った竜がユキをさらなる辱めから救出し、机の上で魔界のソルベの姿に戻りつつ、ユキをお姫様抱っこする。

「ネロ!!!」

「やっぱり来てたのね。グッジョブよ♪」

「ダークミルフィーユとやら…貴様は雪斗とユキに集中しすぎて、私の存在に気が付かなかったようだな!!!」

 別のソルベが現れた事に、ダークミルフィーユは焦りの表情を見せる。どちらも別のモノではあるが、ダークミルフィーユにとっては「あと少しは欲しい」と思うモノをネロとユキはそれぞれ持っており、そんな2人の様子を目の当たりにした彼女は、さらなる焦りで顔全体を真っ赤にする。


 魔界のマジパティの人間界での活動時間は時間帯にもよるが、日中は5分間と短く、更に初っ端から大技を披露してしまったため、魔界のソルベのエネルギーは限界にきてしまっている。


「気に食わない…どっちも気に食わないわ!!!カオスイーツ、2人まとめて…ぶっ潰してやりなさいっ!!!!!」


 ダークミルフィーユの叫び声と共に、カオスイーツは両目を赤く光らせるが、再びスライム状に伸ばした触手は…

「えっ…」

「きゃあっ!!!!!」

 魔界のマジパティ達とユキの目の前で、ダークミルフィーユがカオスイーツの触手の餌食となってしまったのだった。唖然とするユキだが、魔界のマジパティ2人は「やれやれ」と言わんばかりの表情をする。

「お前さん…ゼリーや寒天のカオスイーツを出すのは初めてかい?」

 まるで質問に答える事を許さないかのように、カオスイーツの触手はダークミルフィーユを拘束し…


「ピギャアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


 執拗に彼女の尻尾をいたぶり始めたのだった。流石のダークミルフィーユも尻尾には弱いようで、彼女の両脚はガクガク震えている。

「聞くまでもないようだな。このゲル状のカオスイーツは、結び付いた人間の知能がどれほど優れていようが、その知能は決して引き継ぐことはない…貴様、カオスイーツに対する学習が足りんぞ。」

 魔界が戦争ばかりだった頃、魔界のミルフィーユは毎回ゼリーや寒天のカオスイーツによってピンチに陥っていたようで、魔界のマジパティ2人にとっては見慣れた光景だ。


「…けて…助けて!勇者様ぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 完全に周囲に何があるのか分からなくなってしまうほどの感覚に限界を感じた黒いマジパティは、とうとう泣きだしてしまった。そんな光景が繰り広げられる空き教室に向かって、とてつもなく強い覇気が迫る。


「シュパッ!!!!!」


 空き教室の入口から白い光がやって来て、カオスイーツだけでなく、教室の机、椅子、窓ガラスを一刀両断してしまう。その拍子にカオスイーツから強制的に引き離された黒いマジパティは空き教室の外へ放り出されたのだった。

「アタシを呼んだのはあなたかしら?」

 白い光の正体は、スイーツ界の姿のシュトーレンだった。魔界のマジパティ2人はユキ、ガトー共々床に伏せていたため、無事のようだ。

「ダークミルフィーユ…あなた、アタシのソルベ以上においたが過ぎるわよ!!!自分の勇者様から何を学んだのかしら?」

 突然現れた女勇者の姿に、黒いマジパティの言葉が詰まる。

「勇者がマジパティに攻撃するのは気が引けるけど…大切なマジパティを辱めたんですもの。いい事を教えてあげるわ!!!」


「Two holes if you curse people…カオスイーツからの報いを受けて、当然だわっ!!!!!」


 勇者からの辛辣な言葉に、黒いマジパティの思考回路がパンクした。どうやら、英語が苦手なようだ。

「「人を呪わば穴二つ」…か。勇者様からの言葉、次までには暗記でもしとくんだな?」

 魔界のソルベが黒いマジパティにそう告げると同時に、雪斗は「コレ…僕も覚えないといけない奴だ」と思ったのは言うまでもない。カオスイーツに辱められ、女勇者から辛辣な言葉を受けた黒いマジパティは何も言わずに「フッ」と音を立てて消えてしまった。

「大技を使ってしまった私には、決め技を使えん!頼んだぞ、クリームパフ!!!」

「えっ…でも、クリームパフの決め技は精霊が…」

「安心して♪あたしは特殊なのよ♪」

 困惑するユキに、魔界のクリームパフはウインクをしながら銀色に光る宝石を腰のチェーンから取り出す。


「精霊の意志よ!今こそ、ここに甦り、勇者の光と共に結びつけ!!!アイシングジュエル!!!」


 魔界のクリームパフはそう叫ぶと、クリームグレネードのレンコン状のシリンダーに銀色の宝石をはめ込み、シリンダーをくるくると回転させ、狙いをカオスイーツに定める。


「クリームバレットシャワー!!!」


 彼女の掛け声と当時に、クリームパフの人差し指は拳銃のトリガーを引く。


「インパクト!!!!!」


 銃声音と共に、魔界のクリームパフが放った無数の銃弾は、カオスイーツに全弾命中し、魔界のクリームパフは銃口にフっと息を吹きかける。

「アデュー♪」

 鳥類の血を引くマジパティがウインクをすると、カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿を取り戻す。

「あぁ…やっぱり、カオスイーツにされてたんだ…十津川くん…」

 今回のカオスイーツの正体は、高等部の十津川新だった。

「本来はアタシがどうにかすべきなんだけど、今のアタシは試験を受けてる女子高生…試験をサボるワケにはいかないわ!あとはユキの事頼んだわよ!」

 そう言いながら勇者は女子高生の姿に戻りながら、十津川を背負う。十津川は身長がシュトーレンよりも低い事もあり、ギリギリではあるが背負って運べるようだ。


「で、でも…ネロ達…どうしてここに…」

 アルトフルートの音色がおさまると、空き教室は何事もなかったかのように元の姿へと戻る。そんな中でユキは、なぜ高等部にいるはずの勇者とネロが中等部にいるのか聞くと、魔界のソルベから戻ったネロはユキの左腕を掴む。

「雪斗のおかげだ。ブレイブレットはな、半径2キロ圏内にいる勇者とマジパティに信号を送る事ができるんだ。本人は無我夢中で左腕に意識を集中させたようだが、以後覚えておくといい。」

「それと、もう1人で抱え込まないこと!マカロンの媒体が心配なのはわかるわ。でも…泣きたいときに泣かないで強がっていたら、媒体に戻ったマカロン…きっと悲しむと思うわ。あなたを家族として接してきたんでしょ?」

 魔界のマジパティ達に諭されたユキは、2人の前で声を上げて泣きだす。泣かないと決めてはいたけど、媒体に戻ったマカロンに会いたいと思えば思うほど、マカロンとの思い出が募る一方だった。その姿に、魔界のクリームパフは土呂ひばりの姿に戻り、ネロは制服のジレをユキにかけてあられもない姿から解放する。

「会えるだげでも、おめは幸せモンだぁ…ユキ、おめはえぇ子だ…(会えるだけでも、お前さんは幸せ者よ…ユキ、お前さんはいい子…)」

「お嬢がトルテに会いたかった時も…きっと…こうだったんだろうな…」

「んで…ネロ、おめも試験中でねがった?(それで…ネロ、お前さんも試験中じゃない?)」

 トロールがそう言うと、高等部から放送が入る。


「生徒の呼び出しを致します!高等部2年C組、根室ねむろたつき!大至急高等部調理室まで戻りなさい!!!繰り返します!高等部2年C組、根室たつき!5分以内に高等部調理室まで戻らなければ、後日家庭科実技試験の追試を再び受けてもらいます!!!」


 血相を変えたネロは、大慌てで高等部へと戻って行ったのだった。一悟は極真きょくしん会館に行っていたし、みるくは先日の怪我が治っていないため来られなかったし、玉菜に至っては高等部の合唱部と合同練習中な上に、中等部の特別棟から合同練習で使用している講堂までは距離がある。仮に参戦できたとしても、戻るまでが容易ではない。今回は魔界のマジパティが来るのはやむを得なかったと言ってもいいだろう。

「それに…ユキ、嬢ちゃんほどでねーけど、おめのぱいぱいもやっこくて癒されるなぁ~…」

(それに…ユキ、嬢ちゃんほどじゃないけど、お前さんのおっぱいも柔らかくて癒されるわねぇ~…)

 そう言いながら、トロールはユキの胸の谷間に顔をうずめる。




 ………




 翌日、放課後…


 みるくとトロールは無事、瑞希に入部届を提出し、そこに一悟と雪斗も加わる。雪斗は弓道部とかけもちになってしまうが、少しでもユキを自由にできる時間を増やせば…という想いもあり、入部を決めたようだ。

「玉菜といる以外は1人で悩むなんて、水臭いぞォ!汀良!教師としての私に早めに相談すればよかったものを…」

 下妻先生は昨日のみるくの話を聞き、マルチメディア部顧問として受け持つ事を了承し、木津きづ先生も副顧問として立候補したのだった。

「陸上の経験がないのに、陸上部の副顧問を強制されるよりは、困っている生徒を見て支える方が私としては性に合ってる気がしたので。」

 木津先生に至っては千葉先生の後任でいるのがイヤなのか、瑞希の言動を見て副顧問を引き受けたようだ。


「ガラッ…」


「失礼します!!!」

 生徒会室の扉を開け、瑞希、みるく、一悟、雪斗、トロール、下妻先生、木津先生の順番で生徒会室に入る。

「この通り、本日までに部員を揃え、尚且つ顧問、副顧問も一緒です。マルチメディア部の存続を認めていただけますか?」

 生徒会室の机には玉菜と顧問の東山先生の姿。玉菜は入部届と顧問変更の申請書にしっかりと目を通す。

「はい、しっかりと書類はそろってるわね。私だけでの判断では決めかねるけど…」

 東山先生は玉菜が読んだ書類に目を通す。そこにはしっかりと部員と顧問が揃った書面…


「わかった…マルチメディア部の存続を認めよう!」


 東山先生の言葉に、瑞希は安堵する。

「ただし、条件つきでの存続でいいかな?」

 その言葉に、瑞希は覚悟を決める。

「どんな条件でも承ります!」

 瑞希の言葉を聞いた東山先生は頷き…


「今度の追加試験、千葉一悟と氷見雪斗のどちらかが70点未満で不合格だった場合、マルチメディア部は今月いっぱいをもって廃部とする!!!」


 生徒会顧問の条件に、一悟と雪斗の背筋が凍り付く。

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