第25話「玉菜、憤慨!マカロンは2度捨てられる」

 7月3日、夕方の米沢よねざわ家―


 今日は家長であるけいの仕事が休みの為、夕食を作っている。先月より瑞希みずきが一緒に暮らしてからは、娘のみるくも自宅にいる時は段々と1人で思い詰める事はなくなったようだ。息子の我夢がむの方はというと、バイトが繁忙期に入り始めていることもあり、東京のアパートで過ごす機会が増えた。


「先ほど入ってきたニュースです。埼玉さいたま瀬戌せいぬ市にある私立中学校の敷地内に、先月より行方が分からなくなっていた女子中学生の遺体が発見されました。」


「おや…みるくの学校でまた事件か?」

 テレビから聞こえる報道…瀬戌市にある私立中学校はサン・ジェルマン学園中等部しかないため、娘が通っている学校だとすぐわかる。今年度に入ってから学校ではスイーツの怪物が現れたり、学生が失踪したり、教師の不祥事が発覚したり…と、親として心配になってくる事件が多くなっているように感じる。


「遺体で見つかったのは、私立サン・ジェルマン学園中等部の3年生で、南斗なんと町に住む鈴木金美すずきかなみさん。警察は鈴木さんの遺体を敷地内に隠したとして、鈴木さんの友人で、15歳の少女を死体遺棄容疑で逮捕しました。」


 キャスターの言葉を聞くや否や、桂は大急ぎでクッキングヒーターに圧力鍋を置き、出かける支度をしながら玄関へと向かう。そこには丁度、娘のみるくと同居人の瑞希が帰宅してきた所だった。

「パパ…どうしたの?」

「み、みるく…瑞希さん…す、すまない…学校で遺体が見つかったって聞いて、お前達が心配になってしまってな…」

「遺体が見つかった」という言葉を聞いた瑞希は思わず、ハッとする。先ほどのライブ中継の終盤、カメラに映った川原佑香かわはらゆかの怪しい行動…

「テレビはまだつけてますよね?」

「あ、あぁ…テレビの報道を聞きながら食事を作ってたからね。」

 その言葉を聞いた瑞希は靴を脱いで、リビングへと赴く。勿論、みるくと桂も一緒だ。


 テレビでは、瀬戌警察署で中継が行われている。

「こちら、瀬戌警察署です。鈴木さんの遺体が見つかるきっかけとなったのは、大人気Our Tuberアワチューバーのライブ配信でした。」

 警察署でマイクを構えるアナウンサーは、ライブ配信終盤…マジパティ達が去ったあとの光景を語り出す。

『やっぱり…あの排水溝の中に…』

「それにしても、ライブ配信で犯人が見つかるとはなぁ…」

「パパ、その動画見つけたけど…再生回数がすごいことになってる!!!」

 桂はそう叫ぶ娘のスマートフォンをのぞき込む。

「本当だな…とにかく、お前達が無事で何よりだ。今から夕飯の支度を終わらせるから、できるまで部屋で着替えて待っていなさい。」

 ほっと胸をなでおろした桂は、再び台所へと戻る。




「次のニュースです。「外道の極み漢げどうのきわみおとこ。」の川島四音かわしましおんさんが、タレントで地方テレビ局のアナウンサーの女性と不倫関係にあると「週刊文夏しゅうかんぶんか」が明らかにしました。


 2人が着替えを済ませて部屋に戻ると、既に瀬戌警察署からの中継は終わっており、現在は芸能関係の話題に切り替わっている。みるくと瑞希はソファに腰かけようとするが…


「ピーンポーーーーーーーーーーーン」


 玄関のチャイムが鳴り響き、2人は玄関へと向かう。玄関の扉を開けると…


「まなちゃん!!!」

玉菜たまな!どうしたんですか…こんなずぶ濡れで…」

 そこにいたのは、サン・ジェルマン学園中等部の制服姿のまま全身ずぶ濡れの状態の玉菜だった。玉菜はとても悔しそうな表情で俯いている。

「あのバカ姉…取り返しのつかない事を…」

 重大な事を悟ったみるくと瑞希は玉菜にタオルを差し出し、玄関から上がるように促す。そして、瑞希は玉菜を浴室へと案内する。玉菜のカバンをみるくが受け取り、みるくはリビングに戻って玉菜のカバンをタオルでふき取る。幸いにもフォンダンは無事のようだ。


白石甘音しろいしあまねさんは、大泉淳一郎おおいずみじゅんいちろう元内閣総理大臣の次男・大泉進次郎しんじろう氏と今年4月に結婚したばかりで…」


 テレビの報道がみるくの耳に入る。みるくも玉菜にアナウンサーの姉と、元総理大臣の息子の姉婿あねむこがいる事は知っている。恐らくは、この報道の件で家で何かあったに違いないだろう…


「ガチャッ…」


 リビングのドアが開き、瑞希がジャージ姿の玉菜を連れてきた。みるくの父の桂は突然の来訪者に驚くが、みるくが事情を話すとすんなりと受け入れる。ずぶ濡れだったのは、みるくの家に向かう途中、庭で花の水やりをしていたおばあさんが、誤ってホースの水を勢いよく玉菜にかけてしまったとの事だった。

「それで…蘭丸らんまる君は…」

「蘭ちゃんは、ゆっきーの家に避難したって…」

 玉菜の言葉に、桂はテレビのニュースを思い出す。

「それは…白石アナの事かい?」

 玉菜は黙って頷く。

「不倫のことだけなら、こうはならなかったんだけどね…」

 そう言いながら、玉菜は出されたチャーシュー丼を口にする。


文夏砲ぶんかほうが、私達家族も知らなかった事…暴露しちゃったのよ。」



「「外道の極み漢。」ボーカル川島、白石アナと密会デート」



 週刊文夏の見出しはそう書かれていた。玉菜が学校から帰宅しようとしている途中からやってきた、母からのLIGNEリーニュ



「週刊文夏が、甘音の事を記事にしました」

「家にマスコミが大勢押しかけてきています。家の事は私と進次郎さんが何とかするので、玉菜は友達の家にかくまってもらいなさい。」

「蘭丸は塾から氷見ひみ家に行くように伝えてあります。」



 学校近くのコンビニで週刊文夏を見つけ、内容を見た時、玉菜は唖然あぜんとした。夫がいながら、他の男と密会…しかも、相手は話題のミュージシャン…マスコミが押しかけるのも無理はないと玉菜は思ったが…



「5年前には元サッカー選手の男性と―」



 その見出しと共に掲載された写真…モノクロではあるが、その写真に写る姉はやけに腹部がふっくらしていた。それと同時に、玉菜は5年前に姉である甘音が頑なに帰省を拒んだ理由をハッキリと理解した。


 玉菜の姉は、元サッカー選手の男性との間に子供がいたのである。


 当然、家族ですら知らなかった。それからしれっと帰省するようになったのも、辻褄つじつまが合う。玉菜はコンビニで週刊誌を購入し、急ぎ足で瑞希のいる米沢家へと向かった。


 …それが、玉菜がみるく達の所へやってきた経緯である。夜になり、みるくの部屋ではみるく、瑞希、玉菜の3人がこじゃれたミニテーブルを囲む。勿論、ラテとフォンダンも一緒だ。

「これが、その文夏…外道の極みの次の小さな見出しなんだけど…」

 みるくと瑞希は、玉菜がさし出した週刊誌を開く。玉菜が示した見出しには、腹部だけがふっくらしている女性と男性の写真が載っている。

「そのお腹が大きい女の人…5年前のバカ姉…5年前さぁ、東京のお嬢様大学に通ってて、盆暮れ、春休みには帰る筈が帰らなかった時期があったの。その帰らなかった時期がその写真…」

 そう姉の事を話す玉菜の言葉に、瑞希はある事に気づく。


「玉菜のお姉さん…マカロン様と少し似てますね…」


 瑞希の一言に、みるく達は狐に顔をつままれたような顔をする。

「この鼻筋の辺りとか…特に…」

「言われてみれば…って、それって…マカロンの媒体って…」

 玉菜の言葉に、瑞希は黙って頷く。

「これで全てが繋がりました。いずれは話そうとは思ってましたが、この件でその時期が来たようです。」

 瑞希は覚悟を決めた表情で、みるくと玉菜を見つめる。


「ご説明いたします!マカロン様の媒体は…5年前に白石甘音が産み捨てた赤ん坊です!!!」




「ピッ…」


 瀬戌市にある廃デパートの中、マカロンは段ボール箱の中に荷物をまとめている。

『エクレールも…ティラミスも…こんな状態だったのかもしれない…』

 マカロンの脳裏によぎる1人の女性と1人の男性が言い争う声…女性の方は今もテレビで何度も聞く声…恐らく、自身の媒体の記憶が蘇ってきたのだろう。媒体ばいたいの母親と思われる女性の身勝手な言動と、媒体の父親と思われる男性の力強い言葉…



「命を何だと思ってるんだ!!!命はお前のオモチャじゃないんだぞ!」



 彼の一言があったからこそ、媒体はこの世に生を受ける事ができた。だが、女性は媒体をこの廃墟の中へ捨て去った…


「自分は本当に生まれるべきではなかったのか」…きっとそれは違うだろう。ティラミス、そして今はユキと名乗ってはいるが、カオスソルベとも出会えた…「媒体はこの世に生まれてよかったのだ」と、マカロンは確信する。


「これで…最後だ。」

 今日だけで学校と何往復した事だろう…テレビや家具はリサイクルショップで買い取ってもらい、パソコンを含むそのほかの荷物はマルチメディア部の部室に運ぶ。荷物を運び終えたマカロンは、木苺ヶ丘きいちごがおかの住宅街へ瞬間移動し、ある場所へと向かい、インターホンを押す。

「どちら様でしょうか?」

「夜分遅くにごめんなさい。雪斗くんのクラスメイトの漆山うるしやまって言います。少しの間だけでもいいので、雪斗くんと話をさせていただけませんか?」

 氷見家の本家だった。前もってユキに連絡は入れておいたため、すんなりと門をくぐり、雪斗ゆきとの祖父立会いの下、ユキと再会する。突然の訪問にユキは驚くが、マカロンの様子にユキも何かを悟ったようだ。


「媒体の記憶が戻りつつある…僕もそう長くはない…だから、これはお前が好きに使うんだ。」

 そう言いながら、マカロンはユキに長方形の茶封筒を手渡す。

「カードの暗証番号は「0509」…媒体の誕生日なんだから、お前の誕生日でもあると考えていいだろ?あまり…氷見雪斗を困らせるんじゃないぞ…」

「おねえ…ちゃん…」

 ユキは今にでも泣きそうな表情をする。

「そんなに悲しい顔、すんなよ。死ぬと決まったワケじゃないんだ。仮に媒体に戻ったとしても、僕はお前に会いに行くさ…どんな手を使っても…」

 悲しむユキを宥めつつ、マカロンは氷見家を去って行った。


 マカロンは漆山マコの姿からパンキッシュな少年の姿に変わると、夜の木苺ヶ丘の中へと溶け込んでいったのだった。


 まるで、マカロンとしての最期をさとったかのように…




 ………



「「週刊文夏」の記事の事で、「外道の極み漢。」の川島四音さんが本日午後3時に、記者会見を開くことが明らかになり…」


「ピッ…」

「またこの話題かよ…」

 呆れた表情を浮かべながら、一悟いちごはテレビの電源を切る。


 玉菜の姉の甘音の不手際が明らかになってから、一夜が明けた。サン・ジェルマン学園中等部は昨日の鈴木金美の遺体発見の件で臨時休校となってしまい、一悟達は勉強会という名目でカフェ「ルーヴル」に来ている。

「やっぱり、あなたの所に来たのですか…」

 瑞希の言葉に、ユキは頷く。

「お姉ちゃん…お金渡してきたの。好きに使えって…でも…僕には…」

「ユキ…マカロン様の媒体は、「愛情」を受けたことはありませんでした。ですが、そんなマカロン様がどうして「カオスソルベ」だった頃のあなたに愛情をささげたのか…」

 そう言いながら、瑞希は悩むユキの両手を優しく握る。


「マカロン様は、自分の媒体が受け取ることができなかったからこそ、あなたを大事にお世話をしたのです。私やコウモリ達にされてきた事のすべてが「愛情」だと勘違いしていたところはございますが、それほどあなたを「家族」として扱っていたのでしょう。だから、マカロン様の家族としての愛情を決して無駄にはなさらないでください。」


 瑞希の言葉に、ユキは顔を上げる。雪斗の意識の中で一晩泣き明かしたのだろう、ユキの目は少しばかり腫れぼったい。

「それにしても…マカロンの媒体が生まれたばかりの赤ん坊だったなんて…」

「マカロン様の媒体を拾ったのは、ティラミスだった頃の私ですから…」

 マカロンの媒体に驚く一悟に、瑞希はそう返す。マカロンからは昨夜から一切連絡が来ていない。シャベッター等のSNSも更新していないことから、マカロンとして本当に最後を迎えようとしているのだろう…瑞希はそう悟った。


「ガチャッ…」


 突然一悟達のいる住居スペースにあるリビングのドアが開き、そこからメイド服姿のシュトーレンが入って来る。

「瑞希…今、マカロンが店の方に来たわ。あなたを指名してきた事は、たぶん…」

 勇者の言葉に、瑞希はすっと立ち上がる。


「かしこまりました…勇者さま。」


 10分ほどして、瑞希が店舗スペースに入る。西幡豆にしはず家に仕えていた頃とは違うメイドとしての姿には緊張するが、ティラミスだった頃のかつての主の指名である以上あとには引けない。

「コーヒーでございます。」

 慣れた手つきで、カウンター席に座るパンキッシュ姿の少年の目の前に、瑞希はコーヒーを差し出す。

「SNS全てを更新されていなかったので、どうしたのかと思いましたよ。どうしてこちらに?」

「ユキと一緒なら、ここだと思ったからな…それに、昨夜はどうしても自分の足で見つけたい奴がいたんだ。更新する余裕なんてない…」

 そう言いながら、マカロンはコーヒーをすする。ティラミスだった頃のマカロンの嗜好しこうは今でも覚えており、コーヒーはブラックコーヒーである。

「やっぱり、そうだったんですね…それで、そのお相手は?」

「昨夜、稀沙良きさら市で渦中の男と落ち合ってた。」

 昨日の事もあり、マカロンはできるだけマスコミに怪しまれないようなニュアンスで瑞希にある人物の話を続ける。


「笑っちゃうよな…アレ以上にヤバイこと暴露されてんのに、「堂々と不倫できるね」…って。ホント、つくづくおめでてぇ奴だよ。」

 マカロンが昨晩追っていたのは、白石甘音だった。稀沙良市のホテルで川島四音と密会。本人は完璧な変装をしていると思っているようだったが、声でマカロンは正体に気づき、そのまま2人を尾行していたのである。2人の会話の内容は勿論録音済みで、その内容には5年前の事にも触れていたのである。甘音が「堂々と不倫できるね」と言った直後、川島の方は5年前の事もひっくるめて激怒し、甘音に対して一方的な別れ話を切り出したのだった。マカロンの推測では、川島はそのまま東京へ戻ったと思われる。1人となった甘音は、マスコミの目をかいくぐりながら瀬戌市へ戻る。


「アイツの詳しい居場所はつかめた。あとは…お前がユキの背中を押してくれ。家族として、ユキの成長を見届けたいんだ。」

「言われなくても、もう既にユキの背中を押しておりますよ。ご安心を…」

 かつてのメイドの言葉を聞いたパンキッシュ少年は、安堵の表情を浮かべ、会計を済ませ、カフェを去る。それが、瑞希にとってはマカロンの最後の姿である事を示すかのように…




 おおみや市と瀬戌市の境目にほど近い放送局…そこが、瀬戌テレビの本社である。本社には大勢のマスコミが「話題のミュージシャンと瀬戌テレビのアナウンサー兼タレントのスキャンダル」目当てに殺到している。その様子に、白石甘音は瀬戌テレビ向かいのビルの隙間で焦りを見せる。昨日からやまぬ父と母、そして夫からの着信、週刊文夏の記事、川島からの一方的な別れ話に、瀬戌テレビ社長と所属事務所の社長からの呼び出し…ぶりっ子キャラを突き通してきた女子アナウンサーの化けの皮がはがれてきたと言ってきてもいいだろう。



「こんな奴が大泉淳一郎の息子と結婚なんて、天変地異が起こったようなモノだわ!!!」

「アイツの妹、アイツの母校で生徒会長やってて、みんなから信頼されてるんだってさ…そのうえ後継候補!逆玉アリだな!!!」

「この間の全国模試の英語、白石甘音の妹らしい奴が1位だってよwww」

「あんなぶりっ子よりも、大泉進次郎はぶりっ子の妹と結婚すべきだったんじゃね?」

「つーか、あんな年齢でぶりっ子キャラとか痛々しいわ!!!」



 甘音は元々ファンよりもアンチの方が多い部類に入る。でも、それは学生時代からの所属事務所の指示も含まれており、甘音は人気を取るためなら…と、それを了承していた。それが今回の週刊誌によるスキャンダル記事で全てが崩壊した。SNSでは甘音に対するバッシングが加速、悪意ある通報でシャベッターアカウントは凍結してしまい、ビミスタグラムにも誹謗中傷の書き込みが今でも続く…

「どうして…甘音は何も悪くないのに…」

 そう自分に何度も何度も言い聞かす…「悪いのは自分ではない…みんなが悪いんだ」…と。


 世界はこの白石甘音を中心に回っている…今までそう信じてきたから…


「センテンスサマー!これで堂々と不倫できるね♪」

「ハァ?なに浮かれたコト言ってんだよ!!!お前、5年前の事まで文夏砲されてんだぞ?」


 甘音の近くで、昨晩の川島との会話が流される。変装もして、周囲からの聞き耳にも気を付けていたはずだった…


「5年前の子供は…どうした…」

「安心して、そんなの邪魔だからもう捨てちゃった♪」


 ビルの隙間を飛び出し、片側2車線の道路を横切る。横断禁止の標識はあるが、今の甘音の視界には入っていない。けたたましく響くクラクションをかき分け、会話が流されている場所へと向かう。


「その会話は事実でしょうか?」

 甘音と川島の会話を聞いた報道陣は、会話を流した張本人にマイクを向ける。黄緑色の髪にピンクのメッシュが入った中学生ほどの見た目の少年…鼻筋がどことなく、甘音にそっくりだ。

「えぇ、これは昨夜、バニーズ稀沙良駅前店で白石甘音と川島四音氏の会話を録音したものです。」

 カメラのフラッシュがマカロンに集中する。マカロンは報道陣の前で週刊文夏が描いた5年前の白石甘音に関する記事が事実である事も語り、報道陣をどよめかせる。


「白石甘音に手を出した時点で、川島氏を擁護ようごするつもりはありません。ですが、白石甘音が5年前に行ったことは悪質です!!!」


 その言葉に怒りを露わにした甘音は、彼女が今までひた隠しにしてきた秘密を暴いた張本人を突き飛ばす。突き飛ばした拍子に甘音が変装としてつけていたカツラとサングラスは甘音の頭部から離れ、報道陣の前で自分が渦中の人物である事を明かしてしまう。

「白石アナです!白石アナが、今、我々の前に姿を現しました!!!」

 その渦中のアナウンサーは、テレビの前では決して見せない剣幕でマカロンを睨みつける。


「みなさん、これでこの女の本性が判ったでしょう。そう…合コン、男、自分のぶりっ子キャラのために、5年前に自分が産んだ子供を廃デパートの一角に捨てた女ですから!!!」


 淡々と話すマカロンに対して、甘音はマカロンに掴みかかろうとするが、マカロンは甘音の腹部目掛け、黒い光を放つ。

「あああああああああああああああああああああっ!!!!!」

 黒い光を浴びた渦中の女子アナは、報道陣の前でその姿を怪物へと変えていく…


「マジパティ!!!これは僕からの宣戦布告だっ!!!!!白石甘音を浄化したくば、今すぐ瀬戌テレビ屋上に来いっ!!!!!」



 ………



 甘音がマカロンの手によってカオスイーツにされて10分後、カフェ「ルーヴル」の前に1台のリムジンが停まり、運転席から甘音の夫・進次郎が降り、玄関へやって来る。

「進次郎さん!!どうしてここに…」

「蘭丸くんの様子を見に氷見家に行ったら、ここだって聞いて…それより…さっきの放送は見たのかい?」

 いつもは落ち着きのある姉婿だが、今回ばかりは落ち着きがない。そんな彼の問いかけに、玉菜は首を横に振る。

「とにかく、ゆっくり話す時間はない。後ろに乗って!甘音が報道陣の前でカオスイーツにされたんだ!!!」

 その言葉に、玉菜の表情は愕然とする。そんな玉菜の背後からは…

「カオスイーツにされたってことは、そこにお姉ちゃんがいるんでしょ!!!僕も行くっ!!!!!」

 ユキが叫ぶ。その言葉を聞いた進次郎は、すぐに後部座席の扉を開ける。急いで乗り込むユキを見た玉菜も、リムジンの中へと入る。


「君たちがマジパティであるか否かは、機密情報として取り扱う!!!今は…文夏に書かれた記事の内容が事実であるのか、この目で確かめるのが先だ!!!!!」


 そう叫んだ進次郎は、リムジンのハンドルを握り、エンジンをかける。そんな彼の言葉を聞いた玉菜とユキは、後部座席でブレイブスプーンを構える。



「本当に派手にやってるわ…ブラックビターの幹部となった息子に怪物にされる…何とも皮肉なものね?」

 サン・ジェルマン学園食堂では、大型テレビで瀬戌テレビの様子が映し出されている。そんな様子を、仁賀保にかほ先生は注文したカレーを待ちながら見つめる。中等部は臨時休校ではあるが、中等部の教職員達は職員会議のため学校におり、高等部は休校でないため、学園食堂は開いている。

「知ってたんだ…玉菜のお姉ちゃんがマカロンの母親だって…」

「鼻の辺りが似ていたの。だから、あらかじめ採取した白石甘音の髪とマカロンの髪の毛で昨夜、DNA鑑定に回してね…そしたら。案の定よ。」

 仁賀保先生はガレットに昨夜行ったDNA鑑定の結果を話す。白石甘音の髪は、稀沙良市に出かけている時に偶然取れたもので、今回それが重大な役割を果たしたようだ。

「それに、稀沙良市は私にとって庭のようなものよ?庭で密会する方が悪い!」

 そう言いながら、仁賀保先生は大勇者が盛り付けたカレーを受け取り、席へ着く。大型テレビには瀬戌テレビの屋上が映し出され、そこではメレンゲ製のクッキー…アマレットのカオスイーツとマカロンに向かい合うかのように、ソルベとクリームパフが対峙する。そんな様子に、仁賀保先生はある事に気づく。


『オイオイ…あの2人、大事な存在を忘れてないか?』


 仁賀保先生の違和感は即座に一悟とみるくに知れ渡り、一悟とみるくは住居スペースのトイレでブレイブスプーンを構え、それぞれミルフィーユとプディングに変身する。勿論、住居スペースのトイレを締め切って変身しているため…2人のマジパティと4人の精霊がこの中にいる時点で、密度は高い。

「密ですっ!!!」



 ………



「さぁ、禍々しい混沌のスイーツ!!!勇者の光を恐れぬのならば、かかってきななさいっ!!!!!」

 ソルベとクリームパフは瀬戌テレビの屋上でカオスイーツと対峙する。2人が瀬戌テレビに向かっている間に、本社内はカオスイーツの攻撃で機能が一時的にストップし、警備員もメレンゲ状の物体で身動きが取れなくなっていた。勿論、その様子を進次郎も黙って見つめる。義理の妹がマジパティであることはうすうす気が付いていたようで、今回の騒動でやっと事実であることが判ったようだ。

「来たか…今回は全力で行かせてもらう!!!いけ、カオスイーツ!!!!!」

 パンキッシュ姿の少年は、カオスイーツに向かってそう言うと、カオスイーツは2人のマジパティに向かってメレンゲ状の物体を放つ。


「ソルベハリケーン!!!!!」

 ソルベが長弓を回転させると、長弓から強風が吹き荒れ、メレンゲ状の物体が弾き飛ばされる。

「クリームバレットクラッシャー!!!!!」

 クリームパフはドリル状の銃弾を放ち、硬化を始める物体を次々と砕いていく。

「ドリル攻撃が使える私が、こんな物体に屈するとでも思った?」

 そんなクリームパフの言葉に、マカロンはにやっと笑い、カオスイーツはクリームパフに己の拳をぶつける。


「かはっ…」


 クリームパフは弾き飛ばされ、屋上のフェンスをなぎ倒してしまう。瀬戌テレビは12階建てのビル…そんな彼女は12階建てビルの屋上からフェンスの上端を掴んでいる状態…つまり、宙づりだ。

「クリームパフ!!!」

「くっ…ソルベ、私に構わず戦いなさいっ!!!」

 クリームパフが掴んでいるフェンスがギシギシと音を立てる。今まで感じた事のない怨念こもったカオスイーツの拳…それは、カオスイーツにされたのが姉・白石甘音であり、元々甘音と玉菜は姉妹の仲が悪かった分、クリームパフには強く感じるのだろう…

「憎んでいる相手を浄化したところで何になるんだよ…ますますイキり散らかして調子に乗るだけじゃん!」

「違うもん!!!」

 マカロンの言葉を、ソルベが否定する。

「確かに川原佑香は、助けられたにも関わらず、イキり散らかしてお姉ちゃんや色んな人を傷つけた…でも、全ての人間がそうと決まったワケじゃないっ!!!」

 そう言いながらソルベは、カオスイーツに向かってソルベシュートを放つ。しかし、カオスイーツは咄嗟に飛び上がり、クリームパフが掴むフェンスに飛び乗る。


「ガシャン…ガシャン…」


 カオスイーツが踏みつけるたびに揺れるフェンス…フェンスを掴むクリームパフの腕にも負担がかかる…もう時間はない。

「白石甘音が社会的制裁を受けるのは確定的だけど…それでも、僕は信じるよ…白石甘音の心にほんのちょっぴり残っている母性に…」

 そう言いながら、ソルベは長弓をブーメランの要領でカオスイーツに向かって投げつける。


「ガッ…」


 ソルベが投げつけた長弓は軸足に直撃し、カオスイーツはバランスを崩して後ろ向きに倒れてしまう。そして…


「あぁっ…」


 クリームパフが掴んでいるフェンスの根元が折れ、クリームパフはフェンスごと地上へ落下してしまう。




「プディング・アムールリアン!!!!!」


 突然プディングの声がして、12階の窓から黄色い光を帯びた鎖が飛び出す。鎖はクリームパフの身体に巻き付き、フェンスは地上に直撃したものの、彼女は難を逃れた。

「間一髪ってトコだな!」

 12階の窓からミルフィーユが顔を出す。プディングは高所恐怖症という事もあり、顔を出していない。そんなミルフィーユは、黄色い光を帯びた鎖が飛び出しているプディングワンドを持つプディングを支えている。

「ミルフィーユ!それにプディングまで!!!」

「クリームパフ、「アン・デュ・トロワ」でいきますよ!!!」

Ouiウイ!」

 プディングの言葉に、クリームパフは返事をしながら鎖を両手で掴む。


「「アン!」」

 そう叫ぶと同時に、クリームパフは壁に足をつける。

「「デュ!」」

 次に、クリームパフは壁を思いっきり踏み込む。

「「トロワ!!!!!」」

 クリームパフは思いっきり壁を蹴り上げ、飛び上がり、屋上に戻るや否や、カオスイーツにキックをぶちかます。


「カオスイーツにされたのが私の事を嫌っていようが、浄化したところで意味がないワケじゃない!そのバカを愛している人だっているのよ!!!それに…私はそのバカ、一発ぶん殴ってやらないと気が済まないのよっ!!!!!」

 クリームパフがそう言うと同時に、ミルフィーユとプディングが屋上へやってくる。

「俺とプディングは、あくまで2人をアシストするだけだ!もう慌てて精霊忘れんなよな?」

「わたちのこと、忘れないでくだしゃい~…」

「ひどいですよ、ソルベ!僧侶様が気づいていなかったら、どうなってた事だか…」

「ゴメンゴメン…」

 やっとパートナー精霊を忘れていた事に気づいたソルベとクリームパフは、バツの悪そうな顔をする。


「くっ…まだ終わったワケじゃ…カオスイーツ、4人まとめ…えっ…」


 マカロンのセリフを遮るかのように、カオスイーツはパンキッシュスタイルの少年に正面から抱き着く。これまで感じた事のない温かいぬくもり…それは、マカロンが媒体の頃からずっと求めてきたものだった。

「カオスイーツが…泣いて…る…?」

「これが…白石甘音の心に残ってる…マカロンの媒体への母性だっていうのか…」

 涙があふれ出す…それと同時に、マカロンの口から媒体の頃から言いたかった言葉が飛び出る…


「ありがとう…ママ…僕を…産んでくれて…」


 それは、産んだことに感謝を示す言葉だった。マカロンの言葉と同時に、カオスイーツとマカロンから光が放たれ、本来の姿を取り戻そうとする。

「ほんの僅かな母性に…感謝するわ…だから、もう2度とカオスに呑まれないで頂戴…」

 そう言いながら、クリームパフはカオスイーツにクリームグレネードを向ける。

「クリームパフ…2人を…光に返してあげて…」

 ソルベがそう言うと、クリームパフの右肩にフォンダンが乗る。


「精霊の力と…」

「勇者の光を一つにあわせて…」

「バレットリロード!!!」

 フォンダンの身体が白く光るなり、フォンダンはクリームパフの持つクリームグレネードのレンコン状のシリンダーに光の銃弾を装填する。そして、クリームパフは左手でシリンダーをくるくると回転させ、狙いを定める。


「クリームバレットシャワー!!!」


 彼女の掛け声と当時に、クリームパフの人差し指は拳銃のトリガーを引く。


「インパクト!!!!!」


 銃声音と共に、クリームパフが放った無数の銃弾は、カオスイーツに全弾命中し、再びフォンダンは銃口に息を吹きかけるクリームパフの右肩に乗る。

「「アデュー♪」」

 1人のマジパティと1人の精霊がウインクすると、アマレットのカオスイーツとマカロンはそれぞれの本来の姿に戻り、カオスイーツは白石甘音へ、マカロンは赤ちゃんへ姿を変える。

「マカロンお姉ちゃんっ!!!!!」

 赤ん坊の姿に戻ったマカロンはソルベがキャッチする。まだへその緒がついた状態で捨てられたのだろう…マカロンだった赤ん坊はソルベの腕の中で泣き続ける。


「ユキ…僕は、どんな手を使ってでも、絶対に…絶対に会いに行くからな。だから…元気でいろよ!」


 ソルベもといユキの脳裏に響くマカロンの声…ソルベはぎゅっと優しく抱きしめる。

「泣く…もんか…」

 そう呟くと同時に、赤ん坊を抱えたソルベはガトーの力で報道陣の前に瞬間移動する。

「青いマジパティが今、赤ん坊を抱え、我々の前に姿を見せました!!!今回の件について、何か一言を…」

 マイクを向けられ、カメラのフラッシュをたかれるが、別の場所で戦いの一部始終を見ていた僧侶アンニンの弟・ジュレの車に乗ると、ソルベは赤ん坊と共に病院へ向かったのだった。


 ジュレの車の中で、ソルベはユキの姿に戻る。

「俺のバイト先の小児科が、マカロンを預かってくれるって…」

「そっか…僕…待ってるから…」

 ユキの言葉に、赤ん坊の口元が少し微笑んでいるように見えた。




 一方、屋上に残された者達は…

「甘音っ!!!」

「進ちゃん…」

 屋上の入口で戦いの邪魔をせぬようにしていた進次郎は、真っ先に甘音の所へ駆けつける。

「甘音…僕はありのままの君が見たかった…生まれて初めて愛した人だからこそ、ぶりっ子で偽らない君を見たかったんだ。だから、警察に行ってすべてを話そう…」

 夫からの言葉に、甘音は盛大に泣き崩れた。そんな2人の様子にクリームパフはミルフィーユ達を連れてテレビ局の屋上をあとにする。カオスイーツが浄化された事で、瀬戌テレビ本社の機能は元通りになり、3人は警備員の目をかいくぐりつつ、カフェ「ルーヴル」へと戻る。

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