第24話「まころん炎上!?お姉ちゃんは悪くない!」

 7月1日。瀬戌せいぬ市立図書館の駐車場にビスコッティとくずきりのカオスイーツが現れ、そこにプディングとクリームパフが対峙し、戦っている。


「今です!クリームパフ!!!カオスイーツの眉間を狙ってください!!!」

Ouiウイ!狙い打つわよ~♪」

 プディングメテオでカオスイーツの動きを封じたプディングの話を聞いたクリームパフは、さっそく精霊フォンダンを右肩に乗せてウインクをする。


「精霊の力と…」

「勇者の光を一つにあわせて…」

「バレットリロード!!!」

 フォンダンの身体が白く光るなり、フォンダンはクリームパフの持つクリームグレネードのレンコン状のシリンダーに光の銃弾を装填そうてんする。そして、クリームパフは左手でシリンダーをくるくると回転させ、狙いを定める。


「クリームバレットシャワー!!!」


 彼女の掛け声と当時に、クリームパフの人差し指は拳銃のトリガーを引く。


「インパクト!!!!!」


 銃声音と共に、クリームパフが放った無数の銃弾は、カオスイーツに全弾命中し、再びフォンダンは銃口に息を吹きかけるクリームパフの右肩に乗る。

「「アデュー♪」」

 2人のウインクと同時に、くずきりのカオスイーツは瞬く間に光の粒子となり、本来の姿を取り戻す。




 ダークミルフィーユとの出会いから1週間が過ぎ、カオスイーツも頻繁に現れるようになっていた。この手のカオスイーツは魔界のマジパティ達が受け持っていたが、ダークミルフィーユが瀬戌みなみモールで一悟いちご達と遭遇してしまった事、魔界のクリームパフの消息を掴めた事もあり、一悟達も本格的に先代マジパティにまつわる戦いの場にでる事になったのだった。


 一方、ミルフィーユとソルベは瀬戌駅南口のコンコースで僧侶アンニンと共にタピオカのカオスイーツ、そしてマカロンと対峙している。

『図書館の方もドローン飛ばして中継してるけど…大丈夫かな?』

 相変わらず、マジパティの戦闘シーンの中継は行っているようだが、今回は流石に片方でライブ中継、もう片方で収録という形となった。勿論、動画による収益を得るためである。

「くそっ…狙いが定まらねぇ…」

 カオスイーツの頭のストローから次々と放たれるタピオカの粒に、ミルフィーユとソルベは苦戦を強いられる。


「スパーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!」


 そんな2人を見かねた本気モードの幼女姿の僧侶は飛び上がり、巨大なハリセンでカオスイーツのストローを叩き、ぐにゃぐにゃに変形させてしまった。

「バカもんっ!!!こーゆー時は、モトから絶つのがセオリーだろーがっ!!!!!」

「それなら…飛び出た奴らは…」

 そう言いながら、ソルベは長弓をバトンの要領で振り回す。


「ソルベブリザード!!!!!」


 ソルベが振り回した長弓から冷たい冷気が放たれ、タピオカの粒たちはカオスイーツの足共々凍り付いてしまった。

「サンキュー、ソルベ!いくぜ、ココア!!!」

 ミルフィーユはココアを右肩に乗せた状態でウインクする。


「精霊の力と…」

「勇者の力を一つに合わせて…」

「グレイブエクステンション!!!」

 ココアはピンクの光を纏いながら、ロボットアニメの主役機が武器を構えるような姿で立つミルフィーユが持っているピンクの長薙刀ながなぎなたの飾り布の付け根に飛び乗る。その瞬間、ミルフィーユグレイブの刃の部分がピンクの光を放ちながら刃先が長く変形する。ミルフィーユは思いっきり地面を踏みこみ、勢いよく飛び上がる。


「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」


 ミルフィーユは掛け声と同時に、長薙刀を振り上げる。


「ストライク!!!」


 ミルフィーユが叫んだ瞬間、長薙刀はピンクの光を放ちながらカオスイーツを頭上から一刀両断する。その太刀筋と姿は、まさしく勇者の力を受け継ぐ者に相応しい…

「アデュー♪」

 2人がウインクをしたと同時に、タピオカのカオスイーツは光の粒子となり、本来の姿へと戻っていく…


 カオスイーツを出した張本人は、戦闘の様子に気が付かないまま戦いが終わっている事に気づき…

「あ゛~~~~~~~~~~~~っ!!!図書館の方に気を取られているスキに…あぁ、今のナシナシ!編集で消さなきゃ…」

 慌てふためくマカロンの様子に、ミルフィーユ達は首をかしげる。

「と、とにかく…ロリババア僧侶共々、覚えてろよっ!!!!」

 そう言いながら、マカロンはフッと音を立てて消えてしまった。そんな敵の幹部の様子を、僧侶アンニンは般若はんにゃのお面を付け、怒りのオーラをまといながら眺める。




 2か所同時にカオスイーツを浄化することに成功した一悟達は、急いで今日の目的地である瀬戌市役所へと向かう。市役所の入口には既に3人の人物が一悟達を待つ。

「おっそーい!!!どれだけ時間食ったのよ…」

 シュトーレン、トルテ、そして大勇者ガレットだ。今日は、シュトーレンとトルテにとっては法律上では重要な日となるのである。


「バカな幹部とクセの強いカオスイーツの組み合わせだったんだ。みるく達は…」

 シュトーレンの文句に、アンニンはそう答え…

「もちのろん!いちごん達と再び合流するまで時間かかったけど、サクっと浄化しといたから安心して。」

 玉菜たまなは自信満々に答える。瀬戌駅と市立図書館は片道15分と距離があり、往復だけで戦闘時間よりも5倍近い時間がかかったようだ。

「まぁ、無事に合流できたことだし…早速中へ入るぞー。」

 大勇者の言葉に、一悟達は市役所の中へ入る。


 シュトーレンとトルテはまっすぐ戸籍課の窓口へと向かい、アンニンはそんな2人をスマートフォンで動画撮影する。

「7月1日…約1か月も後回しとなったが、2人は今日、新たな門出を迎える!それと、そんな2人以上に今日という日を楽しみにしている人物が約1名…」

 そう喋るアンニンは、スマートフォンをガレットの方へと向ける。ガレットはめちゃくちゃテンションが高い。

「ぴーす♪ぴーす♪」

 カメラに向かってピースをするなど、41歳の男がするような事だとは思えない。

「結婚式でも、こんなノリだと思われ…」

 撮影側は至って冷静だ。


 職員である雪斗ゆきとの母の立会いの下、必要書類と確認を進める。届け出は日付の訂正のみで、あとは特に問題はないようだ。


「これで、婚姻届は受理されました。利雄りおさん、聖奈せいなさん…本日はおめでとうございます!」


 1人の女勇者が法律上で入籍した事が認められた瞬間である。シュトーレンはトルテに抱きつき、幸せな表情を浮かべる。そんな様子を、幼馴染である僧侶アンニンはバッチリカメラに収める。


「カシャッ!!!」


 トルテが「取手とりで利雄」から「首藤しゅとう利雄」となったため、他の手続きで必要になるトルテの新たな住民票を発行した勇者達は、住民票を受け取ると、そのまま瀬戌市役所をあとにする。

「今日は祝いの席だから、今日のまかないは私に任せなさい!!!特上でいいわね?」

「「ゴチになりまーーーーーーーーーーす♪」」

 僧侶の言葉に、大勇者と玉菜がハモりながら返事をする。そんな大勇者と僧侶の勢いに押されながらも、一悟、みるく、雪斗、玉菜の4人はシュトーレンとトルテの婚姻を祝った。




 カフェ「ルーブル」での婚姻パーティーが終わり、雪斗はガトーと共に自宅に戻る。当主である祖父に勇者シュトーレンが入籍した事を報告すると、自分の部屋に戻る。部屋に戻るや否や、雪斗はユキに入れ替わり、ユキはベッドに寝ころびながらスマートフォンを操作する。

「いきなり、何をするんだ!!!」

 雪斗の言葉に、ユキは何も答えず、ただスマートフォンを操作している。気になる事でもあるのだろうか、ユキは動画サイト「Our Tubeアワチューブ」にあるまころんのチャンネルを開く。そこには既に今朝の戦闘シーンの動画が投稿されている。

「やっぱり…撮ってたんだ…僕たちの様子を…」

「どういうことですか?」

 ユキの言葉に、ガトーは食い入るようにスマートフォンをのぞき込む。


「マカロンお姉ちゃんは…僕たちがカオスイーツと戦っている様子を、動画撮影…してたんだよ…」


 一つ一つ動画をチェックしようとするが、ユキ1人では一晩でチェックできない程の量のようだ。ユキはLIGNEリーニュでまころんのチャンネルにマジパティの戦闘動画が投稿されている事を報告すると、今日のライブ中継動画にアクセスする。半日近く経過していた動画だが、「まころん」のネームバリューもあり、再生回数は10万回近くにまで及んでいた。ドローンはビスコッティによってカメラを破壊されたようで、中継は浄化の途中で終わっている。

「僕と一悟の方は、お姉ちゃんが話してた事、殆どピー音声で消されてる…」

「やはり動画撮影して、それでブラックビターの資金を得ていたんですね…」

 試しに、他の動画サイトである「picopicoピコピコ」にもアクセスする。ここでは今日撮影した動画はまだ投稿されていないが、みるくとグラッセが共闘した時の動画は、グラッセのシーンのたびにコメントの弾幕で見えなくなっていた。



「マカロンお姉ちゃんにとって…今の僕…単なるお金儲けの道具だったの?どう…して…」


 身体と共に、ユキの言葉が震える…そんなユキのマカロンに対する心配は、単なる序章に過ぎず、彼女の知らないところでマカロンの炎上は始まっていたのだった。




 翌朝になり、瑞希みずきは明日のマルチメディア部の活動の下準備のため、米沢よねざわ家の居間にあるノートパソコンを操作している。

『マカロン様が動画を投稿されていたのは、流石の私も気づきませんでした。ユキが思い詰めるのも致し方なしです。でも…幹部として支給される雀の涙ほどの金額よりも高い金額の商品などを購入するための資金の出どころ…これが判っただけでも、収穫でした。』

 一番最初は4月に河川敷でミルフィーユとプディングがチョコレートのカオスイーツと戦った動画から始まり、その後もティラミスだった頃の自分が出ていた時の動画もドローンで撮影していたようで、ちらほら出てきている。

「変身シーンのカット、浄化された人間のモザイク処理、一部音声のカット…時折、スーパーチャットで視聴者からおひねりを頂いていたのですね。」

 瑞希は呆れる声と共に、パソコンの操作を進めていく。勿論、シャベッターのチェックも欠かさない。そんな彼女は、シャベッターのある書き込みに目を向ける。



「俺はミルフィーユだ

 俺達マジパティの活躍が、コイツによって明かされてたんだ!絶対に許せねぇ…

 拡散よろしくな!#まころんを許さない」



 ミルフィーユのアイコンに、アカウント名とIDが共に「ミルフィーユ」というアカウントからの書き込み…そこには、まころんのシャベッターのスクリーンショットも添付されている。

『確か、一悟はシャベッターでは「怪獣いちごん」だったはず…それも、シャベッターのアカウントはこれだけ…』

 雪斗のシャベッターアカウントは、ユキが管理しているため「ユキみゃ☆彡」で、一悟と同じくアカウントはこれだけだ。みるくは「みるきー」、玉菜は「おタマちゃん」でそれぞれシャベッターアカウントを保有している。勿論、2人も複数のアカウントを持っていない。瑞希の方はティラミスとして最期を迎える前に、今保有しているアカウント以外は、捨てアドレス共々削除を済ませている。

涼也りょうやは愚か、勇者様達がミルフィーユを名乗ってこの様な書き込みをするとは思えませんね…』

 そもそもマジパティを知る者達は、マジパティに関する書き込みを一切行わない。

『マカロン様の自演…もしくは…』

 段々と瑞希の表情が険しくなる…


 ミルフィーユを名乗るアカウントからの書き込みは瞬く間に拡散され、マカロンのアカウントは瑞希がチェックを始めた時点で炎上していた。その炎上っぷりはビミスタグラム、tic takチックタック、Our Tube、picopicoにまで飛び火する。



「怪物出したの、まころんだろ?自演乙」

「最近の動画、マジパティと怪物以外モノクロばっかりだなw」

「まころんは怪物出したの認めろ」

「マジパティで金儲けする敵幹部ワロス」

「ソルベのおっぱい丸出し動画持ってんだろ?無修正で出したら許す」

「なら、俺はうさ耳のミルフィーユたんの無修正でくださいw」



「これは…まずいことになりました…」

 この状況では、瑞希1人では火消しに出られる様子ではない。寧ろ、さらに炎上してしまうだろう…それを悟った瑞希は、すぐに僧侶アンニンとムッシュ・エクレールに連絡を入れた。仮に第三者とするなら、今後のマジパティの活動に支障が出る事は免れない。


『願わくば、この炎上が1日も早く鎮静化することを…』




 更に翌朝、学校では「まころん」が「漆山うるしやまマコ」である事が特定され、漆山マコは批難の視線を浴びていた。複数の生徒達が中等部正門前で彼女を取り囲み、髪を引っ張ったり、罵声を浴びせるなどの行為を行っている。


「ピピーーーーーーーーーーッ」


「そこ!風紀委員でもないのに、他の生徒の校則違反の指摘をしないでください!!!指摘は我々、風紀委員の仕事です!!!」


 突然のホイッスルと共に、瑞希が拡声器で生徒達に注意をする。そもそも、正門前でのこういった行為は通行の妨げにしかならない。

「漆山さん、風紀委員長として指導をさせていただきます!こちらに来なさい。他の生徒は速やかに教室に入ってください!!!」

 風紀委員長の発言に、漆山マコを囲んでいた生徒達は「チッ」と舌打ちすると、だまって昇降口へと向かった。




 瑞希の計らいで漆山マコことマカロンは、保健室へ連れて行かれた。スマートフォンは仁賀保にかほ先生と瓜二つのアンドロイド・キョーコせかんどに取り上げられ、書き込み内容をくまなくチェックされる。

「随分ととんでもないことをしてくれたわね?漆山さん…いいえ、ブラックビターの幹部・マカロン!!!」

「な…なんで僕の正体を…」

「私はね…カオスのニオイには敏感なの。あなたが今年度から編入してきた時から、あなたがブラックビターの連中だとわかっていたのよ?」

 養護教諭の言葉に、マカロンは愕然がくぜんとする。

「マジパティの戦う様子を撮影し、再生回数稼いでお金儲けなんて…一体何が目的かしら?組織の経費にでも回しているのかしら?」

「ち、違う!!!これは組織のためにやったんじゃない!!!!!」

「それなら、何かしら?医療従事者は、例え敵幹部相手でも守秘義務は守り通すものよ?」

 その言葉に、マカロンは観念したのか養護教諭に全てを洗いざらい話す。




 マカロンの媒体ばいたい…それは、5年前にブラックビターのアジトである廃デパートに捨てられた、生後間もない赤子だった。騒ぐコウモリ達に気づいたティラミスは、すぐさま廃デパートの1階へ向かうと、そこにはピンクのタオルにくるまれた男の赤ちゃん…母親は後ろ姿しか見えなかったが、恐らくは10代後半で望まぬ出産だったのだろう。ティラミスは赤子を抱き上げ、カオスの所へ連れて行った。


 カオスはティラミスの前で赤子にカオスの力を与え、両方の性別を持つ人間に身体を変えさせた。身体の大きさの割に、カオスの力を相当量持っていたため、当初はコントロールができず、廃デパートのコウモリ達やティラミスを困らせていた。この5年でコントロールが容易くなったのは、ティラミスやコウモリ達の献身的な教育の賜物たまものと言えよう。


 仁賀保先生は、昨日の瑞希からの話を思い出しながら、マカロンの話を真剣に聞く。媒体が生まれて間もない男の赤ちゃんだと聞かれた時は驚きを隠せなかったが、カオスソルベだった頃のユキを献身的に面倒見ていたのは、媒体が受けられなかった愛情を彼女に与えてやりたかったのかもしれない。

「動画の収益は…ユキ以外にしか使ってない…生きるためには…こうするしか…なかったんだ…」


「あなたにとって、ユキは…一体どんな存在なの?」


 涙ぐむ幹部の姿に、僧侶はそう問いかける。




 5限目になり、シャベッターにいる「ミルフィーユ」の正体に関して動きがあった。その時間は瑞希と玉菜のクラスは英語の授業であり、その授業中に木津きづ先生が1人の女子生徒のスマートフォンを取り上げたのだ。


「川原さん、授業中にスマホを操作するのは関心しませんね?」


 クラスメイトである川原佑香かわはらゆかのスマートフォンが、木津先生から取り上げられたのである。

「英単語を調べるくらいなら認めますが、授業中のSNS…それも、授業とは関係のない書き込みは以ての外ですよ?」

 取り上げられたスマートフォンには、シャベッターの画面…それも、瑞希が昨日の朝に見た画面と同じだ。川原の後ろの席に座る瑞希は、思わずその画面に釘付けとなる。

「私の授業よりも重大な書き込みでしたら、今の書き込みを前に出て英訳していただけますか?」

 流浪の講師はそう言いながら黒板を指さすが、川原は黒板の方へ向かおうとしない。

「重大な内容ではないのでしたら、バケツを持ち上げて、廊下に立っていてください!!!」

 川原は廊下に立たされた。甘夏は元々動体視力が高いこともあり、瑞希は川原がシャベッターに書き込んだ内容はすぐに判別する事が出来た。


 今回の件での最重要参考人と見て、間違いないだろう。


 理由はすぐに判った。先月の学園敷地内にある共同図書館の蔵書ラクガキ事件で拡散ツイートされた事に対する逆恨み…その時の共犯だった鈴木金美すずきかなみはあの事件から3日ほど学校には来ていたが、それ以降は学校には登校していない。風の噂では、厳格な両親からの激しい叱責しっせきで家出してしまったとささやかれている。蛸島たこしまサオリに関しては、あの事件がきっかけで両親が離婚し、島根しまねの市立中学校へ転校してしまった。




 5限目の授業が終わると、瑞希は玉菜に川原のシャベッターの画面について耳打ちし、LIGNEで一悟や僧侶達にも密告する。一方、木津先生は下妻しもつま先生と3年C組の担任である木更津きさらづ先生にも川原が授業中にSNSに書き込みをしていたという報告をする。

「木更津先生、川原さんですが先月も問題を起こされたそうで…学校側としても、今回の件を含めまして、厳しめの社会的制裁を下した方がよいと思います。」

「木津先生の仰る通り、川原が県議会議員の娘であるとはいえ、社会的混乱を起こしたという事実は変えられません。先月の事も踏まえ、川原を1人の人間として裁きましょう。」


 川原が鈴木金美と蛸島サオリと比べて、今も平然と学校にいるのは、県議会議員である父親が上手く言いくるめてもみ消したからである。有名人の名を語って、「自分は正しい事をしている」というを免罪符めんざいふを盾に1人を袋叩きにしようとする行為…それは、ブラックビターですら行った事のない行為である。




「生徒の呼び出しをします。3年C組の川原佑香、大至急校長室まで来なさい!繰り返します。3年C組の川原佑香、大至急校長室まで来るように!親御さんも校長室で待機中です!」


 放課後になると、川原は校長室に来るように呼び出されたが、彼女が向かうのは校長室ではなく中庭だった。これまで父親の身分を盾に、鈴木金美、蛸島サオリ共々授業をサボったり、無理矢理部活に勧誘させたり、気に入らない奴らは吊し上げ、圧力をかけて排除してきた。川原佑香はそれがいつまでも続くと信じていた…しかし、先月のラクガキの件でそれができなくなってしまったのだ。



「ちょっとぉ…それ、まころんが借りようとしてる本なんですけどー(ぷん)マヂで許せん!!!本にrkgkラクガキするなっ!拡散よろぴこ☆彡」



 まころんのこのツイートで、瞬く間に名前、住所、家族の職業、シャベッターのアカウント等が特定され、炎上。その流れで吹奏楽部は退部。他の処分は父親を利用して軽くしてもらった。それを事件から1週間後、鈴木金美にとがめられ…


「佑香…もうこんな事やめよう!もう、私…怪物に襲われてまで悪い事したくないっ!!!」


 その言葉にカッとなった川原が気が付くと、鈴木金美は動くことも、息をすることもしていなかった。幸いにも、その日は千葉ちば先生の件で生徒達は下校している真っ最中だった。教職員達に見つからないよう、鈴木金美を隠し、何食わぬ顔をして自分も下校する。



 その後も何食わぬ顔で今までと同じことを繰り返す日々だったが、それが段々と退屈になり、面白くなくなっていく…そこで不意に思いついたのが、まころんへの報復だった。裏を取る事など、川原佑香にとってはどうでもいい事で、とにかくまころんを叩けばそれでよかったのだ。ミルフィーユを名乗ったのは、たまたままころんの動画で目についただけ。


「悪の組織だろうが、正義の味方だろうが、あたしの気に入らないものは排除するだけ…まぁ、悪の組織なんて潰せば褒められてちやほやされる世の中。あたしは悪い事なんてしていない…」


「ぶっぶー!あなたは排除する者として相応しくない…悪の組織よりも醜い顔で嗤うあなたは、醜く踊って社会的に終わる運命よ!!!私のマリオネットとして…」


 狂ったようにわらう中学生…そんな中学生に対し、辛辣な言葉の矢と共に黒い光が放たれ、川原佑香はその姿をスイーツの怪物・カオスイーツとしてその姿を変える…




「ドオオオオオオオオオオオオンッ」


 中庭から響き渡る爆発音に、一悟達はハッとする。どうやらカオスイーツが現れたようだ。一悟達は一瞬マカロンを疑ったが、マカロンは朝から僧侶アンニンと一緒だったため、カオスイーツを出すのが困難だと判断する。

「そういや、さっきから放送で川原が呼び出されてるけど…」

 一悟の言葉に、みるくは今回カオスイーツにされたのが川原佑香である事に気づく。そして、そのまま一悟、みるく、雪斗の3人で保健室へと向かう。


「ガラッ…」


 保健室にはマカロン、僧侶アンニン、キョーコせかんどが既にいる。僧侶アンニンに関しては、何を思ってかスイーツ界の姿になってスタンバイをしている状態だ。

「マカロンの動画配信は、組織のためにやった事ではないという事が判った。今のユキにはつらい事かと思うが、ユキ…お前は、いい奴にお世話されてたんだな。」

 僧侶の言葉に、雪斗はユキの心の支えが取れたような感覚を覚え、ブレイブレットでユキの姿に変わる。

「今回はお前に任せるぞ…ユキ!」

 更に雪斗の意識は一瞬にしてユキに入れ替わる。入れ替わったと同時に、3人はガトーの力で既に玉菜がスタンバイしている屋上へと瞬間移動し、玉菜と合流した3人はブレイブスプーンを構える。


「「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」」」」




 屋上から放たれる4色の光と同時に、瑞希が保健室にやってきて、僧侶達と合流する。

「マルチメディア部の活動の一環だ。正真正銘、まころんとしてのマジパティの公式ライブ配信だぞ!」

 僧侶のその言葉に、瑞希も安心したようで、カメラを構えて中庭へと急ぐ。

「この度は、お騒がせしてごめんなさい。でも、まころんは自作自演を行っていません!今回はそれを証明するため、最後のライブ中継をします!」

「今日はまろこんと一緒にライブ中継をすることになった、新米配信者・メサイアちゃんでーす♪今日はまころんと最初で最後のコラボしまーす♪」

 相変わらず、幼女の姿だと幼女の姿をふんだんに生かしたがる僧侶である。僧侶はマカロンと話を進め、それをカメラを構えたキョーコせかんどが撮影し、瑞希が2人のバックアップを進める。



「僧侶ちゃんも化けるなぁ…まぁ、一般人がマジパティを語るのがどれほど危険か…その偽ミルフィーユに現実を突きつけるいい機会だよねー。」

 カフェにいる勇者達にも今回の件は知れ渡っており、勿論、下妻先生経由で偽ミルフィーユが誰であるのか、バレバレなのである。


 配信中の動画に響く悲鳴…怯えながら(?)も中庭へと進んでいくアンニン達…そんな彼女たちは、ロールケーキのカオスイーツと遭遇する。既に中庭にいた生徒達はカオスイーツが放ったスポンジ状の物体に巻き付かれ、簀巻きにされている。

「まころん、あれは…」

 カオスイーツの隣に幹部の気配はないが、カオスイーツはアンニン達の姿を見つけるなり、スポンジ状の物体をアンニン達に向かって放とうとするが…


「クリームバレットクラッシャー!!!」


 突然白銀の光を纏ったドリル状の物体がスポンジを貫き、アンニン達は難を逃れた。そして、ドリル状の物体を放った人物は、アンニン達とカオスイーツの間に割り込むようにして入り…

「白銀のマジパティ・クリームパフ!!!」

 カオスイーツは銀髪をなびかせるマジパティに向かって攻撃を仕掛けようとするが…


「ソルベタイフーン!!!」


 真横からの暴風を受け、カオスイーツは横倒しとなってしまった。

「ブルーのマジパティ・ソルベ!!!」

 今度はソルベが現れ、最後にカオスイーツの頭上から2色の光が降ってくる。


「「マジパティ・ダブルキーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!」」


 2人のキックがカオスイーツに炸裂した。

「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」


「「スイート…」」

「「レボリューション!!!」」


「「「「マジパティ!!!!!」」」」


 最後は綺麗にハモった。

「禍々しい混沌のスイーツ、勇者の知性でその煮えたぎった頭を冷やしてあげる!!!」

 マジパティが揃うと、カオスイーツは起き上がり、攻撃のターゲットを4人のマジパティにシフトさせる。


「そういえば、シャベッターではマジパティのミルフィーユと名乗る人物が出て来てますけど、あれは本人ですかねぇ?」

 戦いの様子を眺めながら、アンニンはシャベッターに現れたミルフィーユと名乗るアカウントについて話題に触れる。

「その事については、サン・ジェルマン学園中等部マルチメディア部部長の私・汀良てら瑞希がご解説いたします!今、私達の前にいるミルフィーユが手に持っているのは何か確認してください。スマートフォンではございませんね?」

 キョーコせかんどがマジパティが戦う様子を撮りながら、その隣で瑞希がアンニンとマカロンの会話に加わる。

「手に持っているのは、薙刀なぎなただもん…戦っている時に、シャベッターに書き込むワケないもんね。」

「それに、シャベッターのアイコンとヘッダーも違和感があります。ミルフィーユご自身が、自分が簀巻きにされている様子をアイコンにしますか?100歩譲って、キックシーンをヘッダーにするならわかりますけど。視聴者の皆さんは、ミルフィーユが自分にとって不利な状況をSNSのアイコンにするようなマゾヒストだと思いますか?」


 瑞希の言葉に、ライブ中継を見ている視聴者はハッとする。



「あんな負けず嫌いっぽそうなミルフィーユが、自分が簀巻きにされてる所をアイコンにするワケねーわw」

「部長の発言で、やっと偽物だってわかった」

「ドMな熱血漢?実際いたら引くわw」

「寧ろ、ドMはうさ耳のミルフィーユだろwww」


 瑞希の持つノートパソコンの画面には、シャベッターのミルフィーユが偽物である事に気づいた視聴者たちの書き込みが徐々に増え、コメントが音声つきで再生される。

「まころんは、化け物たち相手に勇敢に戦うマジパティ達が大好きです!この撮影も、マジパティが好きだからこそやってきました!!!」

「まころんの動画配信は、決して金儲けの道具ではありません。まころん自身が、マジパティの事が大好きで憧れていたからしたことです。」

「本日がまころん最後の配信ではありますが、決してやらせではありません。その点は、ご理解いただければ幸いです。」



 マジパティがカオスイーツと戦う中、マカロンを支えるかのように、瑞希はまころんの釈明の手助けをする。マルチメディア部の部長としてだけでなく、ティラミスだった自分として…


「今よ、みんな!!!」


 クリームパフがそう言うと、ミルフィーユ、プディング、ソルベの3人はそれぞれの武器を重ね合わせる。

「「「3つの心を1つに合わせて…」」」


 3人がそう叫んだ瞬間、3人の武器は光の粒子となり、それぞれのカラーに合わせた細身の剣・パティブレードに変わった。


「勇者の力を1つの剣に!!!ミルフィーユブレード!!!」

「勇者の愛を1つの剣に!!!プディングブレード!!!」

「勇者の知性を1つの剣に!!!ソルベブレード!!!」


 3人はそれぞれのパティブレードを構え、ピンク、黄色、水色の光をまといつつ、カオスイーツに飛び掛かる。


「「「マジパティ・トリニティ・ピュニシオン!!!!!」」」


 カオスイーツはまず、ピンクの光を纏ったミルフィーユにミルフィーユブレードで縦に斬られ、続いて黄色の光を纏ったプディングにプディングブレードで横に斬られる。そして、最後に水色の光を纏ったソルベによってソルベブレードで斬られた。


「「「アデュー♪」」」


 3人が同時にウインクすると、カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿である川原佑香の姿に戻る。カオスイーツが浄化された事で、簀巻きにされていた生徒達は身体の自由を取り戻した。

「化け物たちに勝った時のマジパティの笑顔…僕はこの瞬間が一番好きで、続けてきました。」

「ところで、まころん…この動画の収益、どーなんの?」

「それは…」




 その時だった。突然昇降口の屋根から黒い光の矢が飛び交い、ミルフィーユ達は咄嗟に避けるが…

「うぐっ…」

 プディングは避けきれず、左足を怪我してしまった。ミルフィーユはプディングを抱きかかえようとしながら、黒い矢を放った犯人を睨みつける。

「やっぱり、今回のカオスイーツを出したのはお前だったのか!!!ダークミルフィーユ!」

 キョーコせかんどは、カメラをダークミルフィーユの方へ向ける。そこには、ミルフィーユとよく似たコスチュームでツインテールの少女の姿…

「ご名答…でも、プディング以外によけられたのはぶっぶー…」

 その緊迫した様子に、瑞希のノートパソコンからコメントが音声で再生される。



「やらせはガセだったか」

「ヤバいのキタ――(゜∀゜)――!!」

「こいつか?シャベッターの偽物のミルフィーユは…」



 シャベッターのミルフィーユの正体がダークミルフィーユという疑いが浮上するが…

「おや?偽物のミルフィーユからの書き込みですね。読んでみましょう…「何なんだ、コイツは!よくもあたいの邪魔をしやがって…」…はて…ミルフィーユって、自分の事…」

「ミルフィーユ、普段から自分の事「俺」って言ってるし、さっきの攻撃で相手を「ダークミルフィーユ」って言ってましたねー?」

 瑞希とアンニンの会話で、流石の本人も偽物が誰だかハッキリわかったようだ。



「俺の名前を語って、まころんを炎上させたのは…川原、お前だったのか!!!」



 ミルフィーユの叫び声に、学校内の生徒達、そして視聴者達はどよめく。勿論、ライブ配信をしている4人(?)も自然体でどよめく。

「化け物にされたのは、ミルフィーユの偽物だったようです。の前で、シャベッターに書き込むなど…相当な命知らずですね?」

「そう…命知らずだからカオスイーツにしてやった。マジパティ…今度会う時は、確実にクリームパフ共々仕留める!!!」

 そう言いながら、ダークミルフィーユはフッと音を立てて消えてしまった。ダークミルフィーユが消えると、マジパティ達は精霊ガトーの力で瞬間移動をする。




………




 川原は邪魔者がいなくなったのをいいことに、両手に軍手をはめ、中庭の排水溝の蓋を開けようとするが…

「川原さん、何をしてるんですか?」

「何って…金美の様子を…」

 養護教諭の質問に、川原はそう答えるが…

「そういえば、A組の鈴木金美は「5月31日から自宅に戻ってきていない」と存じてますが…」

「うわ、まころん!ここから、絶対ヤバイやつだー!!!」

「最後のライブ配信で、とんでもないのを見ちゃったぺろー☆彡みんな、まころんがマジパティのライブ配信をやめても、マジパティの事を応援してぺろ☆彡」

 そう言いながら、ライブ配信をしていたアンニン達はライブ中継を強制終了させ、保健室へと戻って行った。




 その夜、そのライブ配信がきっかけで川原は鈴木金美失踪事件の容疑者として逮捕され、鈴木金美は中庭の排水溝の中、変わり果てた姿で発見されたのだった。

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