第23話「新たなる魔の手!ダークミルフィーユ、降臨!」

「このままではカオスに飲み込まれる!!!お前らだけでも逃げろっ!!!!!」


 大空を渦巻く闇の渦を見た勇者は、俺達に向かってそう言い放った。ミルフィーユ達は口を揃えて「そんなことはできない」と言い返す…そうだよな…勇者様を見捨てるなんて、俺達にはできるはずがない…俺も勇者と最後まで一緒にいたい気持ちに変わりはない…


 だが…


「ドンッ」


 突然、ソルベとプディングが俺の身体を突き飛ばしてきた。

「邪魔ですよ、先輩!男の分際でクラフティに色目使ってんじゃねーよ!」

「先輩がちゃんとしないから、クラフは茅ケ崎ちがさきの平和と引き換えに、自分を犠牲にしようとしてるんだ。失せろ、ヘタレ!」

 2人の罵声と同時に、ミルフィーユが勇者の手を握る…急速度で地上へ堕ちていく俺は、そのまま勇者とミルフィーユ達が闇の中へと消えていくのを見ているしかできなかった。


 俺が…何をしたって言うんだ…


 俺はただ…勇者と幼馴染おさななじみの関係を守りたかった…


 マジパティとして…3人と一緒に戦いたかった…


 どうして…受け入れてくれないんだ…


 頼む…話を聞いてくれ…


 俺の胸の内を…誰か…






 …この日、俺はマジパティとして湘南しょうなんの海に消えた。



 ………




「…という経緯で、本日付で新たな英語担当の先生を招き入れる事になりました。後任の木津きづ先生は体育の教員免許も取得されているとの事で、1学期の間は体育も兼任していただく事になりました。」

 6月も後半に差し掛かった月曜日。この日に再び新しい英語教師・木津あいな先生がやってきた。佐貫さぬき先生は合唱部の部室だけでなく、ティラミスだった頃の瑞希みずきに暴行を加えた事が学校全体の逆鱗げきりんに触れ、中等部理事会全員一致で懲戒免職ちょうかいめんしょく処分となった。瑞希が被害届を出さなかったので、警察は今回この件で介入はしていない。



「コレが、今からあなたの体育の授業を受ける2年A組の指導要請です。」

 職員室で、仁賀保にかほ先生が木津先生に一悟達のクラスの体育の指導要請を記した書類を渡した。

うわさには聞いていましたが、生徒への配慮はいりょがなされているんですね。」

「今週よりプールの授業ですので、くれぐれも問題を起こさぬよう…生徒のプールカードは絶対に目を通すようにお願いします。担当は主に英語で、そちらは3年生を受け持つことにはなりますがね。英語で不明な所は1年生担当の阿武隈あぶくま先生か、2年生担当の下妻しもつま先生まで。」

「プール」という言葉に、木津先生の表情が曇る。


『海でないだけ…マシか…』


 サン・ジェルマン学園中等部のプールは、共同図書館の目と鼻の先にある。2年A組の生徒達は制服から学校指定の水着に着替え、プールサイドに並ぶ。

「今年もプールサイドの清掃と、レポート提出で終わる時期が来てしまったか…」

「例え先生が変わっても、すぐにトラウマが消えるワケではありません!」

 …この2人を除いて。雪斗は膝裏に虐待ぎゃくたいあざ、背中にタバコの痕があるため、水泳の授業の見学を認められている。みるくに関しては、去年の都賀つが先生によるセクハラ行為で水泳の授業がトラウマになってしまい、今年から見学を認められることになった。


「今朝の全校集会で校長先生からのご紹介に預かりました、木津あいなです。1学期いっぱいと短い間ではありますが、今日からこのクラスの体育を受け持つことになりました。どうぞよろしくお願いします!」


 体育を受け持つ女教師の競泳水着姿という事もあり、大半の男子生徒達はある意味で元気な表情を見せるが、木津先生は何を思うのか、少し気まずそうな表情をしている。



 ………



「カタカタカタ…」


 仁賀保先生は保健室にあるパソコンを操作し、ある情報を調べている。パソコンの画面には、木津先生の経歴が記されている。

「木津あいな…1999年3月25日生まれ…神奈川かながわ鎌倉かまくら市出身…神奈川県立由比ガ浜ゆいがはま高等学校に1か月ほど在籍後、アメリカ・カリフォルニア州にある高校へ転校…カリフォルニア大学アーバイン校に進学…」

 元々教職員の中では木津先生は「流浪るろうの講師」という異名で知られている。そんな木津先生の経歴を見て、仁賀保先生はある事に気づいてしまう…


「木津先生の経歴…8年前から…いえ、高校以前の経歴が見当たらないっ!!!!!」


 そう呟いた刹那、仁賀保先生は木津先生が8年前に神奈川県で発生した中高生失踪事件に関わりがある事を推測する。




「茅ケ崎中高生失踪事件」


 2015年1月3日、神奈川県茅ケ崎市の海岸で3人の女子中学生と1人の男子高校生が1人の青年Nと共に忽然と姿を消したとされる事件…警察も調べたものの、有力な情報は「マジパティと関わりがあった」という事だけで、この他に手がかりは一切つかめず、捜査は2か月半後に打ち切られた。情報収集サイト「Vikipediaヴィキペディア」にはそう記されている。




「行方不明として処理されたのは、紗山さざん中学校3年の千葉明日香ちばあすか金城きんじょうここな、氷川台友菓ひかわだいともか…紗山高校1年の藍本有馬あいもとありまの4人…木津先生が8年前のその事件と関係があるのなら、その4人について何か心当たりがある可能性はある。」


 午後に入り、突然中等部の保健室に呼び出しを食らったガレットは、8年前の失踪事件で判明した事について、知っている範囲で僧侶に話す。

「その翌日に、鎌倉の海岸で1人の少女が打ち上げられたらしいのね。でも、その子は自分の名前を思い出せないし、失踪した4人の家族達も彼女の事を知らない…」


「ガラッ…」


「そして彼女は当時鎌倉市在住の子供のいない夫婦に「木津あいな」として引き取られ、そのままその夫婦の仕事の都合でカリフォルニアへ…」

 ガレットの話を遮るかのように保健室のドアが開き、そこから木津先生が入りながらそう話す。

「印刷室で指を切ってしまったので、絆創膏ばんそうこうをいただきにきたのですが…随分と懐かしい話をされていたようで…」

「ごめんなさいね…偶然にも、8年前の事件について確認したいことがあったの。」

 そう言いながら、仁賀保先生は木津先生の治療を始める。

「それに…食堂職員の首藤しゅとうさん…でしたよね?あなた…あの時の青年と顔立ちが似てますね。髪色は違いますけど…」

「兄弟…だからね。それとも…先生はこの色は嫌い?」

 木津先生の言葉にそう答えるガレットは、木津先生が何者であるのか察したようだ。

「もう少しその青年について話しておきたい事はまだあるけど、生憎あいにく結婚前の娘を抱えている身だからさ…娘の気が変わらないうちに、家に戻らないと…ね?娘も待ってるから、またカフェにおいでよ?「杏子きょうこちゃん」♪」

 そう言いながら、ガレットは保健室を去ってしまった。

「はいはい…言われなくても、顔出しには来ますけどね?」

 その大勇者ガレットの背中に、仁賀保先生もとい僧侶アンニンは木津先生が先代マジパティと何らかの関係がある事を読み取った。


『木津先生…申し訳ないけど、しばらくあなたを勇者クラフティの件でマークさせてもらうわ!!!』




「それで…その木津先生が中等部に…」

 今日のカフェの営業が終わり、夕飯の席の中、ガレットは娘に中等部にやってきた講師の話をした。勿論、8年前に失踪したマジパティの正体を含めて…

「マジパティは勇者の性別によって、変身後の姿が変わる場合がある…俺の場合は魔界に性別という概念がなかったから、性別の変化はなかったし、ニコラスは勇者としての力が弱かったから、ミルフィーユとソルベの性別はマジパティに変身した後も女のままだった…」

「それに、涼也りょうやが不思議な事言ってましたよね?その木津先生に、マジパティとしての反応があった…って。」

 涼也は姉の明日香のブレイブスプーンを持っている。そのブレイブスプーンによって、精霊と他のマジパティの気配を感じ取る事ができる。

「僧侶ちゃんも木津先生の事は怪しんでいたし、俺達ももう少しニコラスの能力を受け継いだマジパティについて調べる必要がある。」

「そうね…アタシも…」

「セーラは、トルテと結婚式の準備っ!!!ニコラスの件は、俺達に任せときゃいいの!」

 娘の言葉を遮るかのように、ガレットが大声で叫ぶ。

「「警戒する」って意味で言ったのに…」

 シュトーレンはため息をつく。




 ガレットが娘の結婚式をやらせようとしているのは、自身が正式的な結婚式をしていないからだった。というのも、24年前のカオスとの戦いでカオスに勝利し、これから勇者シュトーレンの母であるセレーネとの結婚式をしようとした矢先、魔界へ飛ばされてしまったのである。やっとの思いで魔界でマジパティと共に再びカオスと戦い、勝利したことでスイーツ界へと戻った時には、丁度愛娘まなむすめが生まれる瞬間だった。結局、結婚式どころではなく、娘の洗礼式の時に妻にウェディングドレスを着せて、教会で僧侶アンニンの父であるブランシュ卿の立会いの下で誓いを交わしたのだった。


 …そんな経験を娘にはしてほしくないという、父親としてのエゴなのである。



 ………



 木津先生がサン・ジェルマン学園中等部にやってきて3日が経ち、シュトーレンはトルテと一緒に瀬戌みなみモール近くのブライダルショップに来ている。晴れの式典だけに、女勇者の目にはどのドレスも輝いているように見える。


 …だが、どのドレスもサイズが合わないとの事で、また後日出直すことになってしまったのだった。そんな勇者はトルテが運転する車の助手席で嘆く。

「残念だったっスね…」

「うぅ~…ファスナーが上まで上がらないの…辛い…」

 金銭的な問題は、ホテル王であるパネットーネ氏が息子がこれまでにシュトーレンに対して行ってきたストーカー行為の数々に対する慰謝料いしゃりょうとして振り込んできたお金があり、特注できないというワケではない。だが、シュトーレン本人としてはなるべくこのお金だけは使いたくないようだ。

「やっぱり…ウェディングドレスを着るためにも、聖一郎せいいちろうに変身する時間を減らした方がいいのかな…トルテもマスター代行が板についてきたし、親父も…」

「セーラ…あまり無理はしないでほしいっス…セーラが食べたいものを我慢してまで、ダイエットしようとするなんて…俺っち、悲しいっス…」

「だから、聖一郎でいる時間減らして、ホール中心に回ろうって言ってんのっ!!!そりゃあ…無理なダイエットはダメだってわかってるもの…」

 先日の父親の早とちり並みのトルテの早とちりに、勇者は少々呆れているようだ。


 今日は、一悟いちご達は職業体験にでかけている。一悟、みるく、雪斗の3人は現在、シュトーレンとトルテがいる瀬戌せいぬみなみモール敷地内にあるファミリーレストラン・ロイヤルポスト、涼也りょうやはサン・ジェルマン学園近くのコンビニ・フェアリーマート、あずきは瀬戌駅近くのデパート「カトーナノカドー」内にあるパン屋にそれぞれ職業体験の真っ最中だ。

「まぁ、今後の為にも…動ける時に、キリキリ動くのが一番っスね!」

 瀬戌みなみモールに到着した2人は、車を降り、一悟達の様子を見るべくファミリーレストランへと向かう。そこに…


「おや、聖奈せいなさんではないですか。この度はおめでとうございます!」


 教師として生徒の様子を見に来たのか、そこには下妻先生がいた。さらに、その隣には…

「下妻先生、お知り合いですか?」

 グレーのスーツ姿の木津先生だ。木津先生はこれまでカフェ「ルーヴル」に来たことがないため、シュトーレンとトルテにとっては初めて会う人物である。

「食堂の首藤さんの娘の聖奈さんだ。聖奈さん、こちらはウチの学校にやって来た講師の木津先生です。」

「木津と申します。下妻先生からは、御父上の事は聞いております。」

「首藤聖奈です。こちらは、今度から伴侶はんりょとなる取手利雄とりでりおです。」

「どうも、取手です。」

 まずは簡単な自己紹介をかわし、ファミリーレストランへと向かうが…



「ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!」



 突然同じ敷地内にある大型書店「CHUTAYA」の近くで大きな爆発音がした刹那せつな、そこから突然巨大な白いソフトクリームのカオスイーツがショッピングモール一帯を騒然とさせようとし始めた。

「あ…あれは…」

『しまったー!!!アタシの剣、カフェの掃除用具入れに入れっぱなしで来ちゃった…』

 戦わざるを得ない状況でありながら、剣を持たずに出かけてしまった事を後悔する勇者であった。それに、木津先生がいる状況で迂闊うかつな手出しはできない…


「ぐああああああああっ…腹が…腹がァっ…」

「どうしました?下妻先生…」

 下妻先生が突然、お腹を抱えて苦しみだす。

「仁賀保先生が処方した胃腸薬…想像を絶するほどの…強…さ…」

 そう言いながら、下妻先生はトルテとシュトーレンにもたれかかる。

「木津先生は安全を確保しながらレストランまで…私はトイレに…」

「は、はい…」

 あまりの突然の言葉に、木津先生はツッコミを入れる気力すら出なかった。


 実を言うと、これは木津先生対策として下妻先生もといムッシュ・エクレールがとっさに考えた演技で、木津先生に感づかれぬようにマジパティを呼び出すためだけにひらめいたのだった。

「勇者様、お願いします。」

 ムッシュ・エクレールの言葉に、勇者シュトーレンは左耳のイヤリングを光らせ…



「ブレイブディメンション!!!!!」


 シュトーレンの言葉と同時に、ショッピングモール一帯の時間が止められ、敷地内にいるシュトーレン達以外の人々や動物の動きがピタッと止まる。そのスキに下妻先生はムッシュ・エクレールに戻り、一悟達にカオスイーツが現れた事を告げる。


「カオスイーツが現れた!行くぞ!!!」

 丁度3人そろって休憩中だった様で、3人はガトーの力で休憩室から外へ出る。


「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」」」


 3人はブレイブスプーンを構え、マジパティへと変身する。

「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」

「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ブルーのマジパティ・ソルベ!!!」

 一悟はミルフィーユ、みるくはプディング、雪斗はソルベにそれぞれ変身を遂げた。


「スイート…」

「「レボリューション!!!」」


「「「マジパティ!!!!!」」」


 最後はきっちりハモった。時間が止まった敷地内の駐車場を駆け抜けると、3人は大型書店の近くに巨大なソフトクリームのカオスイーツと対面する。

禍々まがまがしい混沌こんとんのスイーツ、勇者の力で木端微塵こっぱみじんにしてやるぜ☆」

 そして、3人は勇者とも顔を合わせる。

「アタシはこの辺りの時間を止めているから動けないの。頼めるわね…マジパティ…」

 勇者のその言葉に、ミルフィーユ達は頷く。


「あの形状は、一度戦った事があるから対処はわかる。」

「あぁ…富良野ふらので戦った時は、プディングが突然いなくなって、大ピンチだったもんな。」

 ミルフィーユとソルベは北海道ほっかいどう富良野市で戦ったラベンダーソフトカオスイーツの事を思い出す。あの時は、マカロンがカオスイーツ化したバスガイドの負の感情の力で、みるくが突然消えてしまい、2人はプディング不在のままカオスイーツと戦うことになってしまったのである。パンチもキックも効かない上に、薙刀なぎなたや弓矢も攻撃吸収し、挙句の果てには催眠術を使用してしまう…2人にとっては手ごわかった以外の何物でもなかったのである。


「ザッ…」


 ミルフィーユとソルベの前に、プディングがプディングワンドを構えながら前に出る。

「行きましょう…ラテ!」

「勿論ですっ!!!」

 プディングはマグカップに入った状態のラテを右肩に乗せ、ウインクをする。


「精霊の力と…」

「勇者の愛を一つに合わせて…」

「アメイジングイマジネーション!!!」

 ラテは黄色の光を纏いながら、プディングが持っている黄色い杖の球体に飛び乗る。その瞬間、ラテの姿がみるみるうちにプディングと瓜二つになり、さらに黄色い光を放ちながら本物のプディングを含め、5人に分身した。5人になったプディングは全員球体をくるくると回転させ、プディングワンドを空高く掲げる。


「プディングメテオ!フランベ!!!!!」


 プディングの掛け声と同時に、杖の球体は黄色い光を放ち、5つの巨大な球体をカオスイーツの頭上に降らせる。


「ファンタジア!!!」


 プディングが叫んだ瞬間、熱を持った球体は全てカオスイーツに直撃し、カオスイーツは「じゅわっ」という音を立てながら溶け出してしまう。

「アデュー♪」

 攻撃が決まり、元の姿に戻ったラテと1人に戻ったプディングがウインクをしたと同時に、カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿である涼也とあずきのクラスメイトの姿へと戻っていく…



「おかしい…」

 カオスイーツを浄化することができたミルフィーユ達だが、どうにも違和感があるようだ。

「何がだ?確かに、普段ならカオスイーツの近くには…っ!?」


 普段なら、カオスイーツの近くにいるはずの幹部の姿が見えない…人間がブラックビターの幹部を介さずにカオスイーツ化するはずなどない…そこに…


「プディング、危ないっ!!!」

 プディングに迫りよる気配に、ミルフィーユは咄嗟にプディングに抱き着き、黒い影からの攻撃をかわす。

「ミルフィーユ…」

 プディングは見事な着地を決めたミルフィーユの真横から、ミルフィーユの背後を見ると…


「う…うそっ…」


 そこには、黒い長薙刀なぎなたを持ったミルフィーユと似たような黒とピンクを基調としたコスチュームに、黒いコウモリのような羽根を背中に生やした、ピンク色のツインテールに赤い瞳の少女の姿…


「ミルフィーユが…もう1人…」

 ミルフィーユとよく似た少女は、無言で持っている黒い長薙刀を上空に放り上げ、黒い長弓へと変化させる。その長弓は見るからにソルベアローと同じ形状だ。

「弓矢なら、弓矢で…」

 ソルベは咄嗟にソルベアローを構え、少女に向かってソルベシュートを放つが…


「ダーク…シュート…」


 そう口走りながら弓矢を放つ少女の動きは、まるでソルベと瓜二つの動きをする。水色の光の矢と、黒い光の矢はぶつかり合い、爆発四散する。

「かはっ…」

 爆風でソルベは飛ばされ、ソルベは駐車場の看板に背中を激しくぶつけてしまう。

「ソルベっ!!!てめぇ…なんてことを…」

 ソルベを心配しつつ、少女を睨みつけるミルフィーユを尻目に、少女はある人物を盾にしてしまう。


「うぐっ…」


「「木津先生っ!!!」」

 そこには、ブレイブディメンションで動きを止められていたはずの木津先生の姿だった。

「この女の命が惜しければ、武器を捨てなさい!!!そこのマジパティみたいになりたくないならね…」

 その言葉に、ミルフィーユとプディングはそれぞれプディングワンドとミルフィーユグレイブを地面に置く。

「どうしましょう…ミルフィーユ…木津先生を人質にするなんて…」

 ミルフィーユにすがりつくプディングの姿を見た少女は、その様子に怒りの感情を示すような表情に変わり…


「ダーク…メテオ…」


 今度はプディングワンドとよく似た形状の杖を構え、ミルフィーユとプディングの頭上に黒い球体を放とうとするが…



「シュルルルルル…」


 どこからか平たい円が回転しながら黒い球体を弾き飛ばし、ミルフィーユとプディングは攻撃を免れ、飛んできた平たい円は白銀の杖に姿を変え、地面に刺さる。


「カッ…」


 突然の出来事に少女は戸惑い、人質となっている木津先生から手を放してしまった。

「マジパティ達に集中しすぎて、背後に私が潜んでいる事に気づかなかったようだな!!!」

 少女が振り向くと、そこにはムッシュ・エクレールが木津先生を支えており、少女の表情はますます険しくなる。


「くっ…これだから、マジパティはミルフィーユ1人で十分なのよ!!!勇者からの寵愛を受けるのは…1人で…」


 その言葉に、ミルフィーユとプディングは戸惑ってしまう。


「私は、ダークミルフィーユ…マジパティを潰す者!!!今度は絶対にプディングとソルベを仕留めるっ!!!!!」


「ダークミルフィーユ」と名乗る少女は、「フッ」と音を立てながら消えてしまい、ミルフィーユ達は急いで千葉一悟、米沢よねざわみるく、氷見ひみ雪斗の姿に戻り、時間が停まっているうちに休憩室へとワープし、事なきを得た。




 ショッピングモールの動きが元通りに動き、シュトーレンは一悟達が職場体験をしている様子を見ながら食事をしている。「ブレイブディメンション」を発動している間は体力を消耗しやすいのか、シュトーレンは一悟達が運んできた料理を美味しそうに頬張る。

「それにしても…なぜ木津先生は…」

 テーブルの向かい側の席で料理に舌鼓を打つ勇者の姿に唖然とするも、下妻先生は木津先生に目線を向ける。

「わかりません…ただ、コレが原因なのでしょうけど…:

 そう言いながら、木津先生はテーブルにあるものを出す。


 銀色のスプーンに、紫色のハート型の宝石と白い羽飾りの付いたスプーン…


「8年前…私が鎌倉の海岸で打ち上げられた時に持っていた、数少ない身元の手がかりです。打ち上げられる前の事は思い出せませんが、コレを持っていた人物と関わりがある事だけは確かです。」


 木津先生の話に、勇者シュトーレンは思わず食事の手を止める。

「見てしまった事実は変えられません…ですが、私は口が堅いので、この件はご内密にいたします。聖奈さん…お父様にもそう伝えておいてくださいね?」

「伝えておくわ。でも…追い掛け回すのはナシね?」

 やっぱり、一悟の伯父である千葉先生からのトラウマはそう簡単に克服できていないようだ。

「それはしません!仁賀保先生から口酸っぱく言われてますので…」


 そんな勇者様の様子に、職場体験中の一悟達も安堵の表情を示す。




 ブラックビターの新たなる幹部と思われる、ダークミルフィーユ…彼女の正体は一体何者なのか…


 ただ言えるのは、一悟達にとっては一筋縄ではいかない存在であることは間違いないだろう…

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